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逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

『文具店シエル ひみつのレターセット』(著/さとみ桜)

兄(本当は従兄)が旅から帰るまで彼の文具店で店番することになった空良。

ある事情から仕事も辞め家に引きこもっていた空良だったが、兄の為に一念発起して店を運営することに。

外の人が怖くて買い物もままならない空良だが、店に訪れる客が求める文具を共に探していくうちに客の悩みも自分の心の傷も少しずつ癒していくのだった。

 

内気で傷付いた空良の傍にいてくれるのは、ブサイクな看板猫の『ぶーにゃん』とぶーにゃんを拾ってきた青年(彼にも秘密があるのだが、それは大きなネタバレになるので読んで確認して頂きたい)

そして、兄が揃えた店の暖かな文具たち。

 

ここで取り上げられる文具がレターセットや消しゴム、革の手帳カバーに万年筆とインクと昔ながらの文房具である。空良を傷付けたデジタルのSNSと対極の存在だ。

今回の文房具は人に贈る前提で登場している。

その為、通り一遍の無難な文房具ではなく、相手が喜んでくれるもの、或いは自分の想いが籠められた確かな物を手間暇かけて選んでいく。

SNSでの発信も、情報や感情を人に届けると言う意味では贈り物だ。なのに何の精査もせず受け取った人の気持ちも考慮されない独り善がりの発信がなんと多いことか。

空良を傷付けた相手に関しては、さらに悪意を持って空良を貶めようとしていたから猶更性根が悪い。

私が作者ならコヤツに手厳しい『ざまぁ』を喰らわせるところだ。

(時間が経ち、当時の周囲の人も何があったのか察してきたようなのが救いだ)

 

見方を変えれば心に傷を持ち弱った状態の空良だから、迷う人に親身になって接してあげれたのかもしれない。

彼女の世界が素敵な文房具と共に少しずつ開けていくことを願う。

 

ちなみに私が最も共感したのは、本文ではなく作者のあとがきだった。

さとみさんも文房具に特別詳しいわけではないが、可愛い文房具や好みの文房具を見付けるとつい買ってしまう方なのだとか。

私も使うあてのないレターセットやシール、マステに判子などが机の引き出しにビッチリである。

出番を待つレターセットでさとみさんに感想のお手紙を書いてみようかな、と妙な角度から作者に親近感を持ってしまった私だった。

 

 

追記

作者のさとみ桜さんが『天童理砂』という別名義でも執筆活動をしていると知ってびっくり。

どうりで発行している本が少ないと思った・・・(;´∀`)

タイトルを読む限りファンタジーっぽいお話が多い様子。

この作品もそんな要素はありますが、基本が現実世界の話なので彼女の作品では珍しい部類かも。

それだけさとみさんが文房具好きってことかしらねラブラブ

週末に遠方に住む弟が両親の様子を見に来ました。

今は東京でホテルを取るのは大変らしいので無理に来なくてもいいよ、と伝えたところ親のこともだけど私と二人で話したいことがあるそうで。

親にはあまり聞かれたくない話だから、外に出て話をしようと言われました。

本来ならもっと早くから二人で話すべきだったんでしょうけど(^_^;)

 

まずはうちに来て親と話したり状況を説明したり。

その後、二人で近所のロイホまで出かけて姉弟の『親に聞かせたくない話』の開始です。

弟は何を話すのかノートにメモして持ってきてて、用意万端でした。

弟に聞かれた話を応えればいいかと大雑把に構えていた私とは大違いだった・・・。

 

そんなとこで聞かれた内容がお墓の問題とか、親の通帳の管理とか、いざという時の葬儀関係の手配とか、確かに親の前ではしにくい話、かつ、重要な話なのですが。

 

 

親が死んだ後の話ばっかだった。

 

 

それも確かに大事なので話をして置かなきゃいけないのは分かる。

だけどその前に考えるべき問題もあるだろう。

 

 

今現在の親の介護や生活費とか!

 

 

ぶっちゃけると、私の手取り、今時の新卒新入社員より貰ってないのよ絶望

それに、精神的に不安定で、連絡したことをちょいちょい忘れて、耳が遠くなってこっちが何度も大声で話さないと通じない人の相手を日常的にするのって貴方が思ってるよりメンタル削られるの、それも分かって!

