”クマ殺しのカーマン”と呼ばれる黒人空手家:ボブ・カーマンに憧れるタケルを下田くんは、鼻でわらう。なぜなら、今どき武道やけんかは時代遅れで、経済力とか政治力とか思想で勝った人間が、世の中を動かしていくからだという。そんなクールな下田くんの家で、晩ごはんをご馳走になることになったタケルは、下田くんのお父さんが、<悪役>レスラー:下田牛之助だと知る。”金色のオオカミ”と呼ばれる下田牛之助は、髪を金髪にそめ、ドーランで白ぬりした顔に目と口のまわりには、まっかなくまどりをして、みどり色した霧を口から吐き出し、くさりがまをふりまわす悪役レスラーだ。でも、実は、おもしろくて気のいいおじさんだった。 「お父さんのバックドロップ」
これ、いいなぁ。
めっちゃ好き。
お約束通り、場内の客を脅かしてまわった牛之助は、リングで待ってるジャイアント古葉に、いきなりの反則。
ふふーん、プロレス見ない私でも、あの人がモデルなんだーってわかっちゃう。
そんな試合が八百長だってしってるから、お父さんを尊敬できないと言い切る下田くん。
わかるよ~。
まだ、小学生やもん、恥ずかしいやんなぁ。
牛之助は、そんな息子に<花のせわをする当番の子もいれば、便所そうじの当番にあたる子もいる>と、説明します。
そして、毎日のトレーニングは、<ケガをしないためだ。>とも。
ケガをしてしまったら、お客さんにも会社にもめいわくがかかるから、なぐられても、けられてもケガをしないように鍛えているんだと言います。
ところが、下田くんが返した言葉は、お父さんは、勝ち負けのある世界から逃げて”花の当番”ばかりしているから尊敬できない。
グサッ。
凹むよなぁ、お父さん。
一念発起した牛之助は、”クマ殺しのカーマン”こと世界空手選手権大会優勝者:ボブ・カーマンに、挑戦状をたたきつけます。
さて、お父さん(43)vs.”クマ殺しのカーマン”(27)の勝敗はいかに。
無謀すぎるぅ。
でも、お父さんには、命をはってでも、息子に伝えたいことがありました。
お父さん、かっこよすぎや。
「おれはこのリングに立つのが大すきだった。二十何年間というもの、あしたはもうリングに立てないんじゃないかと、そればっかり考えてきた。それがこわくて、毎日めちゃくちゃに体をきたえてきた。でもな、もういいんだ。おれがここで勝っても負けても、あんたたちはすぐに、おれのことなんかわすれるだろう。むかし、空手と試合をしてボロボロになった、なんとかというばかなレスラーがいた、くらいの話で、それもすぐにわすれてしまう。それもいい。きょう、おれがここで戦うのは、たった三人の人間のためだ。その三人さえおれのことをわすれずにいてくれたら、それでいい。そのために戦う。それはおれ自身と、おれのカアちゃんと、おれのムスコだ。」
「お父さんのカッパ落語」
仁のお父さんは、売れない落語家:来福亭バッタ。たまにテレビにでても、カッパのぬいぐるみをかぶっていて、家族以外には誰だかわからない。みかねた師匠の来福亭トンボに、転職を薦められるが、バッタは背水の陣で”おわらい新人大賞”に臨み、だめならスッパリあきらめると公言する。
これはねぇ、オチがすごいの。
師匠もやけど、師匠のおかみさんがスゴイねん。
さすが、噺家の奥さんだけあるわ。
「お父さんのペット戦争」
今日こそ、同級生:鈴木馬之助の鼻を明かしてやろうと田中セミ丸は、血統書付きのチワワ犬”ベティ・ブーブー”をつれてきたが、馬之助はいつもの雑種犬”ガラ”ではなく、土佐犬の”厳鉄号”をつれていた。二人の父親も幼なじみで、ペット比べはどんどんエスカレートし……。
いつしか子どものけんかが、動物園の園長:鈴木太郎と築地の魚河岸:田中一郎の親も巻き込んで……。
「なかよきことは美しきかな」でございますよー。
「お父さんのロックンロール」
小筆のお父さんは、テレビの番組製作の仕事をしている。そして、かなりの<変人>だ。家庭訪問の日、お父さんは、ゴルフをキャンセルして、お母さんはクラス会へと出かけてしまう。なにやらよからぬことを企んでいそうで、憂鬱な小筆。そんな小筆を見て、よろず屋のチヨノばあちゃんが、一計を案じてくれ……。
「大井川の血」って。
これまた、落語みたいなオチがついてて、クスリと笑わせてもらいました。
4人のお父さん、特に最後のお父さんは、らもさんっぽいなぁ。
子どもたちは、みんなそれぞれ大変そうやけど、きっと、みんないい子に育つよ。
でも、これが、自分のお父さんやったらと思うと……。
やっぱり、ちょっとイヤかも。
へへ、シャレやん、シャレ、シャレ、シャレですやん。
らもさんの「あとがき」の子どもたちへのメッセージが、とっても素敵な児童書でした。
大人には、子どもの部分がまるごと残っています。子どもにいろんな大人の要素がくっついたのが大人なのです。――中略――きみたちのお父さんにもきっとそういうへんなところ、子どもっぽいところがあるはずです。それがわかると、きっとお父さんのことを、もっとすきになると思います。