D-Arthur構想 パート2 2005.2.3


デザイン設計


 GUNのデザインを考える上で側面図は、簡単に描ける半面、細かなディテェールがあいまいになり、側面図だけで実際に形にしていくと図面では、かっこ良かったものが何かしらおかしいといった事が起こってくる。側面図で頭の中にある大まかなイメージを図面に叩き出したら、次に立体図を描いて立体としてのデザインを追求する。前回の「アーサー構想」で叩き出したデザインスケッチを元にイラストレーターで立体図を描き、更にデザインを煮詰めてみた。ほぼこのデザインで決定といって良いであろう。

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 Athurはオプション・パーツを装着する事で次の様な3段階のスタイル・アレンジを楽しめる。そう、これがD(危険思考)への変貌である。


<ファースト・コンバージョン>
 リブを外しバレル溝にレールを取り付ける事によりバレル両サイドにレーザーやフラッシュ・ライトなどを装着出来る。アクセントとしてレールだけ取り付け、スタイル変化を楽しむも良し。基本フォルムを重視したアレンジ。

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<セカンド・コンバージョン>

 ランチャーを装着しランチャー弾の詰め替えも用意に出来る。先のレールと組み合わせるとこの様なアレンジが楽しめる。

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<サード・コンバージョン>

 フォアグリップを装着し、フォアを握ったままランチャー弾を発射出来る。但しランチャー弾の詰め替えはフォアグリップを外さなければならないので、ここぞという止めのアイテムとして使う事になる。

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 この様に、好みや活用スタイルに応じてアーサーはその姿を幾通りにも変貌するのだが、アレンジはスタイルだけでなく、ツートン・カラーなども似合いそうで、そういったカラーアレンジも楽しめそうだ。

D-Arthur (アーサー)構想 パート1 2005.1.29


 製品化されている国内トイガンに於いて、S&W社の「M29 44MAG」とルガー社の「レッドホーク 44MAG」はトイガン・リボルバーとしては最大口径の銃であった。それら大口径リボルバーをベースにした「最大級のカスタム・リボルバー」という位置づけで製作されたのが「M29シーザー」と「レッドホーク・カイザー」だった。どちらも最上級カスタム・リボルバーとして単に大口径というだけでなく、最上級という言葉に相応しい構造と特質を兼ね備えたBisonの持てる技術の全てを注ぎ込んだまさにBisonを代表するカスタムである。


 しかし今日、その44口径を上回る大口径リボルバーがトイガン製品として出現した。S&W社製M500である。


 そもそも大口径の44マグ・リボルバーは日本人の手のサイズには大きすぎる。日本人にはM19のようなKフレームがジャストなサイズであると意義を唱える私は永きに渡りKフレームにこだわってきた。しかしお客様のニーズにお答えするべくM29カスタムを手がけていく内に大口径リボルバーでもフレーム形状をいじってやれば違和感なく日本人の手のサイズにフィットするという事を学んだ。それを教えてくれたのがシーザー&カイザーであった。今回発売されるM500も実際に手にとれば、それは明らかに日本人には大きすぎるリボルバーである事は一目瞭然だが、それは同時に「料理する楽しみ」を私に与えてくれる格好の素材であり「早く釣り上げてくれよ」とM500がつぶやいている様にさえ私には見えてくる。


 「M29シーザー」はPPCカスタムの流れを組むブレイク・カスタムとして、また「カイザー」はマッド・マックスに出てくるソードオフ・ショットガンを思わせるシルエットで個性を演出した。さて、こいつはどんなカスタムに仕上げようか・・・。


 シーザーとカイザーの個性を受け継ぎながらも独自な個性で自分の存在をしっかりとアピールするカスタム。その答えがこれだ。M500をベースとした新しいBison・カスタム・リボルバー「D-Arthur」。そのフォルムをまずご覧下さい。

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 D-Arthur 10.5インチ


 若き日のスティ-ブ・マックイーン演じる主人公ランダルの愛用銃「ランダル・カスタム」(ウインチャスター銃のバレルとストックを切り詰めた銃)を彷彿(ほうふつ)とさせる風貌は、ベースのM500のグリップラインを全く無視して設計され、その実現にはインナーフレームの加工までも要求される。更にグリップラインだけでなくシリンダー以外のM500のノーマルラインは一切残さない。また、リヤサイトにはカイザーでは残念ながら見送った「タンジェント・サイト」を今回是非に採用したいとも思っている。


