ひらめき電球コラムニストの尾藤克之です。

ひらめき電球ご訪問ありがとうございます!

 

7月1日(金)銀座百年大学で講演いたします。

※7月から5回にわたり講義をおこないます。

 

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コロナ禍における社会・経済的なさまざまな制約によって、雇用環境が悪化しています。総務省統計局労働力調査(基本集計)2020年4月分によれば、就業者数は6628万人。前年同月比80万人の減少、雇用者数は5923万人(前年同月比36万人減少)。完全失業者数は189万人で3カ月連続の増加です。

今後、強引なリストラ策を実行する会社が増加してくることが予想されます。どのようなことが想定されるでしょうか。そして労働者が自分の身を守るために知っておきたい主なポイントをお伝えします。

■「正社員は解雇されない」の間違い
人員削減が行われる場合、対象はパート・アルバイトや契約社員などの非正規労働者からはじまり、その後は正社員へと移行します。ただ、過去には不当解雇の判決が下されていることも多く、解雇の条件が厳しいことは言うまでもありません。労働契約法第16条には次のように記載されています。

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」

つまり簡単に労働者を解雇することはできないのです。それでも、業績が悪化すれば悠長なことは言っていられないでしょう。

自主退職に追い込むことを「退職勧奨」といいます。労働者には応じる義務はありません。そのため、会社はかなり強引な退職勧奨を行使することになりますが、これが紛争の火種になることが多いのです。

退職勧奨の手法として多いのが長時間の面談です。その場で、上司(場合によっては人事)から退職を促されますが、応じない場合は、徐々に制裁が加えられていきます。役職の剥奪や降格処分、左遷などが当てはまります。

就業規則に記載されている場合は難しくありませんが、労働者に落ち度がない場合、会社は制裁の理由をつくらなければいけません。実際にどのようなものがあるのでしょうか。
 

筆者は2つあると考えています。

 

1つ目が「不就労」です。

病気による休職が続いたり、仕事ができない場合のことを不就労といいます。正当な理由なく2週間の無断欠勤を続ければ懲戒解雇の理由になるでしょう。ところが、長期の地方出張や、営業職の直行直帰などを会社が勝手に「不就労」とし、労働者が気づかぬ間に解雇になっていたという驚きのケースがあります。

 

争いになった場合、上司の出社を促した履歴がないと不利になります。すでに、会社と労働者の関係が悪化しリストラの対象になっていれば上司から「なぜ出社をしないのか!」と問いただすメールが届いているはずです。

 

情報漏洩のリスク軽減のため、持ち出し用以外の端末は、社外への持ち出しを禁止する会社が増えました。このような会社であれば、上司の「なぜ出社をしないのか!」メールを出社しない限り確認することができません。これが履歴としての証拠になります。労働者が見ていようが見ていまいが構わないのです。単なるアリバイづくりです。

 

関係性が悪化すると、会社への連絡が途絶えがちになりますが、自らのリスク回避のためにも会社への連絡は必須です。上司には必ず業務報告をする必要があるからです。

 

■無理筋な業務命令が課されることも

2つ目が「業務命令違反」です。

 

会社において労働者は上司の業務指示に従わなければなりません。指示命令系統があり、社員はそれにのっとった行動が求められるからです。

 

新規開拓営業担当の役割を与えられたケースを考えてみましょう。もし部下を解雇に追い込みたい場合、上司は詳細な行動管理を行うはずです。それこそ分単位の日報で記入に何時間もかかるような営業フォーマットを用意するでしょう。

 

たとえば、そのときに考えられる上司の業務指示は次のようなものです。

上司:一日100件の飛び込み営業をやってこい。名刺も100枚集めてこい。
部下:営業経験がありません。また営業先をどのように見つければいいのですか?
上司:簡単だよ、オフィスビルの最上階からドンドン飛び込み営業をして順番に階を下がりながら開拓してくればいい。

 

意外とこのような話は多いのです。拒否すれば「業務命令違反」だとちらつかせるのです。言われた部下に不手際がなかったとしても、このような状態に追い込まれてしまったら、会社と交渉するにはかなりの労力が必要です。一般的には早めに次の仕事を見つけたほうが結果的によい場合も少なくないのです。

