さて、第三弾です。

ここでは、Schiller&Davies(2004)の論文につきまして、
  • 研究内容
  • この論文で「言えること」「言えないこと」
  • 記事での引用の正確性
を見てみたいと思います。

ちなみに、当該記事はこちらになります。

 

この論文は、記事の中で最も「引用の仕方」に注意が必要な文献です。

 
ともうしますのも、この論文が実験論文ではなく、総説(Review)だからです。
 
総説では、既存研究を整理しながら仮説や今後の展望も述べられます。
 
そのため、「仮説」を「実証された事実」の様に扱いますと、引用としては不適切になります。
 

① 論文の概要

  • 執筆者…Schiller JT, Davies P.
  • タイトル…Delivering on the promise: HPV vaccines and cervical cancer.
  • 掲載ジャーナル…Nature Reviews Microbiology.
  • 2004;2(4):343–347.
これは実験ではなく、
  • HPVワクチンの開発状況
  • 当時の臨床試験結果
  • ワクチンが効く理由
  • 将来の課題
をまとめたレビュー論文です。
 
つまり、新しいデータを示した論文ではございません。
 

② この論文で「言えること」

◎ HPVワクチンは感染予防ワクチンである

論文ではHPVワクチンは、
感染前に中和抗体を作る事によって感染を防ぐ
という考え方を説明しています。
 

◎ 抗体は子宮頸部粘膜へ到達する

論文では、
血液中のIgG抗体は、子宮頸部粘膜へ漏れ出してウイルスを中和する
と説明されています。
 
これは現在でも受け入れられています
 

◎ 移行帯(Transformation zone)は重要

子宮頸がんの多くが、
移行帯から発生する
という事も説明されています。
 

◎ 仮説として

論文中では、既に感染している外陰・腟などから放出されたウイルスが、移行帯へ広がる可能性につきましても触れています。
 

③ この論文で「言えないこと」

ここが重要です。
 

◎「体内でHPVが移動することが証明された」

言っていません。
 
著者は「may」「might」という表現を使っています。
 
つまり「可能性」を述べていらっしゃる訳ですね。
 
実証ではございません。
 

◎「幼少期感染したHPVが移行帯へ移動する」

全く書いていません。
 
論文は「既に生殖器に成立している感染 」につきまして議論しています。
 
幼少期感染説は出て来ません
 

◎「性行為なしで感染が維持される」

これも書いていません。
 
感染経路につきまして、主流説を否定する内容ではございません
 

◎「常在ウイルス説」

勿論、一切書いていません
 

④ 記事での引用は正確か?

記事では
 Schiller and Davies自身が「外陰や腟から移行帯へ広がる」と認めている
と書かれていますが、この部分は半分正確です。
 
実際に、その様な仮説は書かれています。
 
しかし、記事では「主流研究者自身が認めている」という表現になっております。
 
これは、「やや強過ぎ」ます。
 
と申しますのも論文では、「こういう可能性もある」という程度だからです。
 
更に記事では、
  • この仮説 → 幼少期感染 → 常在感染 → エストロゲン制御
まで一気につないでいます。
 
ここは、論文には全くございません
 

⑤ 特に重要なポイント

実は、2019年のレビュー論文でも Schiller & Davies のこの仮説は引用されています。
 
しかし引用のされ方は、「suggests」つまり「示唆している」です。
 
15年経ちましても、「証明された」とは書かれていません
 
これは重要です。
 

⑥ 総合評価

  • ワクチンが移行帯への感染拡大を防ぐ可能性がある~概ね正確…仮説として論文に記載されています。
  • 体内で部位間移動が起こる~仮説…実証ではございません。
  • 主流研究者自身が認めている~表現が強い…「可能性を議論している」がより正確です。
  • この仮説から常在感染説が導かれる~論文にはございません…記事独自の推論です。
  • 幼少期感染の根拠になる~根拠になりません…論文では扱っていません。

 ⑦ まとめ

Schiller & Davies(2004)の論文は、記事が引用している箇所自体は存在します。
 
しかし、それはワクチン作用機序を考える中で提示された仮説であり、実験的に証明された事実ではございません。
 
記事はその仮説を出発点にして「常在ウイルス・エストロゲン制御モデル」へ発展させていますが、その部分は論文の結論ではなく、記事の著者による独自の仮説の展開と評価するのが適切でしょう。
 