 10.5インチのロングバレルで、このカスタムの大きな特徴はブレイクではない「キック・アップ」という他に例をみない方式でリロードを行う所にある。そのアクションはアウターバレルの中に納まっているブルバレル(丸バレル)ごとシリンダーが前方に移動すると同時に、上方向にシリンダーが跳ね上がるといったもので、それがゆえにフレームトップは存在しないし発射バレルも通常より下の位置にセットされるマテバのような下段発射構造が用いられる。


 なぜブレイクにしないのかと疑問に思う人もいると思うが、それはこのカスタムのコンセプトがブレイク以外の所にあるからだ。


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 キックアップ・シリンダー


 「カイザー」には構想の段階で3つのコンセプトがあった。1つ目はライフル・スコープを装着しスナイパーとしても使えるダブル・バレルモデル。2つ目はオープン・フレームのブレイク・オープンモデル。そして最後にロケット・ランチャーを装着可能なランチャーモデル。その内、2つ目までは既にモデルアップする事が出来た。しかし3つ目の構想はランチャーの重量を考えるとブレイクモデルには強度的に問題が生じる。かと言ってスイングアウト方式のダブル・バレルモデルだとヨークの逃げがどうしても側面のデザインを壊してしまう。またどちらのモデルにしてもカイザーの基本スタイルではランチャーが大きすぎて違和感が出てしまい、シルエットを無視して強引に付けようと思えばそれは可能なのだが、私的にどうしてもそれは許す事が出来ずこの3つ目の構想は取り残されていた。

 しかしタナカからレッドホークシリンダーよりも遥かにデカい50口径の「M500」が出ることになった。その写真を見た私は、これをベースにすれば残された構想をクリヤする事が出来るのでは・・・。シリンダーがデカい分、全体のシルエットもカイザーよりも一回り大きくなるであろうそれは、違和感なくランチャーを装着出来るのではないだろうか・・・そんなことを考えた。

 そう、この「D-Arthur」はカイザーの残された3つ目の構想を実現する事こそが最大の課題であり、ブレイクでは無くキックアップ方式なる物を用いているのもその為である。シリンダー部のみのブレイクの様なそれは、ランチャーを装着出来る十分な強度とスペースをフレームからバレル部分にかけて残している。また、シリンダーは上に跳ね上がる為、サイドのデザインを邪魔することも無い。「ランチャーを装着出来るリボルバー」、それこそがArthurにつけられたD(危険思考)の意味するところである。

 ランチャー装着に於いては、標準で付いているアンダーバレルを外し、ランチャー装着用のバレルアンダーに交換する訳だが、イラストを見てお解かりの様に、ランチャーを装着するとかなりトップヘビーとなる。フレームトップをカットする分、トリガーガード廻りでしっかりとフレーム硬度を高めてやる必要があり、ウインチェスター銃のようなトリガーガードは、まるっきし伊達なデザインではなく、そういった強度を十分に考えた上でのデザイン設計として取り入れている。このウインチェスター風トリガーガードは、デザイン面に於いても新しい感覚と古い感覚とを旨く融合し、シリンダー銃の持っているノスタルジックな独特な雰囲気を存分に引き出してくれている。とは言ってもランチャー装着時は流石にその雰囲気も損なわれる訳だが、それはそれで、その変貌ぶりが面白いのではないだろうか。


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 ロケット・ランチャー装着


 ロケット・ランチャーは今まで私が扱った事が無いアイテムで、それをリボルバーにどの様に装着させるかが今回私に課せられる大きな課題であり、上の装着イラストは叩き台のような物で実際には形として整形していく段階で最もベストなデザイン設計を見つけ出していく作業になるだろう。このランチャー装着を考えなければ、下のイラストの様な6.5インチ(もしくは8.5インチ) ブレイク・モデルも「B-Arthur」のネーミングでバリエーションとして造ってみたいと思う。今までに造ったブレイク2丁(M29・シーザー&ブレイク・カイザー)よりも更に均整のとれた個性をしっかりと主張したブレイク・カスタムになりそうな感じがする。


