「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド -9ページ目

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

いつもの朝、俺はブラジル人のカマラーダと一緒に畑に向かった。

 

初夏を迎えるこの季節、朝もやで赤いバラは神秘に見える。

 

香りは「何て言うのか、芳潤で清々しい」

 

その時、カマラーダの一人の若い奴が何か叫んでいる。

 

彼の方に行くと「クイダード、クイダード」

俺は彼に「ケ コイザ」

彼は指を指して、又 「クイダード」と叫んだ。

 

俺は指の先を見た「何かいるのかな」「変な音がする」

シャリシャリシャリ 俺にそう聞こえる。

「クイダード アキ」又 彼が叫んだ。

 

俺の足元の所に、小さな黒い蛇がとぐろ巻いていた。

俺はその蛇が余り大きくないので、捕まえ様と手を伸ばした。

「ノー ノー クイダード!!」彼が大声で叫んだ。

 

その時、その蛇が飛んで俺の方に来た「あー」

「一瞬の事」何とか避ける事が出来た「プッシャビーダ」

この蛇は鈴蛇と言い毒蛇だ「助かった」

 

でも、怖い事より「あの朝もやの赤いバラの方が思い出」

 

「不思議だな、色と香りが今でも消えない」

 

 

ニューヨークで初フライトの準備でアメリカに行く事なった。

 

ワシントンDCからこの仕事との関わりとなり「もう何年になるのかな」

 

ハワイでの初フライト経験からの再びのこの仕事「あの時みたいな事はないだろう」

飛行機会社の社員もハワイと同じ人「今回は大都市のニューヨークですから万全です」

「そうですよね」何の不安も感じないまま、我々はニューヨークに着いた。

 

自分自身はニューヨークへは何度か来ている。

ヨーロッパを旅してロンドンから着いた時、ワシントンDC時代に買出しで何度か来た時など。

「色々と思い出がある街、こんな形で又来るとは分からないもんだな」心でつぶやいた。

 

初フライト前日にケータラーの方を訪問、昼過ぎに着いて打合せをし館内見学をした。

見学をした時に見た光景、これがアメリカと感じた事があった。

時計の針が間も無く14時を指す頃、館内の作業場に人が集まりじっとしている。

「何で作業を始めないのかな」不思議に見えた。

その時、時計が14時丁度になる同時に人が作業を始めた「何てきっちりしているんだ」

お金にならない時間は一秒でも働かない「これがアメリカ、労働者の権利と言うのかな」

食べ物を作る作業だと中々時間通りにはいかない「そう言う場合はどうするんだろ、不思議だ」

 

いよいよ明日の10時フライト準備で夕方に現場に入った「あれ、準備は大丈夫ですか」

担当の料理人に尋ねると「大丈夫です、未だ時間がありますから」「今日は何時までするですか」

「予定は8時位には終わります」「わかりました、又後で来ます」

 

夜7時過ぎ位に行ってみると未だ出来ていない「遅れていますけど10時までには終ります」

「大丈夫ですか。必ず終わらせて下さいね、終わらないとチェックが出来ませんから」

「分かりました、終わらせます」少し不安はあったがお願いして離れた。

 

そして時間になり再び訪れると終わっていない「どうしたんですか」少しつ強い口調で言った。

「すいません、未だ終わらなくて」「何時にチェックが出来るんですか」「分かりません」

「ふざけんな、後10時間後には飛行機は飛ぶんですよ」「すいません」

 

結局ハワイの時と同じで自分で作るはめなった。飛行機会社の社員は又おろおろ「大丈夫ですか」

「やるしかないでしょう、明日以降の手配の準備をちゃんとして下さい」「分かりました」

 

それからは喋る事なく黙々と作業をした。時間が経つのは早く朝になり少し目処がついた。

 

「8時までに飛行機に積まないといけませんが大丈夫ですか」飛行機会社の社員は言って来た。

「大丈夫です、この後の段取りは出来ていますよね」強い口調で俺は言った。

「その件は今日のフライトの後でお話します」「ちゃんとして下さいよ」「分かりました」

 

どうにか初フライトが済み疲れがどっと出てきた「お疲れ様でした」「寝ていないので寝ます」

 

何時間かしてノックがした「起きていますか、打合せをしたいんですが」飛行機会社の社員の声。

ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながらの打合せ「昨日はありがとうございました」

「いいえ、仕事ですから。明日以降は大丈夫ですか」「その件ですが、お願いがあります」

「もう1便も確認していただけませんか、このままでは不安なものですから、お願い致します」

「又ですか。でも今度はケータラーにがんがん文句言ってやらせますよ、いいですか」

「もちろんです、何でも言ってやって下さい。見ていただけるんですか」「分かりました、やります」

飛行機会社の社員は本当に嬉しそうにお礼を言った。

 

その後は徹底した指導し段取をつけた。そしてニューヨーク市内を見る事なく帰国。

 

全米の中心的な街ニューヨーク、その飛行機会社の翼が大変な裏事情の中飛んだ。

 

俺のアメリカ出来事の中の一つではあるが「凄くでもない、まあまあな話かな」

ニューヨークに足跡一つ。

日本戻って間も無く「ワシントンDCでお世話になった会社から、仕事の誘いが」

 

「サラリーマン職人」家族は生活の安定を考えて賛成。

 

俺のような風来坊生活に、不安を感じていたのだろう。

「迷った」「束縛と引換えの安定」「自分の今までに否定していないのか」

家族への安定は俺の我慢で相殺が出来る「自分を取り巻く人達への配慮」

当分の間は俺自身の心との葛藤となるが、家族を守る為「自分を殺してやってみよう」

但し「子供が社会に出た時に自分に戻る」そう自分に言い聞かせその会社に入る事にした。

 

全く人生間感の違う人達との仕事の関係は「我慢の連続」

「職人は口は悪いが腹はいい」この会社の人間達は口では上手い事を言うが、何を考えているのか解らない。

「怖い人間達だ」俺のような人間とは吸う空気が違う。

「信用出来ない」「我慢、我慢、早く子供が大きくならないかな、自分に戻りたい」

「あの世界を旅した事を無駄にしたくない」「俺はあきらめない」

「人生って、自分が楽しくなければ人生じゃない」そして俺はその日が来るまで自分を捨てた。

 

俺は元の姿に戻る時が来た。

 

「なんの未練もない」生活の為だけの時間潰しだった。

本当にろくでもない人間達がいた「人の足を引っ張る事が趣味みたいな奴ら」

少しでも仕事が上手く行きそうになると、便乗したふりをして潰しにかかる。

「つまらない顔をした人間達ども、さよならだ」

 

「自由な時間を取り戻す」何年かはサラリーマン時代の垢落としをする。

 

そして「自分がやりたかった事もう一度考える」「それが、海外なのか日本なのか」

 

「バカブンドな時間の始まりだ」チャオ 俺、アディオ 我慢した時間。