たまふの書物語まりふ -27ページ目

569 魔法使いルーフィ

もの想いに耽る間もなく
回送1列車は
車庫に着く。

と、同時に

洗車ラインで、車体の外回りを洗う。



短いトンネルみたいな、洗車機を
列車は、くぐり抜けるのだ。




お湯が掛けられて、ブラシにシャボン玉。



くるくる。



「おもしろいねー」と、れーみぃは

にこにこ。



列車の中から、見る事なんて
めったにない。



アルバイトなんてあまり縁の無かったれーみぃにとって


職場経験も、楽しい想い出だろう。





白いシャボンが、ブラシにつけられて

窓ガラスを洗ってゆく。


お湯が、ブラシで掛けられて。


トンネルの中を通りながら、長い列車の旅の間で

風を受けて、ついた埃や砂が


お湯と一緒に落ちてゆく。

568 魔法使いルーフィ

そんな、リサとミシェルの
ふたりを見ていて

めぐは、なんとなく

姉弟で歌う、ポップスデュエット
みたいな、音楽をイメージした。


ほんの一瞬の事だけど。












アメリカンポップスでは、かつて有名だった

Carpenters、とか(笑兄妹だけど)


そういうハーモニー。

綺麗な弟の重なりには、やっぱり家族の愛みたいな
不思議なものが音楽に重なっていると



誰にも感じさせるものがあったみたいで



世界で人気になった。



その頃のアメリカは、本当に平和で豊かな
国だったのだろう。




ひとびとの心が、美しいハーモニーを好むと言う事は



ひとびとが、美を好んでいたから。



調和と平和を。






今、この国の鉄道を
買収して
お金儲けにしようとしているアメリカと
同じ国とは思えないのだけれども(笑)






