『しあわせガレット』(著/中島久枝)
中島さんと言えば時代物というイメージがあったので、意外に思って手に取った一冊。
表紙のガレットに誘惑されたということもあるが。
主人公の詩葉は派遣社員として働く三十五歳。
今まで見た目も要領も良い姉に比べられ、ひたすら日陰の人生を歩んできた。
ゴーギャンの『海辺に立つブルターニュの少女たち』に描かれた不貞腐れ顔の少女にシンパシーを抱いている。
ひとつの仕事が契約期間を終えご褒美にと入った谷根千のガレット屋で件のゴーギャンの絵に出合い、そのままその店で働くことに決めた。
店の名前は『ポルトボヌール』、幸せの扉と言う意味だそうだ。
店主の多鶴さんはパワフルな女性で、正統派ガレット(とクレープ)に強い意志をもっている。
彼女の店ではガレットもクレープもシェアは禁止。
自分の意志で選んだ一皿を頂く、それがこの店の流儀である。
これは様々なメニューからたった一皿のガレットを選ぶように、自分の意志で自分の新しい扉を開けて行った人たちの物語である。
ガレット屋『ポルトボヌール』を舞台とした短編連作小説。
現状に迷ったり悩んだりしている店の常連や関係者たちが、多鶴のガレットに勇気を貰って自分の進む道を見付ける。
中には詩葉が願うような未来と違う道を選ぶ人もいて、望む未来というのは夢だけを追い掛けるものではないと知らされる。
自分で人生の新しい扉を開けると言うことは、自分の知らない道へ歩き出すことなのだ。
この勇気がない私はなかなか新しい扉に飛び込んでいくことが出来ない(-_-;)
もう一つ、この作品の魅力は次々と焼かれるガレットやクレープだ。
種類が豊富で具材も様々。
読んでいるだけで自分も『ポルトボヌール』に居たような既視感を覚えるほど、表現がリアルで美味しい。(美味しそうではない、美味しいのだ)
新しい人生の扉を開けられない私だが、美味しさに浸れる新しいお店の扉は空けてみたいと思う。













