フーリガン通信 -9ページ目

レアル・マドリードの青田買いと賢人の忠告

レアル・マドリード、バルセロナ、バレンシア、セビージャ、チェルシー、アーセナル、マンチェスターC・・・



こんなビッグクラブの数々が熱い視線を注いでいた18歳の若者の近未来の運命が決まったようだ。



彼の名前はセルヒオ・カナレス。リーガ・エスパニョーラのラシン・サンタンデールでプレーする27歳のMF。背番号27番。国籍はスペインでU-16代表からすべての年代別代表を経て、現在はU-19代表である。現在のリーガ5得点(出場僅か9ゲーム!)、スピード、技術、得点力を兼ね備えたスペインの“若き至宝”・・・



不勉強な私はこれまで彼の名前は知らなかった。今年に入ってからの、彼に関する獲得報道の加熱ぶりで興味をもち、調べた結果が上記である。



今季末までラシンとの契約が残っているカナレスは、今季末(来夏)の移籍市場の目玉として冒頭のビッグクラブから狙われていた。しかし、その中で他クラブに先んじて手を出したのは“お買い物好き”のレアル・マドリード(以下レアル)だった。



FIFAの規約では契約終了の半年前から交渉は可能となっている。したがって“青田買い”ではあるが違反ではない。しかし、ラシンを愛し、ラシンへの残留を希望していたカナレスを、シーズン途中にどうやって手に入れたのか。レアルの準備は周到であった。



レアルはカナレスと600万ユーロ(約7億6000万円)で5年契約を結んだと言われるが、その最初の2年はラシンに期限付き契約で戻し、トップチームでの経験を積ませるつもりだと言う。



現在のレアルに18歳の若者が入っても、その居場所はないだろう。それはカナレス自身が一番良く知っていた。だからカナレスは常にプレーできるラシンへの残留を希望したのである。



レアルの事情とカナレスの事情。その双方を満足させる手段が上記の契約内容と言う訳である。だったら他のクラブもそうすればよかったのに・・・いやいや、そんなに世の中甘くない。まだまだ成長途上のカナレスの2年後の状態かは誰も知らない。言ってみれば一人の選手の“手付金”にそれだけの大金をはたけるクラブはそうはない。



しかし、レアルにはこの“大きな投資”が必要だった。第2次銀河系軍団の構築を進める一方、ラウールの引退とグティの放出が噂されるレアルにおいて、“スペイン人”のスター選手は喉から手が出るほど欲しかったはず。守護神カシージャスやDFセルヒオ・ラモスはいるが、やはり一番欲しいのはアタッカー。昨夏バレンシアのビジャを取り損ねたレアルだけに、この強引な獲得劇も正当化されるのであろう。



しかし、レアルの交渉の最中に、狙われた当事者カナレスに対し釘を刺した男がいる。元バルセロナの監督でFootball界で最もランクの高い御意見番、ヨハン・クライフである。クライフはカナレスに対し「21歳まではラシンにとどまるべきだ、できるなら23歳まではいた方が良い」と忠告し、その理由を以下のように語った。



「18歳と言えば、人間としてもサッカー選手としても、学ばなければならないことがたくさんある。もし、十分な準備もできないうちにビッグクラブに移ったなら、重い荷物を背負わせられ、完全に潰されてしまうだろう。契約したクラブ(レアル・マドリード)が、彼をそのまま期限付き移籍させ経験を積ませるプランを持っていることは知っている。確かにそれは、彼の負担を多少は軽減することになるだろう。だが、依然としてリスクがあることに変わりはない。」



他ならぬ“賢人”の忠告・・・逸材をさらわれたバルサ陣営の皮肉と取れなくもないが、Football界に壊された若きフットボーラーをたくさん見てきたクライフの意見だけに無視はできない。



・・・とまあ、ここまで語った後で何だが、カナレスのプレーも見ておこう。少なくとも私は、こんな才能は壊したくない。

セルヒオ・カナレスのプレー映像





魂のフーリガン

おのしんじのいるところ

「やりがいがある。30歳、男はこれからだというところを見せられたら」


ブンデスリーガ・ボーフムから清水に移籍した小野伸二が、昨日22日に記者会見で語った。


18歳・高校生でフランスW杯に出場した「天才」。ピッチの上でも普段でも、カメラの前では常に「楽しさ」を表現してきた伸二の口から「男は・・・」という力強い言葉が発せられたことが、私には新鮮であり印象的であった。


オランダでプレーしている時、伸二は「最終的な居場所は、浦和レッズじゃないかな。」と語っていた。しかし、その通り浦和に帰った伸二の「居場所」にはポンテがいて、長谷部が育っていた。再び「居場所」を求めてドイツに旅立ったが、ハードでタフなブンデスリーガもまた、ケガがちな伸二の安住の地ではなかった。


では、そもそも伸二の「居場所」とはどこだろう。一般的には攻撃的MF、いわゆる「トップ下、実際に伸二はそのポジションにおかれることが多かった。


昔は良かった。最もうまい選手がトップ下で“10番”を背負って、その高い技術と戦術眼で活躍ができた。しかし、相手にしてみれば10番を抑えれば良い。相手DFはラインを上げ、狭くなった中盤でプレスが強まり、ゲームメーカーは激しいチャージに遭う。いわゆるコレクティブなFootballが主流になる中、主戦場となった中盤には、スピード・フィジカル・テクニックを兼ね備えた選手が置かれるようになり、たとえチームで一番巧くても、伸二のようなテクニシャンは次第にその棲息地を失っていった。


