『 パリ20区、僕たちのクラス 』 | 横浜紅葉坂シネマ倶楽部

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映画・音楽の感想を中心に・・・(注:ネタバレあり)


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【 制作 】 2008年

【 監督 】 ローラン・カンテ

【 出演 】 フランソワ・ベゴドー 他

【 時間 】 128分


【 内容 】

舞台はフランス。

多くの移民が暮らし、多様な人種が入り混じるパリの20区。


下町のとある中学校で、国語教師フランソワと、

彼の担任するクラスの24名の生徒達は新学年を迎える。


クラスの生徒全員が席に着くと、フランソワが言う。

「始業ベルですぐに整列しろ。1時間のうち15分はムダにしてる。」


すると、生徒の1人が即座に揚げ足を取る。

「1時間の授業なんてありえません。8時半から9時25分までなので・・・」


フランソワもすかさず返す。

「実際には55分だな。確かに微妙に違う。」


フランソワと生徒達は時に反発し、

時に寄り添いながら1年を過ごしていくのだが・・・


【 感想 】

第61回カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞作品。

フランソワ・ベゴドーが実体験に基づいて2006年に発表した小説、

『 教室へ 』を映画化したものであり、

映画の中でも作者自身が教師のフランソワを演じている。


作品時間約2時間のうち、

ほぼ全てが学校・教室の中での教師と生徒の会話のみであり、

出演している24人の生徒についても、

全員演技経験のない本物の中学生を起用している。


そのため、まるで日々の学校の風景を切り出したような、

限りなくドキュメンタリーに近い作風になっている。


ただ、クラスには多様な人種が入り混じっていて、

各自の性格は勿論、学力のレベルもさまざま。


フランソワの言うことを聞かない、無視して質問に答えない、

揚げ足を取る、生徒同士で無駄口をたたいて騒ぐ、

こんな勉強がなんの役に立つのかと屁理屈をこねる等々、

フランソワは生徒に悩まされる。


他の教師も同様で、教員室に入るなり、

「サイテーの連中だ!顔も見たくない!

クズで無知な学生のくせに教えようするとこっちを無視する!」

と大声でキレまくる教師など、

教師と生徒の溝が深く、分かり合えない。


教師や保護者達は会議を開いては、

運転免許のような点数制の導入を検討するが、

「それなら真面目で優秀な生徒を加点すべき」との意見が出たり、

「点数が多い生徒に好き勝手に校則違反する余地を与える」

という反対意見が出たりでまとまらない。


他にも、成績優秀な中国系移民の生徒の母親が、

不法滞在で強制送還させられそうになったり、

教師達は日々様々な問題に直面する。


ある日、フランソワ自身も生徒とのやり取りで熱くなってしまい、

女生徒を「汚い言葉」を使って罵り、

そのことがきっかけで別の生徒が問題を起こしてしまう。

学校側は問題を起こした生徒を懲罰会議にかけることにするが、

もしその生徒が退学処分になれば、

父親がその生徒を祖国のマリに送り返してしまうことを知り、

悩むフランソワ。


同僚の教師達に相談するが、

「両親に殴られるかもしれないと恐れて、懲罰をためらうのか?」

「全員の面倒を見ることなんてできない!」

「教師は親の立場に立つべきではない。」等、

その生徒を救済することに肯定的な意見は出なかった。

結局、会議で退学処分が決定され、

その生徒は学校を去ることになる。


やがて9か月の学期が終了し、学校が休みに入る前、

フランソワが生徒それぞれに何を学んだかを尋ねる。

「数学の比例」、「地学」、「歴史の三角貿易」、

「科学の燃焼」、「生物の生殖」など、

それぞれ感想を述べる生徒達。


授業を終え、クラスの生徒達が帰っていく中、

最後に残った1人の女生徒が、

不安そうな顔でフランソワに声をかける。


「何も学んでない・・・」


「そんなはずはない。急に言われてもなかなか出てこないものだ。」

と返すフランソワに、彼女は言う。


「でも、授業の内容がすべて分からない・・・」


そして、塀に囲まれた中庭で笑顔でサッカーを楽しむ生徒と教師達と、

誰もいなくなり机と椅子が不揃いに並ぶ教室のカットが入り、

エンドロールが流れる。


時々、邦題の付け方が明らかにおかしい・・・

と思う作品があるが、これもその1つ。

何だか明るく楽しそうな雰囲気を連想させるが、

実際は楽しくも悲しくもなくて、

見る側に淡々とリアリティを突きつけてくる。


この作品では、生徒達も悩んでいるし、教師達も悩んでいる。

そもそも学校とは、何を教える場所なのか?

勉強だけを教えるべきなのか?

社会生活のルールを身につけることも、学校で教えることに入るのか?


そして多様な人種が入り混じるパリ20区の、

とある中学校の、とあるクラスの日常を通すことで、

もっと広義な意味、つまり、


今のこの時代に、世界中の大人達がこれからの子供達に

教えるべきことは何なのか?

伝えてあげられることは何なのか?


という大きな問いかけが隠されているように感じた。


ただし、ほとんどドキュメンタリーのような答えのない作品なので、

見た人が感じたことがテーマ、ということになるだろうか。


教育に携わる人、あるいは自分のように全く無関係な人でも、

何かしら感じることのできる作品。



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