声
「押すなよ?!
絶対に押すなよ?!」
夫
(部屋に戻ってくる)
妻
「・・・どうだった?」
夫
「状況変わらず。」
妻
「そう・・・。」
夫
「ふぅ・・・。(椅子に座る)」
妻
「・・・ねぇ。」
夫
「・・・ん?」
妻
「もう一度、今の状況を整理したいんだけど。」
夫
「・・・どうぞ。」
妻
「今日の夕方、我が家にダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが『一晩泊めてください』とやってきた。」
夫
「うん。」
妻
「あたしたちは追い返す理由もないし、
一晩ならいいかと家に招き入れた。」
夫
「うん。」
妻
「やがて、食事が終わり、お風呂の準備をした。」
夫
「うん。」
妻
「まずは上島さんに入ってもらおうということで、
上島さんにお風呂の準備ができたことを伝え、
上島さんはお風呂場に向かった。」
夫
「うん。」
妻
「しかし、いつまで経っても上島さんがお風呂から出てこないから、
心配になってあなたがお風呂場を覗いた。」
夫
「うん。」
妻
「すると、浴室の中では、上島さんがお風呂の縁に捕まって、
『押すなよ!?絶対に押すなよ?!』とあなたに懇願してきた。」
夫
「そう。」
妻
「・・・。」
夫
「・・・。」
妻
「・・・ごめん、やっぱりよくわからない。」
夫
「俺もわからないんだ。
どういうことなんだか。」
妻
「もうどれくらいあの体勢なんだろう?」
夫
「20時にお風呂の準備ができたって声をかけたから、
直後からあの体勢だったとすると・・・、2時間?」
妻
「いい加減、お風呂に入ってもらいましょうよ。」
夫
「さっきも言ったんだよ、『ちゃんと湯船に浸かってください』って。」
妻
「そしたら?」
夫
「『押すなよ?!絶対に押すなよ?!』って。」
妻
「会話が成立してないじゃない。」
夫
「『押さないです。大丈夫ですから。』って言ったんだけど、
『押すなよ?!絶対に押すなよ?!』の一点張り。」
妻
「ホント、何?トラウマか何か?」
夫
「もしかして、過去の忌まわしい記憶を思い出させちゃったかな・・・。」
妻
「・・・もう、押せば?」
夫
「あれだけ『押すなよ?!』って言ってる人を押せないだろ?」
妻
「大丈夫よ。あの人アレで30年以上ご飯食べてるんだから。」
夫
「でも、それはカメラの前だからだろ?
完全プライベートでそれをやる必要ある?」
妻
「もう、ああいう流れでないとお風呂に入れない体になっちゃったんじゃない?」
夫
「何、その職業病。
お風呂に入るのに協力者が必要って。
介護でもないのに。」
妻
「とりあえず、お風呂の蓋は閉めましょ。
お風呂が冷めちゃうから。まだ誰も入ってないのに。」
夫
「そうだな。
ちょっと行ってくる。(お風呂場に向かう)」
妻
「なんか、めんどくさいお客さんを招いちゃったわね・・・。」
夫
(お風呂場から戻ってくる)
妻
「蓋、閉めた?」
夫
「閉めようとしたら、止められた。
『殺す気かーっ?!』って言われて。」
妻
「え、もうわかんない、わかんない、わかんない。
度が過ぎた被害妄想?」
夫
「勢いに押されて蓋を閉めれなかった。」
妻
「ねぇ、もう帰ってもらいましょ。
ウチじゃ扱いきれない。」
夫
「でも、追い出したら上島さんが路頭に迷うことになるし・・・。」
上島
「(お風呂場から)押すなよ?!絶対に押すなよ?!」
妻
「だからって、このままじゃあたしたちもお風呂に入れないじゃない!」
夫
「そのうち湯船に入るって。」
上島
「(お風呂場から)押すなよ?!
絶対に押すなよ?!」
妻
「もう2時間この状態なのよ?
あと何時間続くかわかったもんじゃないし!」
夫
「さすがに『もうないな』と思ったら、諦めてお風呂に入るって。」
上島
「(お風呂場から)押すなよ?!絶対に押すなよ?!」
妻
「ちょっとごめん。(お風呂場に向かう)」
夫
「・・・?」
SE
「(お風呂場から)ザッパ~ン!!」
妻
「(戻ってくる)『押すなよ押すなよ』うるさい!」
夫
「押したの?」
妻
「押した。」
夫
「押したんだ。リアクションは?」
妻
「見てないわよ。
黙らせたかっただけだから。」
夫
「いや見てあげないと。
そのために2時間お風呂の縁に捕まってたんだから。」
妻
「もう何なの?!
最高にめんどくさいんだけど!」
夫
「彼なりの恩返しだって。」
妻
「完全に恩を仇で返されてるんだけど!」
夫
「お風呂の縁に捕まってるのが?」
妻
「仇じゃない!
仇か否かで言われたら、仇よ!」
夫
「仇かなぁ・・・」
妻
「もう帰ってもらいます。
ほら、あなたから言ってあげて。」
夫
「え、俺が?」
妻
「そうよ。」
夫
「俺はそこまで反対じゃないんだけど・・・。」
妻
「もう!あたしが言います!!」
夫
「完全に上島さんを嫌っちゃったな。」
妻
「(お風呂の扉越しに)上島さん!聞こえますか?!」
上島
「・・・。」
妻
「大変申し訳ないのですが、
ちょっと我が家では手に負えないので、お風呂から出たら帰っていただきたいです。」
上島
「・・・。」
妻
「夜ご飯におでんを出したら、
あたしたち二人が普通に食べてる隣で一人リアクション芸をしてましたよね?」
上島
「・・・。」
妻
「その時から『なるほど、めんどくさい』と思いましたが、
まさか押されるまで2時間持久戦が続くとは思いませんでした。」
上島
「・・・。」
妻
「お風呂に先に入っていただくときも、
『俺が入る』『あたしが入る』『じゃあ俺が入る』『どうぞどうぞ』の一連の流れをやりましたし。」
上島
「・・・。」
妻
「あたしたち、明日の朝早いんです。
このままだと寝るときも一波乱あるんじゃないかと不安なんです。
なので、今日はお引き取りください。」
上島
「・・・。」
妻
「・・・あの、上島さん?」
上島
「・・・。」
妻
「・・・聞いてますか?」
上島
「(風呂場の中から)聞いてないよー!!」
妻
「フリじゃないです!!」
お風呂に行ったら、上島竜平さんがお風呂の縁にしがみついていたら・・・という発想から始まりました。
やがて、「家に招き入れたら、この状態になっていた」という展開を思いつき、このような流れになりました。
人数:3人
上島
夫
妻
所要時間:4分~5分
上演難易度:★★☆☆☆
備考:上島役の人は声だけの出演にした方がお風呂場の様子を観客が想像することになって面白いと思います。
お風呂場に行く演出は夫と妻が一旦袖に隠れるか、舞台の真ん中に扉のセットだけ用意して、その後ろに隠れるか、などが考えられます。
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