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明日への轍

齢五十を過ぎて、ある日大腸がんが見つかる。
手術から回復したと思った一年後、肝臓と肺へがんが転移。
更に続くがんとの付き合いを記録します。

8日に呼吸器外科の診断があった。
CTの画像を一緒に見せて貰った。

大分薄切りに撮られたCTの画像で肺の部分をじっくり見たが、肺の淵に一箇所だけ湖に浮かぶ小島のように腫瘍が見える。
大きさは1cmで一個だけのようだ。

N医師からは、この状態であれば胸腔鏡での部分削除で行けそうですねといわれた。
左脇の下あたりに三個の穴を空けて、カメラと二個のカンシを入れて手術をするようだ。
肺も肝臓と同様に腫瘍が一個だけであり比較的手術しやすいと言うことであろうか。

勿論、癌の手術であり大変な手術であることには変わりないと考えてはいるが、たとえ比較の話であっても良い状態であると思えれば、それだけでも嬉しいものである。

手術については、同時に行う場合も検討したようであるが、やはり肝臓のほうを先にやって、落ち着いてから肺をやりましょうと言うことになった。
まあ、同時にやれば痛いのも辛いのも一回で済むし、期間も短いかなと思ったけれども、やはり安全を最優先にしたいので入院が長くなっても分けて手術して貰う事になってよかったと思っている。

但し、これで切除したとしてもこの先に再発しないと保証されるわけではないと考えている。
まだ、表面化しない癌が潜んでいる可能性はあると思っている。
とにかく、定期的に検査をして、小さいうちに目を摘む。これしかないだろう。
 
5日はCT検査だった。
造影剤を入れての検査で、注射で造影剤を入れると身体が熱くなる。
毎回、同意書を書かされる。
特に体調の変化があるわけではないが、毎回のように同意書を書かせるのは、やはり何らかの悪い影響が出る可能性もあるのであろう。
でも、このお陰で小さな癌も発見できるのであれば、やはり有難いものなのである。

6日は、ICG検査。初めての検査だった。
肝臓の検査で、 色素インドシアニングリーンの頭文字をとっているらしい。
肝臓に異物(色素)を注入して、それを肝臓が中和する働きを一定の時間ごとに採血して残留度を測ることで、肝臓の機能を診断する検査らしい。

30分程安静にして、そのまま色素注入、採血まで一時間程度掛かった。
ベットで寝ている状態で行うが、眠くなってしまった。
基準値が10%以下なら正常。30%以上なら肝硬変と判断されるとか。
医師からは、肝硬変ではないと思われるので多分正常値と思われますが、念のためと説明された。

胃の内視鏡検査もあった。
麻酔はない。鼻からの内視鏡でもない。 
口から入れる内視鏡には、苦しくて二度としたくないと思った記憶が深く刻まれている。
もう随分昔であるが、初めての内視鏡だった。
とにかく苦しくて辛くて、涙が出てしょうがなかった。
トラウマになってしまうようなものだった。

今回もやはり苦しかったが、言われたとおりにするしかないのである。
・つばを飲もうとしない。流れるままに垂れ流す。
・大きくゆっくり呼吸してのどを開けたまま時の経つのをじっと待つ。
・時間は長く感じるが、何れ終わることを信じる。(笑)

検査技師が作業しながら説明してくれた。
・胃は綺麗ですね。
・ピロリ菌もなさそう。
・ポリープがありますが、良性ですね。
そんな声が聞こえた。
苦しい中でも嬉しかった。
時間にして10分ぐらいだったかもしれない。 本当に長い時間だった。

その後、K医師の診察。
K医師は前回に診断してくれたH医師と同様に肝胆膵外科の医師であるが、若い医師である。
説明は丁寧で、明確にしてくれる事から悪い印象はない。でも、やはり若い医師の場合は不安も残るものだ。

K医師の説明によれば、5日のCT検査の結果でも、やはり肝臓の腫瘍は3㎝程度で1個と判断される。
部位も端の部分であり、手術し易い事から腹腔鏡での手術となると説明された。
「肝臓の腹腔鏡の手術」と聞くと最近良い悪いニュースがあったばかりであるが、K医師からもその話があった。
・G大学病院での死亡は特異な例である。
・T大学病院の肝臓手術は他の病院と比べても安全で死亡率も0ではないが、0.1%程度である。
これらを具体的な数値を上げて強調していた。
やはりニュースを聞いて不安に思う人は多いのだろうと思った。

