不動産屋に紹介された住宅地から抜け出せなくなったカップルの運命を描いたサスペンススリラー。
- VIVARIUM - 監督 ロルカン・フィネガン
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリス 他
こちらは2019年制作の アイルランド デンマーク
ベルギー
の合作映画です。(98分)
新居を探している若いカップルのトムとジェマ。ある日、何気なく足を踏み入れた不動産屋で、「Yonder」という住宅街を紹介されます。不動産屋の怪しげな雰囲気や、緑色の同じ建物が立ち並ぶ「Yonder」の不気味さから、トムは住宅見学を拒もうとしますが、ジェマに半ば強引に付き合わされます。
不動産屋の男に案内され「Yonder」内にある「9番」の住宅を見学しますが、住居内に既に男の子の部屋が用意されていました。トムとジェマは、流石に気味が悪くなり帰ろうとしますが、さっきまで居た不動産屋の姿が突然見えなくなります。
呆れた二人は「Yonder」を後にしようと住宅街を車で走り回り、出口を探すトムとジェマですが、どんなに走り回っても必ず「9番」の住宅に戻って来てしまいます。屋根へ登って辺りを見渡したトムの目には、どこまでも同じ住宅が果てしなくつづく光景が映りました。
この異常な世界から抜け出そうと、トムとジェマは数日間「Yonder」の中を歩き続けましたが、一向に出口は見つけられず、いつも同じ「9番」の住宅に戻って来てしまいます。諦めかけていた二人の目の前にある日段ボールの箱が置かれているのを目にします。
その中には生活に必要な食料や道具が入っていました。この状況に怒りを感じたトムは、「9番」の住宅を燃やし、トムとジェマは燃える家を眺めながら眠ります。トムとジェマが目を覚ますと、燃えていたはずの住居が元に戻っており、再び謎の箱が残されていました。
箱を開けると、中には赤ん坊が入っており「この子を育てれば開放する」というメッセージが残されていました。他に「Yonder」から抜け出す方法が無いトムとジェマは、仕方なく子供を育て始めますが、子供は凄い速さで成長していきます。
ある日地面に違和感を覚えたトムは、「地中に何かある」と考え、庭に巨大な穴を掘り始めます。悪夢のような、住宅街での生活が始まったトムとジェマを、最後に待ち受けている運とはいったい、、?
若いカップルが謎の不動産屋に紹介された住宅地から出られなくなってしまうという、この手の不思議なシチュエーションが好きな方にはそれだけでゾクゾクしちゃう設定です。その上主演がジェシー・アイゼンバーグでキーヴィジュアルもシュールで楽しそうでございます。
カンヌ国際映画祭のギャン・ファンデーション賞を受賞したこちらの作品、イメージとしてはシュールなブラックコメディと思っていたのですが、意外にも内容はなかなかハードでドライなホラーでサスペンス的なお話に仕上がっておりました。
オープニングのタイトルバックにはカッコウの代名詞として有名な、別の鳥の巣に卵を産み付け、自分よりも身体の小さな別の親鳥に育てられる映像が流れるという、その後の展開を暗示しているような不穏なスタートで幕を開ける本作。
早く家を持ちたいと思っている妻のジェマと、家を持つ事にまだ戸惑いのある夫のトムという男女の思惑のずれもなかなかのポイントです。偶然訪れた不動産屋の見た目と雰囲気も絶妙に不気味で、案内された「Yonder」という同じ建物が並ぶ異様に整備された新興住宅地もどこか不気味で、あえて仮想のCGっぽく見せているのもgood。
どうやら非現実的な空間に辻込められてしまったと気付くまでのサスペンス的な展開も面白いのですが、その次に与えられた段ボールに入った赤ちゃんと「この子を育てれば開放する」というメッセージの登場で目的と謎がゴチャゴチャになってその後の展開の予測がつかなくなるのがまた面白いところです。
次のカットではその数日の様子が映されますが、子供の成長が早くて既に5歳児程の姿になっています。この子がかなり厄介な存在で、姿は子供でも大人の声で話したり、常に二人を監視しているようにくっついていたり、声色を真似してみたり、要求があると甲高い奇声をあげたりと普通の子供とは違う異様さが目立ちます。
そんな生活の中でトムは庭の地面に違和感を感じて、憑かれたように地面を掘り始めるようになるのですが、そこからジェマとの関係にもすれ違いが生じるようになり、夫は穴掘り妻は子供の世話という別々の役割での生活が続いていきます。
そして遂に子供の姿は成人になり、もうじき解放されると二人に告げられるのですが、そこから一気にタネ明かしというべき、そんな折衝な!え、そこから!こんな所が!といった怒涛の展開が待ち受けているのでした。
ラストを迎えても明確な説明は一切されません。しかしタイトルの「ビバリウム」という言葉の意味は「自然の生息状態をまねて作った動植物飼養場」という意味をもつ事から、様々な推測が出来るような余白が設けられている作品で、説明がないからといって決して難解な映画ではありません。
映画の表面上で描かれるサスペンスとSFチックな雰囲気、そしてラストのホラー的な胸糞展開までずっと不穏で不気味な緊張感を楽しめるエンターテインメントな作品という側面ともう一つ、多くの現代人に対するシニカルな視点も覗く作品でもあります
若い夫婦が家を手に入れ出られなくなる姿は住宅ローンを連想させますし、その為に働き寝るだけの夫の生活は穴を掘るトムの姿と重なります。奇声を発し理解出来ない行動をする子供の姿は正に育児をする母親そのものですし、その事ですれ違い夫婦の間が冷めてしまうというのもよくある男女の姿ではないでしょうか?
ある日子供が謎の存在と会っている事を知ったジェマが、その相手がどのような人物か探ろうと遊びの中で子供に形態模写をさせるシーンで、その姿を見た彼女のこれは絶対に人間じゃない!と確信する場面は地味ながら一番ショッキングでした。そうそう見た目だけそっくりで味の無い食事を食べ続けるというのも地獄ですよね、、。
あえて仮想空間に見せたような独特の絵作りのヴィジュアルや、それに負けないあちら側のキャラクターの奇妙な存在感、主演二人の演技等見所も沢山ある作品です。そんな中でも最も不快だったのが子供の奇声というなかなかメンタルにも響く作品です
サスペンスチックなホラーとしても楽しめますし、住宅というものをシニカルに描いた作品としても観ることが出来る映画となっていますので、ちょっと変わった作品を観たいという方には上映時間もやさしい長さだと思いますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!