大臣
「(モニターを見ながら、マイクに向かって)はい。

 では、次は玉座の周りを掃除しましょうか。
 (モニターを見ながら)いいですよー。キレイにしましょうね。」

新人兵士
「(部屋に入ってくる)あの・・・すみません。」

大臣
「はい。」

新人兵士
「今日からこのお城で兵士として働くことになりました。
 兵士長に聞いたら、この部屋に大臣がいると・・・。」

大臣
「あ、私が大臣です。」

新人兵士
「あ、よろしくお願いします。」

大臣
「よろしく。」

新人兵士
「何をされているんですか?」

大臣
「ちょっと王様の様子をね。」

新人兵士
「王様(モニターを見る)?
 何ですか、モニターに映ってる何もない白い部屋は。
 あと、その部屋に裸の男性がポツンといますけど・・・。」

大臣
「あ、彼が王様。」

新人兵士
「王様?
 何してるんですか?
 何かを拭くパントマイムですか?」

大臣
「この状況を説明するのは大変なんだけど・・・。
 キミ、『はだかの王様』って童話知ってる?」

新人兵士
「はい、知ってます。
 仕立て屋がワガママな王様に『これはバカには見えない洋服です』と嘘をついて渡すと、
 王様は『見えるぞ』と見栄を張り、
 周りの人たちも『見える見える』と話を合わせる物語ですよね。」

大臣
「うちの王様、『はだかの王様』のモデルなんだよ。」

新人兵士
「あ、そうなんですか。
 ・・・でも、その王様がどうしてこんな何もない部屋に?」

大臣
「実はあの話には続きがあって、
 あの後、王様は町の骨董屋に玉座の間に飾る調度品を依頼したんだ。」

新人兵士
「調度品を。」

大臣
「しかし、王様の依頼は歴史的に名のある名品を、
 わずかな期間とわずかな調査費で持ってこいという無茶なものだった。」

新人兵士
「それはひどい。」

大臣
「当然、骨董屋は期限までに依頼の品を見つけることはできなかった。
 困った骨董屋は仕立て屋の話を思い出し、
 後日、『これはバカには見えない絵画です』と嘘をつき、王様に献上した。」

新人兵士
「王様は?」

大臣
「見えると言った。」

新人兵士
「見栄張っちゃった!」

大臣
「そして、なぜか王様はその骨董屋のことをとても気に入り・・・。」

新人兵士
「なんで気に入っちゃったんですか。」

大臣
「次々と調度品の依頼をした。」

新人兵士
「骨董屋は?」

大臣
「依頼の度に『バカには見えない調度品』を献上していった。」

新人兵士
「あー。だから・・・(モニターを見る)。」

大臣
「そう。だからこの部屋には本当は何もないんだけど、
 王様にとっては『バカには見えない調度品』が部屋中に飾られていることになっている。」

新人兵士
「今、何かを拭いていますけど・・・。」

大臣
「今は『バカには見えない玉座』を掃除している。」

新人兵士
「裸なのは・・・?」

大臣
「仕立て屋の作った『バカには見えない服』を着ているから。」

新人兵士
「しっかり着てるんですね。
 この部屋に王様一人しかいないのは・・・?」

大臣
「その話の説明も割と大変なんだけど・・・。」

新人兵士
「はい。」

大臣
「我々も王様の嘘に付き合うのに疲れてきて・・・。」

新人兵士
「随分ぶっちゃけましたね。」

大臣
「王様を一人残して帰ろうという話になって・・・。」

新人兵士
「いやいや、それは王様怒るでしょう?」

大臣
「大丈夫。
 我々は今もあの部屋にいることになっているから。」

新人兵士
「ん?どういうことですか?」

大臣
「王様に『我々家臣もバカには見えなくなりました』と言った。」

新人兵士
「王様は?」

大臣
「見えると言った。」

新人兵士
「見栄張っちゃった!」

大臣
「王様の部屋にはCCDカメラとスピーカーが設置してある。
 この部屋で日替わりで家臣がモニタリングしながら、
 声をかけられたらこのマイクで応対することになっている。」