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 6.5インチ ブレイク・モデル 「B-Arthur」


 以前からアルミ・バレル・モデルの再販要望を激しく(熱烈な要望)承っておりまして、私としましても何とかそういった皆さんのご要望を叶えてあげられないものかと、何件かの製作所に問い合わせたりもしておりました。その中に1件、造って頂けそうな製作所がありまして、写真を見ていただいたところ、「造れますよ」とい事だったので、先月、図面と現物を持ってその製作所にお伺いしてみました。


すると、、、


 その現物を手に取ってしっかりと観察した後、「これを造った人に脱帽します、、、」としみじみと語るんです。これを造った製作所は、そこ(訪れた製作所)の下請けもやってて、それが誰が造ったモノであるかも、その方に教えてあげました。杉本製作所と言うんですが、とても小さな製作所でした。私が当時、制作にお願いに参った際、このご時世、旋盤加工やフライス加工は人件費が安いアジア地方に全て流れていき、経営がとても追い込まれてもおりました。


 しかし、おやじさんと一緒に仕事していた息子さんが、GUN好きな方で、快く制作を引き受けてくれました。おやじさんが持てるノウハウを駆使して旋盤でベース形状を造り上げ、息子さんがマシニング・センターを操って、私が「ここはこんな風に」と図面を見てもらいお願いしながら造り上げました。その作業だけにそうとうな作業時間を割いてくださり、息子さんは休日まで返上して取り掛かってくれてました。


 それを手にした方が、「うちでは造れません、、、」と言われた時、今は作業場を閉じてしまわれた杉本製作所のおやじさんと息子さんに「ありがとうございました」という思いが込み上げてきました。本当にありがとうございました。


 そういう事がありまして、残念ですがアルミ・バレル・モデルは現時点では、造れません。


 あくまで現時点でと言うことです。私は3Dモデリングのスキルを持ってすれば、マシニング・センターで容易に造れると捉えております。現在の制作所の現場は、まだそういった3Dモデリング技術者の育成が遅れているようで、マシニング機の本来のスペックを活用出来ていない部分も多々あるように思っています。


 いつか、必ずマシニング・センターを使って自分で造って見せる。


 見ていて下さい杉本さん。あなた方親子の職人根性を、私は決して忘れません。ありがとうございました。


 ステージから放たれた凄まじいエネルギーは、閉じ込められた空間の熱気を一気に押し揚げて。その場にいる全ての人間のボルテージを、MAX状態に持っていった。


「キャァ~! かっこいいィ~~~~!」


 ママとキャサリン、マリーの3人から、耳をつん裂くような黄色い歓声があがる。


 先ほどの演奏の余韻に、誰もが酔いしれていた。

「なかなかやるじゃねぇ~か」

 演奏を終えたスピード・キングが、驚きと感心の入り混じった表情を浮かべて、ニコラの肩をバンバンと叩く。ニコラはそれに、笑顔で応えた。

 ニコラは普段のそぶりから、バンドには関心がないものと、スピード・キングは思っていた。その彼が実は演奏を楽しんでいることを知って、スピード・キングも嬉しさを隠し切れない。

「次にお前さんと演る時が、楽しみだぜ」
「ええ、私もね」

 再びニコラの背中をバシバシと叩く。ニコラも苦笑を浮かべながら、それを黙って受けていた。

 そこからはもう、どんちゃん騒ぎだった。
 我も我もと皆がステージに押しかけ、即興でバンドが組まれる。次々に彼らの「定番曲」が演奏されては、メンバーが入れ替わり、また次の曲が演奏される。

 ステージから少し離れた大テーブルの上には、ママとキャサリンが作ったご馳走がずらりと並んでいた。演奏を終えた面子や女性陣は、ジョッキやグラスを片手にママの料理に舌鼓みを打っている。

 うまい酒を飲んで、美味しい料理を食べて、得意な楽器をかき鳴らし、思う存分歌声を張り上げる。ステージにあがっていない者は、演奏に合わせて踊りまくる。みんな心から楽しんでいた。



 そんな宴にも、終わりの時がやってくる。


「ねえ、みんな。提案したことがあるんだけど、聞いてくれない?」

 皆が熱狂から覚めはじめた頃をみはからって、マリーが口を開いた。

「ん~? どうした、マリー」

 酔って少しろれつがまわらない口調で、ロンが問い返す。

「ロンったら、しゃきっとしてよ。で、話っていうのはね……」

 彼女が切り出したのは、せっかくこれだけの演奏が出来るのだから、孤児院に出向いて演奏してあげたらどうか? という提案だった。施設には社会に溶け込めない、いわゆる不良と呼ばれる若者も数多くいる。そういった連中にこそ、音楽の楽しさを伝えてあげて欲しいと、マリーは語った。

