誰もいない教室。放課後。
滝沢
「(教室に入ってくる)失礼します・・・。」
(滝沢、周りを見渡すが誰もいない)
滝沢
「あの・・・、立花先生からここに来るように言われたのですが・・・」
早野
「(教室に入ってくる。)ふぅ・・・。練習おわり!
(腕時計を見て)10分21秒。まずまずのタイムだ。」
滝沢
「あの・・・」
早野
「おぉ、滝沢くんじゃないか!」
滝沢
「え?どうして僕の名前を・・・」
早野
「知っているとも。さぁ、練習だ!(滝沢を引っ張る)」
滝沢
「え?え?え?え?ちょっと何するんですか!」
早野
「決まっているだろ?新入部員なんだから。練習するんだよ!」
滝沢
「新入部員って、僕、何部にも入っていないんですけど・・・」
早野
「そんなことはない。顧問の立花先生から、キミが今日付けでうちの部に入ると連絡があったんだ。」
滝沢
「たしかに、この部屋で待つように言われましたけど、でも部活に入るって話はしてません。」
早野
「でも、部活動の話はしたんじゃないのか?」
滝沢
「いや、だから僕は何部にも入りません。帰宅部でいいですと・・・」
早野
「ほら!やっぱりうちの部じゃないか!」
滝沢
「いや、帰宅部・・・」
早野
「帰宅部だろ?よし、練習だ!(滝沢を引っ張る)」
滝沢
「いやいやいや!練習ってなんですか?」
早野
「練習だよ、帰宅部の。ほら行くぞ!(滝沢を引っ張る)」
滝沢
「ちょちょちょちょちょっと!!やめてください!あと、練習だって言って引っ張るのやめてください!」
早野
「ほら、エースの君が練習に参加しないでどうする!」
滝沢
「エース?」
早野
「そう。エース。実はこの一週間、君の帰宅風景を尾行させてもらった。」
滝沢
「ただのストーカーじゃないですか!」
早野
「帰宅歴17年の僕から言わせてもらう!君の帰宅フォームは完璧だ!」
滝沢
「フォーム?」
早野
「ただ、問題はタイムだ!
私の計算では、あと5分は縮まる。
どうだ、5分だぞ。あと5分、早く帰りたいとは思わないか?」
滝沢
「早く帰りたいです。だから、早く帰してください。」
早野
「まぁ、いいだろう。しかし、これだけは言っておく!
うちの部のスローガンだ!」
滝沢
「スローガン?」
早野
「『家に帰るまでが帰宅部だ!』」
滝沢
「・・・うん。異論はないですけど・・・」
早野
「よし、練習だ!(滝沢を引っ張る)」
滝沢
「だから、引っ張るなって!
練習とかいいですから、早く帰してください!
ほら、もうこんな時間!
バスケ部とか帰ってるじゃないですか!」
早野
「帰宅部は練習が厳しいんだ。結果、帰宅部が一番最後に帰宅する。」
滝沢
「それはもう帰宅部じゃねぇよ!
帰宅部の帰りが遅いって、どこで何してたんだ、って話になるじゃないか!」
早野
「ジレンマ!(悔しがる)」
滝沢
「練習やめれば、解消するよ!」
井上
「(部室にやってくる)おぉ、早野。」
早野
「あ、井上先輩、お疲れ様です!」
井上
「新人?」
早野
「はい、うちの部のエースです!」
滝沢
「いや、入りませんよ。」
井上
「いいか、新人。これだけは頭に入れておけ。」
滝沢
「何ですか?」
井上
「『家に帰るまでが帰宅部だ!』」
滝沢
「さっき聞きましたよ!」
井上
「それじゃ、帰るわ。」
早野
「お疲れ様です!」
滝沢
「え?この人は練習しないんですか?」
井上
「練習してるよ。タイヤを引きずりながら、帰宅10本!」
早野
「今、何本目ですか?」
井上
「7本目。」
滝沢
「早く、帰れ!」
井上
「お疲れ!」
早野
「お疲れ様です!」
滝沢
「僕も帰ります。」
早野
「ダメだ。顧問の立花先生が入部届を持って部室に来ることになってる。」
滝沢
「だから、入りませんって。」
早野
「ちょっと立花先生に電話する。」
滝沢
「入らないって言ってるのに・・・」
早野
「(備え付けの電話を押しながら)♪走る街を見下ろして~、のんびり雲がお~よ~い~でく~
♪だから歩いて帰ろう~、今日はあ~る~い~て~帰ろう」
滝沢
「何でその歌なんだよ・・・」
早野
「あ、もしもし、立花先生ですか?あ、立花先生は・・・?
そうですか。え?はい。伝えておきます。(受話器を置く)」
滝沢
「立花先生は?」
早野
「帰ったって。」
滝沢
「何でだよ!」
早野
「帰宅部の顧問は当然、帰宅のプロだ!誰にも気付かれずに帰宅する。これぞ、美学じゃないか(泣)!」
滝沢
「美学じゃないよ!人、待たせといて帰るって!あと、泣くな!」
早野
「あと、立花先生から伝言だ!」
滝沢
「伝言?」
早野
「『家に帰るまでが帰宅部だ!』」
滝沢
「うるさいよ!何それ。全員から聞かなきゃダメなの?その言葉。」
早野
「よし、今日は学校に泊まって夜通し帰宅の練習だ!」
滝沢
「帰宅部が家帰らないってどういうことだよ!!」
【コント・セルフ・ライナーノーツ】
コントアイディアが浮かばなかったので、3年くらい前に書いたコントを・・・。
「家に帰るまでが帰宅部だ」の一言だけで乗り切ったコントです。
気に入ったフレーズだったので、3回も使ってます。