お父さんのバックドロップ  中島らも | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

 

”クマ殺しのカーマン”と呼ばれる黒人空手家:ボブ・カーマンに憧れるタケルを下田くんは、鼻でわらう。なぜなら、今どき武道やけんかは時代遅れで、経済力とか政治力とか思想で勝った人間が、世の中を動かしていくからだという。そんなクールな下田くんの家で、晩ごはんをご馳走になることになったタケルは、下田くんのお父さんが、<悪役>レスラー:下田牛之助だと知る。”金色のオオカミ”と呼ばれる下田牛之助は、髪を金髪にそめ、ドーランで白ぬりした顔に目と口のまわりには、まっかなくまどりをして、みどり色した霧を口から吐き出し、くさりがまをふりまわす悪役レスラーだ。でも、実は、おもしろくて気のいいおじさんだった。 「お父さんのバックドロップ」

 

 

 

 

これ、いいなぁ。

めっちゃ好き。ラブラブラブ

 

 

お約束通り、場内の客を脅かしてまわった牛之助は、リングで待ってるジャイアント古葉に、いきなりの反則。

ふふーん、プロレス見ない私でも、あの人がモデルなんだーってわかっちゃう。

 

そんな試合が八百長だってしってるから、お父さんを尊敬できないと言い切る下田くん。

わかるよ~。

まだ、小学生やもん、恥ずかしいやんなぁ。

 

牛之助は、そんな息子に<花のせわをする当番の子もいれば、便所そうじの当番にあたる子もいる>と、説明します。

そして、毎日のダンベルトレーニングは、<ケガをしないためだ。>とも。

ケガをしてしまったら、お客さんにも会社にもめいわくがかかるから、なぐられても、けられてもケガをしないように筋肉鍛えているんだと言います。

 

ところが、下田くんが返した言葉は、お父さんは、勝ち負けのある世界から逃げて”花の当番”ばかりしているから尊敬できない。

 

グサッ。雷

凹むダウンよなぁ、お父さん。

一念発起した牛之助は、”クマ殺しのカーマン”こと世界空手選手権大会優勝者:ボブ・カーマンに、挑戦状をたたきつけます。

さて、お父さん(43)vs.”クマ殺しのカーマン”(27)の勝敗はいかに。

 

無謀すぎるぅ。ガーン

でも、お父さんには、命をはってでも、息子に伝えたいことがありました。

お父さん、かっこよすぎや。

 

 

 

本 「おれはこのリングに立つのが大すきだった。二十何年間というもの、あしたはもうリングに立てないんじゃないかと、そればっかり考えてきた。それがこわくて、毎日めちゃくちゃに体をきたえてきた。でもな、もういいんだ。おれがここで勝っても負けても、あんたたちはすぐに、おれのことなんかわすれるだろう。むかし、空手と試合をしてボロボロになった、なんとかというばかなレスラーがいた、くらいの話で、それもすぐにわすれてしまう。それもいい。きょう、おれがここで戦うのは、たった三人の人間のためだ。その三人さえおれのことをわすれずにいてくれたら、それでいい。そのために戦う。それはおれ自身と、おれのカアちゃんと、おれのムスコだ。」

 

 

 

「お父さんのカッパ落語」お茶

仁のお父さんは、売れない落語家:来福亭バッタ。たまにテレビにでても、カッパのぬいぐるみをかぶっていて、家族以外には誰だかわからない。みかねた師匠の来福亭トンボに、転職を薦められるが、バッタは背水の陣で”おわらい新人大賞”に臨み、だめならスッパリあきらめると公言する。

 

これはねぇ、オチがすごいの。

師匠もやけど、師匠のおかみさんがスゴイねん。

さすが、噺家の奥さんだけあるわ。拍手

 

 

 

「お父さんのペット戦争」猿バツレッドかに座

今日こそ、同級生:鈴木馬之助の鼻を明かしてやろうと田中セミ丸は、血統書付きのチワワ犬”ベティ・ブーブー”をつれてきたが、馬之助はいつもの雑種犬”ガラ”ではなく、土佐犬の”厳鉄号”をつれていた。二人の父親も幼なじみで、ペット比べはどんどんエスカレートし……。

 

いつしか子どものけんかが、動物園の園長:鈴木太郎と築地の魚河岸:田中一郎の親も巻き込んで……。びっくり

 

「なかよきことは美しきかな」でございますよー。ウインク

 

 

 

「お父さんのロックンロール」ギター

小筆のお父さんは、テレビの番組製作の仕事をしている。そして、かなりの<変人>だ。家庭訪問の日、お父さんは、ゴルフをキャンセルして、お母さんはクラス会へと出かけてしまう。なにやらよからぬことを企んでいそうで、憂鬱な小筆。そんな小筆を見て、よろず屋のチヨノばあちゃんが、一計を案じてくれ……。

 

「大井川の血」って。爆  笑

これまた、落語みたいなオチがついてて、クスリと笑わせてもらいました。

 

 

4人のお父さん、特に最後のお父さんは、らもさんグラサンハートっぽいなぁ。

子どもたちは、みんなそれぞれ大変そうやけど、きっと、みんないい子に育つよ。

 

でも、これが、自分のお父さんやったらと思うと……。

やっぱり、ちょっとイヤかも。

 

へへ、シャレやん、シャレ、シャレ、シャレですやん。おいでてへぺろ

 

らもさんの「あとがき」の子どもたちへのメッセージが、とっても素敵な児童書でした。

 

 

 

 

本 大人には、子どもの部分がまるごと残っています。子どもにいろんな大人の要素がくっついたのが大人なのです。――中略――きみたちのお父さんにもきっとそういうへんなところ、子どもっぽいところがあるはずです。それがわかると、きっとお父さんのことを、もっとすきになると思います。