取り戻した彼への想い
携帯を持つようになって、彼に携帯のアドレスを教えると時々メールが来た。
私は、自分から彼にメールを送ったことなど無かった。
彼が会いたいと言って来ても返信すらしなかった。
私が冷たくすればするほど彼は必死になってくる。
彼を弄んでいるかのような日々。
恋愛という物は、どちらかが逃げれば追いかけてくるのかもしれない。
昔の私は彼を必死に追いかけていた。追いかければ追いかけるほど、
遠のいていく彼。私はもうそんなバカな女にはならない、そう誓っていた。
その年、仕事で彼の仕事場の近くに行くことになった。
彼は途中まで一緒に行こうと誘ってきたが、時間が合わず
帰りに会うことになった。
仕事の途中で抜け出してきた彼。お互いに時間がないので
近くの公園のベンチで座って話しをした。
ちょうど夫婦喧嘩が絶えない時期だったので、少し本音を漏らしてしまった。
「夫が嫌だから別れたいな」
「嫌だったら別れたら、オレが毎日おまえのところに行ってやるよ」
「別れられるくらいなら、とっくに別れている、私は自立できないから
仕方なく一緒にいるのよ。そんな軽く言わないで。
あなたが来るなら、私を養ってくれるの?」
彼はただ黙っていた。
私も言ってしまったことを後悔した。
冬だったので、川辺から吹き上げる風が妙に冷たかったのを覚えている。
しばらくして、私は帰った。そんな別れ方だったので、
今度は断らず会うことにした。
いつものホテルで、いつものように抱かれた。
そして私は、長く続いた彼との関係をこのあたりで止めようと思った。
ただ会って抱かれるだけの関係などもう要らない。
もう彼がいなくても私はやっていける。そう思った。
「もう会わない」
彼に言った。
すると、彼は私に、会うのはやめないと言った。その間にいろいろと
やり取りはあったのだけど、あまりにドロドロしてここでは書く事が
できない。携帯で写真を撮られそうになった。
彼は冗談だよと笑って、待ち受け画面の犬の写真を見せてくれた。
「家の犬、かわいいだろ?」と言った。
「犬って、家借家じゃなかったの?」聞くと
「前、言わなかったっけ、俺家買ったんだ。もうだいぶ経ってるけど」
「そうなんだ。」
それは私の知らない彼がそこにいた。
私に妻とはセックスレスで、さめた夫婦だと言いながら、
しっかり円満な家庭を築いている彼。
私はなにか寂しい気持ちになった。やはり私は今まで通りのセフレで
しかないのだ。私はいったい何を望んでいたのだろう。
嫉妬に似た悔しい思いでいっぱいになった。
そんな思いを彼に悟られたくはなかった。
それからの私は今まで以上に冷たくした。
「旦那とラブラブなので、しばらく会わない」
そんなウソのメールを送った。
会う約束をしてはその朝に断りのメールを入れた。
ただ彼を困らせてやりたかった。
彼は幸せに暮らしているのに私は少しも幸せじゃない。悔しい。
その年は3月に会ったまま、8月まで会うことはなかった。
お盆になると夫は実家に行くので、毎年恒例に会っていた。
今年も彼は覚えていて、
「お盆に会える?」
とメールが来た。
私は、
「今年は仕事で忙しいのでどうなるかわからない」
そう返事した。
すると彼は
「一緒に飲みにいこう」
とメールがきた。
今までは、ただホテルで会ってホテルで別れるだけだったのに、
どうした風の吹き回しなのか?
このまえ別れようと言ったから気を使っているんだろうか。
でもそう言ってくれるんだからと、都合を付けて会いに行った。
珍しく街で会うのだからおしゃれをして、久しぶりのデートのようで
なんだか嬉しかった。
駅で待ち合わせをした。
彼は、私を見て「痩せたね」と言った。その頃の私は体調が悪く
痩せていく一方だった。その痩せるのが、私の病気の前兆だったのに
その時私は全く気づかないでいた。
居酒屋で仕事の話などしてからホテルに入った。
部屋は5階だったのでエレベーターに乗った。エレベーターの中で彼は
私にキスをしてきた。
私はそのキスで単純にも、昔の自分に引き戻されてしまった。
若い頃、隠れてキスをした遠い思い出。せつない思いでいっぱいになった。
彼は、いつもより激しく私を求めてきた。
もともと彼のセックスは淡白で、とても満足できるものではなかったのだが
この日はいつになく激しいセックスで、私は心も体も満足した。
私はこの日を境に、彼への想いを取り戻していく。
流れゆく歳月
彼と再会して、私の精神状態は少し戻ったものの、
まだまだ元の自分には戻れないでいた。
そんな時、下の子の幼稚園の懇談で保母さんが心配そうに言った。
「お家で何かあるのですか?」
そう言って私に見せたものは、ただ真っ黒に塗られただけの絵だった。
「こんな絵を描くのは、心に不安があるのです。一度カウンセリングを
受けて下さい。」
そう言って次の保護者会でのカウンセリングを勧められた。
やはりと言うべきなんだろうか・・。
私の生活が荒れていたこと、家庭内の不和、それが原因で娘に
不安を与えているに違いない。
カウンセリングを受けると、思った通り親の愛情不足を指摘された。
私は、気づいた。私は母なのだ。こんなことをしていてはいけない。
出来るだけの愛情を注いでいこうと思った。
ある日、娘が何かをしていて面白かったので、笑ってしまった。
すると娘が