(前にチラッと愚痴ったときは『年を取ってきたら仕方ないよね」と軽く他人事で流された)

 

弟君、「俺は遺産とか相続する気ないから」とこちらに遠慮したように言うけど、それって「遺産貰わないから、最後まで親の事よろしく」と同義だよね。

とりあえず弟がはっきりさせたかったのは今後起こりうる面倒事で、目の前にある厄介事には全く触れる気はない、というか気が付いてもいなかったらしい。

少しは親の生活費援助して貰えるかな、と期待した私が浅はかだった。

 

ずっと親元だし親の面倒を見るのは当然と思ってるんだけど、なまじ弟が居るばっかりに『なんで私ばっかり』って卑屈に考えちゃうんだよね。

はじめっから一人っ子だったら諦めがつくんだけど笑い泣き

 

まあマジで親が施設入るとか墓終いとかで大金が必要になったりしたらガチで支援してと話そうとは思いますが。

そもそも私の給料が安いのが一番問題なのかあせる

(いや、やっぱり精神的にもきついか)

 

こんな愚痴ブログを読んでくださった皆様。

老人と暮らす苦労は肉体的金銭的なことだけじゃないことだけ、覚えておいてください。

とりあえず、弟と話しても今の私の状況に何の助けにもなりませんでした。

一週間くらい両親預かって、私のチリつもな心労を共有してくれ~。

 

 

『震える岩 霊験お初捕物控』(著/宮部みゆき)

やはり時代小説は読むのに時間がかかる。

宮部みゆきさんの小説は好んで読んでいるので文体に慣れているかと思ったが、やはり現代小説を読むスピードでは読み終えられなかった。

 

私の稚拙さのせいもあるが、幾重にも張り巡らされた因縁と伏線が話の重厚感を増し、読む速度を落とさせた要因だと主張したい。

主人公のお初は不思議な力を持ち、そのせいで人には見えないものが見えてしまう。

その秘密を知るのは兄で岡っ引きの六蔵と六蔵の妻のおよし、そして南町奉行根岸肥前守鎮衛だけである。

お初のこの力は事件を解決する鍵を六蔵に与えることがしばしばあった。

 

今回、始まりは死人憑き、死んだ人間に悪霊が憑り付いて生き返るという珍事を六蔵の手下が拾ってきたことに端を発する。

実際は死人憑きではなく一時的に仮死状態に陥っていただけと話がついたのだが、次にお初は殺された子供が遺棄される場面の残留思念を感じ取ってしまう。

さらには浅野内匠頭が切腹した庭に置かれた岩が夜になると鳴動するという怪事まで起こる。

 

バラバラに起こった凶事が『りえ』という名前で繋がっていく。

時代は大石内蔵助ら赤穂浪士が討ち入りを果たしてちょうど百年目。

あのときの遺恨が未だに残り、人々に不幸と呪いをばらまいているのか。

怪奇ミステリーとは言えば簡単だが、そこに歴史の謎解き要素とサスペンスの要素がふんだんに盛り込まれているのが宮部節だ。

 

松の廊下の刃傷事件の真実に宮部みゆきが鋭く切り込む。

この話を読むと浅野内匠頭と吉良上野介の印象がガラリと変わってしまう。

あの忠義の討ち入りにこのような見解を示す人は他にいないだろう。

そして人の心の闇、その真意の底の底まで掘って掘って炙り出すように描ける人も他にいない。

 

あちこちに散らばる事実を拾い集め、お初たちは百年前の遺恨を払うことが出来るだろうか。

歴史小説であり、捕物帳であり、怪異物であり、人情物語でもある一冊。

多く含まれる要素を見事なバランスでまとめ上げている傑作。ぜひお勧めしたい。

 

『(アイドルを目指す)もぐらのすうぷ屋さん』(著/鳩見すた)

タイトルが情報量(突っ込みどころ)多過ぎだろう。

なんとも荒唐無稽な内容そうだが、設定がファンタジーなだけでやってることは地に足着いた展開だった。

 

とあるオフィス街の地下に日曜だけ営業するスープの専門店。

店員は三匹のモグラ(正確には二匹のモグラと一匹のヒズミ)でアイドルを目指しており、レッスン費用を捻出するためにこの店で働いている。

(因みにこの店は茨城県古我市のアンテナショップで、運営(事前の調理も含め)は道の駅の関係者が行っている。日曜しか開いてないのは夜はバー営業している店を日曜の昼だけ間借りしているからである)

