『よっしゃ！いっちょ、もんでやるか！』
先輩はそう言うと、
右腕をぐるぐるとまわしながら
控え室を後にし、コロシアムへと向かいました。
しかし、まさかそれが・・・。
（葬儀場）
（先輩の遺影の前に立ち）先輩の最期の姿になるとは思いませんでした。
あの日、コロシアムに現れた名もなき新人戦士。
寡黙でフードを目深に被り、顔はおろか、実力も未知数・・・。
そんな新人戦士と誰が戦うか、皆で相談している中、
先輩は『よっしゃ！いっちょ、もんでやるか！』と出ていきましたね。
コロシアムの戦士たちの中で先輩はいちばんの古株。
同期の戦士たちが次々と優良企業に就職していく中、
先輩だけは就職活動を一切せず、現役戦士であり続けましたね。
正直、他の戦士たちと二回り以上歳の離れた先輩には
近寄り難いオーラが出ていたように感じます。
控え室でもあまり言葉を発しなかった先輩が
『よっしゃ！いっちょ、もんでやるか！』と立ち上がったとき、
私たちは突然の先輩の言葉にビクッとしました。
そして、全員が思いました。
『あ、かませ犬フラグだ』と。
『名もなき戦士の実力を見誤って返り討ちに合うやつだ』と。
先輩はそのフラグ通り、
ブザマな負けっぷりを我々に見せてくれました。
試合終了後、白目をむいて倒れている先輩の顔ごしに、
グローブをはめなおしながら、先輩に冷たい目線を浴びせる新人戦士を
下からのあおりのアングルで映し出した映像。
あんな少年マンガみたいな画、実際にあるんだなぁと思いました。
実は、先輩。
僕は後悔していることがあります。
名もなき新人戦士がコロシアムに現れ、
控え室で誰が彼と戦うか相談していた時、
普段、控え室で全く僕らと会話をしなかった先輩が
『よっしゃ！いっちょ、もんでやるか！』
と立ち上がりましたよね。
・・・あれはもしかしたら、
先輩なりのコミュニケーションだったのではないかと。
先輩が見せた一世一代の大ボケだったのではないかと。
我々後輩の誰かから
『いや、先輩、そんなキャラじゃないやーん！』
待ちだったのではないかと。
あのとき、あまりにとっさの先輩の行為に、
我々の頭の中から『ツッコミ』の四文字が消えてしまったため、
誰も先輩に言葉をかけられずにいました。
今、考えてみると、
その言葉の後、腕をぐるぐる回す時間がやけに長かったり、
控え室に出るまでの歩く速度が威勢のわりにかなり遅かったり、
時間稼ぎしている感じはありました。
もし、あのとき控え室の誰かが先輩にツッコんでいたら、
かませ犬フラグは立たなかったんじゃないかと思うと、
悔やんでも悔やみきれません。
控え室にあるモニターを見ながら
名もなき新人戦士にボコボコにされる先輩。
モニターから聞こえる
『ちょっ！待っ！あの！違っ！待っ！ちょっ！いや！ごめっ！』
という先輩の声。
その様子を見ながら、
『次はツッコもう』と心に誓ったのですが、
残念ながら次はありませんでした・・・。
新人戦士にボコられながら先輩がモニター越しに見せた、
すがるような目、
あの試合を見た控え室の戦士たち全員の脳裏に今でも焼き付いています。
あの日以来、
控え室には『NO MORE かませ犬』の横断幕が常設されました。
あのとき、先輩にツッコめなかった戦士たちの
悔恨の念をしたためたものです。
先輩の渾身のボケを拾えなかった僕たちはツッコミ失格です。
この件もあり、控え室のみんなはこれまで以上に仲良くなりました。
先輩が最期の試合で発した
『ちょっ！待っ！あの！違っ！待っ！ちょっ！いや！ごめっ！』
の声。
あの声は同僚がスマホに録音して、みんなに共有してくれました。
今でも辛い時にこの声を聞くと、込み上げてくるものがあります。
先輩、今までありがとうございました！
もし最後に一言、先輩と会話ができるなら聞きたかった！
あれはボケだったのか、マジだったのか！
・・・一応、『ボケだった』という前提で今回の弔辞を書きました。
マジだったらごめんなさい。合掌。
久々の一人コント。
難しい動きもないので、実演難易度は低いかと思います。
弔辞を見ながら演じられるので、堂々とカンペも使えます。
【コント】放課後
【コント】訪問者
【コント】ターザン
【コント】訪問販売
【お題コント】つくしともぐら
今後のコント作りの励みになるので、ぜひ、感想をお聞かせください。
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