(過去記事1)-(過去記事5)をはじめとして過去記事で,19世紀後半日本(や19世紀イギリス)でどのように(庶民向け義務教育型)学校が生まれてきたかを書いてきた.
 掻い摘んで言うと,1870年代当時,男子過半数女子85%は読み書き算数ができず,識字率の地域差も大きく,日本で最初の工場,徴兵制,選挙もはじめて富国強兵していくために,(不平等条約を結ばされた強国である)欧米に倣って庶民向け学校を設立して義務教育をはじめたわけだ.
 当時はリモート授業どころか,電話も電気照明すらなかった時代だ.集団教育しかやりようがなかった.
 私がタイムマシンで明治初期へ行って要職につけたら,学制発布を止めたか?止めるわけはない,彼らと同じことをしていただろう.実際,当初は義務教育の規定は緩かったし.

 

1885年 森有礼(38歳1847.8-89.2)が初代文部大臣就任(第一次伊藤内閣)(学齢児童就学率:男66%女32%)

 

 当時は時計すら普及してなかった.学制発布の1872年まで一日は24時間で無く季節によって一刻の長さが変わった.(私の父の昭和の時代は朝テレビの時報で機械式腕時計を合わせるのが毎朝の日課だった.クオーツショックは1969年.電波式時計が普及したのは2局目の送信所が九州にできた2001年以降.)世界的に見ても,時計の普及は,鉄道・工場・学校の普及と同時進行である.(1914年第一次世界大戦で活躍したのが兵士の腕時計であった.腕時計を持つ軍と持たない軍の力の差は想像できよう)

 

 さて,軍隊の兵士や工場の労働者は指示された時間に集合するという事が重要である.明治初期まで,工場も徴兵制もなかったし,決められた時刻に集合するなんて言う習慣は無かった.(明治初年で江戸に10か所に時鐘があったくらい

 そう,問題は識字率の低さ・地域差のばらつきだけではなかった.朝決まった時刻に集合して決まった作業を行う,という習慣が当時の国民に無かったのだ.

 これを訓練する場がまさに学校であった.

 

 1872年日本で最初の工場である富岡製糸場ができたとき,まだ電灯は無かった.当時はまだ新しかったガラス窓を採用して光を取り込み,日の出から日没までフル活動して工業製品を作り,世界市場で売りさばいて外貨を稼ぐ必要があった.

 あつめられた女工たちは寮に泊まらせ,決まった時刻に一斉に起きて仕事をさせる必要があった.軍隊さながらの規律が必要であった.体を壊す女工もいた.

 

 この時の文化がいまだに学校・社会に残っている.学校・会社は経営者である中高年に都合の良いように始業時間が設定されている.

 しかし,これが現代でも本当に必要なことなのか?人間にとって健康的で自然な生活なのであろうか?

 

 2022年3月志村氏(東京医科大学)らは,”早起きは三文の損”を主張する論文を発表した.

 

 朝型・夜型は個人差があり,この睡眠タイプ別を無視した勤務体系が生産性低下を招くという調査結果を報告している.

 

 朝型・夜型は個体差・男女差も大きいが,年齢にとてもつよく依存することが次の論文で報告されている.

2004年12月Roenneberg(ドイツ・Munich大医学部)らによるCurrent Biology誌の論文だ.

その論文の次の表が分かりやすい.

https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S0960982204009285-gr1_lrg.jpg

上の図のCとDに注目だ.

Dは男の方が夜型になりやすいことを示している.

Cでは,睡眠中央値(寝る時間と起きる時間の中間時刻)が,

10歳では夜3時ぐらいだったのが,

20歳で朝5時まで遅くなり,

その後,30歳で4時,

その後また80歳くらいまで3時へ

戻るという.

 

 このグラフみたら,10代思春期は10年間で2時間も睡眠時間帯が急激に変化し,それにもかかわらず学校の始業時間が固定されているのなら,たいへんキツイと思う.

 これに耐えられる特性の人もいるのだろうが,耐えられない青少年が沢山いても,それは当然の事であって,厳しい規則や評価で劣等とレッテル張りするのはまずい.

 

2016年Wheatonら(Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta)も青年期の学生に対して,学校の始業時間を遅くすることで睡眠時間を増やし,遅刻と居眠りを減らし,学業成績を向上させ,交通事故を減らせる,という調査結果を出した.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/josh.12388

 

2019年Samuel E. JonesらのNature Communications誌の論文では,個体の朝型・夜型は,生まれつき遺伝子によって決まっているとし,その体内時計に関連する遺伝子座の特定の研究調査を出した.

この論文によると,朝型・夜型の傾向と,BMIやⅡ型糖尿病との関連は無いとのことである.

 

 

 

さらに次の記事では,より強い主張が述べられています.

吉川徹医師は,次のように述べる.

 

睡眠を専門にしている医師の河合真先生は著書『極論で語る睡眠医学』の中で

10代に『朝型』を強制するのは犯罪に近く、『睡眠時間の確保』は家庭、社会全体で考える

必要があると提唱されています。 睡眠時間が大きく不足している日本の子どもにいま必要なのは「早寝、早起き」ではなく「早寝、遅起き」なのかもしれません。

 

 もう,学校を卒業してから工場勤務をする女性も軍隊へ入る男性もかなりの少数派になった.フレックスタイム制を導入する会社も多い.いろいろな学び方,いろいろな働き方がある.早く学校を始めて終日学校に縛るというやり方は,人間を心も体も不健康にしてしまうのではないか.それに耐えられる人もいるだろう.しかし,彼らを優秀,それ以外を劣等として選別するやり方を従来のまま続けていくのは人権的にも問題がある.

 

 もう学校根性論はやめようよ.

 

 (過去記事6)(過去記事7)に書いたように,ドイツに倣って,学校は半日でよいのではないだろうか.

午前学校・午後学校と分けて週2.5回登校にすれば,40人学級の教員数で10人学級を達成できる.

 

 なんだかんだいって子供のためじゃなくて大人の都合で学校って存在してるんだよね.学校を託児所代わりにするのは辞めにしよう.将来に遺恨を残す.

 

 

 

(過去記事1)

 

 

(過去記事2)

 

 

(過去記事3)

(過去記事4)

 

(過去記事5)

 

 

(過去記事6)

 

(過去記事7)