 

モグラはモグラなので日本語は話せない。

人間の話している内容はなんとなく理解できるが、人間の言葉を話すことは出来ない。

ではどうやってコミュニケーションをとるのか。

 

ジェスチャーである。

 

この奇想天外な店に迷い込み、かつ、気長にモグラのジェスチャーに付き合って彼らの志を理解した変人・・・、もとい、優しい常連たちとモグラの話である。

 

モグラは茨城県の田舎から出てきたのでどうやったらアイドルになれるか分からない。

なのでお客にプロデューサーになって色々とアドバイスして欲しいと頼んでくるのだ。

 

ここから華やかな芸能界に向けて煌びやかな快進撃が始まる、と思ったら間違いである。

彼らがアイドルになりたい理由は、お世話になったおばあさんを喜ばせることだ。

なので世間的に有名になることを望んでいない。

地元公民館で立派にステージに立てる(モグラの体力的に15分が限界なのだが)アイドルが目標なのである。

 

この店を偶然発見し足を踏み入れ、かつ彼らの魅力に取りつかれてしまった常連客それぞれの視線で描かれる短編連作となっている。

それぞれに違う立場の人間が主観になるので話の内容や抱えている問題がガラッと変わって面白い。

私が特に気に入ったのは第一話ですうぷ屋の虜となる相楽夏葉、の、職場の先輩である。

夏葉曰く、趣味はパチンコ、お酒、ガールズバーという人生すべてが暇潰しみたいな人だそうだが、『情報』の恐ろしさをよく知っている人であった。

 

彼の夏葉へ向けた名言「お前は『情報』で判断し過ぎだ」から始まり、彼の知り合いのブラック企業に就職してしまった人の話、食洗器をやめて手洗いにした真意、

彼は巷に溢れる『情報』をどう取り込むか、そして判断に迫られた時本当に見るべきは何かをぶっきらぼうな口調で教えてくれる。

彼が具体的にどんな話を夏葉に語ったかは本書を読んで確認して頂きたい。

SNSに情報が氾濫している現在、彼のような指南をくれる存在は大切にしたい。

 

『成瀬は天下を取りにいく』(著/宮島未奈)

 

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

本書は主人公成瀬のこの一言から始まる。

なかなかトンチキな始まり方であるが、何が起こるのかぐっと引き寄せられる一言だ。

ここに出てくる『西武』は野球チームでも地下アイドルでもない。

現役女子中学生の成瀬がひと夏を捧げると誓ったのは、西武大津店、デパートである。

 

時は2020年、1976年開業の西武大津店はこの年の8月末をもって閉店が決まっていた。

長年地元を支えてくれた西武大津店への感謝を込めてひと夏を捧げたくなる気持ちはわかる。

分かるが、成瀬がしたのは地元ローカル局の情報番組内で、西武大津店からの中継に毎日映り込むと言う事だった。

気合のわりにやることは地味である。

それでも楽しい夏休みに毎日用もないデパートに通うのは続けていくと大変な事だ。

 

徐々に成瀬の存在は認知され、声をかけてくれる人やSNSで書き込みする人も現れる。

ただ成瀬は周囲の動向などきにせず、自分の役目を遂行するかのごとく黙々とテレビに映り込む。

感情表現が下手な成瀬なりの愛情表現だとなかなか気が付きにくい。

それでも成瀬はひと月、閉店のその日まで西武大津店に通いつめ情報番組に映り続けた。

例え人から見たらトンチキな事でも成瀬は一度やると決めたら遂行するのだ。

 

 

「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」

仄かな感動と共に西武大津店が閉店した後、またもトンチキな一言から物語が動き始める。

毎回名前が出てくる島崎みゆきは、成瀬の幼馴染で気が付けば成瀬の決心に巻き込まれていく。

この時もこのまま漫才コンビを組み、M1を目指すことになってしまった。

 

何故、成瀬はこんな突拍子もないことをするのか。

時代背景を考えると彼女の気持ちが分かる気がする。

ときは2020年、そうコロナ禍真っ盛りの時代だ。

中学生になって自由が増えると思った矢先に様々なことが制限される。

気力体力好奇心がありあまるティーンエイジャーにはつらかったろうと思う。

だからというわけではないが、成瀬は出来る限りのことをしたかったのではないだろうか。

大人になった時に、あの時はコロナのせいで何も出来なかったと嘆くのではなく、コロナで大変だったけどこれだけのことが出来たと誇れるように。

 