新人兵士
「なんかすごいことになってますね、この国の行政。」

大臣
「(モニターを見て)あ、ちょっとごめん。」

新人兵士
「はい。」

大臣
「(マイクに向かって)王様?」

王様
「何?」

大臣
「絨毯がシワになってますよ。」

王様
「あ、いけないいけない。」

新人兵士
「(モニターを見ながら)あ。
 絨毯のシワを伸ばすパントマイムをしてる・・・。」

大臣
「せっかくだから、君のことを王様に紹介しよう。」

新人兵士
「え、いいんですか?」

大臣
「いいよいいよ。せっかくの機会だし。」

新人兵士
「お願いします。」

大臣
「王様?」

王様
「ん?」

大臣
「今日から城で働く新人を連れてきました。」

王様
「ん?どこだ?」

大臣
「あ、バカには見えません。」

王様
「そうなんだ。」

大臣
「見えませんか?」

王様
「見える!!」

大臣
「ありがとうございます。」

新人兵士
「見栄張っちゃった!」

大臣
「さ、挨拶を。」

新人兵士
「え、あ、はい。
 (マイクに向かって)あー。あー。
 あ、今日からここで兵士として働かせていただくことになりました。」

大臣
「おー、そうかそうか。
 凛々しい顔をしているじゃないか。」

新人兵士
「あ、ありがとうございます。」

大臣
「しっかりがんばるんだよ。」

新人兵士
「失礼します。」

大臣
「よし、王様との謁見(えっけん)も済んだね。」

新人兵士
「これ、謁見っていうんですか?
 随分、思ったのと違いますけど。」

王様
「おい!おい!」

大臣
「どうしました、王様。」

王様
「お腹が空いた。何か食べるものを出せ。」

大臣
「かしこまりました。今、お持ちします。」

新人兵士
「あ、さすがに王様が空腹の時は食事を作ってお持ちするんですね。」

大臣
「いや、持っていかない。」

新人兵士
「え?」

大臣
「王様。今、バカには見えないメイドがお食事をお持ちしました。」

王様
「うむ。」

新人兵士
「バカには見えないメイド?」

王様
「今日のご飯は何だ?」

大臣
「バカには見えないソバでございます。」

王様
「ソバか・・・。」

大臣
「見えませんか?」

王様
「見える!!」

大臣
「はい。では食べてください。」

新人兵士
「あ、座ってソバを食べるマイムを始めた。」

大臣
「あー、あの食べ方を見ると、冷たいソバという設定だね。」

新人兵士
「なんか、落語家みたいですね。」

大臣
「上手でしょ?」

新人兵士
「何にもない部屋の真ん中に座ってソバを食べる動きをする裸の男・・・。
 何でしょう。
 大物落語家の練習風景を隠し撮りしてるみたい・・・。」

大臣
「食べ終わりましたか?」

王様
「食べ終わった。」

大臣
「では、食器を洗ってください。」

王様
「えー。めんどくさい。」

大臣
「バカには見えない台所で、
 バカには見えない洗剤を使って、
 バカには見えない食器を洗ってください。」

王様
「誰かやってくれ。」

大臣
「もしかして、台所も洗剤も食器も見えませんか?」

王様
「見える!!」

大臣
「はい、ではワガママ言わずに食器を洗ってください。」

新人兵士
「あ、食器を洗うマイムを始めた。」

大臣
「何だかんだ言ってやってくれるんだ。」

王様
「まだ水冷たいなぁ。」

大臣
「冷たいですねぇ。でも、我慢ですよ。」

新人兵士
「何でしょう。
 一人部屋に入れられた日村さんを別室でイジる設楽さんみたいな構図ですね。」

大臣
「そんなことないよ。」

新人兵士
「そうですか?」

大臣
「ねぇ、貴乃花親方。」

王様
「あどねー、ぼぐねー・・・。」

新人兵士
「よく見るヤツ!
 それ、バラエティでよく見るヤツ!」

王様
「ん?」

大臣
「どうしました、王様?」

新人兵士
「王様、ずっとカメラ目線ですよ。」

大臣
「確かに。こっち見てるな。」

王様
「・・・CCDカメラがある。」

新人兵士
「気づいた!
 ・・・ってか、逆に遅すぎるくらいですけど。」

王様
「なぁ、大臣。
 玉座の間にCCDがあるぞ。」

新人兵士
「どうするんですか?」

大臣
「大丈夫。心配ない。」

王様
「なんだ、このCCD。
 いつからあったんだ?」

大臣
「あれ、王様見えますか?
 そのCCD。」

王様
「見えるよ。バカにするなよ。」

大臣
「おかしいな。
 それ、バカにしか見えないCCDカメラなんですけど。」

王様
「・・・え。」

大臣
「見えますか?
 バカにしか見えないCCDカメラ。」

王様
「見えない!!」

大臣
「よし、切り抜けた。」

新人兵士
「すごい。
 CCDがあることを認めた上で王様にカメラの存在を否定させた・・・。」

大臣
「よし、カメラの方を見なくなったな。」

新人兵士
「ところで国民は王様がこんな生活を送っていることを知っているんですか?」

大臣
「知ってるよ。」

新人兵士
「知ってるんですね・・・。」

大臣
「この部屋の映像は動画サイトで24時間生放送されてるから。(PCの画面を見せる)」

新人兵士
「(PCの画面を見て)・・・すごい。
 常に画面上を『w』って文字が流れてる・・・。
 そりゃそうか。真っ白な部屋を裸の男がウロウロしてるんだから・・・。」

