夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その8
このフライ・アングラー的にインチキっぽい試行錯誤には、すぐに回答がでた。対岸の藪下にキャストして、沈めたスピナーにアタリがでて、銀色の小さな魚体が跳ねた。35センチほどのシートラだった。ルアーは、黒いスピナーを使用した。というのも、ポイント上手のザラ瀬で、黒っぽい小魚が跳ねていたからである。おそらくキュウリウオ科のガラクシアス属だったと思う。シートラは、こんな小魚を食べているんだろう。
とにかく1匹め
同じポイントで続けてもう1尾、僅かに大きめも食った。40センチくらいかな? 渓流のスピナー釣法は、まだ極東島々に在住していたとき、さんざんやっている。でもヨンマル級の野生(放流ボロマスを除く)は、本州では釣ったことがなかった。南部パタゴニアとしては、まったく小さいけど、ちゃんと降海型の特徴を持っていて、まるでブラウン・トラウトには見えない。どちらかってぇと、小さなサーモン風。
なんとか2匹目
余談だけど、極東のネット上に、こういう怪しい記事(一部削除&書き込みあり)が、まことしやかに載っている。
『消費者庁が公表したメニュー表示のガイドライン案について、外食業者や消費者団体などとの意見交換会が開かれました。そこで、具体的に不適切な表示とされたのが「サーモントラウト」。「サーモントラウト」は、標準和名が「ニジマス」(????)であり、「サケ」や「サーモン」と表示するのは景品表示法上、問題があると指摘したことにより、テレビ・新聞・ネットなどさまざまなメディアで議論が勃発しました……』
サーモントラウトってのは、主にチリで養殖されている輸出品だね。しかし、オレが知っている限り、チリサーモンの種は、95%くらいがアトランティック・サーモン(サルモ・サラー)で、5%くらいがニジマスという割合だ。上記の標準和名が「ニジマス」……と決めつける見解は、どこのダレが捏造したんだ?
アトランティック・サーモン
もともとブラウン・トラウトは、アトランティック・サーモンと同じサルモ属である。降海型が似ているのは、アタリマエである。さてさて、ルアー試釣のおかげで、狙い方の方向性がイメージできた。それが翌日の夕方、FFでばっちりと生かされる結果になってくれた。まあ、今日はこのくらいで満足しておこう。勝負はこれからだ。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その7
初日の釣行場所は、まず至近距離のガジェゴス川の中流にした。ガストンの車で、100キロほど舗装路を走り、ベジャ・ヴィスタというロッジの先で停める。このロッジは、スウェーデンのフライ・タックルのメーカーであるループ社の息がかかっていると聞いている。同時に、料金が高いという
話しも聞いている。ガストンも、そうだ、高いぜ(笑)、と言っていた。
ベジャ・ヴィスタ・ロッジ
ガジェゴス・チッコというクリークに沿って500mほども進むと、ガジェゴス川の本流岸にでた。この季節のシートラ(シーラン・ブラウン)は、それほど深くないところにいるとガストンがいう。そこで選定したタックルは、オービス9フィート#8番、シンク・チップのインターミディエイト、フライはニンフである。思っていたより弱かったけど、けっこう風があってラインが投げにくい。斜め下流にキャストし、メンディングを軽くくれて、下流までニンフを流し、ゆっくりと引くけど、ときどきニンフを下流に流す操作をする。シートラが食うのは、フライが漂い下るときだからである。
ガジェゴス川の本流
午前中、小さなアタリが2回きたけど、フッキングできなかった。車で少し移動して、午後はやや下流を攻める。大きなワンドでトラウトのライズがあったけど、かなり遠くて、そこにはウェーディングしても歩いていけない。下りながら釣ったけれど、まったくアタリがな~い(汗)。もうパタゴニアの遅い夕暮れも近づいてきちゃった。こういう時って、疑心暗鬼に陥る。始めてのターゲットで始めての場所、ただ単にフライを流しているだけじゃ、まったく感触がつかめな~い。ザラ瀬が深みに落ちこむポイントに来たとき、オレは一計を案じた。アマゾンでもやるけど、まずは釣れる方法から試してみて、次に難しい方法に生かす。流し方やフィーディング・ポジションを判別し、心に巣くった疑心暗鬼をまずは溶かし消す。そう、得意のルアーで、とにかく1尾を釣ろう。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その6
