そろそろ「非正規雇用」を一括りにするのはやめよう | 空き地のブログ

空き地のブログ

受け売り上等 無知上等
どうせあらゆる知識は誰かからの受け売りだ
知らないことは人に聞け
納得できないことは問い質せ

そんなずうずうしい人間の戯れ言ブログ

アベノミクス批判のテンプレとも呼べるモノに「非正規ガー!」がある。「安倍政権は確かに雇用は増えたかもしれないが、それは非正規雇用が増えただけで正規雇用は増えていない!」という理屈である。

もちろん、「いきなり正社員から雇用を増やす企業なんてあるのかよ?それに失業したままよりかはよっぽどマシだろ?」で終わる話だし、実際の推移を見れば批判する側の勇み足(物事の順序を弁えない批判)でしかなかったことは明白である。

拙ブログでは、総務省から毎月公表される労働力調査を基に完全失業率など雇用の“量”にまつわる統計指標を定点観測している(「データ整理」カテゴリ参照)。この労働力調査には毎月公表される「基本集計」と、四半期毎に公表される「詳細集計」とがあり(http://www.stat.go.jp/data/roudou/2.htm )、完全失業率などは基本集計に含まれる。

さて、(第二次)安倍政権における正規雇用と非正規雇用の数の推移をグラフにするとこうなる。

正規非正規推移(~2015年4Q)
(データ出典:総務省 労働力調査)

正規雇用が減少していたのは2013年までで、それ以降は増加傾向に転じていること、2015年末には政権交代前の水準まで戻していることが分かるだろう。正規雇用が増加に転じたタイミングは、有効求人倍率が1を超えた時期に大体一致しており、労働市場が売り手(労働者)有利になったことが正規雇用の増加に繋がったと考えられる。

安倍政権スタート時の有効求人倍率と、それ以降の推移を追っていれば「やがて労働市場がタイト(人手不足気味)になっていくだろう」ということは容易に想像できるわけで、特定の指標の短期的な動きだけを捉まえた批判がいかに役に立たないかが分かる。



非正規ガー!」の稚拙さを改めて示したところで今回の本題に入ろう。

非正規雇用の数については基本集計でも扱われているが、詳細集計ではさらに踏み込んで「非正規の雇用者が現職の雇用形態についている理由」まで調査されている。

「非正規雇用」と一口に言っても、その中身は様々。何しろ「正規雇用でない人」はみんな非正規雇用なわけで、派遣社員から主婦(主夫)のパート、定年退職後の再雇用や学生アルバイトまで全て「非正規雇用」として扱われるわけだ。それを全部一括りにして「非正規ガー!」と言っていては実態を把握することはできないし、適切な対策を取ることもできない。

非正規ガー!」な人たちには理解できないかもしれないが、「非正規雇用」に区分されている人たち全てが正規雇用になりたがっているわけではなく、自ら望んで非正規雇用でいる人たちもいる。政府は非正規雇用の内、非正規雇用でいる理由に「正規雇用の職が無いから」という理由を挙げた人たちを「不本意非正規」と区分し、その数の推移を調査している。(ちなみに、この調査が始まったのは2013年からであり、安倍政権以前と比較することはできない。)

非正規雇用でいる理由別の雇用者数の推移がコチラ。

非正規で働く理由(~2015年4Q)
(データ出典:総務省 労働力調査(詳細集計))

オレンジの棒グラフが不本意非正規に当たるが、必ずしも非正規雇用の大多数が不本意非正規ではないことが分かるだろう。直近で言うと、非正規雇用およそ2000万人の中のおよそ300万人が不本意非正規であるので、割合で言うと約15%ということになる。

逆に言えば、非正規雇用の8割超は「別に正規雇用にならなくてもいい」と言っているわけで、「非正規ガー!」な人たちの言い分がいかに対象を見ない、イメージだけに依るモノかが分かる。

また、一部に「安倍政権のせいで生活が苦しくなったから仕方なく働きに出ているんだ!」と批判する人たちがいるが、上のグラフで「家計の補助」を理由に挙げている人(の棒グラフ)の数はほぼ横ばいで、むしろ増えているのは時間の都合が良いであるとか、育児・介護と両立しやすいであるとか、専門技能を活かすであるとか、どちらかと言えば前向きな理由の人たちだと分かる。



非正規雇用にもいろいろな人たちがいると分かったところで不本意非正規に話を戻す。

上のグラフから不本意非正規をピックアップするとこうなる。

不本意非正規推移(~2015年4Q)
不本意非正規対前年比増減(~2015年4Q)
(データ出典:総務省 労働力調査(詳細集計))

安倍政権において、確かに非正規雇用“全体”は増加しているが、不本意非正規はこのように減っている。年平均で2013年と比べて26万人、10-12月期で2013年と比べると43万人の減少である。非正規雇用全体が増えていようが、「私には非正規雇用の方が都合が良いんです」という人が増え、「非正規じゃヤダ!」という人が減る分には、雇用の形が多様化しつつある現代においては、特に問題無いように思えるのだがどうだろうか?

安倍政権は「非正規ガー!」と批判されるまでもなく不本意非正規の数を減らしてきている。「正規雇用になりたくてもなれない人がカワイソウじゃないか!」という主旨で「非正規ガー!」と安倍政権を批判する人たちは、むしろ「不本意非正規を順調に減らしている安倍政権」こそ支持すべきではないか?