「青木ってさ、普段何してんの?」
「えっ?内弟子。」
「だから、どんな仕事してんの!?」
「う~、事務仕事…かなっ?」
久しぶりに会う友達との会話はいつもこんな感じ…。
内弟子の仕事って中々説明しずらいんです。
ただ今日の仕事は『内弟子らしいお仕事』でした。(笑)
それは…
明日の舞台で使う小道具作り!!
明日は渋谷で梅若研能会3月公演があるんです。
日時/平成19年3月15日(木)17:30~
場所/渋谷・観世能楽堂
入場料/6500円~2500円
お問い合わせ/梅若研能会03-3466-3041 観世能楽堂03-3469-5241
そこで上演される能「百万(ひゃくまん)」で使う小道具「狂い笹(くるいざさ)」を作りました。
この能の主役「百万」と言う女性は夫と死に別れ、たった一人のわが子とも生き別れてしまいます。その為に心が乱れ「狂乱」の状態になります。
能ではこの「狂乱」の状態の役が登場する場合は決まって「笹」を持って登場します。
どうして笹を持つのかと言うと、自分が狂乱していると言うことを周りの人に知らせる為に笹を持つのです。
すると狂乱している人を見に色々な人が集まってきます。そこで自分の子供の情報を得たりしているわけです。
なぜ、他の植物ではないかというと、多分一年中、しかも日本のどこでも笹が生えているからなんでしょう(推測)
造花を使う事も近年多いのですが、梅若研能会では「生木」を使って、昔ながらの作り方をしています。
以下にザッと作り方を書いておきます。
代々木上原の先生のご自宅の庭には笹もたくさん生えており、なかから枝ぶりの良い物を見繕い舞台に即した形へと整えてゆきます。しかし、去年末に植木屋が庭をきれいにした際、ほとんどの笹が伐採されてしまい、残った笹も葉が黄色く変色していたりと見るも無惨な状況でした。
その少ない中から良い物を二本選び、すぐに室内へ持ち帰り、水を張ったバケツの中でもう一度枝を切ります。こうする事によって、切った切り口から水分を補給させ、乾燥によって葉が丸くなるのを防ぎます。
次ぎに必要のない枝を落としてゆきます。笹の持ち枝で重要なのは一番外側の葉と幹(写真の赤線部分)で、それ以外は残しておいても視覚的に効果はありませんので…
下の写真のように葉の付いていない枝や葉の小さい枝を切ります。
さて、ここからが問題です。効果的な葉を残したとはいえ、まだまだ葉が多いです。だからといって幹から伸びる枝(写真の赤線部分)のうちの一本を考えなしに枝の根元から切ってしまうと…
下の写真のように空間が出来すぎてしまいます。
ですので、枝の葉を一枚一枚切っていきます。
基本的に先の方の葉(写真の紫線部分)は残して、途中の葉を落とします。これらを落とすと笹全体の形に多大なる影響を及ぼすので、出来るだけ最後まで残しておきます。
落とす基準は葉と葉が重なっている所を探し、根元に向かって生える葉(写真で言う赤線部分)を落としていきます。あとは感覚的経験的にこの葉は邪魔だと判断したら落としていきますが、一度落とすと元に戻すことが出来ないので、大胆且つ慎重に落としていきます。
笹の枝は幹に対して水平方向に伸びていきます。従って一本の幹で持ち枝を作ると葉の表の面と裏の面が出来てしまい、舞台上で使用中に裏の面が見えてしまう事になり、持ち笹を立体的に作ることが要求されてきます。
そこでもう一本の笹を同じように作り、葉の裏の面と裏の面を合わせるように幹と幹をテープで固定し、その上から幹に似た色の手芸用造花テープを巻き付け一本の幹にします。
最後に微調整をして完成となります。所要時間約一時間!!なんでこんなに時間を掛けるかと問われれば、やっぱり能を勤められる方にきちんとした物を使って欲しいと言う気持ちもありますし…一言で言えば「研能会愛」ですかねぇ~(原監督の「ジャイアンツ愛」より)。