 

成瀬たる人物は運動も勉強も優秀らしい。

それゆえ、女子に煙たがられることも多々あるらしいのだが、彼女は他人からの評価や扱いなど意に介さない。

己の道をそのまま淡々と進んで行く。

その在り方が格好いい。

かといって自分に自信がある、というのとはちょっと違う。

 

成瀬はどんな時も成瀬なのだ。

周囲の評価がどうであれ自分の存在意義を見失わない、それだけ。

そして普通の人が不安になるようなことに少しばかり鈍感でもある。

 

成瀬の魅力は私の感想くらいではいくら書いても正しく表現できない。

どうかこの本を読んで令和のニューヒロインの素晴らしさを分かち合って欲しい。

癖になるキャラクターであることは間違いないから。

 

ああ、私も成瀬のように自分の信じた道を突き進める人間になりたかった。

 

 

無類のチョコ好きな私ですが、昨今の原材料のカカオの高騰や収穫量減少に不安を覚えております。

そんな中出会った代価チョコのビスケットを先日嬉々としてご紹介しました。

(↓こちらの記事です)

チョコか? | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

 

その続報です。

 

なんと、代価チョコオンリーの板チョコ(もどき)が発売されたのです。

 

 

 

 
中身はこんな感じ。
 

 

前はビスケット地で誤魔化されてるかも?と思ってましたがこれは紛うことなきチョコの味です。

少し甘みが強いのでミルクチョコレートあたりを想像して頂くと宜しいかと。

あまりに美味しかったので一枚にペロっと食べそうになりましたよ。

(大人なので自制しました😅)

ちょっとお高めだけど、フェアトレードで売られているチョコレートはびっくりするお値段だから本当はチョコって高価なお菓子なのかもね。

そう思えば高く感じないこともない?

 

イオン系のPB商品なので『まいばすけっと』などでも買えます。

見かけた方は是非是非お試しあれ💖

 

ひまわりの種からできた、新しい選択肢 チョコか? - イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ)

 

『黒牢城』(著/米澤穂信)

時代は戦国、織田信長が本能寺で討たれる四年前。

織田に反旗を翻した荒木村重は有岡城に籠り、毛利の援軍を待っていた。

そこへ黒田官兵衛が織田からの使者として訪れ、織田に降伏するように進言する。

元々織田勢に与していた村重の離反は官兵衛にも納得のいくものではなかった。

官兵衛の説得も及ばず、村重は籠城を決め込む。

敵方からの使者はそのまま返すか切り捨てて首を送り返すのが戦国の常。

官兵衛も己の死を覚悟しての入城であったが、村重は帰すも殺しもせずに官兵衛を地下牢に幽閉した。

 

この、村重の世の習いに反した行動が物語を時代を動かしていく。

 

近隣の村をまとめての籠城は、強固な守りで囲われているが逆を言えば大きな密室である。

その中で不可解な事件が幾度も起こる。

不可解を不可解としたままでは士気にかかわると村重も調べに乗り出すが、事件解決までには至らない。

このままでは自身の大将としての資質も問われると、万策尽きた村重は牢に繋がれた官兵衛に謎を解くように持ちかける。

 

端的にあらすじを書けば謎解きミステリーだが、内容は戦国小説に他ならない。

時代小説を度々読んではきたが、ほとんどが泰平の世となった江戸時代のものばかりで、生臭い戦国物は手を出してなかった。

武士の生死観が一般のそれとは全く違う事、そして人を殺める事に対する抵抗が低い事になかなか驚愕した。

さくっと簡単に死んでいく。

いかに当時の命が軽かったのかと思い知らされた。

 

そんな死がジリジリと迫る閉鎖空間の中、徐々に城内の空気も不穏なものになっていく。

見えない空気感が伝わってくるのがまた怖い。

敵である官兵衛の謎解きは正しいのか、何か裏に考えがあるのか。

訝しがりながらも官兵衛に縋るしかない村重。

さらに城で起こった不可解な事件の裏に思いもよらぬ人物が絡んでいたことが発覚する。

 