 

退職勧奨や解雇などのような紛争に巻き込まれた労働者に対して、労働組合の加入を勧める識者がいます。

 

労働組合とは「『労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体』、すなわち、労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくる団体」(厚生労働省)です。

 

■会社への交渉力が上がる

労働組合に入れば会社に対して交渉力が格段に上がります。というのも、労働組合法という法律があるからです。労働組合法では、労働組合に対し、使用者との間で「労働協約」を締結する権能を認めるとともに、使用者が労働組合及び労働組合員に対して不利益な取扱いをすることなどを「不当労働行為」として禁止しています。

 

労働協約は、労働組合と会社との間の約束のことをいい、双方の記名押印等がある書面で作成された場合にその効力が発生します。労働協約で定められた労働条件等に違反する労働契約や就業規則は、その部分が法的に無効とされます。

 

社内に労働組合がなければ、外部の一般労組に入会するという手もあります。管理職、非管理職、アルバイト、契約社員でも入会できます。入会すると、労組から会社宛に「団体交渉」の申し入れがあります。会社はこれを拒むことはできません。「団体交渉申し入れ書」にはおおむね次のような内容が書かれています。

 

貴殿の部下、〇〇〇〇氏が当労組に加入しました。つきましては〇〇の件について、団体交渉を申し入れます。なお、本通知を無視されると不当労働行為に該当する可能性がありますのでご注意ください。○月○日〇時までにご回答ください。同じ書面も郵送にてお送りします。

 

この時点で、会社は無視できなくなります。

ただ、労働組合への加入率は20%を切り相対的に弱くなっています。本来、労働組合には使用者側と対等に交渉を行うバランス感覚が求められますが、いまはそのような人材が不足しています。最近では、会社に目を付けられたくないという理由から役員のなり手がいない労組もあります。

 

正当な争議行為に刑事罰を科すことはできません。また、使用者に損害を与えても労働組合、またはその組合員に対し損害賠償を請求することはできません。多大な損失が発生したとしてもすべて免責されます。これは憲法と労働法によって定められています。ただ、実際にはそうとうな覚悟が必要です。

 

労働審判で迅速な解決に導く方法もあります。労働審判とは、不当解雇などに代表される労働者と雇用主との間のトラブルを、労働審判官1名と労働審判員2名が審理し、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする裁判所の手続きのことです。通常の裁判手続きよりもスピーディーに解決することを目的に導入されました。

 

しかし、労働審判をおこなっても得られるものは給料の5カ月分程度です。給料が30万円なら30万円×5カ月=150万円が実入りです。そこから裁判費用や弁護士費用を支払えば約半分しか残らないのが一般的です。

 

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、事案の内容別にみた解決金額は、「解雇」の場合、最も多いのは「100万~200万円未満」の28.7%、次に「50万~100万円未満」の23.8%となっています。

 

■会社との対峙には覚悟が必要

連合総研レポート(2019年5月号)では、労働審判の7割以上が調停で解決されていることが明らかにされています。労働審判に異議が申し立てられないケース、個別に和解が成立し取り下げられるケースもありますから、実際はさらに高まることが考えられます。

 

平均審理期間は80日です。最高裁によると、2018年に終結した労働事件の平均審理期間は14.5カ月です。早期解決は双方にとって大きなメリットです。

 

労働審判での結果に納得いかないので本訴で争うという人もいるかもしれません。本訴に移行し、さらに上告審で争うと数年かかります。勝訴しても解雇時以降のバックペイ(解雇~現在までの未払給与)が全額支払われることはまずありません。精神的損害が発生した場合は慰謝料請求も可能ですが、認められるためのハードルはかなり高くなります。

 

会社組織において、嫌な上司と人間関係性を構築することは大変なことです。しかし、上司には人事権があります。どんなひどい上司でも人事権を行使されたら、部下は抗うことが難しくなります。会社を相手に争うには根気が必要で、結果的に復職できたとしても茨の道が待っているという厳しい現実もあるのです。

 

※本記事は東洋経済オンラインに掲載された記事をブログ用に修正し再掲したものです。原文を読みたい方は6月20日に掲載した記事をお読みください。

 


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