たまふの書物語まりふ -24ページ目

598 魔法使いルーフィー

若いと人気って言うのは、つまり
庇護の本能、なんて概念で言われるけど


赤ちゃんや、それに近いものを守る、慈しむ
そんな生き物の性質で

それがあるから、生き物は生き延びてこれた、らしい(笑)。



でもまあ、人間は増えすぎて
天敵が居なくなったから


人間同士で、生き残りゲームを始めたので


たとえば、外国の人が
この国の国鉄を、買収しようとしたりするのは


そういうひとたちにとっては、生き残りゲームのようで
楽しい、と言う事らしい。




愛する対象を持って、慈しむ気持になっている人々には
無縁の気分、だ。



慈しむ気持になるとき、ひとの心にはオキシトシン、と言う
ケミカルが満たされる。


から、魔法使いルーフィは
それを使って、ひとの心を癒そう、としたり。


597 魔法使いルーフィー

「いつもだったら、寝てる時間なのに、楽しいね」と、れーみぃ(笑)。



「夕べも、楽しかったね。忙しかったけど」と、めぐは、洗い場に並んでる鏡の前に
お風呂椅子を持ってきて。

お湯を、蛇口から手桶に入れようとして

間違えてシャワーヘッドから、勢いよく
自分の髪に掛けて「きゃ!」


あはは、とnaomiは笑う。


ちょっと、めぐよりは低いめの声が
なんとなく、大人っぽく聞こえるけど
同じ18才。


すらりとした脚を並べて、シャボン玉を立てている。



温泉だから、あんまり泡はたたない。




リサは「ごめんね、あたしのために」と

微笑みながら。



「おかげさまで。」と、れーみぃ。


アジアンのせいか、変な言い回し(笑)。


色白だけど、ころころとしていて
とてもかわいらしい。

香港がイギリス領だった頃、チャイナガールが人気だったのもよく分かる。


ヨーロピアンより、一緒でも若く見えるのも
女の子としては人気の秘密か。

596 魔法使いルーフィー

温泉の、駅浴場なんて

贅沢。


そう、みんな口々にいいながら

ほいほい、と
お風呂へ。


みんな友達だし、意外と
女の子同士だと、さっぱり

おーるぬーど。




「れーみぃ、やっぱりお嬢さんだね」と

めぐは、れーみぃの少女っぽい
柔らかで、傷ひとつないボディを見て。


脱衣所は、素っ気ない木の床で


籠が並んでる棚、大きな扇風機。


なーんとなく、湯の香。


「めぐみたいに、すらっとしたいんだけど」れーみぃは

ふくよかな腰を、よじらせて。




そっかなあ、と
めぐは、大きな鏡に映る
自分の少年みたいなボディをみて、そう思う。


鏡に映る、naomiの


スーパーモデルみたいな、均整の取れたボディを見ながら(笑)。




同じ歳なのに、ずいぶん違うなぁ(笑)なんて。





リサは、スポーツ好きだから


膝っこぞうに傷があったりして


でも、それだけに

日焼けのない胸周りが、とってもセクシー(笑)。




意外に、恥ずかしそうに
俯いている。



「そういえば、みんなでお風呂って、修学旅行以来だねぇ」なんて。



naomiも楽しそう。




ちょっと、年季の入ったガラス扉を引いて


お風呂場に向かうと、大きな湯舟に、お湯がたっぷり。



石作りの床は、玄武岩だろうか。

595 魔法使いルーフィー

駅の、広い敷地も
都会には見られないもので

そのあたりに、土地の人々のゆとりを感じ
たりする、めぐたちだったりする。


雪の置き場所、って
実利的な意味もあって
駅が広いのも、あるんだけど。




「ほんじゃ、ご苦労様」と、おじさんは
私服、グレーのポロシャツに
ゴルフスラックス。


ふつうの、おじさん。



構内の外れの、お風呂場へ。


ここは温泉地だから、お風呂場の隣から
温泉のパイプが引かれていて。


湯気が立っている。




線路のすぐ脇、古い木造のお風呂場。


でも、広い。



ちゃんと、玄関から別になっていて。





なので、めぐたちと


おじさん、ミシェルは別々。





当たり前だけど(笑)。






「おつかれさまでした~」と、れーみぃも
ご挨拶。



そういえば、もう夜10時近い。




「頑張ったもんね」と、めぐ。



「そういえば、何しに来たんだけっけ??」と

