【三橋貴明】「植民地韓国の完成」じゃなかったの?【米韓FTA】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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そういう想いのブログです。

 「TPP亡国論」華やかなりし頃、三橋貴明米韓FTAについてこんなことを言っていた。

 ていうか、この時は官僚を名指しで批判してたんだな。懐かしい。

 「TPPの黒幕というか、日本のBKD(baikokudo)筆頭である経済産業省通商機構部長(グローバル経済室室長)、宗像直子氏」とのこと。

 

 

 

「経済安全保障省めざせ」 三橋貴明ブログ2011年11月23日

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11086623356.html

 

「 ついに、韓国は数多の毒素条項が含まれる米韓FTAを批准してしまいました。産経新聞は、米韓FTAの批准が遅れた理由について「ISDに対する警戒感が大きかったため」と書いていますが、これはその通りなので(それだけではないですが)、評価していいと思います。


 何を言いたいのかと言えば、つい先日まで、日本のマスコミは米韓FTAについて韓国の国会でもめている理由について、
「農業従事者の反対が強く」
 などと、例により問題を矮小化させ、
「ああ、やっぱり韓国でも農業関係者がFTAに反対しているんだ。TPPも農業問題なんだ」
 と、国民を誘導するミスリードを繰り返していたのです


 それにしても、これで韓国は経済的主権を独立国家としては「最大限失った」という話になります。しかも、米韓FTAは片務的な条項を複数含む、不平等条約です。


 今後はアメリカ資本が入っている大手輸出企業が国内における寡占をますます強め、純利益から外国の投資家(およびオーナー)に巨額配当金を支払い、アメリカ資本の生保などに国内の共済など独自の保険市場を食い荒らされ、アメリカのビッグスリーのために排ガス規制が撤廃され、遺伝子組み換え作物だろうが、未検査の牛肉が流通し、薬価が次第に吊り上り、公的健康保険の適用範囲が小さくなり、シッコでおなじみのアメリカの医療保険会社が雪崩れこんでくることになるでしょう。


 無論、一部の寡占企業はこれまで以上にグローバル市場で稼ぎ、物価高と人件費抑制により、韓国国民の実質所得は下がっていくことになるわけです。韓国国民(および政府)の「損」の下で膨れ上がった純利益から、配当金が「アメリカの富裕層」にトリクルアップしていくことになるわけですね。


 まさに、新自由主義モデル、あるいはトリクルダウン「仮説」の最終形です。しかも、韓国の場合は所得がトリクルアップする先が「外国(アメリカ)」というわけですから、まさに植民地韓国の完成という話になります。


 さよなら、韓国。」

 

 

 

 その後、米韓FTAはどうなったのだろう。

 

 

 

「米韓 FTA再交渉の手続き開始へ」 NHKニュースウェブ2017年10月5日

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171005/k10011168311000.html

 

「韓国政府は、アメリカのトランプ政権が貿易の不均衡を是正するため再交渉を求めていたFTA=自由貿易協定について、見直しが必要だという認識を共有したとして、再交渉を始める手続きに入ることを発表しました。
韓国側はこれまで見直しに慎重な姿勢を示していましたが、トランプ大統領の協定の破棄も辞さない姿勢を前に譲歩する形となりました。


アメリカと韓国の両政府は4日、FTAの見直しが必要かどうか議論するため、ワシントンで2回目の特別合同委員会を開きました。

会合のあと韓国政府は声明を発表し「両国は、お互いの利益をさらに高めるため、協定の見直しが必要だという認識を共有した」と述べ、再交渉を始める手続きに入ることを明らかにしました。

韓国側はこれまで協定の見直しに慎重な姿勢を示していましたが、トランプ大統領が、貿易の不均衡を是正するため協定の破棄をちらつかせながら再交渉を迫る姿勢を前に譲歩する形となりました。

トランプ政権は、2012年3月に米韓FTAが発効してから貿易赤字が膨らんでいるとして、韓国の自動車市場に存在するとしている非関税障壁の撤廃などを求めています。

トランプ大統領は来月上旬に韓国を訪問することになっていて、ムン・ジェイン(文在寅)大統領との会談で核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮への対応に加えて、米韓FTAの見直しについても協議するものと見られます。」

 

 

 

 あれ?

