塩素系?酸素系?どっちの洗濯槽クリーナーがいいの?…という「分解性」のお話し
こんにちは。橋本です。
いわゆる「塩素系」といわれる漂白剤、カビ取り剤、洗濯槽クリーナー。
こういうのって、とても効率的に殺菌、漂白、さらにはカビも落としてくれるので、日頃のお掃除には欠かせないアイテムですよね。
でも、ほかのクリーナーにはないその強力な作用がある分、使う時はきちんと保護をしないと、肌に刺激を与えてしまうのも、また事実。
しかも、「混ぜるな危険」という製品ラベルのメッセージが、「できれば使わないほうがいいかも」というイメージをダメ押ししている感があります。
そのため、
そう思い、塩素系より効果がおだやかな、酸素系の洗濯槽クリーナーにに切り替えたよー、という人もいるかもしれません。
雑誌の特集でもてはやされるのは、「ナチュラルお掃除術」というのが、今も、これからも続く世間の空気ですからね。
しかし…事実をよく知るとどうでしょう?
「 塩素系洗濯槽クリーナー ⇒ 強力⇒ 残り続ける 」というのはあくまでもイメージ。
じつは塩素系の洗濯槽クリーナーや漂白剤には、「分解しやすい」という性質があります。
もちろん、直接触れると肌に悪いわけで…
「塩素系」といわれる漂白剤も、洗濯槽クリーナーも、主成分は次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさん・なとりうむ)です。
主成分といっても、製品の容量ほとんどが、次亜塩素酸ナトリウムで満たされているとうわけではないんですけどね。
ほとんどは、水。
つまり、こういった漂白剤は、「ごく薄く次亜塩素酸ナトリウムを水に溶かしたもの」をシンプルにパッケージしたに過ぎません。
ただ、いくら「薄いですよ」といっても、この次亜塩素酸ナトリウムが、直接触れると、肌に悪い影響を与えるのは間違いありません。
次亜塩素酸ナトリウムは、強いアルカリ性と酸化作用があるため、濃度が高いと肌のたんぱく質を溶かし、強い刺激を与えてしまいます。
だからこそ、塩素系のものを使う時は、肌につかないよう、目に入らないよう、吸い込まないように、きちんと保護することが大切だ。
なんて説明書きでは、口うるさく言われているわけですね。
実際の塩素系製品の濃度
では、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、実際の製品ではどのくらいなんでしょうか?
現在のところ、次亜塩素酸ナトリウムの濃度に表示義務はないので、以下の濃度はあくまでも目安です。
実際に含まれる塩素の濃度…「有効塩素濃度」は、次亜塩素酸ナトリウムの濃度だけでは単純に比較できない部分があります。
それを差し引いても、ここから分かるのは、できる限り安全を優先する配慮です。
法律で定められているわけではないものの、たとえば、カビ取り用洗浄剤については、「次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、3%以下にしましょう」というのを、業界の自主基準で設定しています。
しかも、実際の製品はというと、その6分の1の濃度という徹底ぶりで、「最大の効果を」というよりも安全性を優先しているのが実態です。
濃度に多少の違いはあれど、カビ取り剤も塩素系漂白剤も、主成分が次亜塩素酸ナトリウムという点では変わりありません。
カビ取り剤(カビキラーなど)と、キッチン用漂白剤(キッチンハイターなど)には、少量の界面活性剤(洗浄成分)が入っていて、殺菌漂白効果に加えて、カビに付着しやすくしたり、汚れを落とす効果などもあります。
ハイターなど、白物用の洗濯用漂白剤(ハイターなど)には、界面活性剤は入っていません。
このような濃度や、界面活性剤、防サビ剤の有無に違いがあるため、同じ塩素系だからといって、ほかの用途に使うのは、原則的におすすめできません。
しかし、塩素系漂白剤もカビ取り剤も洗濯槽クリーナーも、効果を発揮する部分は同じ。
適量の「次亜塩素酸ナトリウム」を水に溶かし、1%程度の「水酸化ナトリウム」を混ぜたもの。
それが塩素系の製品の大事な部分です。
では、なぜ殺菌・漂白する「次亜塩素酸ナトリウム」だけでも良さそうなのに、わざわざそこに「水酸化ナトリウム」を入れるのでしょうか?