武士の、将の、家臣の、民の、宗教家の、様々な思惑が交錯した重厚感のある物語になっていた。

村重が何故、織田から離れたか、当時の常識に反し使者や人質を殺さずにおいたのか。

その理由が明らかになったとき、官兵衛は衝撃を受ける。

村重と官兵衛の知略を尽くした対決を是非見届けて欲しい。

 

 

余談だが、この本を読んで織田信長の非道さも改めて認識することとなった。

自分で学ぶ前から祭り上げられた『織田信長』をテレビやマンガなどで見せられ、織田信長に英雄的なイメージを持っている人も多いだろう。

私もその一人だった。

大人になるに従って敵は容赦なく葬ったという裏の一面を知るようになったが、敵の兵はおろか女子供まで残虐なまま殺していたのは慄いた。

明智光秀に討たれたのは当然の成り行きといえよう。

この本を読むとその理由も説明してくれている。

『真夜中のパン屋さん 午前三時の眠り姫』

主人公の希美は不遇な人生を送っていた。

幼少期はシングルマザーの母親に祖父母の家に預けられ、その家で虐げられた生活を送っていた。

母親に引き取られた後もネグレストギリギリの生活、母はしょっちゅう希美をアチコチの家に預けてしまう。

最終的には『ブランジェリークレバヤシ』へ行くよう指示を残して消えてしまった。

全く知らない人の中に放り込まれた希美は最初こそ戸惑い抵抗を覚えたが、店長の暮林やブランジェの弘基との交流が次第に希美の心を癒やしていった。

 

気心知れた顔馴染みも増えようやく落ち着いた生活を送れるようになった希美。

しかしかつて希美を虐げていた従姉妹の沙耶が突然店にやって来て、希美の母親を探せと命じてくる。

過去の苦い思い出からようやく解放されたのに、過去のほうがやって来てしまったのだ。

加えて、沙耶の恋人やその母親、ソフィアのストーカーに沙耶の元カレまで登場し希美を翻弄する。

悪いことに問題ごとの調整役である暮林が長期不在中。

希美は渋々と問題解決に乗り出すのだが…。

 

今回の話は童話『眠れる森の美女』を引用しながら、『呪い』をテーマに綴られている。

呪いと言っても牛の刻参りとか黒魔術とか、そういった剣呑な術ではない。

他者からの言葉、『こうあるべき』という忠告が呪いとなって人を縛り付けることだ。

 

母親からの指導が呪いとなっているという人は少なくないだろう。

母親にしてみれば子供の為を思った言葉が呪いとなる。

親としての愛情を持っていたつもりなのに、皮肉な話だ。

沙耶も母からの「家族の為」と言う言葉を信じて従っていた。

問題は、そこに沙耶への愛情はなく自分の立場を守るための言葉だったことだ。

 

沙耶は母からの呪いで眠らされていたと考えている。

確かにブランジェリークレバヤシに来たばかりの沙耶は自分から言葉を発することも少なく、また感情の起伏も乏しくて何を考えているか分かりずらかった。

あれはまだ彼女自身が覚醒していなかったということなのだろうか。

母や周りの大人が主悪の根源だとしても、私個人は幼少期に沙耶や彼女の兄が希実にしてきたことは許し難い。

 

なにせ希美は、本人無自覚だがかなりお人好しである。

自分を傷付け虐げてきた人たちを流れの中でなんとなく許してしまう。

相手にも事情があったと解析し理解し納得して自分の中でケリを付けてしまう。

もっと喧嘩腰になったり嫌味のひとつふたつブツケても良いのにと、こちらが消化不良気味だ。

彼女の在り方は達観してると評してもいい。

 

また、それはあり得ないでしょと思うような無茶なお願いも頼まれるとつい応じてしまう。

周囲に対して常に腹を立て、沢山の人やモノを憎んで嫌っていた、自分を取り囲む全てを否定し拒絶していた少女だったのに。

今まで他人と関わりを持ってこなかったから頼られることに慣れてなく、即ち人からの依頼の断り方も身に付いてなかったのかもしれない。

或いは。

自分を蔑ろにしても抵抗がないほど、自分の価値に無関心なのであったのだろうか。

 