 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」。

 三橋が言うようにアメリカが米韓FTAで韓国を「植民地」にしてぼろ儲けできるなら、トランプ大統領はこれの破棄・再交渉なんて迫らないんじゃないの?

 むしろ、米韓FTAでアメリカの方が損をしているという感じでトランプ大統領は不満のようだけど。

 また、アメリカはISD条項を使って意のままに相手国の法制度を変えられるのではなかったっけ?

 三橋は「米韓FTAが国内法の上に位置することになるわけです。すなわち、FTAの憲法化です。」とか言ってたけど(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11047464542.html)。

 このフレーズはインパクト大だったようで、いまだにこれを信じている人を見かけた。

 三橋によると、これはTPPについてのものだが、「ISD条項という「主権侵害条項」が含まれており、SPS(衛生植物検疫)では、アメリカ産牛肉に関する「非関税障壁(アメリカ側から見た)」が撤去され、さらにTBT(貿易の技術的障害)では、遺伝子組み換え作物を流通させる際に「遺伝子組み換え商品」といった明示をすることができなくなります(アメリカの遺伝子組み換え作物のメーカーにとって、非関税障壁に当たるため)。」とのことだった(https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11064094632.html)。

 三橋などのTPP亡国論者によれば、アメリカはISD条項を使って韓国の非関税障壁を撤廃できるように思えるが、トランプ大統領は米韓FTAの再交渉を求めており、実際はそうなっていないようだ。

 韓国は主権や憲法を失ったアメリカの「植民地」になどなっていないのではないか。

 「まさに植民地韓国の完成という話になります。」という話になどなっていないのではないか。

 

 

 

 三橋は、中野剛志に騙されたんだよ。

 三橋は、中野の論説を拡散するブログ記事を書いたことがある。

 一応引用しておくが、読み飛ばして構わない。

 

 

 

「気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。」 三橋貴明ブログ2011年10月25日

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11058446913.html

 