リサも、軽く冗談。




温泉の入り口の、ドアを開けると



がらんとしていた。


そう、夜にお風呂場に入る職員って
そんなにいない。



朝に出勤だと、夕方には帰ってしまうから。



夕方出勤なら、明け方に退勤だから。



この時間には、あんまり人影がない。

594 魔法使いルーフィー

女子ロッカールームの出口に、ランドリーの
受付箱があって。


制服の類を、クリーニングしてくれる。


もちろん、クリーニングと言っても
国鉄物資部、と言って

本物の、クリーニング屋さんが居るのだ。



そういうふうに、鉄道だけではなくて
人々の役に立つ組織が、全部あるから



鉄道が通ると、地域にとって経済が潤うのである。





それを、外国のお金持ちが利用したいと
思う、そんな理由で


今、この国の国鉄を民営にしてしまいたい、などと

政治が画策していると、そんな訳。


もし、そうなると



例えば物資部の代わりに、外国のスーパーが
入ったりする。





今まで平穏な地域の暮らしを支えていた
商店がなくなってしまったりする。


商店の人々の儲けが、外国に行ってしまうわけだ。





そういう事が、侵略のようなもので



つまり、外国の人々の行動力が、この国の
事を思いやるゆとりがない。




そういう事で、魔法使いルーフィが
以前行った、魔法治療(笑)で


神経内分泌の回路に作用して、オキシトシン
、親愛の情を産む物質の活性を強めたりした。



この国の政治家たちに。

593 魔法使いルーフィー

一方のめぐたちは、女子ロッカールームで
私服に着替えて。

「でも、リサ、元気になってよかったよ」と
めぐ。


「どーして元気になれたの?」と、れーみぃ。


リサは、着替えなくていいから(笑)
手持ち無沙汰に答える。「うん、駅前でね、ロックが流れてて、それで、なんかさっぱりして。」と言うと、れーみぃは



「そう、バンドしよーよ、ね?」




理由にもならないような、リサの理由。



でもそんなものだ。



リサの気持ちに、知らず知らず抑圧を掛けてたのは

リサの無意識なのだ。


誰かがそうした訳じゃなくて。



生まれ育ちの間に、なんとなく積み重ねて来た記憶を、リサがそう考えてしまっただけ、の事。




おじいちゃんが国鉄の名士だったとしても、
別に、誰もリサに名手になってくれと思ってはいない。


おじいちゃんの思い出を引き継いでくれる人が
周りにとって嬉しい、それだけだ。

592 魔法使いルーフィー

「温泉かー」れーみぃ、にこにこ。


「でも、ちょっとおばあちゃんかな」めぐ。


「いいんじゃない?郵便局にもあるよ」naomi


「おじいちゃんも、お風呂好きだったな」リサ。


「そういえば、夕べはお風呂入れなかったし」ミシェル。



「ミシェルも、ちっちゃい頃一緒に入ってたのに」リサ。




なーんとなく、頬赤らめるミシェル。



「ちんちん洗ってあげよっか」naomi。



おじさんも、笑った。


夜の車掌区は、もう人影も少ない。



「ミシェルは、わいと一緒にな」おじさん。


めぐたちと一緒に、車掌区を出て

ロッカールーム。



おじさんは、制服から私服に着替えて。



広いロッカールーム、ミシェルは
長椅子に掛けて。



おじさんの着替えを待っていた。





ドアは引き扉で、木造の

小学校の教室くらいの部屋。


グレーのロッカーが居並ぶ。



よぉ、と陽気に入って来る、鉄道員たち。



おじさんも、片手を上げて。




鉄道員たちは、ミシェルを見て



「ああ、じい様のお孫さんか、国鉄来るのか」


と、口々に。




ミシェルは、違います、とも言えずに(笑)。

591 魔法使いルーフィー

ほんとは、でも
働くのは、ひとの行動のほんのひとつ。

なんでもいいんだけど、行動力が余ると

ストレスになる。


生き物だから、もともと
駆け回って、食べ物探して生きてきた。


ここしばらく、人間は楽をしてるので
簡単に食べ物が手に入るから

エネルギーがあまる。それだけの事。


時間が余って、行動力が余るから

動きたい、そう思う心が
苛立ちを生んだりする。


