イーストウッドとコメディ映画 | 映画の楽しさ2300通り

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クリント・イーストウッドとコメディ映画の取り合わせは考えにくいように思えますが、僕のみるところイーストウッドは自ら監督した作品も含め、多くのコメディ映画に出演しています。  
以下のような作品がそれです。 

  • 華やかな魔女たち(未見) (1967)
  • ペンチャーワゴン (1969)
  • 真昼の死闘 (1970)
  • 戦略大作戦 (1970)
  • ダーティファイター (1978)
  • ダーティファイター 燃えよ鉄拳 (1980)
  • ブロンコビリー★ (1980)
  • シティヒート (1984)
  • ピンク・キャデラック (1989)
  • 人生の特等席 (2012)
  • 運び屋★ (2018)

★は本人の監督作品。

一見喜劇らしくはないものもありますが、並べてみるとシリアスというよりは、笑いを誘うプロットなり演出なりキャラクターの作品群であることがおわかりになるでしょう。

そもそもイーストウッドのようにシリアスなあるいはハードボイルドな作品が多い男優が、コメディに主演するのみならず向いているのは彼に始まったことではなく、古いところではゲイリー・クーパーが多くの喜劇に出演していますし、イーストウッドのより若い世代ではアーノルド・シュワルツネッガーが「ツインズ」「キンダーガートン・コップ」「ジングル・オール・ザ・ウェイ」などのコメディに出演しています。

要はコメディ映画に出演するのにチャップリンキートンのようなコミカルなキャラクターである必要はないということ。
コメディ映画で主役を演じるのに必要なキャラクター要素は、いじられてもへこたれない(前向き)、困難にくじけない(粘り強い)、ここぞというところで幸運に見舞われる(ひきが強い)、というようなことであって、おかしな言動をしたり、軽業が得意だったりすることではないのです(スラップスティック喜劇は別ですけど)。

そうしてみると、イーストウッドは後ろ向きになることはないし、執念深いし、いざというときに力を発揮するキャラなので、シチュエーションさえ整えば観ているものは笑っちゃうような環境の中で懸命に道を切り開こうとする主人公を演じるのにうってつけなのです。

出演したコメディの中で最も成功したと思うのが「ダーティファイター」。しがないトラック野郎だがストリートファイターとしては無敵の主人公が、惚れた女を追って暴走族と小競り合いを繰り返しながらストリートファイトの旅をする物語。
イーストウッド本人は特に可笑しなことをするわけでもないのに、芸達者のジェフリー・ルイスやオランウータンとの絡みがおかしく、こわもて暴走族のお間抜けぶりも傑作で、同じキャストで続編(燃えよ鉄拳)も作られました。

80歳を過ぎて主演した「人生の特等席」でも年相応のよれよれぶりを見せながらアクションなしでも十分演技で魅せられる俳優としての存在感を示しました。大笑いするタイプの作品ではありませんが、フランク・キャプラ張りのハートウォーミングな作品で、ある意味都合の良いストーリー展開からしても喜劇といえるでしょう。

と、コメディ俳優としての魅力・実力十分な(と自分が考える)イーストウッドですが、前述の3作品を除きリストした作品は(未見の「華やかな魔女たち」を除き)どれも特によくできたコメディとは思えません。それはなぜ?と考えたところ、多分演出のせいである、という結論に達しました。

言うまでもなく、良くできたコメディにはコメディ向きの役者だけでなく、良くできた脚本と的確な演出が必須です。
コメディ映画の名監督と言えばエルンスト・ルビッチ(実はほとんど観ていませんが)やフランク・キャプラ、ビリー・ワイルダー(大好き)などがいますが、それぞれのよさはあるとして共通してあげられるのは演出の間のよさ。舞台とは違い編集を伴う映画では、役者の力を引き出しあるいは補って絶妙な間をコントロールする演出が重要ですが、これは誰にでも出来ることではありません。

イーストウッドですら、自ら監督した「ブロンコビリー」は自信作で評判も悪くなかったようですが、僕を含む一般の観客は正直なものでヒットせず。「運び屋」もプロットといい登場人物たちといい喜劇そのものなのに笑えない。これは監督としてのイーストウッドにコメディセンスがないか、あるいは喜劇の間をとりつつ自分を録るのはチャップリンのようなボードビリアンだからこそ出来る至難の芸だから、なのではないでしょうか。

その他の今一つ笑いが不発だった作品も多分監督のせい。アクション映画の名匠ドン・シーゲル(「真昼の死闘」を監督)もコメディは得意ではないのだろうと思います。

イーストウッドがコメディ向きなのかどうか、はっきりしない文章になりましたが、僕の結論は「監督にさえ恵まれれば他の追随を許さないコメディ俳優になったはず」ということです。本人がなりたかったかどうかはまた別の話...

 

※写真は「ダーティファイター」パンフレットの折りこみポスター。

 

ブロトピ:2024/01/15