塩素系に「水酸化ナトリウム」を加えなければいけない理由
漂白剤に、少しばかりの水酸化ナトリウムを加えてあるのは、保管中の製品を安定化させるためです。
次亜塩素酸ナトリウムは、もともと不安定なもので「反応をおこしやすい性質」があり、殺菌漂白効果が高いのも、この反応のしやすさがあるからなんですね。
カビ取り剤の「キモ」である、強力にカビを落とす力も、この「反応をおこしやすい」という特徴を利用しているのです。
でも逆に言うと、反応しやすい性質があるために、次亜塩素酸ナトリウムは、工夫をしてあげないと不安定になりやすく、保管中にもどんどん自然分解されていくという困ったことにもなってしまいます。
元々は、何をしなくても、早々と分解していくものなんですね。
とくに、液体が酸性の状態では極めて急激に分解反応を起こし、毒性の強い塩素ガスを発生させてしまいます。
それが、製品ラベルに表示されている「混ぜるな危険!」のゆえんともなっているわけです。
この不安定な状況を避けるために、「水酸化ナトリウムを加える」というのも、次亜塩素酸ナトリウムをうまく保管する方法の1つであるわけです。
水酸化ナトリウムは、石鹸を作る時には苛性ソーダ(かせい・そーだ)とも呼ばれ、強いアルカリ性の性質を持っています。
酸性とアルカリ性は、正反対の性質です。
酸性になると不安定。
そこで、水酸化ナトリウムを加え、アルカリ性になるよう、うまくバランス調整することで、漂白剤を安定化させてあるわけですね。
安定化させるといっても、アルカリが強すぎると、肌のたんぱく質を溶かし、刺激を与えてしまい危険です。
そのため、実際に加える水酸化ナトリウムは、業界の自主基準で1%までと決められています。
塩素系漂白剤は、分解されやすい
こうして、「アルカリ性の水に溶かす」という工夫をすることで、次亜塩素酸ナトリウムは安定し、長期の保存が可能になっています。
しかし、安定するといっても、次亜塩素酸ナトリウムの反応しやすい性質がなくなるわけではありません。
ただ単に保管しているだけでも、時間と共に自然分解し、酸素を少しずつ出しながら、ゆっくりゆっくり、塩化ナトリウム水溶液に変化していくことが知られています 1) 。
塩素の濃度は時間と共にゆるやかに減っていく… |
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「塩化ナトリウム水溶液」というと何か危険な薬品みたいにも聞こえますが、カンタンにいえば「塩水」となんら変わりありません。
つまり、漂白剤は長く放っておけば、特別なことをしなくても、酸素をチビチビと放ちながら、最後には塩水になっていくもの。
1年2年と長い時間をかけて、ゆっくりですが、保管中も漂白剤、カビ取り剤としての能力は低下していくわけですね。
また、高温にさらされたり、直射日光を受けることで次亜塩素酸ナトリウムの反応性は高まり、自然分解も進みやすくなることも分かっています 1) 。
温度が高いと、 |
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「漂白剤やカビ取り剤の保管は、冷暗所で」というのは、自然分解がなるべく進まないように、という気づかいなんですね。
「化学物質は、環境に残りやすい」というイメージ
「化学物質は、なかなか分解しない」
なんとなく、そういうイメージを持っている人もいるんじゃないかなと思います。
たしかに、人工的な化学物質には、とても分解されにくいものもあります。
たとえば、昔、アタマジラミの駆除に大量に使われたDDT(ディーディーティー)という有機塩素系の殺虫剤。
日本では第2次大戦後、DDTを使うことで蔓延したアタマジラミが激減したのですが、環境に残りやすいことが分かり、今では慎重に管理されています。
しかし、実際には、「人工的な化学物質だから、残りやすい、環境を汚していく」とは限りません。
次亜塩素酸ナトリウムの場合は、ほかの物質の化学結合を切る(酸化させる)作用をもっています。
その作用によって、色素が分解され、漂白されたり、微生物が殺菌されたりするのです。
タイルのカビ、洗濯槽のカビを落とすのに、つけ置きがより効果的なのは、次亜塩素酸ナトリウムが反応性が高く、すぐに分解されやすいことを考えてのこと。
反応をなるべく長く続かせるために、つけ置きしておきたいわけです。
このように何らかの反応によって、ほかのものに作用する化合物は、反応を引き起こしながら、自らは分解していきやすいともいえます。
つまり、反応が強いために、すみやかに分解するのです。
