『文具店シエル ひみつのレターセット』(著/さとみ桜)
兄(本当は従兄)が旅から帰るまで彼の文具店で店番することになった空良。
ある事情から仕事も辞め家に引きこもっていた空良だったが、兄の為に一念発起して店を運営することに。
外の人が怖くて買い物もままならない空良だが、店に訪れる客が求める文具を共に探していくうちに客の悩みも自分の心の傷も少しずつ癒していくのだった。
内気で傷付いた空良の傍にいてくれるのは、ブサイクな看板猫の『ぶーにゃん』とぶーにゃんを拾ってきた青年(彼にも秘密があるのだが、それは大きなネタバレになるので読んで確認して頂きたい)
そして、兄が揃えた店の暖かな文具たち。
ここで取り上げられる文具がレターセットや消しゴム、革の手帳カバーに万年筆とインクと昔ながらの文房具である。空良を傷付けたデジタルのSNSと対極の存在だ。
今回の文房具は人に贈る前提で登場している。
その為、通り一遍の無難な文房具ではなく、相手が喜んでくれるもの、或いは自分の想いが籠められた確かな物を手間暇かけて選んでいく。
SNSでの発信も、情報や感情を人に届けると言う意味では贈り物だ。なのに何の精査もせず受け取った人の気持ちも考慮されない独り善がりの発信がなんと多いことか。
空良を傷付けた相手に関しては、さらに悪意を持って空良を貶めようとしていたから猶更性根が悪い。
私が作者ならコヤツに手厳しい『ざまぁ』を喰らわせるところだ。
(時間が経ち、当時の周囲の人も何があったのか察してきたようなのが救いだ)
見方を変えれば心に傷を持ち弱った状態の空良だから、迷う人に親身になって接してあげれたのかもしれない。
彼女の世界が素敵な文房具と共に少しずつ開けていくことを願う。
ちなみに私が最も共感したのは、本文ではなく作者のあとがきだった。
さとみさんも文房具に特別詳しいわけではないが、可愛い文房具や好みの文房具を見付けるとつい買ってしまう方なのだとか。
私も使うあてのないレターセットやシール、マステに判子などが机の引き出しにビッチリである。
出番を待つレターセットでさとみさんに感想のお手紙を書いてみようかな、と妙な角度から作者に親近感を持ってしまった私だった。
追記
作者のさとみ桜さんが『天童理砂』という別名義でも執筆活動をしていると知ってびっくり。
どうりで発行している本が少ないと思った・・・(;´∀`)
タイトルを読む限りファンタジーっぽいお話が多い様子。
この作品もそんな要素はありますが、基本が現実世界の話なので彼女の作品では珍しい部類かも。
それだけさとみさんが文房具好きってことかしらね![]()