同時に、大腸癌からの転移性癌は他の臓器からの転移に比較して完治の可能性が高めであるとも説明された。
正直言って不安に思う中では嬉しい説明だった。
勿論、比較した可能性だけの話であり、自分の癌が完治すると言われた訳ではないのであるが、それでもやはり少しは光明が見えたような気がする。
患者としてはそんなものである。

入院の予定は4月27日、手術の予定は5月2日連休の谷間である。
世はGWの真っ只中であろうが、自分は病院で術後の痛みに耐える日々となりそうだ。

まだ、呼吸器外科の医師の診断が残っており、8日の診断で手術の見込みが示されるかもしれない。
肝臓と肺を同時にすることはないのだろうか。
やはり、肝臓の手術後、回復を待って肺の手術となるのが普通であろうか。

手術を待つ身としては、急ぐわけではないし、確実に安全な方法で無事に手術して貰えることが一番である。
結局は、まな板の鯉状態であり、医師を病院を信用して任せるしかないのである。



今日は、肝胆外科及び呼吸器外科の診察だった。
予約が入っているので直ぐに診察室へ行けばいいのかと思ったのに、診察カードを機械に入れると初診の受付が終了していないと表示された。
結局、大腸癌の診察と同様に担当科が違うので最初から手続きをせよと言う事らしい。
まあ、どうでもいいことだけど。

肝胆外科はH医師。
丁寧に説明してくれるし、何かお聞きしたいことは他にありますかなどと聞いてくれる。
信頼できそうな医師である。
説明によれば、肝臓の腫瘍はCTの画像やPET検査の結果からもやはり癌であると判断して良いだろうと言うことだった。
でも、大きさよりも個数が1個であることがよい傾向であること。そして患部が肝臓の下の位置に当たることから、切除し易いこともあり手術としては腹腔鏡で可能だと言うことだった。
これは予想していなかったことであり、正直嬉しかった。
開腹手術を覚悟していたからである。 身体の負担も大きく術後の退院までの期間も長くなるだろうと予想していた。
N医師に以前見せて貰った画像が頭部から輪切りにした状態の画像であり、肝臓のどの部分か解り辛かったが、正面からの画像を見せて貰って確かに肝臓の下の部分であることが判った。
素人目に見て考えても所謂端っこの部分であり削除し易いと言う事は理解できた。

腹腔鏡だからと言って簡単な手術である訳はないが、技術的に難しい手術であれば腹腔鏡では対応できないため開腹手術となる事は予想が付くから、自分の場合困難な部類には入らないのであろう。

追加の検査は、MRIとICG検査らしい。
それと本日、採尿、採血、心電図、胸部・腹部レントゲンの検査があった。

それから、呼吸器外科はN医師であった。
この医師もやさしく説明してくれたが、手術の方法まで聞くのを忘れた。
但し、肺の腫瘍と想定されるのが非常に小さく、他に疑わしい部分はないかを確認するために、再度、詳細なCT検査をしたいと説明された。

肺の手術に関して、どのように腫瘍を削除するのか、イメージできていない。
空気の入った皮の厚い風船のような臓器の内側に出来た腫瘍だから・・・。
まあ、今後、色々調べて見よう。

T大病院の呼吸器外科サイトを見てみると、肺の手術は胸腔鏡と言うやはり開腹しない方法で手術するケースが多いと書いてある。それであればやはり嬉しいな。

本日、入院の手続き書類の説明もされた。
嬉しくない話ではあるが、入院は初めてではない。 日時は未定であるが、なるべく早く手術となれば良いのだが。

.やはり。 PET検査の結果は、肝臓への転移が明らかだった。
赤く染まる肝臓の部位。 PET検査では感の部位が赤くなるそうだ。
それと肺。 この部分は赤くはありません。でも、CTの検査で映る部位。やはり転移だと思われるようです。

今日のN医師の診断は、これ以上の詳しい診断は大腸が専門の自分では出来ないので、新たに肝臓と肺の専門の医者の診察を受けるようにとの事だった。
専門外の事であるのは判るが、後は自分の専門外だから判りませんと言われると無責任とまでは言わないが、少し冷たい気がする。
「同じ病院内のことであるから、誰々先生を紹介しましょう」とかそんな話がある訳ではないんですね。

N医師からは、今後の診察でどこの診察に行ったらいいのか判らなくなるようなことがないように、これまでの治療は私が担当で引き継げる診断資料もありますと言う意味で、一応次回の診断予定を一ヵ月後の日程で入れておきますが、今後は肝臓と肺の担当医師に診断して貰って下さいとのことだった。