もし不安を感じられましたら、お近くの、或いは信頼のおけます産婦人科や小児科の先生にご相談下さい。
 
 
 
 
 

来たる9月27日(日曜日)は刃駈選手のデビュー25周年記念興行が名古屋中区スポルティーバで行われますので、こちらも是非、足を運んで下さい。

 

沖縄県名護市で発生しました『辺野古沖抗議船転覆16名死傷事故』におけます同志社国際高校に対する文部科学省の「見解」を以て、所謂“平和学習”が萎縮するのかを考察してみました。

 

よろしければ、ご視聴下さい。

 

前回の続きです。

そして当該記事は、こちらになります。


今回は、前回記しました通り、「小貫ら(2009)」の論文につきまして、見てみましょう。
 
まず結論から申し上げますと、この論文は当該記事が示唆していらっしゃいます、
「15~19歳女性のHPV陽性率36%だから性行為感染説は成り立たない」
という主張を裏付けるための論文ではございません。
 
むしろ、日本におけますHPV感染と子宮頸がんリスクを把握し、検診やワクチン導入の基礎データを得る事が目的の研究です。
 

① 論文の概要

◎ 論文

  • Mamiko Onuki(小貫麻美子)ら
  • 『Human papillomavirus infections among Japanese women: age-related prevalence and type-specific risk for cervical cancer』
  • Cancer Science, 2009
  • DOI: 10.1111/j.1349-7006.2009.01161.x
日本では当時HPVワクチン導入前でして、
  • 日本人女性のHPV感染率
  • 年齢別の感染状況
  • HPV16・18型の割合
を調べることが目的でした。
 

② 対象者

対象は一般住民全体ではございません。
 
1999~2007年に、筑波大学病院茨城西南医療センターを受診されました女性2,282人です。
 
内訳は、
  • 細胞診正常…1,517人
  • CIN1…318人
  • CIN2-3…307人
  • 子宮頸がん…140人
でした。
 
ここが非常に重要です。
 

③ 「15~19歳…36%」とは何か?

記事が引用していらっしゃいます数字は、正常細胞診女性の年齢別HPV DNA陽性率です。
 
論文のFigure 1では15~19歳が最も高く、約36%となっております。
 
つまり、「15~19歳女性の36%がHPV陽性だった」という引用自体は概ね正確です。
 

④ この論文で言えること

◎ 若年女性でHPV陽性率が最も高い

これは事実です。
 
15~19歳でピークとなりまして、その後徐々に低下しています。
 

◎ HPV16・18は若年の子宮頸がんで多い

若い女性ほどHPV16・18の割合が高く、ワクチンの予防効果が期待される、という結論になっています。
 

◎ 日本でもHPV感染は非常に一般的

正常細胞診でも、HPV陽性者は少なくありません
 
これも事実です。
 

⑤ この論文で「言えないこと」

ここが記事との違いになります。
 

◎ 「性経験が無い女性で36%」

言っていません。
 
論文には「性交経験の有無」は記録されておりません
 
したがいまして、「15~19歳=多くが未経験」というのは、記事側が日本全体の初交年齢統計を後から組み合わせた推論でしかございません。
 
論文そのものは一切その議論をしていらっしゃいません。
 

◎ 「HPVは幼少期感染」

これも、一切記されていらっしゃいません。
 
論文中に、
  • 幼少期感染説
  • 常在感染説
という考察はございません。
 

◎ 「性行為では説明できない」

これも、著者は全く述べていらっしゃいません。
 
むしろDiscussionでは、「若年女性で感染率が高い事は、HPVワクチン接種年齢を早く設定する」根拠として扱われています。
 

⑥ 記事での引用は正確か?

