子どもにゴマを食べさせるのはいつから?
こんにちは。橋本です。
ごまアレルギーというと、一般的にはあまりなじみのない食物アレルギーかもしれません。
世間では、「ごま=健康食品」というイメージが強く、意外と幅広い加工食品に使われています。
ですが、子どもによっては、この「ごま」によってアレルギーやアトピーの症状をおこすこともあるんですね。
では、アレルギーに気をつけたいなら、いつ頃ぐらいからゴマを食べさせたらいいんでしょうか?
離乳食では、どの段階で食べさせたらいいんでしょうか?
ごまアレルギーの症状
ごまアレルギーは、ごまを食べることによって、体にアレルギー症状があらわれる病気です。
おもには、湿疹・蕁麻疹(じんましん)などの皮膚症状が多いといわれています。
ほかにも、下痢・嘔吐・腹痛などの消火器症状、鼻や目などの粘膜症状、せき・ゼーゼー・息苦しくなるなどの呼吸器症状など……。
症状のあらわれ方は、人それぞれです。
ごまアレルギーに注意したい理由
ごまアレルギーの患者数は、食物アレルギーの患者全体からみると、1.9%以下と比較的少ないようにみえます。
ただ、一部のごまアレルギーの患者では、ごく微量のゴマでもアナフィラキシーといわれるような症状をおこすこともあります。
アナフィラキシーは、全身が赤くはれあがったり、呼吸困難、血圧低下、場合によっては意識を失うなど、対応が遅れると命にもかかわるような、重症のショック症状です。
ほんの少量でも、アナフィラキシーをおこす例が報告されている。
そういう点でも、ごまアレルギーは少し注意が必要なんですね。
ごまの利用が広がる一方……
ごまは、健康を気づかう風潮から、様々な食品に利用される機会が増えています。
「ごまの成分、セサミンは体にいい」という宣伝もよく目にしますよね。
しかし、そうしたゴマの食品への利用が広まっているにもかかわらず、アレルギー表示が進んでいません。
「特定のアレルギー体質を持つ人が、不用意なアレルギーをおこさないように」
そのような考えのもと、アレルギーが多く報告されている原材料を使用している食品は、「この食品には、アレルギーをおこす可能性のあるものが含まれていますよー」と表示することになっています。
それがアレルギー表示制度です。
必ず表示される7品目(表示義務)、表示がすすめられている18品目(表示を推奨)のあわせて25品目が、これにあたります。
こうしたアレルギー表示制度の25品目は、「特定原材料」とよばれたりします。
加工食品のラベルを見ると、たとえば……
( 原材料の一部に卵、豚肉、大豆、牛肉、さけ、さば、ゼラチンを含む )
なんていうのが、実際の表示例ですね。
ところが、現在のところ、日本では、表示がすすめられる「特定原材料」に、ごまは指定されていません。
それに対し、ヨーロッパやアメリカでは、ごまアレルギーが増加する傾向にあり 1) 、イギリスやカナダ、オーストラリアではアレルギー表示リストに含まれています。
ペーストやすりごまは、比較的アレルギーをおこしやすい
同じ「ごまアレルギー」でも、人によって症状の違いは大きいものの、ごまアレルギーには次のような特徴があります。
まず、ごまペーストやすりごまは、粒ごまよりも反応をおこしやすいことが知られています。
そのため、患者によっては、すりごまはダメなのに、粒ごまは少しなら食べても大丈夫というケースもあるようです。
なぜ、ごまの加工状態で反応が変わるかは、はっきり分かってはいないのですが、おそらくゴマを細かくするほど吸収量が大きくなるため、アレルギー反応も大きくなると考えられています。
粒ごまのような堅い殻につつまれた状態では消化しにくいため、症状が出にくいのではないか、というわけです。
ごまのアレルゲンは熱に強い
ごまのおもなアレルゲンは「ビシリン」という、たんぱくです。
このビシリンは、熱に強いことが知られていて、ごまに熱を加えた「いりゴマ」のようなものでも、「アレルギーのおこしやすさ」は変わりません。
もちろん、普通のごまでも、煮たり焼いたりしても変わることがないわけですね。
血液検査で「ごまアレルギー」と判定されても……
ごまアレルギーかどうかをチェックする1つの方法として、血液検査(RAST)があります。
病院の血液検査で、アレルゲンごと……もちろんゴマに関してもIgE抗体価(アイ・ジー・イーこうたいか)を測ることができます。
ラストクラスとも、非特異的IgEともいわれるものです。
このラストクラスが高ければ、ごまアレルギーである可能性も高くなりますが、「絶対」ではありません。
