夜の底は柔らかな幻 上  恩田陸 | 青子の本棚

青子の本棚

「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

有元実邦(みくに)は、日本でありながら、治外法権の地である途鎖国へと向かう特急列車の中にいた。十六年前に国境を越え、二度と足を踏み入れないと決めていたはずだったのに。列車の中には、指名手配中の殺人犯や、在色者である密入国者が紛れ込んでいた。途鎖駅到着後、入国審査に現れた隻眼の入国管理局局次長は、実邦が二度と会いたくないと思っていた男:葛城晃だった。その葛城に、部下である入国管理官たちが、一斉に銃を構え発砲した。しかし、集中砲火を浴びたはずの葛城の姿は、どこにもなかった。

 

 

 

 

スピンオフ短編集の『終りなき世に生まれつく』を先に読んでしまったので、遅ればせながら本編を読みました。

 

気にはなっていたもののホラー苦手叫びなので、なんかヤバそうと敬遠していたのですが、思い切ってチャレンジ。

取り合えず、上巻だけ図書館で借りてみました。

でも、これは、OK大丈夫でした。

 

というか、めっちゃおもしろい。

なんだこりゃの設定から、どゆこと?どーゆーこと?と気になって、ページが進むこと進むこと。ルンルン

 

 

高知県(土佐)がモデルと思しき途鎖国に、なぜか「在色者」と呼ばれる特殊能力:イロを持つ人々が多く生まれます。

そして、その能力ゆえに差別されることを恐れ、イロを均質化するという手術を受ける者もいます。

 

「闇月」には、先祖を弔うために一般人が、山に入ることができます。

そこで、亡くなった人に会うことができる?

この辺り、お遍路さんとかイタコとかを連想させます。

って、ここが私的にネックブーNGでした。

でも、OKグッでした。

全然、怖くなかったです。

ということで、一安心。

なので、下巻も借りてきました。

 

 

山では、裏の墓参りと称して、究極の快楽を得られるクスリが手に入ると言われていて、そこに辿り着けるのはただ一人だけ。

しかし、そこには「ソク」なる人物が君臨しており……。

ここなの、ここに惹かれたの。

 

なんかねぇ、『闇の奥』のクルツ氏を連想してしまいました。

そして、ダークな特殊能力ってのは、ダースベイダーっぽくもあるしな。

一気に好みの恋の矢展開に。

 

もちろん、ヒロイン?実邦も、在色者。

そして、彼女の友人:須藤みつきも。

実邦がみつきに連れられ、訪れるスナックのマスターが、軍(いくさ)勇司。

おー、紛争地のボランティア外科医だったハートオネエキャラのあの人ダ。

 

彼らの共通点は在色者で、子どもの頃、屋島風塵の門下生でした。

その屋島風塵なる先生は、現在、在色者の精神的トラブルを扱う国立精神衛生センターに収監入院中で、それは、自ら望んで入ったとの噂もあったりして。。。

 

あと、実邦と列車に乗り合わせた謎の男:黒塚弦も同じく門下生で、ヨーロッパで均質化手術を受けた在色者です。

もっというと、列車の中で見かけた母子と見える男の子や、そのおじいちゃんも。

ひゃぁ、うじゃうじゃおるやん。びっくり

 

それもそのはず闇月は、ソクの座を狙って山を目指す在色者たちが後を絶ちません。

山に登るってのは、ちょっと『十二国記』を思わせますね。

 

 

そして、『終わりなき世に生まれつく』の以前のMyブログを読んでみると、勇司は葛城晃とも知り合いでした。

すっかり、忘れておりました。

アカンなぁ。てへぺろあせる

 

 

物語は、実邦と葛城の過去の因縁。

そして、実邦が途鎖国にやって来た本当の理由。

その目的のため、山を目指すにあたって同行する刑事:善法正治(彼の母親も在色者です)、彼らをアシストする元捜査官の入滅寺住職:天馬など、濃ーいキャラも登場して、ゾクゾクワクワクラブラブのエンタメです。

 

 

そして、そして、実邦が何年も追い続けてきた男という神山倖秀もまた『終わりなき世に生まれつく』に登場しておりました。

も一人、青柳純一というチャラそうな自称フリーの記者と、葛城晃の三人が、この先何かをやらかしてくれるのですが、そこが肝でしょうか。

 

この三人は、子どもの頃、屋敷風塵とは別の神山の父親のプログラムに山で参加していて、そこでも、なんかあった。

この気の持たせかた、上手いなぁ、恩田陸。

 

この上巻は、イントロデュースの部分ですが、もう期待度MAX。

なんですが、作者は恩田陸。もやもや

ラストまで、この期待引っ張るだけ引っ張っといて。。。ハートブレイク

なーんてことにならないで欲しいなぁと切に願います。

たまにあるんだよな、この作家。

 

あっ、あとねぇ、実邦と善法が、きょうだいと偽って山に入るのですが、<地獄を見て、自分の手で誰かの命を失わせた経験を持つ者どうし>だから、きょうだいでも通じるという記述も、とっても気になります。

 

どこまでも、思わせぶりでダークな作品なのですね。