食堂かたつむり | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。


食堂かたつむり/小川 糸

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こんな作家がいるなんて知らなかったなあ。


文章はまだまだ稚拙、構成力もまだまだ。
事件が唐突に起こり,特にそれが伏線というわけでもなく,
尻切れトンボでだったりするのが気になる。


だが、個性的でふわふわの世界がよく描けている。
パステルカラーの世界。


構成力は稚拙といったが、
主人公倫子が思い出の樹に登り、
髪の毛をジャキジャキ切って、風に髪の毛が流れて飛んでいくシーンは
まるで、ミュージックビデオPVのよう。
映画というより、コマ送りの動画を見ているようなのだ。
もしくはCM。


パステルカラーの動画に,
クレヨンで風の流れを書いたり,
おいしいご飯やステキな植物を書いたり・・
そういう世界。


さて,あらすじは・・・


主人公倫子が同棲していた恋人に全財産持ち逃げされ,
二人で住んでいたアパートに残されたのは,ぬかづけの壺,1個。
行くところもなく,仕方なくぬかづけの壺をかかえて実家に戻ることにする。


実家には,お世辞にも仲がよいとは言えない母がいる。
そこでただのんべんだらりと過ごすわけにも行かないので,
そうだ,私には料理があるじゃないか。
実家の土地を少し借りて,食堂を開こう。
1日1組だけの食堂を。


というお話。


食堂の準備するところなんて,私も自分のキッチンとか片付けたくなった。
というか,実際片付けた。
リネンでテーブルクロスとか縫ってみたくなった。
というか,縫うぞ。


女の子にはたまらない世界じゃないかと思う。
これに触発されて,カフェとかやりたくなる人もいるかも。


ただ。
私はこの作品のいいな,と思うところは,
ただのほのぼのストーリーじゃないところ。

食べる,ということに関して,あらゆる角度から食材を見つめているのだ。
命を食べる、ということを分かりやすく残酷に正しく表現する。
屠殺シーンが出てくるのだが,ものすごく詳細。
動物がどうやって肉になり、私たちの口に入るかをしっかり書いている。

彼女は,その動物の血までも無駄にすまい,とすべてを食材として料理した。
もやしのひげも命を宿している、と考え,
少しも無駄にしないように料理する姿は神々しい。

私も少しでも丁寧に作り、食べたいと思う。


だからいただきます、なのだ。


食べる、という行為や、作る、という行為はこうも繊細なのか?
私たちはのんべんだらりと食べてはいけない。


とまあ,べた褒め,という印象かもしれないが,
アラがかなり目立つのも確か。


願いの叶うレストラン,だなんて,読んでいるこっちがこっぱずかしくなるし,
食品衛生法等の法的な面ではクビをかしげてしまうし,
設定が田舎だから,ということでは理由にならない。
物語の積み上げ方がかなり雑,という印象はぬぐえない。


ただ。
この本を読んで,
私はおいしいご飯が無性に食べたくなった。そして作りたくなった。