バイブ音
「ウィーンウィーンウィーン」
ディレクター
「もしもし？」
プロデューサー
「あ、プロデューサーの磯貝です。」
ディレクター
「あ、お疲れ様です。」
プロデューサー
「今度のドラマの完パケようやく見たんだけど。」
ディレクター
「あぁ、どうでした？」
プロデューサー
「どうもなにも・・・、あれは何？」
ディレクター
「何って新しいタイプのミステリーです。」
プロデューサー
「いや、ミステリーとかそういうのはどうでもいいんだ。」
ディレクター
「では何でしょう？」
プロデューサー
「木だよ。」
ディレクター
「木？」
プロデューサー
「なんで、背景の木を人間がやってるんだ。」
ディレクター
「何でと言われましても。」
プロデューサー
「書き割りに顔だけ出して、両手に枝を持って。」
ディレクター
「はい。」
プロデューサー
「あれは・・・どういう演出？」
ディレクター
「演出も何も、学芸会ではよくありますよね。」
プロデューサー
「学芸会ではね。
学芸会だからあったんだよ。
テレビドラマでは見ないよ。
なんなら、今じゃ学芸会でも見ないよ。」
ディレクター
「でも、こうして映像を通して見ると違和感ないから不思議ですよね。」
プロデューサー
「いや、違和感しかないよ。
『え、人？人がやってる？』と思いながら見てたよ。」
ディレクター
「でも、シリアスなシーンでしたからね。
一瞬『え？』と思ってもすぐに役者さんの演技に目がいっちゃいますよね。」
プロデューサー
「いや行かない。
一瞬『え？』と思ったら最後、もうそっちにしか目がいかない。
ずっと『え、何で？え、何で？』って言いながら見てた。」
ディレクター
「そんなに変かなぁ。」
プロデューサー
「ちなみにあの木は誰？」
ディレクター
「大物時代劇俳優の南條達也さんです。」
プロデューサー
「大御所じゃん！
主役張ったりする大御所じゃん！」
ディレクター
「友情出演で快諾してくれました。」
プロデューサー
「誰との友情？
破綻しない？その友情。」
ディレクター
「今回、木の役になりきるために盆栽を始めたそうです。」
プロデューサー
「盆栽始めたから何だって言うの？」
ディレクター
「でも仕方なかったんです。」
プロデューサー
「仕方なかった？」
ディレクター
「友情出演の話が決まった時点で、すでに全ての役が決まってたので、
ああするしかなかったんです。」
プロデューサー
「『ああしない』っていう選択肢があったよ！」
ディレクター
「でも、やはり大御所ですよね。
完全に木になりきってました。
やはり、年輪を重ねてきただけあります。」
プロデューサー
「・・・切るぞ。」
ディレクター
「木をですか？」
プロデューサー
「お前のクビをだ！！」
ディレクター
「そんなに違和感あるかなぁ。」
プロデューサー
「あるよ！
いい？これはミステリーの連続ドラマなの！
みんなであーだこーだ考察しながら展開するドラマなの！
そんなドラマの背景の書き割りに大物時代劇俳優がキャスティングされてたら考察がブレるでしょ？」
ディレクター
「意味があるなんて思いませんよ。」
プロデューサー
「意味があるとしか思えないよ！
ただでさえ木を人がやってるって時点で変なミスリードになってるのに、
それを南條達也がやってたら余計に意味が出ちゃうでしょ！
大スターだよ？背景の木で終わるわけないってみんな思うよ！」
ディレクター
「あぁ、そういう懸念なら大丈夫です。」
プロデューサー
「どういうこと？」
ディレクター
「第二話では太陽の役もやります。」
プロデューサー
「そういう意味じゃねぇ！
『木で終わるわけない』って懸念はそういう意味じゃねぇ！」
ディレクター
「太陽の役作りのためにサウナに通い始めたそうです。」
プロデューサー
「それ役作りじゃねぇよ！
趣味にサウナが増えただけだよ！
あと盆栽！」
ディレクター
「毎話どこかの背景に出そうとみんなで話し合ってるところです。」
プロデューサー
「ギャラどれだけかかると思ってんだ。」
ディレクター
「大丈夫です。
友情出演なんで。」
プロデューサー
「どれだけの友情なんだよ。」
ディレクター
「あ、でも出演者、スタッフの中に南條さんとの友だちはいないそうです。」
プロデューサー
「すげー厄介な大物じゃねぇか！
友だちいないのに友情出演してくるって。」
ディレクター
「このドラマ一番のミステリーですね。」
プロデューサー
「そりゃ木にもなるわ。」
ディレクター
「でも違和感ないですよね。」
プロデューサー
「いや、気になる。」
学芸会独自の演出だった木の役。
テレビドラマで大御所俳優が木の役をやったら・・・？というコントです。
いつものごとく、俳優が木の役をやらされるシーンは描かず、そこは想像にゆだねています。
人数：２人
プロデューサー
ディレクター
所要時間：４分～５分
上演難易度：★☆☆☆☆
備考：セリフだけのやりとりなので難しい演出はありません。
実演難易度は低めです。
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