「なるほどなあ……。俺はかまわんよ。マリーの頼みだしな」

 ケイクが即座にうなずいた。

「不良連中の、不良っぷりに磨きをかけちまったらどうすんだよ?」

 コンバット・デェイ・ジーが、ちゃめっけたっぷりにまぜっかえす。もちろん、冗談だ。その顔は、怪しげに笑っている。
 
「おいおい、ロックやってりゃ不良って……。そりゃいつの、どこの国の話だよ? っつーか、お前、年いくつだ?」

 スピード・キングが、笑いながら突っ込みをいれた。
 
「はっは。ちげえねえ。で、具体的にはどうするよ?」

 そこでハマーが、二人に割って入った。


「じゃあ俺のFORD-650に特設ステージ・トレーラーを連結して、ステージ丸ごと乗込むってのはどうだ?」
「おお、それ、おもしれ~な」

 すかさず、ロンが顔を輝かせた。

「外に若い連中を待たせてるところに、いきなりでかいトレーラーをドンと横付けして。ぱかっと開いたらいきなりステージ出現。そのままロックをぶちかます! いいねえ、やろうぜ!」

 ロンの熱っぽい口調に、皆も口々に賛成の意を示す。

「で、ニコラとアドバンは?」

 黙って話を聞いていた二人に、ケイクが確かめた。

「私はかまわないよ。なかなか面白そうだ」
「俺も……いいですよ」

 うなずいた二人に、ケイクがパン! と手を打つ。

「よし、決まりだ! じゃあ……」

 段取りを決めるために話を続けようとしたケイクを、ロンがさえぎる。

「ちょーっと待った! せっかくだから、バンド名も決めようぜ!」
「いいね~。で、なんにする?」

 途端に、皆が口々に自分のチーム名を挙げ始めた。

「そりゃ、Reverieだろ?」
 ケイクが当然といった顔で答える。

「何言ってやがる、Barracudaに決まってんだろーが!」
 ロンが猛然と反発した。

「いや、Kampferこそふさわしい」
 ニコラが淡々と、しかし、きっぱりと断言する。

「……Destinyっすよ」
 ぼそりとアドバンがつぶやいた。

「こりゃあ、収集がつかないねえ」
 侃々諤々、延々と言い合いを続ける男たちを見ながら、ママがため息をついた。

「そうね~、みんな自分のチームを出してるから、後に退けないもの」
 マリーもおかしそうに笑う。まるで子供のように言い合う、マリーの大切な「おじさん」たち。中には若手も混じっているが、ことこの件に関しては、精神年齢は似たりよったりというところだろう。

「だーっ、これじゃ、いつまでたっても決まらん! いっそのこと、『Bison・バンド』にするか?」

 言い合いに疲れ果てたケイクが、最初に自分のチーム名を放棄した。しかし、皆一様に渋い表情を浮かべている。

「なんだ? なんか問題でもあるのか?」
「ケイク……それだけは辞めてくれ、ダサすぎる」

 ロンが、盛大なため息をついた。
 皆もそれぞれがうなずいている。

「ケイクって、実はあんまり、ネーミングセンスとかなかったのね」
「私も今日、初めて知ったわ」
 ママとキャサリンが、驚きと呆れの入り混じった表情を浮かべていた。

「じゃあ、今バンド名に挙がってるご本人に聞いてみよう。Bison、あんたとしちゃ、どうなんだ?」

 ケイクに話を振られたBisonは、苦笑を浮かべながら答えた。

「せめて、Wild-Bisonにしてくれ。Bisonバンドじゃ、さすがに俺も恥ずかしい」

 最後は、Bison本人の鶴の一声で全員納得。
 
 どこかほっとした表情のロンが言った。

「おっさん、どうせなら、かっこいいWild-Bisonのジャンパー作ってくれ」


 という事で、「Wild-Bison」のロゴとマーク入りオリジナル・ジャンパーを作ろうと企んでおります。


さて、次はいよいよ最終コーナーでの
ド派手なBisonアクションの炸裂にご期待下さい^^
第1ステージの締めくくり、気合いを込めて
4速アクセル全快で突っ込んでいきます。


Wild-Bison Vol.3 END

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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