彼女が咄嗟にとる行動は正義感や倫理観に沿った正しい行いだ。

だが自分の危険を顧みず本能だけで動いていることが多い。

希美に何かあったら悲しむ人がいることをどうか覚えておいてほしいと老婆心ながら切に願う。

 

 

取材といってもSNSで「お話伺いたいのですが」とコメントが来た程度ですが(笑)

 

某えっくすでフォロワーさんと流行しているコロナ株の名前が『ニンバス』だという話から、私もニンバスにやられたと軽くポストしたんです。

そしたら某情報番組のスタッフさんから『詳しくお話を伺わせて頂きたい』とリプがきまして(;^_^A

どうやらえっくす内でニンバスと呟いた人に片っ端から声をかけているみたいでした。

 

最初は話くらいいいかぁと思ったのですが、呟いていた垢がオタク専用垢だったので前後見られてもイヤだなとお断りしました。

確かにコロナ陽性喰らいましたが、はっきりニンバスかどうか分からないし。

それにあちらさんとしては、ニンバスにかかって如何に辛い思いをしたかって話が欲しいんだと思うんですよね。

私みたいにルル三錠飲んで一日で熱下げました、ってネタみたいな話はいらないでしょう。

(詳しくは『流行が過ぎても』をご覧ください)

 

迂闊に呟くと誰が読んでいるか分からない。

そんなSNSの特性をしっかり経験させて貰った一件でした。

『11文字の檻』(著/青崎有吾)

著者のデビュー10周年記念作品集。

8篇の趣向の違った短編が納められている。

ミステリー小説だけでなく、漫画のアンソロジーに寄稿した短編やバトルアクション、SFチックな話まで幅広く収録されている。

 

中でも印象的だったのは、福知山線脱線事故を題材にした『加速していく』

実際に事件を取り扱いながら、事故は史実のままに別の物語が進んで行く。

初出が2019年の作品なので自己から随分と時間が経ってから世に出された作品だ。

事実を曲げずにオリジナルのストーリーを構築すると共に、あの事故がいかにして起こったかを忘れてはいけないと警鐘を鳴らしている。

そういった意味で長く読み伝えて欲しい一作だと思った。

 

読み解きにくかったのは『前髪は空を向いている』

マンガ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』の小説アンソロジーからの作品だそうだ。原作マンガを知らないので次々と登場する女子生徒たちに頭がこんがらがりそうになった。

が、次第に話は核になる二人に絞られていくと、著者の伝えたかった物語が見えてくる。

作中の「どうでもいいヤツとはどうでもいい話できねーだろ」と言うセリフがぐっときた。

他の人から見たら無意味な話でも、気心知れた友達と話すから楽しくて意味があるのだ。

こういう真っ直ぐな青春にオバサンは弱いのである。

 

そして表題作の『11文字の檻』

設定もとんでもないが、出された問題もとんでもない。

『東土政府に恒久的な利益をもたらす11文字』を当てないと収容所から出れないというのだ。

日本語であることと記号やアルファベットは含まない、以外にヒントらしいヒントはない。

闇雲条件に合う11文字の言葉を書き出すが、簡単に正解など出はしない。

そうした中、主人公の作家はあの手この手を考えてなんとか理論的に正解に近付こうとする。

この11文字の手探りがすごく細かくて執着的だ。

途中、必要かどうかわからない推理・考察も入ってくるがそれもエッセンスだ。

この収容所には様々なルールがあるが、よく分からないのはひと月ごとに部屋をランダムに入れ替えられるということと、一日10分だけ隣の部屋の収容者と話が出来るという制度だ。

10分だけの会話は、無理難題を押し付けているだけではなく正解に近付くチャンスを与えているという管理側の配慮かもしれない。

が、なぜ収監者の部屋をひと月ごとにあちこちと入れ替えるのか。

最後のトリックに繋がる制度でもあるので、この部屋入れ替えが行われる理由が欲しいところだった。

 

また探偵が出てくる話も多数あった。

なかなかきつめの個性を持った探偵ばかりなのだが、その個性が活かされる前に物語が終了してることが殆どである。

なんというか、出オチ的に終わる。

短編集なので致し方ないことだが、彼らの個性を存分に発揮できる話も読んでみたい。

 

 

この本、実は馴染みの古本屋で手に入れたのだが、なんとサイン本だった。

来し方に想いを馳せてしまうやないかぁ・・・。