「『米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか「TPP亡国論」著者が最後の警告!( 中野剛志 [京都大学大学院工学研究科准教授] )
http://diamond.jp/articles/-/14540 
 TPP交渉に参加するのか否か、11月上旬に開催されるAPECまでに結論が出される。国民には協定に関する充分な情報ももたらされないまま、政府は交渉のテーブルにつこうとしている模様だ。しかし、先に合意した米韓FTAをよく分析すべきである。TPPと米韓FTAは前提や条件が似通っており、韓国が飲んだ不利益をみればTPPで被るであろう日本のデメリットは明らかだ。
 TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加についての結論が、11月上旬までに出される。大詰めの状況にありながら、TPPに関する情報は不足している。政府はこの点を認めつつも、本音では議論も説明もするつもりなどなさそうだ。 
 しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である
◆米韓FTAが参考になるのはTPPが実質的には日米FTAだから
 なぜ比較対象にふさわしいのか? 
 まずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には“日米FTA”とみなすことができる。また、米韓FTAもTPPと同じように、関税の完全撤廃という急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけでなく、金融、投資、政府調達、労働、環境など、広くカバーしている点も同じだ
 そして何より、TPP推進論者は「ライバルの韓国が米韓FTAに合意したのだから、日本も乗り遅れるな」と煽ってきた。その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが、分かるはずだ。
 だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容について、一向に触れようとはしない。その理由は簡単で、米韓FTAは、韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。 
 では、米韓FTAの無残な結末を、日本の置かれた状況と対比しながら見てみよう。
◆韓国は無意味な関税撤廃の代償に環境基準など米国製品への適用緩和を飲まされた
 まず、韓国は、何を得たか。もちろん、米国での関税の撤廃である。
 しかし、韓国が輸出できそうな工業製品についての米国の関税は、既に充分低い。例えば、自動車はわずか2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。しかも、この米国の2.5%の自動車関税の撤廃は、もし米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になるという条件が付いている。
 そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国における現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係がない。これは、言うまでもなく日本も同じである。グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税ではなく通貨の価値で決まるのだ。すなわち、韓国企業の競争力は、昨今のウォン安のおかげであり、日本の輸出企業の不振は円高のせいだ。もはや関税は、問題ではない。
 さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入しやすいように、制度を変更することを迫られた。米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。
 その結果、韓国は、排出量基準設定について米国の方式を導入するとともに、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証などについて、一定の義務を免除することになった。つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守ることができなくなったのだ。また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減することにもなった。
 米国通商代表部は、日本にも、自動車市場の参入障壁の撤廃を求めている。エコカー減税など、米国産自動車が苦手な環境対策のことだ。
◆コメの自由化は一時的に逃れても今後こじ開けられる可能性大
 農産品についてはどうか。
 韓国は、コメの自由化は逃れたが、それ以外は実質的に全て自由化することになった。海外生産を進めている製造業にとって関税は無意味だが、農業を保護するためには依然として重要だ。従って、製造業を守りたい米国と、農業を守りたい韓国が、お互いに関税を撤廃したら、結果は韓国に不利になるだけに終わる。これは、日本も同じである。
 しかも、唯一自由化を逃れたコメについては、米国最大のコメの産地であるアーカンソー州選出のクロフォード議員が不満を表明している。カーク通商代表も、今後、韓国のコメ市場をこじ開ける努力をし、また今後の通商交渉では例外品目は設けないと応えている。つまり、TPP交渉では、コメも例外にはならないということだ。
 このほか、韓国は法務・会計・税務サービスについて、米国人が韓国で事務所を開設しやすいような制度に変えさせられた。知的財産権制度は、米国の要求をすべて飲んだ。その結果、例えば米国企業が、韓国のウェブサイトを閉鎖することができるようになった。医薬品については、米国の医薬品メーカーが、自社の医薬品の薬価が低く決定された場合、これを不服として韓国政府に見直しを求めることが可能になる制度が設けられた。
 農業協同組合や水産業協同組合、郵便局、信用金庫の提供する保険サービスは、米国の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになることが決まった。そもそも、共済というものは、職業や居住地などある共通点を持った人々が資金を出し合うことで、何かあったときにその資金の中から保障を行う相互扶助事業である。それが解体させられ、助け合いのための資金が米国の保険会社に吸収される道を開いてしまったのだ
 米国は、日本の簡易保険と共済に対しても、同じ要求を既に突きつけて来ている。日本の保険市場は米国の次に大きいのだから、米国は韓国以上に日本の保険市場を欲しがっているのだ。
◆米韓FTAに忍ばされたラチェット規定やISD条項の怖さ
 さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。
 その一つが、「ラチェット規定」だ。
 ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。ラチェット規定はすなわち、現状の自由化よりも後退を許さないという規定である。
 締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化することが許されない規定なのだ。このラチェット規定が入っている分野をみると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐にわたる。どれも米国企業に有利な分野ばかりである。
 加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないという規定まで入れられた。
 もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされていることである。
 このISDとは、ある国家が自国の公共も利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。
 しかし、このISD条項には次のような問題点が指摘されている。
 ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。
 また、この審査の結果に不服があっても上訴できない。仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができないのである。しかも信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。
 このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)において導入された。その結果、国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている。
 たとえばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。同様の規制は、ヨーロッパや米国のほとんどの州にある。ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった
 また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。
 メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得することに成功したのである。
 要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。
 このISD条項に基づく紛争の件数は、1990年代以降激増し、その累積件数は200を越えている。このため、ヨーク大学のスティーブン・ギルやロンドン大学のガス・ヴァン・ハーテンなど多くの識者が、このISD条項は、グローバル企業が各国の主権そして民主主義を侵害することを認めるものだ、と問題視している。(後略)』」


 

 

 