「ママの笑った顔、久しぶりに見た!」
嬉しそうに言った。私は、はっとした、
今まで笑うことすら忘れていたのだ。
私は心を入れ替えた。そして娘たちために生きようと思った。
でもそれは過剰な愛情として、後から娘たちの負担になるとは
思ってもみなかったことなのだが。
それからの私は姉妹に色々な習い事をさせた。
勉強には向かなかったが、あるスポーツで才能を見出したのだ。
私は必死になった。一流の選手にする夢が膨らんだ。
そしてそれに応えるように、姉妹は数々の賞をとって行く。
こうなれば、もうそれは止まらない。
時間もお金も惜しまくなり、月謝を稼ぐために働きにも出た。
そして、せっかく再会した彼にもほとんど会わなくなった。
もう復讐のことも忘れてしまった。あれだけ好きだったはずなのに
再会して彼に会っても嬉しくなかった。
昔の面影もなく、よき父になっている彼をみては、むしろうっとうしく
思っていた程だった。だから、半年に一度くらいしか会わなかった。
そんなつきあいが何年も続いた。
この歳月は長い間のように思うが、私にとってのこの歳月は短かった。
子育てに仕事、子供の送り迎えで時間に余裕のない日々が続いていく。
次第に薄れていく彼への想い。
この間、彼がどんな暮らしをしているのかもあまり聞いたこともなく
、聞かなかった。
ただ、彼のと奥さんがセックスレスであると言うのは聞いて知っていた。
彼と会って、ただ求められるままに身を任せる。
私の体はもう夫とのセックスに馴染みすぎて、彼とのそれは満足できなかった。
ただ空しさだけが残る。
私は何故彼と会っているのだろう、そんなことを考えていた。
夫とは相変わらずなのだが、酒を飲んで夜遅く帰っては暴れた。
暴言を吐いては物を叩き壊す。その後、いつものように反省し
私をやさしく抱くのだ。
「おまえの体はオレがすべて知っている、何度もいかせてあげるから・・」
そんな夫婦間を続けていくのだが、私はその頃からイライラして
人が変わったようになり、夫とよくケンカをするようになった。
それが、私の病気の始まりだとは気づかないまま時は過ぎていった。
元彼との再会
夫の浮気疑惑で私は変わった。吸えなかった煙草を吸い、
お酒も飲むようになった。夜は安定剤を飲まないと眠れない。
けれど、子育ては放棄できなかった。年子という事もありいっそう手がかかる姉妹。
姉の方は甲高くそして落ち着きが無い。妹は私の後追いばかりだった。
結構たいへんな子育だったので、疲れてはいるもの眠れない夜が多かった。
夜は私と子供たちで寝て、夫はずっと別室。
それは10何年と続いていくのだが、私はそれでも良かった。
もう夫とセックスをする気などなかった。
夫は私の知らない誰かを抱いているのだろうか、そう思うと嫌気がさした。
子育てで忙しく暮らしているうちに、下の子が幼稚園に行き始めた。
行っている間、私は家でひとりでどうしょうもない不安に襲われた。
昼間から酒を飲み、安定剤に頼る日々。
そのうち家にいるが嫌になり子供が幼稚園に行っている間は
パチンコに行く毎日。買い物に行っては高価なものを衝動買いし浪費する。
将来の設計など全く考えない自暴自棄になった私がそこにいった。
その日も子供を送り出してからビールを飲んでいた。
その時、ふと私は彼のことを思い出した。「今頃、どうしているだろうか」
私の忘れかけていた電話番号が蘇った。そして私は恐る恐る電話を掛けた。
彼の家に電話をかけると、彼の姉がいた。彼はもう結婚して家にはいないと言う。
私はつい、衝動から彼の家の番号を聞いた。
そして彼の姉はなんの疑いもなく教えてくれたのだった。
私は結婚したと聞き、もう其れは仕方のないことだと思った。
あれから随分たっているし結婚していてもおかしくない。
でも、私は彼の声を聞きたい一心で電話をかけてしまった。
電話には彼の奥さんが出たが、思い切って彼を呼んでもらった。
彼は私の声にすぐに気が付いて、小声で、
「迷惑だから電話をするな」と言って電話を切った。
電話を切ってから、私は自己嫌悪に陥った。何故電話したんだろう。
彼はもう結婚しているし、昔の女なんかから電話かかってきたら迷惑だ。
やっぱり私どうかしてる。
私はその後、飲み残しのビールを飲み、台所の床に倒れこむように
座り込んだ。何もせず、ただ呆然と過ごした。
ただ太陽が高くなっていくのを感じながら・・・
その翌日のことだった。あの彼から電話が掛かってきたのだ。
彼は私の実家の番号を知っているので、そこで聞いたらしい。
あとで、実家の母からそれを聞いたのだが。
そして、彼は言った。今私の家の近くにいるのでこれから来ると言うのだ。
私は戸惑ったが、不覚にも家に上げてしまった。
彼は家に入ってくるなり、私の胸に手をやり触ってきた。
私は
「何するの」
と言ったけど、彼は
「会いたかった」
と私を抱きしめ、唇を重ねる。
私は動揺したが、自分の家でそんなことをされてはたまらないと思い
次に会う約束をして帰ってもらった。
彼が帰った後、私は再会の嬉しさよりも、これで夫への復讐ができると思った。
目には目を歯には歯をだ。浮気の復讐は浮気で返すしかない。
そして今まで私を苦しめてきた彼にもこれで仕返しが出来る
そう思った。私を苦しめる男たちは、この手で打ちのめしてやりたい。
私はもう誰も愛さないのだから。