オレには長年に渡って、温めてきた夢があった。ここまで伏線を入れてると、即座に判るはずだけど、そう南部パタゴニアの釣り行脚である。さらに、もう一つの思いいれもある。キャップテン・クックのエデンヴァー号探検隊員バンクスが採集し、150年以上も1頭も採れてない昆虫がいる。鱗翅目・シロチョウ科・モンキチョウ亜科、モンキチョウ属(コリアス属)のポンテニィである。以前は、コリアス・インペリアリス、和名でコウテイモンキチョウ(皇帝紋黄蝶)として知られていたんだけど、学名記載の先取権で、改名された。
ポンテニィの模式標本
ポンテンモンキチョウ標本は、ロンドンとストックホルムの博物館に所蔵されている、たったの11個体しか現存していない。それらの色彩パターンは、パタゴニアに生息するモンキチョウ類と類似があるから、間違いなくこの地方に生息していたのだろう。いや、もしかしたら生き残っているんじゃないだろうか? 荒野の谷間でフライ・ロッドを振っていて、ふと下草の小さな花をみると、そこに見慣れぬ黒い縁取りのモンキチョウが…… って、なんか夢があるじゃない。
ガジェゴス川の河口部の空撮
2017年3月、オレはアジトから旅立った。ベレン、サンパウロ、ブエノサイレスと長い旅程を経て、アルゼンチン航空機で、リオ・ガジェゴス市に到着した。空港から外にでると、想像していた寒冷な風が頬をうった。オガワァ…‥、とオレに声をかけたのは、現地フィッシング・ガイドのガストンだった。彼のハイラックスで、予約してあった市内のホテルに入る。フィッシング・ライセンスを受け取り、そして今回釣行のミーティングである。さあ、いよいよ夢が始まる。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その5
緯度が低いパタゴニア・アウストラル地方の独立河川は、河口部であっても水温がたいへん低い。この環境では、河川で孵化したトラウト稚魚が河口まで下りやすく、海に入るのも容易だ。ご存知のように、サケ・マス類は、本来的に海に下って豊富なエサで成長して河川に戻ってくる。虹鱒が海から戻ってくると、スチールヘッド・トラウトとなる。ブラウンがそれをやると、シーラン・ブラウンあるいは、シートラウト(略してシートラ)になる。この2種類が遡上する河川が、パタゴニア・アウストラルにいくつかある。
パタゴニアのスチールヘッド
シーランしてきた鱒たちの特徴は、まず大型になれること。南極方面の海には、ナンキョクオキアミがたいへん豊富である。つまり、ここの海ではエサにまったく困らない。魚の体液と海水との間に浸透圧が少なくなって、魚に負担が軽減されるから、健康にすくすく育てる。もう一つの特徴は、
海水適応によるスメルト化(銀毛現象)である。すなわち、全体がプラチナに輝き、魚体はサーモン・シルバーとなる。
ヨコエビの一種
トラウト個体によって、パタゴニア・アウストラルでも海に下らないヤツもいる。それは、河川型あるいは居着き(レジデンス・タイプ)と呼ばれていて、その色彩は濃くて鮮明である。パタゴニア河川湖沼には、ヨコエビ類が多く生息し、水棲昆虫&陸生昆虫と併せて彼らのエサとなる。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その4
世界中のフライ・アングラーには、トラウト至上主義という感覚が根強くある。たしかに昆虫を主食にしている鱒たちを釣るのにFFは理にかなっているし、ヨーロッパでの古い歴史もある。本来アングラーは貪欲の塊(笑)である。より大きな魚をできるだけたくさんゲットしたいし、それを自慢もしたい。ヨーロッパ、アメリカ北部では、釣り師がたくさんいて、なかなかオレだけが大物師の有頂天をやりにくい。そこで、ニュージーランドが脚光を浴びた。しかし、NZも釣り師が多くなった。そんな訳で、パタゴニアはFF屋には最後の聖域と認識されている。
パタゴニアン・アンデス