 「米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。」の一文が、文字を大きくして強調してある。

 三橋がこの一文を重視していることがわかる。

 では、三橋はこの記事に原文へのリンクを貼っているが、このリンク先を見てみよう。

 この部分はどうなっているのだろう。

 

 

 

中野剛志 「米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 「TPP亡国論」著者が最後の警告!」 ダイヤモンド・オンライン2011年10月24日

http://diamond.jp/articles/-/14540?page=4

 

「訂正とお詫び:この部分に「しかも、信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項が韓国にのみ適用されるのである」との記述がありましたが、その後の調べでこの一文は誤りであることがわかり、削除しました。ここに訂正し、お詫び致します(11月26日)。」

 

 

 

 はい、デマでした。

 「信じがたいこと」など存在しなかったのだ。

 中野のでっち上げだった。

 中野は経産官僚だ。素人のミスではない。故意が疑われる。

 そうとは知らずに、三橋は、後日、

「これで韓国は経済的主権を独立国家としては「最大限失った」という話になります。しかも、米韓FTAは片務的な条項を複数含む、不平等条約です。」

「まさに植民地韓国の完成という話になります。」

と書いていたわけだ。

 ISD条項(ISDS)でアメリカが好き勝手に他国の法制度を変え、非関税障壁を撤廃できるというものではない(https://ameblo.jp/khensuke/entry-12121007977.htmlhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000089854.pdfhttp://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20120424_1343.html)。

 

 

 

 なお、貿易赤字を問題視するトランプ大統領の経済観もこれはこれでおかしい。

 「貿易赤字=負け」「貿易黒字=勝ち」というものではない。

 

 

 

上念司 「歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ」 (光文社、2012年) 88~98ページ

 

経済の素朴理論①「重商主義」

 さて、ここからは経済に関する素朴理論を取り上げます。まず初めに、①の重商主義です。

 重商主義は16世紀末から18世紀にかけて、西ヨーロッパ諸国において支配的な経済思想でした。それは、『自国の輸出産業を育成、貿易黒字によって資本を蓄積して国富を増大させること』を目的とするものです。各国政府は貿易に介入し、輸入を制限して輸出を促進するための様々な法律を整備しました。

 例えば、当時ワインの消費が伸びていたイギリスでは、対フランス貿易が赤字になったため、穀物法を改正して輸入に制限を加えるべきだという意見が台頭し、大きな対立が起きました。ワインをもっと飲みたいイギリス国民や、市場のニーズに応えるために奔走していたワイン業者にとっては大きな痛手です。

 私は常日頃から「コトバの雰囲気で経済を語ってはいけない」と語っています。「赤字」と「黒字」というコトバはまさにこの「コトバの雰囲気の罠」の典型です。確かに「赤字」と聞くと、悪いイメージが付きまといます。「赤字経営」だったら会社はいつか潰れるでしょうし、毎月家計簿が「赤字」なら生活も破綻します。「貿易赤字に転落!」などというニュースのヘッドラインを見ると、ドキッとしてしまうことも十分理解できます。

 貿易収支は常に黒字が望ましく、貿易赤字は外国に対する自国の敗戦を意味するというこの素朴理論は、200年前にイギリスの経済学者であるアダム・スミスによって完全論破された、この「重商主義」をベースとするものです。

 貿易収支というのは輸出と輸入の差額に過ぎず、それぞれの取引の利益とは無関係です。しかし、この素朴理論もその単純さゆえに、かなりのパワーを持っています。マスコミの報道などではいまだに、貿易黒字が「勝ち」、赤字は「負け」といった文脈で語られるのをしばしば目にします。

 しかし、経済を語る時、「貿易赤字」というのは必ずしもネガティブな意味を表していません。逆に「貿易黒字」だからといって安泰というわけでもありません。これは重要なポイントです。