では何故、伸二はフィジカルが強いオランダで活躍できたのか。それは、フェイエノールトでの伸二は“激戦地”を離れたからである。そのポジションは「ボランチ」であった。


当時の監督ファン・マルワイクは、フィジカルは弱いがチームで最も技術が高く視野の広い伸二を生かすため、彼を相手からのプレッシャーが少ない場所に移した。それだけではない。伸二を守るために、その相棒としてフィジカルが強く伸二の代わりにハードワークを担うポール・ボスフェルトを置いた。そうして伸二は、後方からファン・ホーイドンク、ヨン・ダール・トマソン、ロビン・ファン・ペルシーといったフィジカルの強い攻撃陣を自在に操ったのである。


フェイエにおける伸二と同じようなケースとしては、ACミランとイタリア代表におけるピルロがあげられる。ピルロもまた番犬ガットゥーゾのハードワークに守られながら、後方から豪華な攻撃陣を操っている。


では、伸二の棲息地は「ボランチ」なのか・・・


ここまで語っておきながら、実は私は伸二のポジションは「どこでもいい」と思っている。なぜなら、間違いなくどんなチームにいても伸二は“誰よりも上手い”からである。一番上手い選手は、本人が一番好きなポジションをやればいい。


システムや戦術が進歩した現代のそんな無責任な監督はいないだろう。その通り。だから私の“天下の暴論”には一つの条件がつく。


それは、伸二がピッチに立つ以上、伸二のチームにしなければならない。監督も選手も、伸二を信頼しなければならない。誰よりも楽しくFootballを表現する伸二には、いつでも人の輪ができる。伸二に信頼が集まり、そこに人の輪ができれば、伸二は生き生きとプレーするだろう。


Footballとはチームプレーなのだ。伸二がいればチームができる。だから、伸二に必要なのは「自由と信頼」。それを与えれば伸二は輝く。伸二が輝けばチームが輝く。それが私の結論である。


「最後は浦和で」と言っていた伸二は、昨年には「最終的には清水でプレーしたい。」と言うようになった。

清水は少年団から高校までプレーした伸二の故郷。そこは伸二が最も周囲に信頼され、最も自由にプレーした場所である。


プレーヤーとして最後の場所・清水で、伸二の笑顔が見られる日を楽しみにしている。

今、私は心からそう思う。


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レアルの“至宝”の持ちぐされ

ラウール・ゴンサレス。この通信の読者に説明は不要だろう。


そのラウールに関するニュースをネットで見ることが多い。その内容は「引退」か「移籍」。まるでそれ以外の選択肢がないかのような報道は信じたくないが、今季シーズン前の購入品が並ぶピッチで、ラウールを見る時間が少ないこともまた事実である。


“英雄”、“象徴”、至宝”、“生きた伝説”・・・あらゆる賛辞で飾られることが許された背番号7の“カピタン(キャプテン)”に対するこの処遇、人がどう感じようが、それは冒涜であり、侮辱である。少なくとも私はそう思う。


ラウール自身が引退について語ったことも事実である。それは1年前のことである。


「自分を取り巻く状況は深刻であり、トップコンディションを維持したまま引退できればと考えている。調子が良いときには『本当にFootballをやめる気があるのか?』と問いかけるものだが・・・。現時点では2011年にFootballに終止符を打とうと考えている。」


しかし、私はそれを信じなかった。その2008-09シーズンのリーガ・エスパニョーラでも37ゲームで18得点、2ゲームに1点取っているのだ。誰が信じられよう。


そもそも180cm73kgの体はストライカーとしては恵まれているとは言えないラウールは、そのポジショニングの良さと、ボールを受ける際の動きの質で勝負してきた頭脳派ストライカーである。フリーな状態でボールを受け、予めすべてをイメージしていたかのように流れるような動作でシュートを放つラウールは、ケガも少ない。“長持ち”するプレーヤーの典型なのである。


しかも性格は真面目。トップも、左サイドも、MFも、監督が望むポジションはどこでも器用にこなす。頻繁に変わった歴代の監督との確執も聞かない。少なくとも現在のラウールは、自らの意思でプレーを止めるまで、ピッチに立つ資格がある。キャプテンマークを腕に巻いて。


そんな彼が、トップコンディションでありながら、自身が目標と決めた2011年よりも、1年も前にプレーする機会を奪われている。


レアル・マドリードでキャリアを望んでいるであろうラウールが、前監督シュスターが勧めるように他の場所であと数年プレーすることはないだろう。噂されるMLSでプレーすることもないだろう。

それを知っているからこそ、そのレアルでベンチに座る“背番号7”を見続けるのは忍びない。


C.ロナウド、カカ、ベンゼマといった新参者がクラブの顔になっても、レアルはリーガで首位のバルサに現在勝ち点5はなされた2位・・・


そんな状態に、ラウールを使わないのは、それこそ“至宝”の持ちぐされというものだ。


魂のフーリガン