3番が終わり


待ちきれんばかりに
しびれを切らしたマックス・デニーロのギター・ソロが
火花を撒き散らして炸裂した


マックスの単独突撃を
バックで援護射撃するかのように
スピード・キングのドラムが
バルカン砲の様に高速連打をぶっ放す


切れ味鋭いハイハット・ワークと
タム回しの異常なまでの速さは
まさにスピード・キング


2人の超高速暴走ラインに
アドバン・J・ルークのベースが
あくまでクールに
且つ、強烈なずぶとい旋律で
執拗なまでに

リズムラインを煽りたてる


3人の高速バトルラインをニコラの
ハモンドオルガンのひび割れた歪んだ音が
更に別次元へグングン加速させていく


それはまさに


音速の壁をブチ破る
ハイウェイスター!


4人の鋭い視線が

一点だけに集中し

遂にその壁を捉えた


Alright hold tight

いくぜぇ!、しっかり掴まってろ!


I'm a highway star


I'm a highway star


I'm a highway star


俺がハイウェイスターだ!



(是非、曲を聴きながらお楽しみ下さい。割れんばかりのボリュームで^^)


 ステージの演奏は1番が終わり、2番へ。そしてオルガンソロが始まる。


 ニコラは、ピアノ演奏の時とはまるで別人のようにハモンド・オルガンを自在に操り音の空間を押し広げていく。


 ニコラ・ナニーニ。彼が子供時代から過ごした教会は、古くから続く格式のある協会だったが、けっして裕福とは言えなかった。そこに備え付けられていたパイプオルガンを幼い頃から弾いて育ったニコラは、音楽大学の講師から演奏を習い、演奏家としての才能を開花させていた。講師から将来は演奏家の道を、と勧められていたものの、ニコラは医師としての道を選び、演奏家としての道は断念した。


 カソリックの熱心な信者でもあった彼は、カソリック内部の組織や派閥争いに次第に嫌気がさしていきB.O.C.バランス・オブ・チェンジの一員となる。


 彼が演奏しているハモンド・オルガンというオルガンは、レスリー・スピーカーと呼ばれるアンプ内蔵のスピーカ・システムを通して高音と低音用の二つのスピーカから流れる音を、回転するロータを通す事で、ロータの回転に合わせて音が変化する。オルガンの音をビブラートをつけて厚みを増したり歪ませたりして音に空間的な広がりを持たせる事が出来る。

 
 これは余談ですが、今は多くの教会で、パイプオルガンは電気化されており、送風はモーターが行うので鍵盤を弾いた時、すぐに音が出ますが電気設備が整う以前は、パイプに空気を送る、つまり音を「鳴らす」ための送風は、オルガンの裏で「人力」でやっていました。だから、奏者が鍵盤を押してから音が出るまでに、タイムラグがあったんです。つまり、例えば聖歌隊が賛美歌を歌うとしても、聖歌隊は、自分が歌った瞬間に、自分の声を聞くことができるわけですが、伴奏を行うパイプオルガン奏者は、自分が鍵盤を押してからしばらくしないと、自分の音を聞くことができなかったわけです。それだけに、かつてのパイプオルガン奏者は、鍵盤楽器を弾く技術だけでなく卓越したリズム感によって、自分の音を耳で確かめる前に、数秒先の旋律を弾いていく必要があった。これはもう、とんでもない技量が必要な楽器だったというわけです。


 そういう「古いパイプオルガン」で、バッハの難曲とかを弾きこなしてきたニコラだが、鍵盤楽器奏者としては優れた技術と経験を持っているものの、同じ鍵盤楽器でも、ピアノは専門にはやってこなかった。


 同じ様な鍵盤楽器でも造りや構造が異なればプレイスタイルも技術もまた異なる。



 日本人から世界的なエレキベース奏者がなかなか出ないのは、人種としてどうしても白人・黒人と比べて、握力に劣る部分が大きいため、という説もあるくらいベースにとっての弦のチョイスは重要な要素である。


 例えばフォークギターでも、XL(エクストラ・ライト)の弦と、XH(エクストラ・ヘビー)の弦では、弦の固さ、張りの強さがぜんぜん違う。これがベースだと、ものすごく強烈に影響するもので、初心者が間違えてXHの弦でも買ってこようものなら普段弾けていた曲が、まともに弾けなかったりする。