◎数字…正しい

  • 15~19歳で約36%
これは論文どおりです。
 

◎「15~19歳の多くは性経験がない」…論文には無い

これは別統計を組み合わせています。
 
論文引用としては不適切です。
 

◎「だから性交感染説は矛盾する」…この論文から導けない

理由は論文には、
  • 性経験
  • パートナー数
  • 初交年齢
記録されていないからです。
 

◎「鶏と卵問題」…この論文では議論していない

著者自身は、その様な結論を出していません。
 

⑦ この論文の限界

著者自身も限界を書いています。
  • 病院受診者であり、完全な一般人口ではない
  • 地域が茨城県(千葉県の宗主国)中心
  • 横断研究である
  • 感染経路は解析していない
したがって、この論文だけから、
  • 感染源
  • 感染時期
  • 幼少期感染
を論じる事は出来ません。
 

⑧ 総合評価

記事のこの論文の引用について評価するとしますと、
  • 「15~19歳でHPV陽性率約36%」→ 正確…論文のFigure 1と整合します。
  • 「15~19歳の多くは性経験がない」→ 論文の内容ではない…他の統計を組み合わせた推論です。
  • 「性交感染説では説明できない」→ この論文は支持していない…感染経路を解析した研究ではありません。
  • 「幼少期感染を示唆する」→ 支持していない…論文にはそのような結論はございません。
 この論文のデータ(36%)の引用自体は概ね正確ですが、そのデータから、
  • 「性交感染説では説明出来ない」
  • 「幼少期からの常在感染が示唆される」
という結論を導く事は、この論文の守備範囲を超えた解釈です。
 
論文は年齢別のHPV陽性率を示した疫学研究でして、感染時期や感染経路を検証した研究ではございません
 
もし心配になられましたら、お近くの、或いは信頼のおけます産婦人科や小児科の先生に齟齬相談ください。
 
 
 
 

来たる9月27日(日曜日)は刃駈選手のデビュー25周年記念興行が名古屋中区スポルティーバで行われますので、こちらも是非、足を運んで下さい。

 

沖縄県名護市で発生しました『辺野古沖抗議船転覆16名死傷事故』におけます同志社国際高校に対する文部科学省の「見解」を以て、所謂“平和学習”が萎縮するのかを考察してみました。

 

よろしければ、ご視聴下さい。

 

 

 

ヒトパピローマウイルス、所謂『HPV』につきまして、こちらの記事がございます。

 

 

今回は、こちらの記事につきまして掘り下げてみようと思います。

 

まず、この記事は既知の研究成果・事実・仮説・著者自身の推論をかなり混在させて書かれています。

 

結論から申し上げますと、「HPV常在ウイルス・エストロゲン制御モデル」は現時点では確立した学説ではなく、既存研究を組み合わせて構築された仮説です。

 

一方で、引用されている個々の研究の中には事実も多く含まれています。

 

しかし、それらを結び付けて「だからHPVは幼少期に常在感染している」という結論へ飛躍している箇所があります。

 

以下、主要な論点ごとに検証します。

 

①「15~19歳女性のHPV陽性率36%」…一部正しい

日本では小野木ら(2009年前後)の研究などで、15~19歳女性のHPV陽性率が30%を超える報告はあります

 

しかし、その研究対象は婦人科受診者などであり、日本全国の一般女性を代表するサンプルではございません。

 

また、「15~19歳の多くは性経験がない」という前提も正確ではございません。

 

日本では初交年齢中央値は19~20歳前後ですが、“中央値”と記しているという事は「18歳以前に経験する人も相当数いる」という意味です。

 

したがいまして、「36%だから性行為では説明できない」とは言えません

 

②「鶏と卵問題」…論理的誤り

記事では、

「最初に持っている人がいない」

としています。

 

しかし感染症では普通、感染者が少数存在すれば十分です。

 

HPVは世界中で非常にありふれたウイルスです。

 

WHOでも、

sexually transmitted infection

として扱われています。

 

性交経験が増える年代で急増する事も、世界中で確認されています。


③ 男性と女性で陽性率が違う…事実

これは研究でも知られています。

 

男性は女性より、

  • 陰茎
  • 陰嚢
  • 肛門

など複数部位で感染し、自然排除の様式も異なりますので、年齢別曲線が女性と一致しません

 

これは「感染経路がおかしい」事の証拠ではございません。


④ HPVは傷がないと感染しない…概ね正しい

HPVは、基底細胞へ到達する必要がございます。

 

そのため、

  • 微細損傷
  • 摩擦

などが感染成立に重要とされています。

 

しかし、「子宮頸部だけ例外」という説明は少々単純化されています。

 

⑤ 移行帯は一層だから傷不要…一部正しいが飛躍

移行帯(Transformation zone)が、HPV感染・発癌の重要部位である事は事実です。

 

しかし、だからといって「赤ちゃん全員感染する」とは言えません。

 