血液検査で「ごまアレルギーだ!」という結果が出たのに、実際に食べても「アレルギーが出ませんよ」というケースも多いのです。
やはり確実なチェックは血液検査ではなく、「食べてアレルギーが出るか」と「食べなければアレルギーが出ないか」のダブルチェックです。
そしてもうひとつ注意なのが、血液検査で、ほかのナッツ類や大豆にアレルギーが出ている場合です。
すべてのナッツ類や大豆に、ラストクラスが同じような値を示す場合は、実際にゴマを食べても、アレルギー症状が出る可能性は低いといわれています。
これは、血液検査では、ナッツ類、大豆、ゴマなどに共通する「糖鎖」(とうさ:CCDともよばれる)という、たんぱくの抗体を検出してしまうためです 2) 。
急いでゴマを食べさせる必要はない
さて、「子どもにいつぐらいから食べさせればいいか?」という話ですが……。
卵や牛乳、小麦などと違い、ゴマを食べないようにしたからといって、栄養不足になることはありません。
そのため、アレルギーに注意が必要な場合は、あえて急いでゴマを食べさせる必要はないんですね。
ですから、「ほかに食物アレルギーがある」とか「アトピーがひどい」とかいう場合には、無理に離乳食でゴマを食べさせなくてもいいというわけです。
食物アレルギーやアトピーがある程度落ち着いてきたり、日常生活でコントロールできるようになってきてから、ようやくゴマをトライしてみる。
そんな感じのほうが、余裕もあり対応がしやすいのかな、と思います。
ごまにトライするのは離乳食の後期であっても大きな問題はないわけです。
もちろん心配な場合は、血液検査の結果なども参考にしながら、お医者さんにトライしてもいいか確認してもいいですね。
「いつまでにゴマを食べさせろ」という期限はありません。
しかし、お菓子やパンにもゴマが使われていることが多いので、外で食べる機会の多くなる前に、目の届くうちにゴマにトライしておくと安心です。
離乳食は、「粒ごま」から開始する
ペーストやすりごまは、比較的アレルギーをおこしやすいので、初トライする時は、少量の「粒ごま」から開始します。
また、黒ごまは白ごまより、たんぱくが少ないので、「粒の黒ごま」から利用するというのが、より無難です。
ごま油については、どうなのか?
スーパーで一般的に売られているごま油は、精製の技術が進んでいて、たんぱくの混入が少ないといわれています。
そのため基本的に、ごま油には気をつける必要はありません。
ただし、ごく微量でもアナフィラキシーをおこす場合は、ごま油にも注意が必要です。
アトピーの場合は?
日本でのアトピーとごまアレルギーの関係を調べると、次のような報告があります。
アトピーの子ども126人を調査したところ、生後6ヶ月~1歳未満児で21%、1歳~1歳6ヶ月未満児で44%、2歳児および3歳以上では約50%であり、ごまアレルギーの陽性率は、卵についで高かった 3) 。
アトピーの子どもに、ごまを食べさせるのは、意外と注意が必要だ、というわけです。
とはいうものの、一般的には現在のところ、ごまが特別にアトピーの悪化に関係するとはいわれていません。
そのため、血液検査で「ごまアレルギー」と判定されたとしても、「ごまでアトピーが悪化する」と決めつけることはできません。
「ごまでアトピーが悪化するかどうか」も、「食べて悪化する」「食べなければ悪化しない」のダブルチェックで判定するのが確実です。
ダブルチェックなしで、「ごまを食べるとアトピーが悪化する」と思い込んでしまうと、不必要な負担になってしまいます。
子どもにとっても、家族にとっても、そうした負担は良くないですよね。
参考文献:
1) Venu Gangur, Caleb Kelly, Lalitha Navuluri: Sesame allergy: a growing food allergy of global proportions? Annals of Allergy, Asthma & Immunology 95(1): 4-11, 2005.
2) Komei Ito, Masashi Morishita, et al: Cross-reactive Carbohydrate Determinant Contributes to the False Positive IgE Antibody to Peanut. Allergology International 54, 387-392, 2005.
3) 三宅 健, 三宅 千代美: ゴマアレルギーの臨床的研究-アトピー性皮膚炎児におけるゴマアレルギーの重要性について-. 小児科臨床 54(5): 909-912, 2001.