大学病院は巨大組織であり、縦割りの組織構造はよく言われていますが、そんな感じがしますね。
がんセンターとかガン研有明とかだったら違うのかな。

でも、今までの診断資料を共有してくれることはあるだろう。同じ病院内だから。
それなら紹介状を貰って初診から行くよりも良いかな。

T大学病院は肝臓の手術ではそれなりの実績がありそうで、その点では心強い。

早速に診察の予約を入れる。N医師からのメモでは二週間以内に予約を取るようにとの事だった。
29日午前と午後に予約が取れた。

手術で患部を削除する以外に放射線治療などの科学的治療などの選択もあるように説明されたが、自分としては手術を選択したい。
確かに手術はリスクもある。
最近また、G大学病院の手術での死亡が以上に高かったと言うニュースが出ていた。
第一外科でも通常より高い確率での死亡事例。
報告も検証もされずに繰り返された結果らしい。

T大学病院がそんな事はないと信じたいが、大学病院という閉鎖された組織の中では同じような原因は多かれ少なかれあるのかも知れない。

N医師は、こうも言っていた。 手術の選択は、まだ削除が可能であると言う風に考えてもいいかもしれません。彼方此方の転移して手術も出来ない場合は選択が狭まります。

N医師の説明は納得できるものかもしれない。


思いがけない展開となった。

約一年前に手術をして、経過は順調であり定期的な検査をしていけば心配ないと思っていた。
しかしながら、先々週に大腸の内視鏡検査が終了した時にN先生から声をかけれられた。

先生 「こんにちは。 ○○さん。 お久しぶりです。
    大腸の内視鏡検査の結果は、大丈夫ですね。順調です。

    但し、気になることがあります。
    前回のCT検査の結果なんですが、肝臓と肺に気になる部分があります。
    来週にもう少し詳しくお話します。」

こんな会話があった。
肝臓と肺に気になる部分。それは転移を意味するんじゃないかと思った。

そして、翌週の診察日。
CTの画像を見せて貰いながら説明を受けた。

先生 「肝臓のこの部分に影があるのがわかりますか。」

確かに影が映っている。薄くぼんやりであるが・・・。

先生 「それと肺のこの部分です。」

それは、白いコブ状の画像だった。

私 「これってどのぐらいの大きさなんですか。」

先生 「そうですね。肝臓は、3㎝位、 肺は1㎝位でしょうか。」
     
私 「そうですか。これはがんの転移と言う事でしょうか。」

先生 「いや、まだこれだけだとそうは判断できません。そのためにPET検査をしたいと思っています。
    それを見てから再度、検討しましょう。
    それにガンマーカーも急に数値が上がったものがあるんですよね。
    それらも含めてどうなのかを判断しますので。」

先生の説明はほんの五分ほどだった。正直がっかりだった。
まあ、大腸癌もそれ程の初期ではなかった事は承知している。
だから、リンパ節も含めて除去しましたので、これで綺麗に取れたと思っていた。
その後の検査でも特に異常はなく一年を経過したので、大丈夫だったと思っていた。

既にリンパ節を通じて転移が始まっていたのが、今回明らかになったのかもしれない。



そして、PET検査当日。
検査前には5時間の絶食が必要とか。 糖分は絶対駄目。水のみ補給可能。

検査の時間は長かった。

まずは、ブドウ糖の注射(点滴のようだったらしい。 目隠しをしていたのでわからない。
そして、20分程ベッドで安静に。

その後、待合室で更に20分ほど待機。

そして、検査室へ。

機械はCTのような機械でしたが、CTのように機械がうなりを上げて回るような音はしない。
最初に、二回ほど深呼吸と呼吸を一時止めるように指示があっただけ。
後は、五分か十分してからしずかに機械が前後に動くのが見えた。
でも、あまりに静かで、ただじっと寝ているだけなので、途中何度か寝ていたような気もする。

終わって見る、検査室に入ってから30~40分位は経っていたようだ。
特殊なブドウ糖を体内に入れて、がん細胞がそれを集める性質を利用して判断するような検査らしい。
だから、出来るだけ安静にして外的な要因を排除して検査する事が必要なようだ。


がんの部分がそれ以外の部分と色分けされて映る検査?
そんな簡単なものではないらしいが、大まかに言ってそう思われる検査らしい。

ある意味、画期的ではある。
でも、反面、それによって他の臓器への転移も一目で判るかもしれない。

いろんな臓器への転移が明らかになるんだろうか。 正直、怖い。



でも、事実がそうであれば、癌と戦うしかない。
医者を日本の医療を信じて治療するしかない。
答えは既に出ているのである。 

次回の診察は、再来週。 そこでどんな風に説明されるのか。 心の準備は出来ている。