感染には、

  • ウイルス量
  • 接触時間
  • 局所免疫
  • 受容体

など多数の条件がございます

 

⑥ 新生児感染…事実

母子感染は昔から知られています。

 

『産道感染』、或いは『胎盤感染』も報告がございます。

 

しかし、その多くは数か月~数年で自然消失します。

 

つまり、「一生残る」証拠ではございません


⑦ HPVは幼少期から潜伏している…現時点では証拠不足

ここが記事最大の飛躍です。

 

確かに、

  • 新生児感染
  • 小児感染

はございます。

 

しかし現在まで、

  • 幼児感染 →何十年間潜伏 →思春期再活性化

証明した前向き研究はございません

 

記事自身も最後に認めています。

 

つまり、仮説です。

 

⑧ エストロゲンがHPV遺伝子を制御…事実

これは基礎研究で報告されています。

 

エストロゲン受容体が、HPV遺伝子発現へ影響する事は知られています。

 

しかしこれは、細胞実験・動物実験が中心です。

 

人体で「思春期のHPV急増の主因」まで証明された訳ではございません

 

⑨ 排卵期はIgG低下…概ね正しい

女性ホルモンによりまして、粘膜免疫が変化する事は知られています。

 

しかし、その程度だけでHPV再活性化を説明できる証拠はございません

 

⑩ 50代でHPV陽性率再上昇…事実

世界各国で、第二ピークは報告されています。

 

しかし原因は、

  • 再感染
  • 潜伏感染再活性化
  • 新規パートナー

など複数説がございます。

 

まだ結論は出ていません

 

⑪ 「検出=感染ではない」…正しい

PCRはDNAを検出します。

 

DNAが有る事と感染成立は、完全には同義ではございません

 

これは検査医学でも認められています。

 

ただし、HPV検査は臨床的有用性が極めて高く、子宮頸がん検診にも利用されています

 

⑫ 総合評価

私の評価では、以下の通りです。

 

◎ 事実として正しい部分…約60%

  • HPVが基底層に感染すること
  • 移行帯が重要であること
  • エストロゲンがHPV遺伝子発現に影響すること
  • 新生児感染があること
  • 更年期以降にHPV陽性率が再上昇すること
  • PCRの限界

 

◎ 推論・仮説の部分…約30%

  • 幼少期の常在感染
  • エストロゲンが主因で思春期に再活性化する
  • 体内での部位間移動が主要経路

 

◎ 現時点では支持が弱い、または飛躍している部分…約10%

  • 性行為による感染では説明できない
  • HPVの主たる感染時期は乳幼児
  • HPVワクチンの考え方を根本から覆す

となります。

 

したがいまして、この文章は興味深い仮説の提示として読む価値はございますが、現時点のエビデンスでは、HPVの主な感染経路が性行為であるという医学的コンセンサスを覆すものではございません

 

今回の記事には少なくとも以下の論文・研究が引用されています。

  1. 小貫ら(2009)― 日本人女性のHPV陽性率
  2. Schiller & Davies(2004)― HPVワクチンの作用機序
  3. 1995年英国の小児HPV抗体研究
  4. 新生児の先天性頸管外反(生後1か月で68%)
  5. HPV遺伝子のエストロゲン応答配列(ERE)
  6. 排卵周期と子宮頸部IgG濃度
  7. 閉経後のHPV陽性率再上昇
  8. コンドーム介入試験
  9. 「検出」と「感染」の違いに関する論文

これらは一つひとつが独立した専門分野の論文でして、それぞれにつきまして、

  • 原著論文を確認
  • 方法(Methods)
  • 対象集団
  • 統計解析
  • 著者自身の結論
  • 記事での引用の正確性
  • 引用が飛躍していないか

まで確認すると面白いかと思います。

 

という事で、

  1. 小貫ら(2009)(記事の出発点になっているため)
  2. Schiller & Davies(2004)(「体内で部位間移動」という重要な主張の根拠)
  3. 1995年英国の小児HPV抗体研究
  4. エストロゲン応答配列の論文
  5. 残りの論文

という順番で、一つずつ検証して行こうと思います。

 

という事は、もう皆さん、お分かりですよね。

 

今回も一週間近い連載になるという事です(笑)

 

 

 

 

 

来たる9月27日(日曜日)は刃駈選手のデビュー25周年記念興行が名古屋中区スポルティーバで行われますので、こちらも是非、足を運んで下さい。

 

