むかしむかし、桃から生まれた桃太郎は、
とうとう鬼が島に辿り着いたのでした。



桃太郎
「とうとう見つけたぞ!鬼の大将!!」


鬼の大将
「来たか、桃太郎!!返り打ちにしてやる!!」


桃太郎
「イヌ、サル、キジ、手出しはするな・・・。
 これは、僕とアイツの1対1の勝負だ!」


鬼の大将
「野郎ども!離れていろ!!
 オレ様が桃太郎を一発で仕留めてやる!」


桃太郎

「いくぞっ!!」


鬼の大将
「来いっ!!」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



イヌ
「す・・・すごい戦いだ・・・。
 2人とも全く動いていないが、一瞬でも気を抜いた方が負ける・・・
 そんな一触即発の状態だ・・・。」


鬼の子分1
「オヤブン!!がんばって!!」


イヌ
「多分、その声援も聞こえていないだろう・・・。
 2人の間に張り詰める緊張は相当なものだ・・・。」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



ブザー

「ブーッ!!ブーッ!!」


イヌ
「?!」


アナウンス
「訓練、火災発生!!訓練、火災発生!!
 3階の給湯室から出火しました。
 建物内にいる人はすみやかに避難してください。
 なお、エレベーターは使用できません。」


鬼の子分1
「そうだ・・・、今日、避難訓練の日だ。(外に出る)」


鬼の子分2
「うわ~・・・、超ダル~・・・。(外に出る)」


鬼の子分3
「消防署の人とか来るのかな?(外に出る)」



(鬼たち、次々に部屋を出ていく。
 一方、桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



鬼の女
「(イヌたちに向かって)あの・・・すみません。」


イヌ
「はい?」


鬼の女
「今日、全館避難訓練でして、お客様にも避難していただくのですが・・・」


イヌ

「いや、あの、今、大事な戦いが・・・。(桃太郎たちの方をチラっと見る)」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



鬼の女
「すみません。例外は認められないんですよ。
 外の広場に避難していただけますか?」


イヌ
「は、はぁ・・・。
 (桃太郎たちの方を見ながら)じゃあ行くか・・・。(外に出る。)」



(部屋には桃太郎と鬼の大将以外誰もいなくなる。
 桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)あーあー。
 みなさま、避難の方お疲れ様でした。
 本日の避難訓練、アナウンスから避難完了まで6分20秒でした。
 実際に火災が発生した場合にも、すみやかに避難していただきますよう、よろしくお願いします。
 それでは、鬼が島中央消防署の堀田防災課長から一言いただきたいと思います。
 堀田課長、よろしくおねがいします。」


堀田(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)みなさま、こんにちは。堀田でございます。
 えー、暑い日が続きますが、この先、だんだん寒くなり、空気の乾燥する季節になってまいります。
 空気の乾燥する季節には火災の件数が増加します。
 みなさん、火の始末には十分気をつけていただきますよう、よろしくおねがいします。」



(外から、まばらな拍手が聞こえる。
 一方、桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)さて、これから鬼が島中央消防署のみなさまによります、

 救助活動の様子を見ていただきたいと思います。
 えーと、誰か一人助けられる役をやっていただきたいのですが・・・。
 あ、そちらの白いイヌの方。」


イヌ(外から声が聞こえる)
「ワタシ?」


司会(外から声が聞こえる)
「はい。申し訳ありませんが、もう一度建物に入っていただいて、
 7階のあの窓の部屋に行って手を振っていただけますか?」


イヌ(外から声が聞こえる)
「あの部屋ですか・・・?」


司会(外から声が聞こえる)
「はい、お願いします。
 (拡声器で)えー、これから鬼が島中央消防署のはしご車を使用した救助活動をご覧いただきます。
 こちらのはしご車、今回は中型サイズをご用意いただきました。
 このはしご車で大体10階くらいの高さまで届きます。」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・

 そんな部屋にイヌが入ってくる。)



イヌ

「(桃太郎たちを見て)うわ、まだニラみあってる・・・。」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



イヌ

(そ~っと部屋を横切り、窓を開け、外に向かって手を振る)


司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)はい。イヌさんが到着されたようですね。
 それでは消防のみなさま、よろしくおねがいします。」


隊員(外から声が聞こえる)
「(地声で)今行くぞぉ!!」


司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)さぁ、今、消防隊員の方がはしご車でぐんぐん上昇しています。
 まもなく到着しますよ!」


隊員
「(部屋に入ってくる)大丈夫ですかぁ!?」


イヌ
「(小声で)シーッ!!声がデカい!!