パタゴニアのトラウト・フィッシングには、2つのシチュエーションがある。一つは、アンデス山脈の斜面地域。もう一つがパタゴニア・アウストラル、すなわち南部の平原地域である。前者は、湖沼&山岳渓流がメインであり、後者は、湖沼&スプリング・クリークである。
パタゴニア・アウストラルのスプリング・クリーク
本来のスプリング・クリークってのは、湧水から発して流れる河川なんだけど、一般にFFでは平原を静かに下り、急流や瀬のない様相の流れを、そう呼んでいる。山岳渓流とスプリング・クリークでは、まったく渓相が異なっている。もちろん、釣法も大きく異なる。ちなみに、山岳が卓越する極東島のトラウトの棲む河川には、スプリング・クリーク風の流れがたいへん少ない。
FF用のインジケーター
最近人気になってるFF釣法にルースニング、すなわちインジケーターを使ったウキ釣りがある。これは瀬などがあって流れる渓流で威力を発揮してくれるけれど、スプリング・クリークで使うことはほとんどない。スプリング・クリークでは、浮かせるドライ・フライが定番であり、視覚的にもそれが一番楽しい。まあニンフ(水棲昆虫の幼虫系)を沈めるのも悪くはない。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その3
2万数千年~1万数千年前、氷河期の海退で陸続き(ベーリンジア)になった時期。モンゴロイド・サピーたちは、マンモスたちと一緒にシベリアからベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に渡った。それから南下を始め分布を広げながら、1万数千年くらい前には中米の地峡を渡った。南米では愚鈍な地上生の巨大ナマケモノなんかを弓矢と槍で倒しながら、1万2千年前ころには南端フエゴ島まで到達した。
1万年くらい前のミロドンの毛皮
当時の南米の南地域には、まだミロドン、すなわち1トン級の地上生の巨大ナマケモノもいたみたいだし、リャマの原種グァナコ(たいへん美味しいと聞いている)もたくさんいたから、移住モンゴリアンも焼き肉には困らなかったろう。
グァナコ
焼き肉の付けあわせは、南米ブナ(ナンキョクブナ類)の幹に自生する食用キノコ、キッタリアだったに違いない。
キッタリア・ダーウィニアイ
しかし、淡水での魚相は、たいへん貧弱だった。この地方に生息していた最も大きかった魚は、クレオール・パーチだけども、せいぜい全長30センチくらいしかない。移住モンゴリアンたちには、きっと焼き魚は貴重品だったに違いない。
クレオール・パーチ
パタゴニアの魚相に急激な変化が起きたのは、今から100年強くらい前だ。ヨーロッパからブラウン・トラウト、北米からレインボウ・トラウトとブルック・トラウトが人為移植されたのである。空き家になっていた淡水の生体ニッチで、トラウト類は爆発的にその数を増やした。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その2
そんな訳でアマゾン在住であるオレの心には、実はトラウト系魚への愛しい思いが、今だ密かに巣喰っている。オレは暑い熱帯気候が嫌いじゃない。いつでも上半身裸ってのは、開放感があってとくに早朝はたいへん気持ちいい。日中は、なにしろ熱帯だからして、酷暑である。それも悪くないんだけど、たまには寒冷地に遊びに行きたいなぁ、と思うことはある。
南米のスイスと呼ばれるバリロッチェ
そんな思いが募った、けっこう以前、アルゼンチンのバリローチェまで旅行したことがある。もちろんフライ・ロッドは持って行ったけど、半分は観光気分だった。一応は、ブラウンやレインボウも釣ったけど、やっぱ地の利がなくて、面白い釣りだったとは言い難かった。でもアンデスの冷たい風で、頭は冴えた。
アルゼンチンのパタゴニア地方
南米大陸の南部のことを、パタゴニアと呼ぶ。大航海時代(15世紀半ば~17世紀半ば)の時代、この大陸の南のほうに背丈4メートルもある巨人族が住んでいるという伝説が喧伝されていた。1520年の10月、南米南端の水路(今のマゼラン海峡)を通過したマゼラン探検隊員だった某アントニオなる男が、そこで巨人たちを観たとヨーロッパに、ほら情報(笑)を流した。パタってのは、脚のことである。パタゴンは、大きな足、つまりビッグフット。そしてビッグ・フットの土地という意味で、パタゴニアという地名が定着してしまった。