 貿易の黒字と赤字とは、他国に撃った額と他国から買った額とを比べて、多い(黒字)、少ない(赤字)、を示しているだけです。売り買いの差額が必ずしも利益や損失になりません。例えば、スターバックスコーヒーでグランデを飲んだ時、スタバは売る一方で黒字、顧客は飼う一方で赤字になりますが、それを「スタバが得をして私は損をした」と言う人はいないでしょう。貿易の黒字と赤字とは、これと同じということです。

 また、重商主義の考えがもし正しいと仮定して、赤字を徹底的になくそうとすれば、輸入そのものをやめてしまえという乱暴な話につながりかねません。しかし、そんなことをして何になるのでしょうか。日本の場合で考えれば、原油や鉄鉱石の輸入を完全にストップしたら企業は運営できず、社員に給料も払えなくなります。結局、世の中全体が不利益を被るだけで、何のメリットもありません。

 ところが、こんな論破された考え方をベースに、「○○という政策によって、○○国は多額の貿易黒字を得ようとしている!」といった話が語られ続けています。確かに、「世界を支配したい」「お金を儲けたい」という意図を持っている人が世界中に一人もいないということはないでしょう。また、同じ意図を持った人々が「世界支配」や「金儲け」のためにある種のグループを作って行動していることも否定しません。

 しかし、重傷主義的な価値観で輸出だけして、輸入をしないことを理想として国の政策を推し進めることにメリットはあるのでしょうか。例えば、日本のように原料を輸入してそれを加工して付加価値を作り出して輸出するモデルを考えた場合、輸入を減らせばその分だけ輸出のための生産量も抑制されることになります。こんなことをしたところで、帳簿上の貿易黒字が一時的に増えても国民に何のメリットもありません。

 

 貿易収支のメカニズム

 それでは、貿易黒字の真の意味するところとは何なのでしょうか。それを知るためには、そもそも貿易黒字がどのようなメカニズムによってもたらされるのかを知る必要があります。そこで、簡単な足し算と引き算の式を使って解説してみたいと思います。

 繰り返しになりますが、輸出から輸入を引いたものを貿易収支や経常収支と呼びます。新聞のヘッドラインでは貿易収支という言い方が多いので、ここでは「貿易収支」で統一します。

 赤字と黒字の問題を考える際、私たちはどうしても会社の収支や家計の収支で考えてしまう傾向にあります。しかし、経済問題を考える場合、主体は国、つまり国民全体となります。

 国全体で見た時、「100円で何かを買う」という行為は「100円で何かを売る」行為と必ず同時に行われています。なぜなら、商店主も国民、お客さんも国民だからです。

 

  国民Aが100円受け取った=国民Bが100円支払った……①

 

 国民AとBはいずれも国民なので、式を次のように変形します。

 

  国民が100円受け取った=国民が100円支払った……②

 

 簡単な式です。何かを買うために「国民」のポケットから出たお金は、必ず何かを売った「国民」のポケットに収まります。買った値段と売った値段が一致するということを利用して、それが等しいということを著す式(恒等式)を作っただけです。

 ②式を更に普遍化するため、更に次のように変形します。

 

  国民所得=国民が使った金額の合計……③

 

 ③式の右辺の「国民が使ったお金」というのは、2種類しか考えられません。今欲しいものがあって使ってしまった(消費)か、将来のために何か設備とか道具を買った(投資)かです。この要素を加えて③式を変形すると次のようになります。

 

  国民所得=民間消費+民間投資……④

 

 ④式で「民間消費」としたのは、この式にはまだ「政府」が含まれていないからです。政府は、お金を使うもう一人の大きなプレイヤーです。したがって、政府が使ったお金をこの式に加えましょう。

 

  国民所得=民間消費+民間投資+政府支出……⑤

 

 これで十分でしょうか。いえ、まだです。この状態では外国の存在が無視されています。そこで、外国にモノを売った分(輸出)から買った分(輸入)を差し引いた金額を加えます。輸出から輸入を引いた金額とは、他ならぬ貿易収支です。単純に⑤式に加えます。

 

  国民所得=民間消費+民間投資+政府支出+貿易収支……⑥

 