 ケイクが今日このベースをわざわざ持ってきたのは、それをアドバンに弾かせる為であった。というのも先月のミーティングの際、アドバンが「ベースぐらい弾けますよ」と呟いた「ぐらい」という言葉に、音楽通のケイクがちょこっとムカついたようで、「ならばこいつを弾いてみろ」と持ってきたという訳だ。ミーティングと言うのは、Justiceでは毎月一回、ここで音楽を楽しみながらチーム同士の交流を深めたり打ち合わせをしたりする懇親会を兼ねたミーティングが行われており、以前はカラオケを歌いながら飲み食いしながらやっていたのだが、音楽好きが多いJusticeだけにそれぞれが色んな楽器を持ち込んで、そのまま置いて帰るもんだから、工房の奥の一室はちょっとした楽器屋さん状態になっていた。


 それならいっそカラオケやめて生バンドで音楽を楽しもうという事になってステージまで造ったのですが、あいつの事を考えてステージの天井は吹き抜けにしてます。


ステージでは、それぞれがポジションに入り演奏の用意が出来たようである。


スピード・キングがドラムでリズムを刻み始め

スピード感溢れるドラムに
エクストラ・ヘビーゲージの弦が

強烈なビートを刻み

そのベースの重厚なリズムに乗のって

マックスのギターがのろしを上げる。


ニコラのハモンド・オルガンも

割り込むようにアグレッシブなプレイで応酬しだす。


クラシカルなフレーズな中にもバロック音楽が持っているような爆発的パワーを感じるこの曲は!


「ディープ・パープルのHighway Starだぁ~!」


デェイ・ジーの強烈なシャウトがフェードインで加わり

テンションを狂ったように引きあげて

極限まで張り上げ叫び上げるボーカルは

血管がブチ切れるぞこいつは、と

心配になるぐらいの凄まじさだ。


Nobody gonna take my car
I'm gonna race it to the ground


Nobody gonna beat my car
It's gonna break the speed of sound


Oooh it's a killing machine
It's got everything

Like a driving power big fat tires
And everything


I love it and i need it

I bleed it

yeah it's a wild hurricane

Alright hold tight

I'm a highway star


中学生が書いたような歌詞もイカスぜ^^!


誰にも俺の車は渡さない
地の果てまでもブッ飛ばすぜ!


誰も俺の車には勝てない
音速の壁をブチ破るぜ!


こいつは殺人マシーンだ
こいつはすべて備えてる
例えば馬力、ぶっといタイヤ
そしてすべてを


お気に入りのこいつが オレには欠かせない!


俺がとことん走らせてやるぜ!


それはワイルドなハリケーンだ!


いいかしっかり掴まれよ


俺はハイウェイスターだぁ~~~~!



 太陽が地平線に沈み、夜の闇があたりを包む頃。

 窓に明かりが灯った工房の前に、一台の車が停まった。


 最初に車を降りた若い女性が、大きくのびをして後ろを振り返る。

「全然変わってないわね」

 工房を眺めながら、マリー・ガーランドは懐かしげな表情を浮かべた。

 微笑む彼女の視線の先には、彼女より少し遅れて車を降りた、剽悍な雰囲気を漂わせる男が立っている。

「中はちょいと、変わってるぞ?」


 彼女に応えたケイクの顔には、いたずら小僧のような笑みが浮かんでいた。

「そう……。でも、やっぱりここは変わらないわ」
「ああ、そうだな」

 ここも、私の我が家。

 マリーの顔が、そう語っている。

 ケイクもやわらかな笑みを浮かべてうなずいた。

 二人は工房のドアを開けて中に入っていった。

 重い樫の木で出来たドアが、きしむ音を立てて開く。
 室内の喧騒が止み、開かれた扉へと視線が注がれる。
 しかし、沈黙も束の間のこと。
 入ってきた人物に気づいた途端、歓声が室内に爆発した。
 
「よぉ~~~! マリーィ~~~!」

 最初に口火を切ったのは、無精ひげを生やした中年の男。
 普段の彼からは想像もつかぬような、満面の笑みを浮かべている。

「ロン!」 

 マリーの声に応えるかのように、ロンは大きく両手を開いた。
 「カモ~ン」のポーズで、マリーを出迎える。
 マリーはしっぽを振って母犬に飛びつく子犬のように、ロンの胸に飛び込んだ。