 

 

沖縄県名護市で発生しました『辺野古沖抗議船転覆16名死傷事故』におけます同志社国際高校に対する文部科学省の「見解」を以て、所謂“平和学習”が萎縮するのかを考察してみました。

 

よろしければ、ご視聴下さい。

 

 

さて、ここまで約5回に分けて検証してきた内容を、「どこまでが事実で、どこからが著者の解釈なのか」という観点で総括致します。

発端は、X(旧Twitter)に投稿されました、こちらの文章になります。

 

 

ネタ元が、こちらになります。

https://yuki-enishi.com/kusuri/keigan-07.pdf
 
元朝日新聞論説委員でいらっしゃいます、大熊由紀子氏のサイトですね。
 

 
で、私が住んでおります自治体の図書館に行きまして、当該図書を実際に手に取りました上での記述という事になります。

 
ザックリ申しますと、この章は、
  • 「事実(Fact)」→「妥当な解釈(Interpretation)」→「著者独自の結論(Opinion)」
が混在しています。
 
そのため、読者は三者を分けて読む必要がございます。
 

① 事実関係は概ね正確な部分(★★★★★)

この章で最も評価できる点です。
 
例えば、
  • メルク社・GSK社の売上推移
  • HPVワクチンが巨大商品になったこと
  • FDA承認後に大規模広告が行われたこと
  • 「Make the Connection」「Tell Someone」「Be One Less」などの広告キャンペーンは実在した
という事ですね。
 
また、
  • ACIPの推奨が市場形成に大きく影響したこと
  • 製薬会社が州議会へロビー活動を行ったこと
  • DTC広告(消費者向け直接広告)が米国では認められていること
も事実です。
 
これらは一次資料や当時の広告資料と整合しています。
 

② 事実から導かれる解釈も概ね妥当(★★★★☆)

例えば、「恐怖を利用したマーケティング」ですね。
 
これは2008年のNew York Timesでハーパー博士自身も批判しています。
 
また、ワクチン接種後も検診は必要である事です。
 
これはWHO・CDC・厚労省も現在まで一貫しています。
更に2006~2008年当時、
「浸潤子宮頸がんそのもの」の予防効果はまだ証明されていなかった
という記述も、当時としては正確でした。
 

③ ここから少し"カットボール"になる(★★★☆☆)

ここからは、事実はあるものの、著者の解釈がかなり強く入ります。
 
例えば、
「無から市場を生み出した」
これは比喩としては理解できます。
 
しかし、
  • HPV感染 → 子宮頸がん
という病態は、1980年代から確立していた知見です。
 
つまり、市場を「発明」したというよりは、既に存在した医学知識を利用して市場を「拡大」したという方が正確でしょう。
 

④ ここからは著者独自の結論が目立つ(★★☆☆☆)

例えば、「HPVワクチンを受けた女性は検診を受けなくなる」という主張ですね。
 
これは現在の研究では必ずしも支持されていません。
 
むしろ接種者の方が検診受診率が高いという研究もございます。
 
したがいまして、この部分は引用元論文を確認しない限り、強い主張とは言えません。
 
また、「HPVワクチンが将来がんを起こさない証拠はない」というのは、科学では「安全を100%証明する」事が出来ませんので、論理的には真ですが、現在まで数億回規模の接種後もがん増加を示す疫学的証拠はございません
 
したがいまして現在では、説得力はかなり弱くなっています。
 

⑤ ハーパー博士について

ここは非常に興味深い部分でした。
 
一次資料を追ってみますと、
  • 2006~2007年 → 前がん病変予防効果を報告する研究者
  • 2008年 → Merckのマーケティングを批判
  • 2009年 →「5年以上効くというデータはまだない」「検診は必要」という慎重論
  • 2010年以降 → 本人の査読論文では、HPVワクチンの有効性・検診継続の必要性・十分な説明に基づく選択
を一貫して仰っていらっしゃいます。

 

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352578917301200?via%3Dihub


つまり、時折ネットで言われております様な「反HPVワクチン研究者」という位置付けは、少なくとも本人名義の査読論文からは支持されません
 

⑥ 全体評価

もし100点満点で評価するとしましたら、以下の様になります。
  • 事実関係…95点
  • 事実の引用…90点
  • 文脈の公平性…70点
  • 現在(2026年)のエビデンスとの整合性…65点
  • 総合…約80~85点
という印象です。
 