 今、戦っている最中だから!!(桃太郎たちを見る)」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



隊員
「(桃太郎たちを見て)おぉ!!まだ逃げ遅れていた者たちがいたのかぁ!!
 あんたたち!!ケガはしてないかぁ!!」


イヌ
「(小声で)うるさい!うるさい!!
 あんた、何、役に入りこんでるんだよ!!」


隊員
「(桃太郎たちに向かって)おい!あんたたち!!
 煙は吸ってないかぁ?!ヤケドはしてないかぁ?!」


イヌ

「(小声で)違うよ、この人たちは人に見えるけど、
 ・・・ペーパーウエイトだよ。」


隊員
「(桃太郎たちを見て)ペーパーウエイトかぁ!!
 ヤケにデカいなぁ!!」


イヌ
「(小声で)あんたの声の方がデカいよ!
 はい、降りるよ!!」


隊員
「よし、救助者一名!降下しまーす!!」


司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)さぁ、今、消防隊員の方がイヌさんを抱えて降りて参りました!
 みなさん、大きな拍手を!!」



(外からまばらな拍手。
 一方、桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



司会(外から声が聞こえる)
「(拡声器で)さて、本日の避難訓練はこれで終了です。
 なお、この後の予定ですが、既に帰宅時刻となっていますので、
 用のない方は帰宅していただきますよう、お願いします。
 また、本日は金曜日ですが、土曜日、日曜日は害虫駆除のため、薬を建物内に散布します。
 建物内には入れませんので、ご注意ください。
 では、解散です。お疲れ様でした。」


一同
「お疲れ様でした。」



(桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)



(突然、部屋の電気が消える。)



アナウンス
「建物内で作業されている方に連絡します。
 節電のため、申請が出ていない部屋の電気を消灯しました。
 空調もOFFにしますので、ご注意ください。」



(空調、切れる。
 しかし、桃太郎、鬼の大将、武器を構えにらみ合ったまま動かない・・・)





(翌月曜日)





(鬼の子分たち、桃太郎と鬼の大将の周りに群がっている。
 桃太郎と鬼の大将、それぞれ仰向けに倒れ、けいれんしている。)



イヌ
「(電話中)あ、おじいさんですか?桃太郎さんの家来のイヌです。
 今、鬼が島なんですが、桃太郎さんと鬼の大将の戦いを見に来たんですけど、
 なんか、週末に害虫駆除の薬を建物内に散布したみたいで、
 2人ともその薬を思いっきり吸ってしまったらしくて、今、倒れてます。」


鬼の大将
「(泣きながら)も・・・もう悪さはしません・・・。」


イヌ

「(電話中)なんか、もう悪さはしないって言ってるんで、退治したってことでいいと思います。
 まぁ、自滅なんですけど。
 それじゃ、ワタシたちも桃太郎さんを連れて帰りますんで。はい。それでは。(電話を切る。)
 桃太郎さん、帰りますよ。」


桃太郎

「(泣きながら)も・・・もう悪さはしません・・・。」


イヌ
「(桃太郎をかつぐ)よいしょっと!重いなぁ!!サル、肩貸して。キジ、荷物持って。
 桃太郎さん、大丈夫ですか?」


桃太郎
「(泣きながら)も・・・もう悪さはしません・・・。」


イヌ
「そうですか。桃太郎さんがどんな悪さをしたのかは帰り道でじっくり聞きますから。
 (鬼たちに向かって)それじゃ、帰ります!」


鬼の子分たち
「またきてねー!!(手を振る。)」




こうして、鬼の大将はこらしめられ、ついでに桃太郎もこらしめられました。
桃太郎は今回の戦いを通じて、害虫駆除の薬を甘く見てはいけないことを知りました。
また一つ、桃太郎は強くなりましたとさ。



めでたし、めでたし。








【コント・セルフ・ライナーノーツ】

避難訓練と似つかわしくない設定と組み合わせたら面白いだろうなと思い、作ってみました。


イメージとしては、桃太郎と鬼の大将がニラみあっている姿だけが見えていて、

避難訓練の様子は声だけ聞こえてくる感じです。




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