終りなき夜に生れつく  恩田陸 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

終りなき夜に生れつく/文藝春秋

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週刊誌の契約記者:岩切和男がその男を目にしたのは、人身事故で止まった電車内だった。舌打ちに溜息、文句や愚痴の充満する車内で、何故かその男だけは静かで涼しげに見えた。その「静かな男」を尾行したのは、職業柄身についた勘だった。東京では、ここ半年、奇妙な殺人事件が三件起きていた。死因は窒息死であるのに、索条痕が見当たらない。突然窒息し、死に至ったと思われる。「在色者」による犯罪だ。  『終りなき夜に生れつく』




しまった。ドクロあせる
未読の『夜の底は柔らかな幻』のスピンオフ短編集。


「在色者(ざいしょくしゃ)」という特殊能力を持つ者が、普通の人々に交じり生活している世界。

「在色者」?
「イロ」と呼ばれる特殊能力を持つ者たち。
「常野」みたいな者たち。
でも、もっとダークな感じです。



『砂の夜』の軍(いくさ)勇司は、『MAZE』の神原恵弥を思わせるオネエキャラで人の心が読める「在色者」。
ストーリィも恵弥のシリーズぽくて、使い回しかと思うほど。あせる
神原恵弥、嫌いじゃないんだなァ。

ただ、特殊な世界という設定上、『MAZE』のようにリアル世界との整合性を配慮しなくてもよく、肩透かし喰うような結末にする必要がないので安心?して読めます。

でも、人間のダークサイドが炙り出され、違う意味でダウン萎えます。


恵弥は製薬会社のプラントハンターだけど、勇司は、国境なき医師団のように世界各地の危険地域で活動する医師。

チームの同僚:須藤みつきも、「先触れ」を感じる「イロ」を持つ在色者。


医療活動をするためキャンプを張ったアフリカ北部の辺境の集落で、砂嵐に閉じ込められる一行。
その集落では、ひと晩に一人ずつ、一週間続けて死者が出ているという。
人々は悪魔が現れたと言うが、「イロ」を持つ者が、連続殺人事件を引き起こしていた。


この医療チーム、アイルランド人のリーダー的存在のイアン、インド系イギリス人のどこか予言者めいた「プロフェッサー」:ヘンリー、ドイツ人の大女の精神科医:ブリジッテと、他の面子もなかなか魅力的なので、シリーズ化して欲しいなぁ。

いや、もしかして、もうなってる?
なってて欲しいなぁ。ドキドキ



続く、『夜のふたつの貌』は、軍勇司のハードな医大生時代のお話。

大学内で出回っている薬に纏わる事件を通し、同じく「在色者」の葛城晃と出会う勇司。


勇司たちがいる途鎖は、日本国内にあるが、独立しており鎖国?状態。
途鎖は、「在色者」が多い地域で、須藤みつきも途鎖出身でした。



次の『夜間飛行』は、葛城晃が途鎖国の入国管理局からスカウトされ、キャンプへの参加を促されます。

キャンプは採用試験みたいなもので、まぁ過酷っちゃあ過酷なんだけど、なんか子供騙しみたいな中途半端さ。ドクロ


葛城の面識のある男:神山倖秀もキャンプに参加しており、その神山こそ、『終りなき夜に生れつく』の「静かな男」。



この四篇の中では、やはりラストの『終りなき夜に生れつく』が、白眉です。
タイトルになるだけあります。

神山も、当然「在色者」です。
それも、かなり強力な。

ミステリィ仕立てで、またしても、しっかり騙されました。
ミステリィ脳じゃないんだよな私。あせる
でも、とても、おもしろかったです。
こういうの好きだな。ハート


そして、気になるのが、この神山と葛城、そして『夜間飛行』で名前だけ出てくる青柳。
この三人の過去が、とーっても気になります。

山で何かがあった様子。
その後、一緒に下山したらしい。

ここんとこ、本編である『夜の底~』に描かれているのかなァ。
気になる、気になる。
気になるゾ。目