 これで全部入りました。つまり、国民所得とは、国内で民間や政府が使ったお金と、外国と取り引きをして得られたお金を合わせたもののことです。

 ⑥式はマクロ経済学の恒等式、または国際収支の恒等式などと呼ばれています。

 それでは、この式にもう一つの要素を加えてみましょう。それは税金です。先ほどの恒等式(⑥式)の両辺から税金をマイナスしてみましょう。両辺から同じ数を引き算するので、

 

  国民所得-税収=民間消費+民間投資+政府支出+貿易収支-税収……⑦

 

 ここで、⑦式の太字部分を左辺に移項して、式を変形します。

 

  国民所得-税収-民間消費-民間投資=政府支出-税収+貿易収支……⑧

 

 移行したので符号がマイナスになりました。ついでに右辺の貿易収支と税収の位置も入れ替えておきます。

 さて、この式の左辺の太字部分は何を表すでしょうか。国民所得から税金を引いて、更に消費を引きました。国民所得を給料だと仮定すると、まず税金を引いて、次に使ってしまったお金(消費)を引いて残った部分のうち、投資以外の部分のことです。皆さんは税金が源泉徴収された後の給料が振り込まれた際、そこからいろいろな支出(消費)をして残ったものの中で、投資に回らなかった残額を何と呼んでいるでしょうか。

 正解は貯蓄です。もらった給料のうち、使わなかったものは貯蓄されたか、投資されたかいずれかだということなので、当たり前ですね。貯蓄といっても、実際に貯金されている必要はなく、現金で持っている場合でも、いわゆるタンス預金という立派な貯蓄として扱います。少なくとも、使わずに残ったお金で投資されていない残金である限り、貯蓄ということです。

 つまり、⑧式の左辺をもう一度まとめると、次のように読み替えることができます。それでは、左辺を貯蓄と書き換えて式をスッキリさせましょう。

 

  貯蓄-投資=政府支出-税収+貿易収支……⑨

 

 ⑨式の太字部分を移項して、さらに順番を入れ替えてみます。

 

  貯蓄-投資+税収-政府支出=貿易収支……⑩

 

 税収-政府支出、というのは政府の収支のことを言っています。税収のほうが政府支出より多ければ財政黒字、その反対は財政赤字です。財政黒字と財政赤字をあわせて財政収支と呼びますので、これを財政収支と言い換えます。すると、最終的に以下の式が得られます。⑩式の太字部分を財政収支に書き換えます。

 

  貯蓄-投資+財政収支=貿易黒字……⑪

 

 ⑪式をよく見てください。貿易収支というのは、貯蓄から投資を引いて財政収支を加えたものに等しくなるのです。

 これまで日本は貿易収支がずっと黒字でしたが、これは、財政収支の赤字を埋めて余りある貯蓄があったということを表しているにすぎません。その理由は、国内がデフレで需要がなく、投資が伸びなかったからです。

 「貿易収支が黒字」と聞くと、素晴らしい技術で作った日本のモノが、世界で売れているようなイメージがありますが、それは経済全体の流れの中の一つの側面でしかありません。国際収支全体のメカニズムの中で考えれば、これまでの日本の貿易黒字は過剰貯蓄の裏返しでしかなかったのです。繰り返し強調しますが、貿易収支の赤字、黒字というのは輸出と輸入の差額を言っているだけで、国の利益を表す指標ではないのです。

 少し言い方を変えてみるならば、日本人は儲かったお金をあまり使わないで貯蓄するため、貿易収支が黒字になってしまうともいえます。国内で生産するモノだけで人々の需要が満たされてしまうため、輸入して買うほどモノが必要ないということです。結果的に輸入量が少ないので、輸出がそれを上回ることは非常に簡単で、そのために貿易黒字になりやすいともいえるでしょう。

