『黒牢城』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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『黒牢城』(著/米澤穂信)

時代は戦国、織田信長が本能寺で討たれる四年前。

織田に反旗を翻した荒木村重は有岡城に籠り、毛利の援軍を待っていた。

そこへ黒田官兵衛が織田からの使者として訪れ、織田に降伏するように進言する。

元々織田勢に与していた村重の離反は官兵衛にも納得のいくものではなかった。

官兵衛の説得も及ばず、村重は籠城を決め込む。

敵方からの使者はそのまま返すか切り捨てて首を送り返すのが戦国の常。

官兵衛も己の死を覚悟しての入城であったが、村重は帰すも殺しもせずに官兵衛を地下牢に幽閉した。

 

この、村重の世の習いに反した行動が物語を時代を動かしていく。

 

近隣の村をまとめての籠城は、強固な守りで囲われているが逆を言えば大きな密室である。

その中で不可解な事件が幾度も起こる。

不可解を不可解としたままでは士気にかかわると村重も調べに乗り出すが、事件解決までには至らない。

このままでは自身の大将としての資質も問われると、万策尽きた村重は牢に繋がれた官兵衛に謎を解くように持ちかける。

 

端的にあらすじを書けば謎解きミステリーだが、内容は戦国小説に他ならない。

時代小説を度々読んではきたが、ほとんどが泰平の世となった江戸時代のものばかりで、生臭い戦国物は手を出してなかった。

武士の生死観が一般のそれとは全く違う事、そして人を殺める事に対する抵抗が低い事になかなか驚愕した。

さくっと簡単に死んでいく。

いかに当時の命が軽かったのかと思い知らされた。

 

そんな死がジリジリと迫る閉鎖空間の中、徐々に城内の空気も不穏なものになっていく。

見えない空気感が伝わってくるのがまた怖い。

敵である官兵衛の謎解きは正しいのか、何か裏に考えがあるのか。

訝しがりながらも官兵衛に縋るしかない村重。

さらに城で起こった不可解な事件の裏に思いもよらぬ人物が絡んでいたことが発覚する。

 

武士の、将の、家臣の、民の、宗教家の、様々な思惑が交錯した重厚感のある物語になっていた。

村重が何故、織田から離れたか、当時の常識に反し使者や人質を殺さずにおいたのか。

その理由が明らかになったとき、官兵衛は衝撃を受ける。

村重と官兵衛の知略を尽くした対決を是非見届けて欲しい。

 

 

余談だが、この本を読んで織田信長の非道さも改めて認識することとなった。

自分で学ぶ前から祭り上げられた『織田信長』をテレビやマンガなどで見せられ、織田信長に英雄的なイメージを持っている人も多いだろう。

私もその一人だった。

大人になるに従って敵は容赦なく葬ったという裏の一面を知るようになったが、敵の兵はおろか女子供まで残虐なまま殺していたのは慄いた。

明智光秀に討たれたのは当然の成り行きといえよう。

この本を読むとその理由も説明してくれている。