フエゴ島
マゼランたちが海峡を通過したとき、陸地で数多くの炎が燃えているのを観た。マゼラン艦長は、そこをティエラ・デル・フエゴ、すなわち「炎の大地」と航海日誌に記した。地面からしみだした石油を先住民たちが燃やしていたんだとされている。
続く
夢釣り行脚・南部パタゴニアの秋・その1
今日は、オレのフライ・フィッシング(FF)ルーツのお話しから始める。まあ普通にあるパターンだけど、ちょっとエサ釣り、それからルアーに入って、その後にFFという道だった。始めて自分のフライ・ロッドを振ったのは、美ヶ原高原の一角にある、密かにみつけた小さなリザーバーだった。当時は長野県上田市に夏季の在屋があって、そこから美ヶ原方面にバスで登って途中下車、この素敵なダム湖には何度か通った。もちろん、単独の行動である。湖水も周辺でサピーに会ったことは、一回もない。野生タヌキは観たけどね(笑)。
昔は上に歩道はなかったなぁ
洒落た歩道もなかった処女のリザーバーとオレの蜜月時代、高くて足もすくむ堰堤の上をすり歩いて渡り、対岸の崖を這って登ったことがあった。斜面に咲いていた白い小花に、たくさんのハナカミキリ類が訪花していたのを思いだすと甘く懐かしい。崖の上から澄んだ湖水を望めば、イワナたちの作る波紋が水面に現れては消えて、心を震えさせてくれた。
ハーディのジェット・セット
大学時代は、もの凄く、ちょっとヤバい系のアルバイトにも精をだした。夢タックルを買うため、釣行費用を稼ぐためである。ようやくハーディのグラス・ロッド、7フィート#4番、ジェット・セットを買えた日の夜は、うれしくて眠れなかった。でも憧れだったハーディのリールは、高くて買えなかった。
こごみ
オレが極東島の渓流に熱心だった理由は、いくつもある。まず奥山間のやけに静寂な自然が好きだったこと。興味深い美しい昆虫たちも、そこかしこに飛んでいる。こごみ、ワラビ、タラノメなどを好きなだけ採れる。夜の寂しい山宿で、山菜をヌタやテンプラにして、釣ったイワナやヤマメの塩焼きにつき合わせ、地元の美味しい日本酒の徳利を、ちくちくとかたむける。
続く
2017年2月のシングー・11
そうそう、K兄ちゃんは、念願のRTCを釣ったんだっけ。いつものように本編で使わなかった画像を並べて、2月のシングー攻防劇の幕を閉じよう。
メンバー全員、すごく楽しかったに違いない。そしてアマゾン・フィッシング症候群にかかったにも違いない。またアマゾンに釣りにくる以外に治療法はな~い! 皆さん、また来てね!……って、実はK兄弟、2018年8月イリリのタライロン・バコバコ・チームへの参加が、もうすでに決まっているんであ~る(笑)!
【本編終了】
2017年2月のシングー・10
期間中、サルバ・テーハの入り口に数人の漁師が入って、サシ網をかけていた。ちょっと寄ってみて、漁った魚を見せてもらうことにした。そしたら熱帯魚好きのK兄ちゃん、いろいろな奇声を上げて喜んだ。そして、漁師について行って、なかなか戻ってこなかった(笑)。それはさておき、好調だったシングー上流フィッシング・チームも最終日になった。オワリは、やっぱりカショーロでしめることにいたしましょう。
カショーロ・オン!
激流に乗ったカショーロは、下流に突っ走る。ロッドに大きな負荷がかかるから、ドラッグでラインを出すのが賢明なメソッド。
下流に走った!
走った後、たいてい遠くでジャンプをかます。でもラインが長くでているから、テンションで外れることは少ない。もちろん、フッキングと同時に鬼アワセしておかなきゃならない。
無事にランディング
何か達観したオーラもだしていたK兄。もっぱら写真撮影に精をだしていた。
Nさんもファイト中
コツをつかんだNさんは、本日も好調だった。
ジョイント・ミノーでゲット
Nさんに、オガーズ・クラフトの伝説ジョイント・ルアー、「幻想のリリス」をつけて試投をしてもらった。そしたら、1発目でヒット、でもバレた(笑)。実は、「幻想のリリス」は、2018年度の復刻を計画している。もちろん、ラパラCDマグナムを超える仕様にする!
続く































