「お前、さっき、会議室の前にいただろ?」 



「…」



「何もないから、安心しろ。そもそも、好きでもないやつと飯に行くほど、俺は暇じゃない。時間が勿体無いだろ。」



「…」 



「おい、聞いてんのか?」








…胸の中で、ちゃんと保てていたはずだった。 





…それなのに、、 






-あっけない程に、脆く崩れた。







「…じゃあ、どうして私といる時はそんなに素っ気ないの?」 



「はぁ?」 


眉間に皺を寄せるように彼が私を見る。



「なんで、私には優しい言葉をかけてくれないの?なんで、私の予定は気にしてくれないの?それって私のこと大切にしてくれてないじゃない。」 




「お前、何言って…」 


 戸惑いを含む表情の彼に、畳み掛けるように話す。




「私のこと、、本当に好きなの?」 





「何で何も言ってくれないの?あの時のことは何だったの?!


…もういい!」 






そう言って、私は彼の横をすり抜けるように去っていった。 







===========







 





…終わった。 






私の言ってることって意味不明だったと思う。 


自分でもわかる。めちゃくちゃだよね。 


本当はこんなこと言うつもりなかったのに。 







こんな私なんてもう嫌になっちゃったよね。。。 






… 




==========



それから数日後のことだった。 


嫌なことは重なるもので… 









「わ、私ですか?!」 



「ああ。何でも君にお願いしたいとのことでね。そういうわけで、はい、これ資料。今から、提携先の会社に行ってくれ。」 



上司にそう言われて資料を渡されると、会社を出て提携先の会社へと向かった。 







…何で私が? 








*******








コンコン。 





「…失礼します。」 





提携先の会社に到着し、案内された会議室の中へ入ると…


そこにいたのは、私が今、最も会いたくない人物だった。




「…資料、持ってきたか?」 



「え?あ、はい。これ。」 




その人物とは、もちろん彼のこと。 




「お前さ、この内容、専門分野だったよな?今回もその部分について不備がないか確認してもらいたいんだ。」 

 


「あ、うん。わかった。」 



…何だか、、いつも通りというか。

拍子抜けだった。 




「…何だよ?」 



「ううん、別に何でもない。」 



しまった…!

彼のことじっと見ちゃってた!! 


内心、あたふたする。 




「…最近は新事業の打ち合わせで、ここの会社にいることが多いんだ。」



「そうなんだ。大変そうだね。」 



「…まぁな。」 





 … 





 …何気ない会話なんだけれど、何となく緊張感が漂っているように感じた。 




そんな中、彼が口を開いた。





「……今日の帰り、時間あるか?」 



「え?…う、うん。大丈夫、だけど…?」 




 …?? 




「…帰り、お前が行きたいって言ってたイタリアンの店、行ってみるか? 


今日だったら時間あるし、この前は途中で俺が帰ったから…その続きっつーか。ま、さすがにこの前と同じ店ってのは無理だけどな。笑」 







 …彼が何を言ってるのか、よくわからなかった。 








予想すらしなかった彼の言葉。 








その言葉をようやく理解した時、頭の中で素通りしていた記憶が巻き戻されていった。







〝好きでもないやつと飯に行くほど、俺は暇じゃない。時間が勿体無いだろ。〟







…あ、、、 







〝お前、この店行きたいっていってただろ?〟








…ああ、、、 









…こんなに忙しい中、私のために時間作ってくれてたんだった。 



…私の話してたこととか覚えてくれてたんだった。




…今も、こうやって。





彼との何気ない会話や彼の行動を思い返すと…



その中心にはいつも私がいた。 






…何で気づかなかったんだろう? 




…私は、彼のどこを見ていたんだろう? 