大臣
「この国の収入の8割は動画サイトの広告費だから。」

新人兵士
「この国、ほぼこの映像だけで成り立ってるんですね。」

大臣
「王様には頭が上がりません。」

王様
「おい!おい!」

大臣
「はい?」

王様
「退屈だ。何か芸を見せろ。」

大臣
「今、王様の周りでバカには見えないピエロたちがパフォーマンスしてますよ。」

王様
「え?」

大臣
「見えませんか?」

王様
「見える!!
 わははははは!」

大臣
「王様には頭が上がりません。」

新人兵士
「とてもそうには見えないですけど。」

兵士
「(入ってくる)大臣!」

大臣
「どうした?」

兵士
「この国の治安を脅かす盗賊団の頭を捕まえました!
 裁判の結果、『王様と同じ目5年』の実刑判決が下されました!
 これから執行となります!」

大臣
「よし、玉座の間に入れろ!」

兵士
「はっ!(部屋を出て行く)」

新人兵士
「(モニターを見て)あ、玉座の間に別の裸の男が入ってきた。」

大臣
「あれが盗賊団のお頭だな。」

王様
「うわっ!!」

大臣
「どうしました、王様?」

王様
「こ、コイツはバカには見えない男か?」

大臣
「その人はバカにしか見えない男です。
 見えますか?」

王様
「見えない!!」

大臣
「了解です。」

盗賊
「なんだ、この部屋!
 (王様に)なぁ、この部屋なんなんだよ!」

王様
「見えない!見えないぞ!!」

盗賊
「さっき俺見て驚いてたじゃねぇか!!」

王様
「見えない!見えないぞ!!」

盗賊
「なんだよ、この不気味な部屋!!
 真っ白で何にもねぇじゃねぇか!!」

王様
「何を言うか!
 調度品に囲まれ、美女にピエロに豪華な食事。
 もうパラダイスじゃないか!」

盗賊
「あんた、大丈夫か?!
 ってか、俺のこと見えてんだろ!」

王様
「見えない!見えないぞ!!」

盗賊
「あ、CCDカメラがある。」

王様
「それはバカにしか見えないカメラだから見えちゃダメだ!」

盗賊
「いや、見えちゃダメもなにも、この部屋CCDカメラしかねぇじゃねぇか!!
 大丈夫か、あんた!」

大臣
「はい、ここで貴乃花親方!」

王様
「あどねー、ぼぐねー・・・。」

盗賊
「なに、コイツ!
 こわいこわいこわい!
 こんなヤツと同じ部屋に5年とか無理だよ!!」

新人兵士
「すごい怖がってるすごい怖がってる!!」

盗賊
「こっちくるなよ!俺が悪かったよ!!
 もう盗みなんてしねぇ!!真っ当に暮らすから!!
 だから!!だから、ここから出して!!」

大臣
「よし、反省したな。
 (内線電話をかけて)更正できたので、釈放してやってください。」

新人兵士
「(モニターを見ながら)あ、盗賊団のお頭が外に連れられていった。」

大臣
「こうやって悪人は王様自らが更正させるんだ。」

新人兵士
「ものすごい荒療治ですね。」

大臣
「王様、ナイス活躍でした。」

王様
「そう?」

大臣
「自分に拍手!」

王様
(拍手する)

大臣
「CCDに向かって貴乃花親方!」

王様
「あどねー、ぼぐねー・・・。」

新人兵士
「CCD見えない設定じゃないんですか?
 王様しっかりカメラ目線ですけど。」

王様
「おい!」

大臣
「どうしました?」

王様
「退屈だ。ピエロの芸を見せろ。」

大臣
「大丈夫です。あなたが一番ピエロですよ。」

新人兵士
「あ、それ言っちゃうんですね。」

 

 
 
 

【コント・セルフ・ライナーノーツ】

裸の王様の後日談を考えているときに、どんどん「バカには見えない○○」が増えていったら・・・と考え、

そこに入れられた王様と別室でモニタリングする大臣=バナナマンという構図が思いつき、あとはその方向性でアイディアを出していきました。

状況説明だけでかなりの分量になってしまいましたが、でも、変な設定のコントだと思います。

 

【上演メモ】

人数:5人

王様

大臣

新人兵士

盗賊

兵士

 

所要時間:6分~8分
上演難易度:★★☆☆☆
備考:王様のいる部屋は舞台上では表現せず、舞台上ではモニターを見る大臣と新人兵士だけが演技をし、

玉座の間の演技は音声だけが流れてきて、そこで起きていることは観客が想像する方が面白いんじゃないかと思います。

 

【過去コントを5本チョイスしました。こちらもどうぞ。】

【コント】空から女の子が降ってきた!
【コント】エンマの裁き
【コント】クロスプレー
【コント】自由研究#3
【コント】正しいサンタの捕まえ方

 

 

 

【お題募集中】

お題コントのお題を募集しています。

採用の際には、ささやかながら、当ブログから採用者様のブログへのリンクを張らせていただきます。

・内容によっては、ご期待に沿えないこともございます。

・お題をいただいてから、公開までに数か月かかることがあります。

・公開までにアメブロを退会された場合、公開を見送る場合があります。

 

↓こちらでも面白いブログがきっと見つかる!はず。
にほんブログ村 お笑いブログ 自作面白ネタへ
にほんブログ村


お笑い&ジョーク ブログランキングへ