やっぱり、神様の思うように



アメリカのひとびとが、心の中に
魔物を
住まわせてしまっている、のかもしれない。




魔物って、人々の悪意をエネルギーにしているから。

567魔法使いルーフィ

そんな、ミシェルとリサの
微笑ましい様子に

naomiも、心温まる思い。


こんな遠くまで、来てしまったけれど
でも、良かったな、と。


友達の幸せを喜べる事も、また、幸せだ。



ゆっくりゆっくり、列車に揺られて。

naomiは、思う。


姉弟デュエットのような、ミシェルとリサ。


リサの就職先、この列車ノーススターを運営する国鉄。


自身の就職先になる、郵便局。



それぞれに、愛を持ってつながっているんだね、と

naomiは思う。




兄弟も、鬱陶しいとか思う時もあったり(笑)
でも、温かいものだし


一晩、列車に乗って


鉄道、列車を走らせるのは
たくさんのひとの、思いが集まって
出来ているんだね、なんて。


実感できて。

566 魔法使いルーフィ

列車の最後尾に、赤いディーゼル機関車が
つながって。

回送列車を、車庫に引き上げる。


乗客用の扉は、閉じてあるので

ちょこっとドアスイッチを開いて。


リサたちを乗せて。



回送列車は、east-bluemorrisへ

ゆっくりゆっくり。



でも、リサとミシェルが一緒で


ちょっと、安堵したふたりは

顔を見ると、ちょっと戯れ言葉。



「わざわざ、こなくてよかったのに」と

リサは、ミシェルへの気安さ、それと
心配してもらえた、嬉しさから。


そんな言葉を。



ミシェルも、そのリサの気持ちが分かるけど


でも、顔を見て安心したのと


心配して来た、700kmの彼方まで、って
その恥ずかしい気持ちもあって、

照れ半分で


「まあ、学校休めるしさ」と、ミシェルは


照れ隠し。


でも、笑顔。




揺れる、ゆっくりゆっくり。

回送列車。



ふたりも揺れる。



れーみぃ、めぐも揺れる。

565 魔法使いルーフィ

気づくと、列車の方向幕も
回送

になっていて。


それだけみてると、ちょっと感傷的に



ああ、旅が終わってしまった。



なんて思うのかもしれないけど。


めぐたちには、仕事が待っていて。

感傷に浸るゆとりは無かったり。



それも、心のイメージに



仕事を、9時までに終わらせなくては。



と言う、「9時」と言う
漠然とした未来の時間を思ってると
ただ、焦ったりするのは当然で


心のイメージには、時間の概念がないから。




「手分けしてやっから、大丈夫だべ」と

整備部のおじさん、おばさんたちは言う。



一両にひとり、それがふたり、なら

20室のベッドを、ひとり10。


4時間あるなら、1時間に2部屋半分だから
そんなに大変でもない、と


予想する時間を、物理的に刻んでいけば
そんなに大変でもない、と分かる。


焦る事もない。



無理だったら、ひとを頼めばいいのだ。




そういう時、頼りになるのが国鉄の人脈である。



地域に鉄道が敷かれる時、みんなが手伝った。



道路もない時代である。



地ならしして、枕木を敷いて、レールを敷いて。



そうして、鉄道が走る。



みんなのものだ。




そういう意識があるから、地元に国鉄職員も多い。



手が空いていれば、手伝ってくれたりするのだ。



それが、国鉄の儲けになる、なんて
ケチな事は思わない。



みんなの列車。





それだけに、その鉄道を買収して
お金儲けにする、なんていう考えは


リサならずとも、ちょっと納得できない。

564 魔法使いルーフィ

ご苦労様、と
めぐたちは言われたけれど

「列車は、これからどうするの?」と

れーみぃ、ふと尋ねる。


「んだ、車庫へ入っちゃうよ」と
リサのおじさん。



上りで折り返すから、列車の掃除をして
シーツを変えて。



9時の出発までに間に合わす、と


車掌は、そういう。


「あたし、手伝う!」と
めぐは、なんとなくそう言った。




一緒に過ごした列車と

お別れするのも名残惜しかったし


みんなで、また頑張って
帰りの列車を、綺麗にしてあげよう。




そんな気持ちになった。



「わたしも」 

「あたしも」


と、れーみぃとnaomi。



それと、こんどはリサとミシェルも
お手伝い。




別に、アルバイトでなくても。


なんだか、一緒に役に立ちたいと
そう思ったりしたのだろう。



みんなのための、ひとり、

ひとりのための、みんな。

563 魔法使いルーフィ

リサが、偶然

ロックミュージックに出会って


心の蟠りから解放されたので


みんなの心配は、解決されて。



終着駅について、リサの

晴れやかな心の笑顔に出会った


めぐ、naomi,れーみぃ、そしてミシェルは


安心した。



むだ足だった、なんて事もなくて


みんなの友情と、ミシェルの兄弟愛は


この経験で、結びつきが強くなったし


実感して、この国鉄と言う組織の
力強い底力を、体感するいい機会にもなった。


ひとは、力を合わせて生きていく。
それは、どんな時代でも変わらないものだ。


仮に、それを

誰かが、お金儲けに利用しようとして


も。



心意気までは、奪えない。


群れで生きてきた、人間の

心の奥底にある、歴史、記憶が
そうさせるのだ。




天に上の、神様も
にこにこと見守っている事だろう。




赤い機関車が、ゆっくりと
終着駅に入る。

長い長い旅を終えた、ノーススター、1列車。

お疲れさま。




リサのおじさん、専務車掌も
これで、お疲れさま。




駅のホームについた列車を、
リサは出迎えて。






「みんな、地震で大変だったねー。」と
快活に、労いの言葉を掛ける。



それだけで、この旅の

意味はあったと

誰もが、そう思う。







「学校、休んじゃったねえ」と


誰からともなく、そう言うと


みんなで、笑った。




「夜行列車、楽しかったな」れーみぃは
そう、天真爛漫に言う。

562 魔法使いルーフィ

いろいろあった、列車の旅も
ようやく、終わりを告げる。


列車料理長は、すっかりご機嫌で(笑)


