ひらめき電球コラムニストの尾藤克之です。

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7月1日(金)銀座百年大学で講演いたします。

※7月から5回にわたり講義をおこないます。

 

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金融機関の職員が顧客の定期預金をだまし取った。公務員が職場で同僚から集めたお金を横領した。学校で教員が生徒に暴力行為を働いた――。犯罪やそれに近い行為などを起こした人が、勤め先を「懲戒解雇」(懲戒免職)されたというニュースをよく見かけます。

■解雇には順位や手続きが存在する
解雇は使用者(会社)による労働契約の解除を意味しますが、その中身を詳しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。

解雇は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇(懲戒免職)」の3つに分類されます。懲戒解雇(懲戒免職)はこのうち即時に雇用契約を切られ、予告手当や退職金もないなど、労働者にとっては死刑宣告を突き付けられたのと同じぐらい重い処分です。

いずれの場合も、「使用者がいつでも自由に行えるというものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者をやめさせることはできない」(労働契約法第16条)と規定されています。そのため、使用者の一方的な都合や不合理な理由による解雇は認められません。

「普通解雇」は従業員に非行・違法行為がある場合、能力不足、業務が原因ではない傷害や病気による解雇が該当します。「整理解雇」は経営悪化により人員整理を行うための解雇です。一般的には「リストラ」と言われています。整理解雇の場合は、以下の4要件に当てはまることが必要です。

① 人員整理の必要性
② 解雇回避努力義務の履行
③ 被解雇者選定の合理性
④ 手続きの妥当性

整理解雇であっても、手続きの妥当性が問われます。正しい手続きを踏まない限り無効とされるからです。そのため、人員整理の対象はまずは非正規社員に向かいます。非正規社員は、契約期間が過ぎてしまえば労働者でなくなるからです。パートも同じで、短期契約期間が満了すれば更新される保証はありません。

 

過去の判例では「非正規社員は正規社員より先行して解雇される」ことが明示されています。正社員を整理解雇するためには、「非正規従業員の解雇を先行させなければ解雇権の濫用にあたる」とする判断が示されているのです。

「正社員は解雇できない」という話を聞いたことがありませんか。「解雇できない」のではなく「解雇の順位が存在する」ということです。解雇対象者の順位は、「純粋なパートタイマー」 → 「定年後再雇用者」 → 「常用的パートタイマー」 → 「常用的臨時工」 → 「正社員」の順位になります。

■懲戒解雇と諭旨解雇の違い
「諭旨解雇」は特殊な位置づけです。懲戒解雇に相当するか、それよりも少し軽い非行・違法行為があった場合に、懲戒解雇を回避するために温情的に自主的に退職を求めるものだからです。「依願退職」という扱いになるのが一般的です。懲戒解雇は労働者にとって死刑判決ですが、諭旨解雇は使用者と労働者の双方が話し合い解雇処分を受け入れるものです。

諭旨解雇であれば退職金が支払われることがありますが、懲戒解雇の場合は退職金などは支給されません(退職金規程の記載が必要)。公務員は雇用保険に加入しないため、失業保険の給付もありません。懲戒免職処分を受けた日から2年間は、国家公務員もしくは当該地方公共団体の地方公務員として就職することができません。

一般企業への就職も困難を極めます。懲戒解雇の場合は「罰有り」と記載しなければいけません。刑事罰に当たらない限り、「罰有り」にならないとする専門家の意見があります。筆者はこれまで、いくつかの労働審判や労働委員会に出席したことがありますが、重責解雇の場合は「記載すべき」とする専門家もいますので解釈がわかれるところです。

重責解雇とは労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇です。その場をうまくしのいだとしても、告知義務違反として経歴詐称で解雇理由に該当する場合があります。さらに、履歴書未記入で面接時に説明しなくても離職票に「重責解雇」と記載されますので再就職は困難になります(離職理由の番号でほぼ100%特定できます)。

 

離職票は、雇用保険などの切り替えにも必要になるので告知をしなくても判明します。真実を知っていたら採用されなかったであろう重大な秘匿は解雇が有効とされる判例が多くあります。懲戒解雇になると、その後のキャリア形成は困難になります。どんなに優秀でも、「罰有り」の人材を採用する会社は少ないでしょう。

■あなたの会社は大丈夫ですか
上場企業や大手に分類される企業は就業規則や人事制度が整備されています。しかし、中小や零細企業の場合、適切な運用がされていないことが多く、経営者や人事担当者の認識が乏しいと悲劇を生む場合があります。

「お前はクビだ」みたいなセリフを耳にすることがあると思います。雇用主が気に食わない従業員だけを解雇しようとしたような場合は、解雇は無効となります。整理解雇をしながら、直後に同じ属性の人材を採用したような場合も無効になる可能性が高いといえます。

ここで、実際に発生した事例を紹介しましょう。都内の編集プロダクションに勤務する山田卓史さん(仮名)は、制作部門のスタッフとして勤務していました。ある日、社長に呼ばれ、「会社の業績が悪いのでリストラを行う。君を含めて何人かに辞めてもらう。これは役員会の決定事項だから拒否はできない」と、突然退職勧奨を受けました。

山田さんは、回答を保留し継続的な話し合いを社長に求めました。ところが社長は忙しいことを理由に話し合いを拒否します。時期はすでに期末に差し掛かっていたため、なし崩し的に解雇されることを予見した山田さんは弁護士に交渉の依頼をしました。

これを知った社長は激高し懲戒解雇を強行します。懲戒解雇の理由は業務命令違反でした。「会社としていまの仕事は認めない。業務命令を守らないのだから懲戒解雇に該当する」という理由です。これは不当解雇にありがちなケースですが、懲戒解雇に踏み切った結果、「しまった。懲戒解雇はまずかった!」ということが多いのです。

 

訴訟になれば1年以上の月日が費やされます。「重責解雇」のため失業保険も減額され、就労の機会を得ることも難しくなるでしょう。さらに、会社が賠償金の支払いを拒否することも考えられます。敗訴をしても支払いに応じない会社は多いからです。

■解雇規制の緩和をどう考えるか
経済界からは「解雇規制の緩和」という根強い要望があります。具体的には「1年分程度の基本給を支払うことで金銭解雇を認める」という方法が検討されています。これには慎重な意見が見られ、反発する声も目立ちます。

労働審判などを経て得られる解決金はどの程度でしょうか。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、労働審判における解決金額の平均値は229万7119円、中央値は110万円とされています。

日本の企業群のなかで中小企業の占める割合は99.7%。その中小企業にとって、退職してもらいたい人に1年分の給与を支払うことは大きな負担ですが、それでも現状では、労働裁判に訴えた人が、勝ち取れる解決金は年収の半分にも満たない金額だということも現実です。

とはいえ、日本には労働三権が存在し、日本国憲法第28条にその規定が設けられています。「解雇規制の緩和」には、これらの労働基本権との整合性が重要になってくることは明白であり、さらなる国民的な議論が必要になると思われます。

 

※本記事は、6月6日に東洋経済オンラインに掲載した「懲戒解雇がどれだけ重い処分か知っていますか」をブログ用に再構成し掲載しています。

 


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