今となっては、さっきまでのどんよりしていた自分が、遠い昔の記憶のような、全く別の世界に存在していたような、

そんな感覚にさえなってしまっている。






今はもう、素直に言える。






「ありがとう。嬉しい。」






さっきまでの憂鬱が、幸せに変わった瞬間だった。






*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*





エレベーターの前で彼に責め立てたこと、その後、彼がそれについて何も触れることはなかった。



変わったことといえば、一緒にいる時間が少し増えたようには思う。



ただ、私はまだ彼に自分の想いを伝えてはいなかった。






…そんなある日のことだった。






「え?!来月?…来年って言ってなかったっけ?」



「ああ。本格的に向こうで仕事するのは来年からなんだけど、その前に色々やることがあるんだ。


来月行くっつっても、2ヶ月くらいの滞在でまた日本に戻ってくる。」




…いつも、本当に急なんだもん。







無言な私に彼は言う。



「…何だよ?俺と離れるのがそんな寂しいか?笑」


そうやって揶揄ってくる。いつもの彼だ。




…きっと彼は、私のこんな言葉が返ってくるなんて思いもよらないと思う。




「…当たり前じゃん!!…寂しいよ。すごく。」




…だって、本当なんだもん。









…今私はどんな顔をしているんだろう? 



そう言った私を、面食らったような表情で見てくる彼がいた。












…意地を張っても何の意味もない。







…こんな私だって、私なんだもん。









…そんな中、私はぽつり、ぽつりと話し始めた。



何だか彼の顔を見れなくて、自分の手元に目を向けたままで。






「…向こうに行っても、ちゃんと連絡してくれる?」




彼は何を思って聞いていたんだろう。




「…ああ。」




私の問いかけに少し間を置いて、そう一言、静かに答えた。





「電話も…出てくれる?」




「ああ。」




「来年以降もだよ?…どうしても会いたくなったら、会いに行ってもいい?」




「ああ。」




「それから、、、えっと、それから、、」




「まだあるのかよ?笑」




「……。」




「それから?なんだよ?笑」
























「…好き。」






俯きながら一言、そう呟いた。







俯いたままの私に近づいてきたらしい。俯く視界に彼の足元が見えた。




そして、私の頭にポンと何かが置かれる。




…彼の手だ。




それに気づいてふと顔を上げると。


彼は姿勢を屈めて私の視線に合わせてこう言った。













「…ああ、知ってる。」


















…言葉が出ない。






いつもはそんな顔しないくせにずるい。






そんな顔されたら、何も言えなくなっちゃうじゃない。






だって…






まるで大切なものを見るように、私を見てくるから。






この瞬間が、すごくすごく温かいものに感じちゃったから。









あなたの愛を感じちゃったから。












そして、私の頭から手を離して姿勢を戻すと、彼は私にこう言った。




「3年っていったけど、1年で終わらせてくる。来月から行くのも、それが理由だ。」



「1年?!」



「ああ。そうだ。」



「でも、そんな短期間でなんて…」



そう言って彼に視線を向けると…





「俺を誰だと思ってんだよ?笑」





不適な笑みで私を見下ろすその様に、不覚にもドキッとしてしまった。







きっとこの人なら本当にやり遂げてしまうんだと思う。そう思わせるような圧倒的な強い何かを感じるんだ。 







「…ほら、これ。」



そう言って、私にワイングラスを差し出す彼。



「あ、うん。ありがとう。」





今日は彼の家に来ている。


ワインでも開けようかって話してた時に急にこんな話をしてきたからびっくりしたんだ。




…本当にいつも勝手なんだから。


 



彼って本当によくわからない。



素っ気なくて、連絡もあっさりで、強引なところもある。わかりにくい優しさだから、見逃しちゃうこともあるし。


でも


困った時はすぐに駆けつけて助けてくれて、

いつだって頼りになって…














…あ、、、





…そっか。





…そういうことだったんだ。








そんなことを考えている中で、ふと気づいてしまった。



それは、今までどうして気づかなかったのか不思議なくらいに



私にとって大切なことだった。










あの時の寂しさも、苛立ちも…



私の心が〝私〟にずっと言っていたんだ。





この思いを伝えたいんだって。



お願いだから気づいてって。







「…どうした?」


じっと見つめる私に気づいたのか、不思議そうな表情を浮かべながら問いかけてくる彼。





…遅くなってごめんね。今、受け取ったよ。

〝私の心〟の気持ち。




だから、ちゃんと伝えるね。






今度はしっかりと彼に顔を向けて、こう言うの。








「あなたのこと、全部…大好き。」


 






そんな私の〝心の思い〟を、言葉に込めて。