「会いたかったぜぇ」
「わたしだって!」

 両腕で力の限りロンにしがみ付いたマリーは、ロンの両頬にキスしまくった。
 まるでロンの娘かと見間違う程の光景だが、これはロンに限った事ではない。

「マリーィ~~~~~~~~!」

 ジェット戦闘機の如く奥のキッチンから飛び出してきたママが、ロンを吹き飛ばしてマリーに抱きついた。

「ママァ~~~!」

 ママの後にも、工房にいた皆が入れかわり立ちかわり、マリーのもとへ押しかける。

 そしてある者はやさしく、またある者は力いっぱい彼女を抱きしめ、マリーとの再会を喜びあった。

 皆の歓迎をひとしきり受けてから、マリーは一息つくとあたりを見回した。
 工房の変化にようやく気づいたマリーが、驚きの声をあげる。

「凄い! ステージが出来てる!」


 マリーの驚いた顔に満足げな表情を浮かべて、ママが大きくうなずいた。


「そうなのよ。ロンとパパが、二人で造ったの。凄いでしょ?
 ほらほらあなた達、ぼ~としてないで。何か演奏してみせて」

「そのつもりなんだけど……。キーボードとベースがね……」

 ママに促されたものの、残念そうにスピード・キングが呟く。
 その時、ケイクがニコラを指差した。

「キーボードなら、そこに名演奏者がいるだろ?」

 予想もしていなかったスピード・キングが、思わずニコラを見つめる。
 ニコラは動じた様子もなく、穏やかに笑みを浮かべたままだ。


「ベースもほれ」


 ケイクは自分が持ってきたベースを、後ろに腰掛けていたアドバンに手渡した。



 駐車場にマックス・デニーロが愛車モントークを止めて工房に入ってきた。


「相変わらず、ヘタクソだな~」


 そういって、ロンのギターを取り上げて


「リードってのは、こうやるんだよ」


 バンド経験者のマックスは流れるようなフィンガリングでギターを唸らせる。すると、上空から爆音が轟いて、Bison工房が崩れ落ちんじゃないかと思う程の振動を降り注いで、駐車場にMi24ハインド攻撃ヘリが降りてきた。シルバーとブラックを基調に赤や黄色をアクセントに用いた、まるでF1のマクラーレン・メルセデスのようにカラーリングされたMi24ハインドヘリから、颯爽と降りてきたのはアドバン。もう春だというのに真っ黒のロングコートに身を包み両手をコートに突っ込んで工房に入ってきた。


 ハインドヘリを操縦して来たスピード・キングは、自身とお揃い姿の黒地に銀でDestinyの刺繍が入ったチーム・ジャンパーを着たコンバット・デェイ・ジーを率いて入って来る。


 アドバンと目があった私はこの前の生ガキの礼を言って、カウンターに即座に腰掛けさせた。


「Bisonさん、この前の件どうですか?」

「ああ、あれか、、、妄想中だ」

「も、もうそう中?@$%&'|~'&」

「あ、いや、なんだ、、、あれだ、構想中だ!」


(いかん、さっきキッチンに行ったとき一杯ヒッカケテ来たから、酔いが回ってきたようだ、、、)


「ありがとうございます。楽しみにしてますんで」


 図太い低音を響かせて礼儀正しく返事をすると彼は例の如く黙りこくった。ステージでは、ギターをマックスに取られたロンが、スピード・キングとじゃれあっている。ロンとマックス、そしてスピード・キングは、Barracuda部隊で過酷な任務を共に戦い抜いてきた戦友だけにこの3人の友情は厚く、互いの心を深く知り合う3人は、安心して気を許せる仲間でありブラザーである。ドラムを叩いてたハマーが、


「スピード・キングのおでましとあっちゃ、俺達の出番はないな」


 とクレイジー・ドッグと目を見合わせて言うと、スティックをキングに手渡した。ハマーとクレイジー・ドッグは、ケイクと歳が近く、初期の特殊部隊Reverieの数少ない生き残りで、いまでもケイクと行動を共にしている。そのような彼等が所属する「Justice」だがその昔、Justiceを発足し、CIAを退いたケイクをJusticeに誘ったのも、実を言うとB.O.C. のメンバーであった私である。Justiceは、B.O.C.から独立した組織だがその繋がりは深く、バックでB.O.C.がしっかりと支えており、海軍空母の1隻や2隻、難なく揃えてしまう程の資金力と組織力をもJusticeは備えている。なのにどうして私の工房は、こんなにボロイのだろう・・・