もう夕方の、1列車。

折り返し、上り2列車になる編成に
乗ったまま。


めぐたち、アルバイトの飛び込みに(笑)



「今日は、ご苦労様。
また、帰りの列車は夜9時だけど、
次の帰りに、また乗るかな?」と



にこにこ、ご機嫌。


「はい、また乗らせてください」と


めぐも、にこにこ。





いろんな事があった、この列車の旅。




過ぎてしまうと、楽しい事ばかりなように
めぐは思った。



そういうもので、ひとの気持ちって

嫌な事は忘れるようにできている。



どうしてかって言うと、嫌な事ばかり覚えていると
病気になってしまうからだ(笑)。



面白いもので、人間の心には限界がある。
嫌な事、辛い事を覚えてばかりいると

生きて行くのに不都合なので、忘れるように出来ている。



それは、昔々
戦う動物だった頃の名残だと
言われていて



戦いながら生きていく最中に
過ぎた事をクヨクヨしていたら
滅びて死んでしまうからで(笑)



忘れる事が上手い動物が、生き残った。




同様に、心や体が傷ついても

忘れて、戦い続けられるように
出来ている。



しっかり眠って、夢を見れば
忘れられる。



めぐが、夢の中で


心に出会う魔法を使うのも



割と、理論的に正しいかも、しれない。(笑)

561 魔法使いルーフィ

同じ頃、終着駅の町、bluemorrisで
リサは、友達の身を案じて

少し、苛立っていた。

列車が、一向に着く気配もなく

レールがつながっているとは言うものの



いつ、着くのか?も
解らないからだった。



地震のせいで、携帯電話もつながらずに



全く、音信不通。



なので、そういう時の人間と言うのは
悪い事を予想するものだけれども(笑)


それは、もちろん経験学習のせいで
悲劇をイメージしてしまうと言うのは


防御の本能、と言うような
身を守るすべ、である。



野生生物だった頃、身を守るために
行動様式を覚えて行った。

けれど、この時のように

何も、情報が得られない時は
とりあえず、一番大変な事を想像したりするのも


防御と言うのは、もともと心の中では


見えざる敵への攻撃、だからである。

身を守る戦い。




そういう意味で、闘争心を発揮するのも
また、人間の行動だったりする。





それもまた、目の前にある3次元時空間の
情報ではなくて


想像上の4次元、時空間のイメージ、つまり
空想だから


それは、悩みになる。


何も、具体的に決められないので
思考も定まらず、ただ心配するために

精神が疲弊してしまうから、である。




とりあえず、列車料理長みたいに
お酒飲んだりして、のんびりとする方がいいのだけれども。



リサは未成年で(笑)



つまり、お酒やタバコみたいな
嗜好品は、そんなふうに

心を休めるような環境を作るものだったりする。

560 魔法使いルーフィ

リサの悩みも、
ミシェルの恋も、
日本人のおばあちゃんの、食の好みも。
列車指令のこだわりも。


みんな、目の前の3次元空間で起きている事に

心の中の、イメージ、4次元空間を
合わせようとして起こる事だ。



列車料理長のように、目の前の3次元空間に合わせて



イメージの、4次元空間を適合すれば
問題ないのだけれど




なかなか、それができないのも人、であるし


欲望や希望を持つのも、それはそれで
良い事だ。




そういう希望の為に列車は走ったりもする。





神様だって、心のなかの
4次元空間にイメージを持っていたりもする。




この国のひとたちが、貨幣流通経済、と言う
言ってみれば、価値の曖昧なものに
囚われて


本当に働く事の幸せを忘れないように、と

思ったのも

神様のイメージである。






でも、この1列車に乗るひとたちや
国鉄のひとたちは、働く幸せを知っている。



お金儲けじゃなくて、心を満たす為の仕事。



それは、生き物としての

もっと単純な、行動である。



行動力を、自分達の幸せの為に使えるのだから

こんな幸せな職場もない。