 東日本大震災以降、日本の貿易収支の赤字が度々注目されています。しかし、財政赤字が続く中、復興という投資が増えて貯蓄が減れば、当然、この式の左辺はマイナスに向かいます。その結果として右辺の貿易収支もマイナス、つまり赤字の方向に向かうわけです。おそらく、震災復興が一巡して投資が減れば、貿易収支は再び黒字に戻るでしょう。大変残念ですが、現場の改善や日本の技術力とはあまり関係なく、これらの指標は動いているのです。」

 

 

 

 

 

 「気の毒に」、「植民地」になったのは三橋貴明ブログの方だった。

 中野剛志のアカい植民地(https://ameblo.jp/bj24649/entry-11892907483.htmlhttps://ameblo.jp/bj24649/entry-12181970348.htmlhttps://ameblo.jp/bj24649/entry-12222494542.html)。

 「TPP亡国論」から顕著だが、三橋は中野の反経済学とも言える独自説に迎合し続けてきた(「経世済民」の語が頻繁に出てくるようになったあたりと重なると思う。https://ameblo.jp/bj24649/entry-12089959253.html)。もはや三橋が中野依存から抜け出すことは無理だろう。

 反グローバリズムとか反新自由主義とか、100%間違いでもないのだろうが、これらの言葉を多用する人はあまり信じない方がよいと私は思う。

 「コトバの雰囲気」で思考が曇る(https://ameblo.jp/bj24649/entry-12300860363.html)。

 

 

 

◆ 余談 ◆

 

 

 

https://twitter.com/TK_Mitsuhashi/status/920436636155916289

 

 

 

 「除き」をカギ括弧にするのがなんか嫌らしい。

 なんで単行本執筆をサボっていたんだろう。

 種子法ネタ(を含む農業改革ネタ)の執筆?

 単行本になる(なっている)のかなぁ、あのネタ。

 私は三橋の種子法ネタは共産党絡みのデマだと思っている(https://ameblo.jp/bj24649/entry-12313013371.html。)。

 なんとなくだけど、農業改革の方向性は安倍政権のもので正しいのだと思う。

 安倍政権は農家の所得向上を図っている。農業のやり甲斐の向上を図っている。

 農業の担い手が増えれば、それが結果的に食料安全保障にもなる。

 農業はそれ単独で存在するのではなく、様々な業種の中で存在する。

 他業種よりも魅力の薄い産業だと人々に認識されれば、農業の担い手は減る。

 農業の魅力を増すために規制緩和などの改革が試みられることはあってよいと思う。

 逆に、「食料安全保障ガー!」などと声高に叫んで、農業を規制でがんじがらめにすると、農業に魅力がなくなり、担い手が減り、結局、食料安全保障を害してしまうと思う。

 「タクシー料金を値上げすればタクシー運転手が儲かってデフレ脱却に資する」などという妄言を吐く者の経済論など信用できない(http://www.sankei.com/politics/news/140718/plt1407180035-n1.html)。値上げして魅力が減れば需要も減るということがわかっていない。需要・供給曲線が頭にない。仮にタクシーの需要が減らないとしても、他の消費に回せる可処分所得が減るわけで、デフレ脱却にはならないだろう。

 農業なら農業、タクシー業ならタクシー業と、業種が単独で存在しているかのように考えるきらいが三橋にはあるのかもしれない。

 安倍政権の方が経済を俯瞰して政策を組み立てていると思う。

 私見だが、反リフレ派(金融緩和無効論)に立つと、「自由主義経済→競争激化→コストカット→底辺への競争→貧困化」という発想になり、「豊かになるには反(新)自由主義」という発想になり、統制経済志向になってしまうのではないか(公共事業で雇用創出、規制強化で賃上げ、など)。アベノミクスのような人材獲得競争を通じた雇用・賃金の改善という発想が出てこないように思う。

 「安倍政権はグローバリズム」「安倍は保守ではない」などと言っている人こそ勘違いをしているのではないか。不合理に共産党や社会主義陣営を利しているだけのように思える(http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198640224)。

 

 

 

「【第48回衆院選】「農政新時代を切り拓く。」(2017.10.17)」 YouTube2017年10月18日

https://www.youtube.com/watch?v=Qr90sNbQgxw