散らかった部屋の中で、あまりの退屈さにうんざりしたアリスは、人形で アリス ごっこを始める。とその時、ガラスケースの中の白ウサギが突然動きだし、懐中時計を手に慌てて駆け出す姿に驚きながらもアリスは後を追うことにし、いつしか不思議の国にたどり着く、、。

 

 

 

 

 

 

 

    - Něco z Alenky ー 監督 脚本 ヤン・シュヴァンクマイエル

 

            出演 クリスティーナ・コホウトヴァー

 

こちらは1988年制作の チェコスロバキア  スイス  イギリイギリス  ドイツ ドイツ

                         の合作映画です。(86分)

 

 

 

 

イギリス人ルイス・キャロルが書いた世界的に有名な児童小説「不思議の国のアリス」その映像化作品は多くありますが、このアリスを最も有名に、そしてアイコン化させたのがディズニーのアニメーション映画ではないでしょうか? 

ポップでサイケでキャッチ―なディズニー版が1951年の制作ですが、それから30数年後、チェコの芸術家でアニメーション作家の ヤン・シュヴァンクマイエル の手によって実写映画化されたものが本作になります。 

 

 

   

 

  以前こちらでもシュヴァンクマイエルの映画 「ルナシー」 をご紹介しましたが、本作は彼の長編映画のデビュー作になった記念の作品でもあります。

私自身、小説の「不思議の国のアリス」をちゃんと読んだ事は、まだないのですが、ディズニー映画や他のアリス作品と大まかな物語の流れはそれに沿ったものです。

その基本の物語をシュヴァンクマイエル自身が脚色し、彼独自の映像世界で再構築させたものが、この「アリス」という映像作品になります。

 

    

 

 

 

姉が読んでくれる本は文字ばかりでつまらない。 部屋に戻ったアリスは一人で退屈な時間を過ごしていました。 その時、ガラスケースの中の置物のウサギが動き出し、ハサミでガラスを割って出ていくのを目撃します。 正装したウサギは懐中時計を見て 「大変だ遅刻するぞ」と呟くきます。 部屋から続く荒野の先にあった机の引き出しにウサギは入っていきました。 そのウサギを追って、アリスも引き出しに潜り込みます。 引き出しの奥には部屋があり、尻もちをついたアリスはバケツにはまってしまいます。するとバケツの底が抜けて落ちた先は地下へと続くエレベーター。 不思議なモノが並んだ棚に囲まれながら、どんどん深い穴の底へ下っていきます。

 

 

 

 

到着した穴の底には大きなドアと小さなドアがあり、ドアの中を覗くとあのウサギがせわしなく動いていました。 アリスは傍にあったインクを飲んで小さくなったり、クッキーを食べて大きくなったりしますが、​​​​なかなか先へ進めません。 大きくなったアリスはついに泣き出してしまいます。 部屋はいつの間にかアリスが流した涙で辺りは海のようになっていました。 そこへ船で現れたネズミが持っていたクッキーを食べて小さくなったアリスは水の流れに乗ってドアの外へ出るのですが、、 というお話です

 

 

 

 

監督の手によって、様々なアレンジが加えられえている為、シュヴァンクマイエル版の「不思議の国のアリス」に仕上がっている本作は、主人公アリス以外は全てパペットアニメーションによるコマ撮りによって動かされています。 その為、ウサギ等のキャラクター達がコマ撮り特有のぎこちない動きをするのですが、この動きが正にこの不思議な世界観にマッチしていて、リアリティを生みだしています。

 

 

 

 

そして、ここに登場する不思議な生き物の造形や動きこそがシュヴァンクマイエル作品の醍醐味と言える、悪趣味かつダークなシュヴァンクマイエルワールドが展開され、不思議の国というよりも、ほとんどシュールで悪夢な世界が繰り広げられています。破れた身体からおがくずがこぼれるウサギや、頭がガイコツなトカゲ、様々な骨が組み合わさって出来た謎の生き物、靴下のイモムシ、魚の頭をした貴族、ハエを舌で捕まえるカエル、目が取れかけのゼンマイ仕掛けの三月ウサギ。他にも、クギが飛び出すパンや、ゴキブリの詰まった缶詰、動く肉片等、幼児期に観たらトラウマになりそうなもののオンパレードで、アリス自身も小さくなった時にはビスク・ドールに変容します。

 

 

 

 

が、です。 これがたまらなく良いのでございます。 そもそもこれこそが「不思議の国のアリス」 という奇妙なお話の裏に隠された、不条理と残酷性、非日常性を最もリアルに表現された作品に思えてしまう特異感がこの映画にはあります。

そんな本作ですが、劇中に音楽は一切流れません。 アリスのナレーションによるモノローグの他は、歩いたり、食べたり、物が動いた時に出る音だけです。 ただ、この何気なく出る音がとても存在感があって、耳に心地よく響いて素敵なのです。 様々な物が発する音、カップに注がれる紅茶や、引き出しを開ける音、服のこすれる音、食器の響く音それぞれのモノがそれぞれの音を奏でている事に、改めて気付かされます

 

 

 

 

そしてこの作品に映し出される小物の数々が、どれも実に可愛らしい所もまた魅力のひとつでもあって、インテリアや雑貨好きにはたまらない映像ばかりです。

最後にはアリスが目覚めて終りを迎える訳ですが、可愛らしい少女のアリスが見た夢は彼女の潜在意識が生み出したものだと考えると、ちょっと恐怖を感じる所も多々ある作品ですね。 可愛らしいアリスと不気味なキャラクターの映像のコントラストが素敵な「キモカワ」映画となっております。 ディズニー版の「不思議の国のアリス」と表裏一体の、大人ダークな本作「アリス」をこの機会にでもご覧になってみて下さいませ、です。毎回、ポン!という音と共に取れる引き出しの取っ手の意味に想いを馳せる私でした。

 

では、また次回ですよ~! パー