次亜塩素酸ナトリウムの場合、最終的には、酸素と塩水に。
その点では、排出された後での環境に対する悪影響は、洗剤や殺虫剤などに比べると、ほとんど無視できるものであると言ってもおかしくはありません。
ごく微量に出る「環境で分解されにくい」もの
ただ、次亜塩素ナトリウムは、漂白や殺菌という反応をこなす中で、ごく微量ではあるのですが、多種多様な有機塩素化合物物…
たとえば、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムといったもの。
こういった、よく「トリハロメタン」とよばれるものを発生させ、その一部は環境に長く残りやすく、毒性があることが指摘されているものもあります。
だからといって、漂白剤は、そう日常茶飯事に使うものではなく、一般家庭で発生する量で、「環境汚染につながる」というのは、少し大げさな気もします。
「カビをきちんと落とせない」のも、デメリット
結論を言うと、次亜塩素ナトリウムを使った塩素系の洗濯槽クリーナーは、反応が早く、分解されやすい。
そして、洗濯槽の掃除が終わった時には、もちろん大量の水で洗い流される。
そういうわけで、「塩素系の洗濯槽クリーナーを使うと、その後洗った服に塩素が残留するため、肌を痛める原因になる」ということは、まず考えられません。
次亜塩素ナトリウム自体は、水に溶けやすいものなので、何度もすすいだり、必要以上に大量の水で流したり、長時間水洗いする必要はありません。
極端に言ってしまえば、「肌を思って、より反応性の弱い酸素系の洗濯槽クリーナーを使いたい」というのは意味がないわけです。
肌を痛めないようにというならば、カビを落とす作用がおだやかな酸素系を使うほうにも、リスクがあります。
なぜなら、洗濯槽内のカビをきちんと落とせないことで、アトピーやアレルギーが悪化してしまうことも考えられるからです。
これでは何のために掃除をし、何のためにわざわざ効果の弱い漂白剤を使っているのか分からない状態になってしまいますよね。
もともこうもない、というか。
カビを落とす力がより強力なのは、反応しやすい性質を持った塩素系であり、それと比べると酸素系は、どうしても効果がおだやかになってしまいます。
ですから、「取り扱いに注意するものだ」ときちんと意識した上でなら、カビ取り効果の高い塩素系の洗濯槽クリーナーをうまく使うことも、大きな意味でのスキンケアにつながるわけですね。
塩素系か?酸素系か?…ライフスタイルで使い分ける
アトピーやアレルギーの引き金ともなるカビをしっかり落とすには、取り扱いに注意さえすれば、塩素系を使うほうが便利。
そうは言っても、「カビ落としに酸素系の洗濯槽クリーナーを使うなんてバカだよねー」と言いたいわけではありません。
「塩素系、酸素系、どっちの洗濯槽クリーナーを選べばいいのか?」は、その人、その人のライフスタイルによって決めるもの。
どちらがいい、悪い、ではなく、使い方次第なんですね。
「赤ちゃんのことを考えて」とか、「取り扱いに注意が必要なものは、どうしても使いたくない」なんていう場合は、酸素系でもありなのかな、と思います。
また、たとえば、
取り扱いに危険性の少ない酸素系を使いたい。そのためなら、1か月ごとなど、こまめに洗濯槽をお掃除するのも苦じゃないよ。
なんていう場合なら、酸素系の洗濯槽クリーナーでも、通常は十分だと思います。
つまり、まとめると…
おおまかにいうと、そういった使い分けができるわけですね。
そして、塩素系洗濯槽クリーナーの主成分である次亜塩素酸ナトリウムは、水に溶けやすく、分解されやすい。
そのため、普通に使用すれば、洗濯槽内に薬品が残ったり、「目に見えない残留塩素が肌を痛める」なんてことはおこらないはずです。
今の時代的には、「人工的なものより、ナチュラルなもので」というものが好まれます。
しかし、その「人工的なもの=害を与える」「ナチュラルなもの=恵みを与える」には、何の根拠もなく、雰囲気や思い込みでそう思ってしまっているケースも、実際にはよくあります。
たとえば、カビの掃除にしても、なんとなくのイメージや体験談を聞いただけで、塩素系か酸素系かを選ぶと、せっかくの努力が無意味になってしまうこともある。
だからこそ、人工的な化学物質だからといって、毛嫌いするのではなく、特性を少し知っておくだけでも、安全を確保しつつ、その便利さのお世話になることができるわけなんですね。
参考文献:
1) 高杉製薬工業株式会社: 次亜塩素酸ソーダ 取扱説明書. 2009年6月22日(改定).