『(アイドルを目指す)もぐらのすうぷ屋さん』(著/鳩見すた)
タイトルが情報量(突っ込みどころ)多過ぎだろう。
なんとも荒唐無稽な内容そうだが、設定がファンタジーなだけでやってることは地に足着いた展開だった。
とあるオフィス街の地下に日曜だけ営業するスープの専門店。
店員は三匹のモグラ(正確には二匹のモグラと一匹のヒズミ)でアイドルを目指しており、レッスン費用を捻出するためにこの店で働いている。
(因みにこの店は茨城県古我市のアンテナショップで、運営(事前の調理も含め)は道の駅の関係者が行っている。日曜しか開いてないのは夜はバー営業している店を日曜の昼だけ間借りしているからである)
モグラはモグラなので日本語は話せない。
人間の話している内容はなんとなく理解できるが、人間の言葉を話すことは出来ない。
ではどうやってコミュニケーションをとるのか。
ジェスチャーである。
この奇想天外な店に迷い込み、かつ、気長にモグラのジェスチャーに付き合って彼らの志を理解した変人・・・、もとい、優しい常連たちとモグラの話である。
モグラは茨城県の田舎から出てきたのでどうやったらアイドルになれるか分からない。
なのでお客にプロデューサーになって色々とアドバイスして欲しいと頼んでくるのだ。
ここから華やかな芸能界に向けて煌びやかな快進撃が始まる、と思ったら間違いである。
彼らがアイドルになりたい理由は、お世話になったおばあさんを喜ばせることだ。
なので世間的に有名になることを望んでいない。
地元公民館で立派にステージに立てる(モグラの体力的に15分が限界なのだが)アイドルが目標なのである。
この店を偶然発見し足を踏み入れ、かつ彼らの魅力に取りつかれてしまった常連客それぞれの視線で描かれる短編連作となっている。
それぞれに違う立場の人間が主観になるので話の内容や抱えている問題がガラッと変わって面白い。
私が特に気に入ったのは第一話ですうぷ屋の虜となる相楽夏葉、の、職場の先輩である。
夏葉曰く、趣味はパチンコ、お酒、ガールズバーという人生すべてが暇潰しみたいな人だそうだが、『情報』の恐ろしさをよく知っている人であった。
彼の夏葉へ向けた名言「お前は『情報』で判断し過ぎだ」から始まり、彼の知り合いのブラック企業に就職してしまった人の話、食洗器をやめて手洗いにした真意、
彼は巷に溢れる『情報』をどう取り込むか、そして判断に迫られた時本当に見るべきは何かをぶっきらぼうな口調で教えてくれる。
彼が具体的にどんな話を夏葉に語ったかは本書を読んで確認して頂きたい。
SNSに情報が氾濫している現在、彼のような指南をくれる存在は大切にしたい。