ライオンのおやつ | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

(あらすじ)※Amazonより

人生の最後に食べたいおやつは何ですか―
若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。
―食べて、生きて、この世から旅立つ。
すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。

 

※ネタバレします。

 

◇◆

 

2020年の本屋大賞第2位の作品である。

以前の記事『』でもほかでも書いたかもしれないが、私の中で

「受賞作品がなぁ・・すごくいい作品が選ばれる時もあるんだけど・・・」

という微妙な評価の本屋大賞であるが、それではこの「ライオンのおやつ」を抑えて堂々の第1位に輝いた2020年の作品はなんじゃろな、と調べましたら

 

 

凪良ゆう『流浪の月』であった。

 

うん、知らん。

いや、もとい。

知ってはいるし、なんなら手元にもあるのだが、積ん読本として読まないまま本棚横に積み上がっている。いずれ読むであろう。多分・・。

 

そして話がそれるが、2022年の本屋大賞に

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

が選ばれていた。

今のこの複雑な世界情勢にリンクしている内容が受賞に勢いをつけた、ということも多少あるだろうが、それとは関係なくこの受賞に文句なし。

やんややんや。めでたいめでたい。

 

 

この作品は第166回直木賞候補作品でもあったのだが、第166回直木賞を受賞したのは本屋大賞では第9位(候補作中下から2番目)の米澤穂信の『黒牢城』であった。

文学賞って難しいですな。そりゃ毎度外しちゃうのも無理ないよね!!!!!←!の数

 

なんかこう、本屋大賞受賞作品の傾向がわかる気がする~。

良くも悪くもストーリーや時系列がわかりやすい作品で、複雑な構造の作品は敬遠されるのかもしれん。

 

それはさておき、こちらの「ライオンのおやつ」だが、上記のあもちゃんが独自にはじき出した、受賞作品の傾向の調査結果から言っても本屋大賞を受賞してもおかしくないと思われる作品であった。よって第2位という数字も納得である。

 

私が作者である小川糸さんと出会ったのは、代表作『食堂かたつむり』であった。

 

 

この作品を読んだ時の印象はこうであった。

 

「文章はまだまだ稚拙、構成力もまだまだ。

 事件が唐突に起こり,特にそれが伏線というわけでもなく,尻切れトンボでだったりするのが気になる。

 だが、個性的でふわふわの世界がよく描けている。パステルカラーの世界。」

 

へたっぴだけど魅力的。

それが小川さんの第一印象であった。

 

そしてあれから十数年(時の経過、こわっっ!!)。

こちらの「ライオンのおやつ」の印象。

 

文章力はそこそこ、構成はシンプルで分かりやすい。

いやいやそんなバカな・・・

そうであったらいいけどさ・・・

ということも多々描かれるけど、

そうであってほしい・・・と夢を見させてくれる、小川さんにしか描けない優しいパステルカラーの世界、そして胸いっぱいに広がる柑橘の匂い。

 

以上です。

十数年前の評価とほぼ同じ笑

 

評価の分かれる作品であるとは思う。

とにかく描かれた全てが現実的ではないのだ。

人間が死を迎えるのにこんなに甘酸っぱいものなのだろうか。

死を迎える人間に対し、こんなにも心を穏やかにさせてくれる豊かなホスピスがあるのだろうか。

そして死を迎えたアチラの世界の人が突然出てきたりするので、えええぇぇ〜?ってなる人もいるだろう。私も実際、ずっこけました。

それでもそんな無茶苦茶なストーリーを納得させるだけの力・・というかもはや小川さんだけにしかないと言ってもいい、唯一無二の魅力がそこにはある。

 

その最大の魅力が料理!!!!!

「食堂かたつむり」でもそうだったが、とにかくご飯を丁寧に、そして優しく描く。レシピレベルの細かい描写もある。

その1つ1つにたとえちょっとしたお菓子や料理であっても小川さんは丁寧にパステルカラーの魔法をかけ、読者はふわふわと夢見心地でそれらをいただくのだ。

毎度テキトーに豪快な男の料理と言うべき大皿料理を繰り出すあもちゃん、この本を読んだ直後は「丁寧に生きねばなるまい」と反省して手の込んだ料理とか作っちゃったもんね。

(そして翌日には男の料理に戻る。反省とは?)

 

誰でもいつかは死ぬ。

それは交通事故かもしれないし、病気かもしれないし、天災かもしれないし、それはわからないが誰でも平等にいずれ死はやってくる。

その死を私たちはどのように迎えればいいのだろう。

 

主人公の雫が若くしてガンを患い、手の施しようがない状態となり、最期を迎えるために終末医療機関(ホスピス)「ライオンの家」に移るところから物語は始まる。

少しずつ弱っていく雫の姿は健気でその健気さが逆に辛かったが、そんな辛さも小川さんのパステルマジックで読者も優しく見守ることができる。

だんだん命の灯火が消えていく過程では、時折身体中が痛そうな描写も挟まれ、ついパステルマジックでふわふわさせられちゃっていたが、雫はがん患者で命を削っているのだ、ということを思い出させてくれる。

 

きっと雫の最期に私、泣いちゃうんだろうなあ・・・

と(電車内で泣かないように)心して読んでいたら、まさかの変化球で物語中盤に超弩級の号泣スポットがありまして、ヤバイヤバイ><と涙をこぼさないように慌てて目を見開く私であった。←変なおばさん。マスク生活も悪いことばかりじゃない。よかった〜。

子供が死ぬのはたとえ他人であっても、物語の中であってもツライ。うぐ。←思い出し泣き

 

「ライオンの家」には主人公の雫だけじゃなく、たくさんの終末期を迎えた患者さんがいて、一人一人が人生の物語を抱えている。

そんな一人一人にライオンの家の家主であるマドンナが常に静かに寄り添う。

優しいおやつを出し、優しく話を聞いてくれ、そして優しく語る。

こんなに患者に寄り添ってくれるホスピスってきっとないよなあ・・・

(あったとしても私ら庶民が到底支払えないレベルのどえらい金額がかかりそう汗)

 

だんだん体が痛みで辛くなってくると、モルヒネなどの処置も施される。

その中で人生で一番幸せだったことなどを問われ、そして語っていく。

 

一番幸せだったことを問われたら私は何を思い出すかなあ・・・

といずれやってくる死を前に、自分が何を思い出すか考えてみたり。

 

いよいよ最後の段階に入ると、眠っている時間も多くなり、意識もあったりなかったりする雫。

夢か現か・・の状態で見ている夢(新薬完成のニュース)が切なかった。

 

そして物語の最初からわかっていたように予定どおり雫は命を終える。

そこからアチラの世界の人やらこの世に残された人たちの物語が少し綴られる。

アチラの世界の人の話も「え〜?」だったのだが、それ以上にこの世に残された血のつながっていない妹が割と長話し(←言い方!)でえ〜?!だった。

今まで会ったことのない姉にそこまで愛情深く思えるもの〜?と冷酷な私は思うのでした。

それでもまあ、そこはご愛嬌。

小川さんのパステルマジックで誤魔化されてあげることにした。

 

小川さんの優しい語り口に終始心がほんわかするいい作品でありました。