泥濘 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

(あらすじ)※Amazonより
 警察OBのドンを相手に一歩も引かない桑原と二宮を待つ運命は? ドンデン返しに次ぐドンデン返しのスピード感がたまらない、疫病神シリーズ間違いなしの最高傑作。

 

「待たんかい。わしが躾をするのは、極道と半グレと、性根の腐った堅気だけやぞ」
疫病神シリーズの名コンビ、桑原と二宮が帰ってきた! 

今度の標的は警察官OBが作る自称・親睦団体の「警慈会」。老人ホームにオレオレ詐欺。老人を食い物にする腐り切った警察OBに二人は挑むが、二宮は拉致、桑原は銃撃を受け心肺停止になってしまう。
「おまえ、おれを脅しとんのか」

「脅し? わしは値踏みをしてるだけや。おまえがどれほどのワルか、をな」

「社会のダニが一人前のことをいうやないか。ダニはダニらしいに、女のヒモになるか、シャブの売人でもして食うたらどうや」

「わしはダニかい」

「ダニはいいすぎた。クズや、おまえは」

 

老人ホームにオレオレ詐欺。老人を食い物にする警察官OBグループのシノギを、二蝶会への復帰が叶った桑原と二宮の疫病神コンビはマトにかける。しかし二宮は拉致され桑原は銃撃を受け心肺停止に。予測不能なドンデン返しにつぐドンデン返し。絶体絶命の二人を待つ運命は?

 

※後半、ネタバレします。

 

◇◆

 

黒ちゃん(黒川博行)の『疫病神シリーズ』の最新刊である。

演劇を観に行った(後日アップ)帰り、たまたま本屋の前を通りかかるとその日がちょうど発売日だったらしく、大きく宣伝してあるのを発見!

私より先に汗かき夫が

「あもすけ、黒ちゃんの最新刊買おう!」

と言い、私は余計な金を出さずに、タダでゲットできた!やった〜!

 

あの直木賞選考会以来、汗かき夫も『疫病神シリーズ』ファンである。

 →汗かき夫が参加?した直木賞選考会の様子はこちら・・・

  『もう一つの直木賞選考会(第152回)〜番外編〜

 

私が黒ちゃんの『破門』で直木賞をズバリ当てたのに、書評も書いていない〜。

しかも疫病神シリーズを全部読破してるのに、1つもかいてな〜い。

いずれ書きます・・たぶん〜。

 

黒ちゃんの『破門』で見事あもる一人直木賞選考会でホームランをかっとばした様子はこちら。

→『あもる一人直木賞(第151回)選考会ースタートー

→『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー途中経過1ー
→『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー途中経過2ー
→『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー結果発表・統括ー

→『ホームラン速報。

→『本物の直木賞選考会(第151回)~結果・講評~

 

もう4年も前の栄光に未だにしがみつくあもちゃん(笑)

 

ちなみに黒ちゃんの疫病神シリーズで一番よかったのはやはり直木賞受賞作『破門』、そしてその次がこのシリーズ最初の『疫病神』であったことはどこかで言ったはず。

 

破門 (角川文庫) 破門 (角川文庫)
943円
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疫病神 (新潮文庫) 疫病神 (新潮文庫)
473円
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そしてこのたびこの新刊を読んだ結果、順位が変わりました!!

『破門』と良い勝負してる!!

Amazonの作品紹介の

「疫病神シリーズ間違いなしの最高傑作。」

という言葉もあながち嘘ではなかった。

 

冒頭からいきなり二宮がピンチに見舞われるのもなかなか新鮮で衝撃的であった。

こういうシリーズものは段々読者も慣れてきて、言うなればマンネリという言葉がチラホラ出てきてしまう。そういうのもあってとにかく最初が肝心だと思っているのだが、いきなりやられた〜と痛快な気分で読み進めた。

いつも黒ちゃんは攻めている。そういう黒ちゃんがいい。

 

疫病神シリーズも回を重ね、二人の関係や事件についてもそろそろ飽きた、という声も聞こえてこなくもないが、私はちっとも飽きない。黒ちゃんの攻めの姿勢に今回も大いに楽しませてもらった。

しかもお気づきでない読者も多いと思われるが、二人の関係が少しずつ変ってきていることに私は注目しております。

そして取り上げられる事件も今の時代に沿ったものになっていて、今回はオレオレ詐欺や介護施設関連の詐欺、そして警察OBなどのずぶずぶの関係がとりあげられていて、やっぱり新鮮だった。

桑原と二宮の会話がとてもリズミカルで、なんだかんだ飽きたと耳に入ってきてもやっぱりおもしろい。二人の丁々発止がいちいちおもしろい。

インコのマキちゃんも本当にかわいい。

『破門』からマキちゃんが登場したのだが、マキちゃんが直木賞受賞の功労者と言っても過言ではない。

「ソラソウヤ、ソラソウヤ」←しゃべるインコマキちゃんのよく言う言葉。

マキという名前もいいし、本当にかわいいオカメインコなのだ。

 