 スティックを手にしてドラムにスタンバッったスピード・キングが、マックス・デニーロのギターに8ビートの切れのいいパンチを浴びせる。


「Johnny B. Goode じゃ物足りなくね?」


 昔バンドでならした腕前を持つスピード・キングがマックス・デニーロにしかめっ面で言うと


「そうだな、あれやるか?」
「じゃあデェイ・ジー、ボーカル頼むぜ」


 スピード・キングに指示されてステージに上がったコンバット・デェイ・ジー は、ジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長のようなおかしな目の動きをする奴。おかしな動きをするのは何も目だけじゃない。おかしな動きもする。要するに彼事態がジャック・スパロウそのものなのだ。アドバンが率いるDestinyの隊員で歳はまだ若い27歳。彼は根っからのロック好きで、いつもプレーヤー一体型ヘッドホンを付けて、ロックのリズムを脳みそに送り込んでいる。戦場をリズムで演出する男。それがデェイ・ジーである。


「問題はベースと、キーボードだが・・・」
「ニコラのさっきのピアノの演奏ぶりでは、ちょっと頼りないな・・・」


とスピード・キングとマックス・デニーロが話してる所に、
ケイクのGT-500エレノアが心地よいV8サウンドを奏でて駐車場に入ってきた。




「皆さんこんにちは、ロックン・ローラーのBisonです。

 それでは、まず景気ずけに一曲ブチかまします」


 静まりかえったBison工房の片隅にある小さな手作りの今にも床が落ちてしまいそうなみすごらしい、おんぼろステージで、マイクスタンドを永ちゃんのようにかっこよく握り締めて私は囁いた。


 「おっさん、誰に向かって囁いてんだ? 皆さんなんか一人もいねぇ~ぞ^^」


 後ろから、つまらん突っ込みを入れえてくるのは言うまでも無くあいつだ^^


 「いいから、とっとと唸らせろ」

 「OK! いくぜぇ~!」


といってロンのリード・ギターが旋律を唸らせて

チャック・ベリーのジョニ・B・グッドが弾け飛ぶ♪

ハマーのドラムが軽快な8ビットを刻み

クレイジー・ドッグのベースがビートにあわせて踊りだす♪

Way down in Louisiana close to New Orleans
Way back up in the woods among the evergreens
There stood a log cabin made of earth and wood
Where lived a country boy name of Johnny B. Goode
He never ever learned to read or write so well
But he could play the guitar like ringing a bell


ニコラが打楽器のようにピアノの鍵盤を連打して、煽り水をぶち噛ます♪


Go go!
Go Johnny go, go!
Go Johnny go, go!
Go Johnny go, go!
Johnny B. Goode


「ちょぉ~~~~と待て! 
 今、誰が音外さなかったか!?」


「俺じゃねぇ~ぞ!」


 そう言って真っ先に反論したのは、他ならぬ私です。今日はまだ外してない。今日はってところがミソです。


「だいたいなんだロン!今のぼよよ~んって音は!コメディーやってるんじゃないんだぞぉ!」

 ↑クライジー・ドッグ(ベース)


「おめぇ~、ホット・ドッグにして食ってやろうか^^」

 ↑ロン(ギター)


「まぁ~、まぁ~、もちつけ」

 ↑ハマー(ドラム)


「餅つくのかよ! 

 誤字脱字はおっさんのシンボルマークだろ!

 っていうか、今外したの、、、ドラムじゃねぇ~か?^^」


 このような、よくあるバンド初心者の練習風景ですが、ロンが勝手に工房にステージを作っちゃいまして、まぁ私も音楽は好きなもんだから、ロン達とたまにこうしてオチャラケ・バンドで遊んでます。


 工房奥のキッチンでは、ママとキャサリンがエプロン姿で、楽しそうに会話に花を咲かせて調理していますよ。テーブルの上には凄い量のおごちそうが・・・


 ママが異常なまでにご機嫌で料理に腕を振るっているのには訳があるんです。実は、今日マリーがミズーリ州から久々に帰ってくるんです。


「ママ、嬉しいのは分かるんだけど、その踊りながら料理するのはやめて^^」


 キャサリンがママに注意したくなるのも当然で、、、


 ママ!包丁を手にして踊るのだけは止めましょう!