動こうとするのは、生物的な欲求だ。



だから、これは
考えなくても起こるので、0次元欲求だ。



暇でない程度に、何かした方が健康にいいのである。



なので、みんなのために働くのは
とりあえず敵を作らないし、安全でいい
行動力の使い方。




たまたま、この国のひとは
国鉄があったり、郵便局があったり。




外国のひとは、たまたま
この国の経済を利用しようとする事に
罪悪感がないのだろう。








「帰着点呼、よし。ご苦労様」と

車掌区長は言い、



遅くまでありがとう、そう言った。


気づくと、もう21時を過ぎている。



「はい、仕事終わり。ありがとう」と


運転管理のおじさんは、めぐたちに言い


「下にお風呂、沸いてるから。制服は置いてっていいよ」と。



「え、え、まさか、混浴?」と、めぐは(笑)

「んな訳ないじゃん」と、naomiは涼しい声。




郵便局みたいに、駅の乗務員センターにも
お風呂があるのだ。



汚れる仕事も多い。



女の子のメカニックも居るし、雨の日もある。


「温泉だよ」と、すっきり顔の
運転管理さん。


にこにこ。

589 魔法使いルーフィー

その、船の待合室も
今は、海底トンネルが出来て
連絡船が無くなったから


歴史の展示室みたいな存在になっている。


大きな古いテレビが、天井から下がって

ベンチが居並ぶ、大きな
学校の体育館くらいの大きさの部屋。


それが、ホームの上の2階上に

宙ぶらりんに作られているあたりも
とても不思議な構造。



大雪が降る地方なので、地上に作るよりは
2階に在って、丁度良い。


そんな印象だけれど、暖かい地方から来た
めぐたちには理解できない。



でも、見晴らしが良いので。



「すごーいねぇ」と、れーみぃは
楽しそうにはしゃいでて。





「さ、点呼さいくべ」と


リサのおじさんは、白い制服をきちんと着直して。



回廊になっている通路から、駅の車掌区へ。


外観からは分からないけれど
荘厳な木造の、駅の車掌区。


扉は、なぜか西武劇のSaloonみたいに

フリーストップの扉だったりする(笑)。




車掌区には、なぜか偉いさんの写真が飾られていて


その中に、リサのおじいちゃんの写真が
あったりして。



リサは、気づいてちょっと恥ずかしそう。



おじさんは見慣れてるせいもあるけど



「んだな。功労者だな。」と、他人みたいな
顔をして。



「どんな功労なんですか?」と、めぐは
聞いて見る。



「忘れた」と、おじさんは言うので


みんな、楽しそうに笑った。




車掌区の入り口、隣はロッカールーム。


その向こうが、点呼を行う車掌区。




おじさんは「1列車、帰着しました」と。




大きなカウンターの向こうで、厳めし感じの


車掌区長、運転管理。



「あ、あたしたち?」と


めぐたちは、ちょっと慌てる(笑)。




厳めしい顔だった車掌区長さんも、愛らしい
女の子たちに、微笑み「ご苦労様。1列車乗務員さん」と


そう言われて、れーみぃたちもにこにこ。

敬礼をしたりして。

590 魔法使いルーフィ

列車のテールランプを見送って、れーみぃは
「なんか、淋しくなっちゃうね」と


にっこり、しながらそう言った。


めぐも、頷く。


naomiも、同じ気持ちなのか


列車の行方を視線で追って。



信号の赤、が
心なしか滲んで見える事に気づいた。





「さ、到着点呼だべ」と

リサのおじさんは、ホームから


古い階段へと向かった。



「あたしたちは?」と、めぐが聞くと




「ついてけへ」と、のどかな方言で言うので



めぐも、なんとなく微笑んだ。




階段は、線路を跨いで渡る橋へと
つながっていて。


歴史を感じさせるその橋は、柱が古いレールで
出来ていて


どことなく、蒸気機関車の吐き出す煙で
黒ずんでいるように見えた。



リサは、その黒ずんだあたりが

おじいちゃんの軌跡なようにも思えて。


愛おしいような気がした。



終着駅。



以前は、海を渡る連絡船があって

船着き場への、長い通路がこの橋につながっていたらしく


大きな、船の客席くらいの待合室が


階上に残っていた。