いつまでもこのシリーズが続けばいいな・・と思うのだが、ただこの先、疫病神シリーズは黒ちゃんが書いていくのが難しくなるかもしれないなあ、とも思う。

作品内の二宮と組長の嶋田さんとの会話で

通称暴対法(暴力団対策法、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の関係でヤ◎ザさんが本当に肩身の狭い世の中になってきている

というものがあった。

嶋田さん、車の後ろにのっててもシートベルトはちゃんとするらしい笑

どこから警察がしょっぴくかわからないから、つねに用心深くしているとのことであった。

 

疫病神シリーズの最初の『疫病神』で普通に桑原と二宮が普通にやっていた行為が、今はNGであることも多いと思う。

時代が変れば、法律も変わり犯罪も変化し、よって小説の内容も変わらざるを得ない。

今回も暴対法に最大限配慮しながら、いかにおもしろく描くか、黒ちゃんの苦労の後が見えた。

いいヤ◎ザも悪いヤ◎ザもない。ヤ◎ザはヤ◎ザなのだ。それでも黒ちゃんはヤ◎ザの桑原を最大限かっこ良く描く。

 

二宮が、桑原が銃撃されて瀕死の状態であった時に中川(刑事)に

 

「あいつ(桑原)はどうしようもない疫病神です。粗暴で大ホラ吹きで愛想の欠片もないけど、(略)ヤ◎ザのくせに契約という概念があって、とりあえず金にはきれいで、いったん口にした約束は守るから(略)なんべんかは助けてもろたこともあるし(略)昨今はめったと見られん珍しいタイプの、絶滅危惧種のヤ◎ザですわ」(473頁)

「おれは桑原に生きて欲しいと思てます。たとえ、おれの手が後ろにまわってもね。」(476頁)

 

と言うところで、ああ二人の関係は変ってきたんだな、と思うし、それ以上にこの二宮の台詞はきっと黒ちゃんの思いなのだ。

 

その後、奇跡的に意識を取り戻した桑原が病院のベッドで二宮と話しをするシーンがさらに印象的であった。

 

足の神経がきれているかもしれない、一生車いす生活になるかもしれない。もしそうなったら故郷に帰って崖からダイブする。

そういう強気に弱気がないまぜになった桑原の姿は印象的であった。じーんとしてしまった。極道に同情なんかする私ではないのに〜。

 

しかしその後退院した桑原の様子を下っ端のセツオから聞くと

「ああ、半月板が割れたらしいです」

という。

 

ズコーーーー!大げさすぎるやないか!!!

というオチつきがたまらなかった。

 

しかも、そこからのラストが本当にいいの。

この作品で起こっていた様々な事件についての後日談が新聞なり、刑事なり、組長さんなりから聞くことで解決をし、読者もなるほどそういう結論になったのね、と全て解決しておしまい。

かと思いきや。

 

「桑原とは警察病院の見舞いのあと、顔を会わせていない。」

 

で終わるのだ。

少し前に漏らした桑原の泣き言がここで効くんだと思う。

 

感傷的過ぎず、でも切ない感じ、乾いた風に花びらが舞い散る感じがたまらない終わり方であった。

疫病神シリーズにおける二人の関係性の最終的なカタチであり、そしてこの先どうなるのか・・と思わせる終わり方でもあった。

 

二人の関係が色々と変ってきたところで、黒ちゃんは疫病神シリーズを書き続けてくれるのかなあ。と若干心配になってきた。

シリーズ最高傑作とも言えるこの作品で終わりになってしないでしょうね・・・。

 

(色々な意味で)続きが気になって心配で夜も眠れません!!!

 

 

ところで私は、ものすごくポカをおかしていたことをこの作品を読んでいる途中で気付く。

若頭だった嶋田さんが組長になっていて、いつの間にか破門が解かれていた桑原。

その他色々がだいぶ飛んでる気が・・・と思い、なんかいや〜な予感がする・・と調べてみたら案の定、あもちゃんはぬかっていた。

 

喧嘩 喧嘩
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『破門』と今作品の間にこの作品があった!!!!

しまった〜。あもちゃん、ポカしすぎー。

早く読まなくちゃ!!!

 

このシリーズはどの作品から読んでもちゃんと分かるようになっているので、飛ばしたことが読書に影響があるわけでもなくそのこと自体はどうでもいいのだが(現に私は『破門』が初めての作品であったにも関わらず、これが直木賞を獲る!と宣言したくらいなので。)、黒ちゃんの疫病神シリーズを愛するものがやっちゃいけないポカをしたことが情けないだけ〜。

 

そんなポカスカあもちゃんの反省はさておき、今回の『泥濘』から初めて読むという方でも充分楽しめる設計になっておりますので、安心して読んで楽しんでいただきたいものである。