◎ 最終的な印象

ここまで一時資料を探りながら私が朧気ながら感じました事は、
  • ほとんどが直球なのですが、最後で捻じ曲げてしまっていて、カットボールの様な書き方
という、印象を持ちました。
 
この章は、
  • 売上
  • 広告戦略
  • ACIPの位置付け
などの事実関係は比較的よく調べられています。
 
一方で最後の結論に向かう過程では、著者に都合のよい研究や発言を強調し、後年のエビデンスや反対方向の知見を十分に紹介していない箇所がございます。
 
そのため「事実そのものが誤り」というよりは、事実の選び方と結論への導き方に一定のバイアスが有るんじゃね?と評価するのが、今回のファクトチェック全体から導かれる最も妥当な結論だと考えます。
 
 
 
 

来たる9月27日(日曜日)は刃駈選手のデビュー25周年記念興行が名古屋中区スポルティーバで行われますので、こちらも是非、足を運んで下さい。

 

沖縄県名護市で発生しました『辺野古沖抗議船転覆16名死傷事故』におけます同志社国際高校に対する文部科学省の「見解」を以て、所謂“平和学習”が萎縮するのかを考察してみました。

 

よろしければ、ご視聴下さい。

 

いよいよ、第五弾です。
 

ここでは、がん予防効果・ハーパー博士の発言・その他残りの主張につきまして掘り下げてみようと思います。
 

①「『抗がんワクチン』と呼ぶことは誤解を招く」…執筆時点では概ね妥当、現在は一部古くなっている

2006年の承認時点におきまして臨床試験で直接証明されていた事は、
  • HPV感染の減少
  • CIN2/3(高度前がん病変)の減少
でした。
 
子宮頸がんそのものは発症まで10~20年以上かかりますので、RCTで証明する事は不可能でした。
 
したがいまして、「現時点では前がん病変しか証明されていない」という記述は当時としては科学的に正しいです。
 

◎ しかし現在では

  • スウェーデンの全国コホート研究(2020)
  • イギリスの全国解析(2021)
などで、子宮頸がんそのものの発症減少が確認されています
 
つまり現在では、「がん予防効果がある」と表現しましてもエビデンスが有るのです。
 

②「HPV感染だけでは子宮頸がんにならない」…正確

これは現在でも正しいです。
 
WHOは、多くのHPV感染は自然消失する持続感染(persistent infection)が子宮頸がん発症に重要と説明しています。
子宮頸がんには、HPV持続感染が必要条件ですが、更に、
  • 喫煙
  • 免疫不全
  • 長期経口避妊薬
  • 多産
  • HIV感染
などがリスクを高めます。
つまり、HPVだけでは十分条件ではございません
 

③「栄養不良や毒物曝露など補助因子も必要」…概ね正確

WHOでも、様々な補助因子が知られています。
 
ただし、「毒物」という言葉は少し広過ぎます。
 
通常は、喫煙などが代表です。
 

④「HPVワクチン自体が将来がんを起こさないとは証明されていない」…当時としては論理的には正しいが、現在は支持されない

これは、「悪魔の証明」の問題です。
 
2006年当時、未来永劫、安全とは証明できません。
 
これは、どんな薬でも同じです。
 
現在では世界で数億回以上接種されておりますし、各国の安全性監視でもHPVワクチンが子宮頸がんを増やすというエビデンスは得られていません
 
したがいまして、執筆当時の慎重論としては理解出来ますが、現在では支持するデータは存在しません
 

⑤「何十年経たないと真の効果は分からない」…当時としては妥当

これは疫学的にもその通りでした。
 
子宮頸がんは、発症まで10〜20年以上かかります。
 
したがいまして、2006年時点で「がんが減った」とは証明出来ませんでした
 

◎ しかし現在は?

約20年近く経過し、実際に子宮頸がんの減少が確認されています
 
つまり、「この部分は時間経過により検証が完了した」と言えましょう。
 

⑥ ダイアン・ハーパー博士 「そもそも、その一人にはならない」…文脈に注意が必要

ダイアン・ハーパーは、ガーダシル初期試験の研究者です。
実際に「広告が恐怖を煽っている」という趣旨の発言をされていらっしゃいます。
 
つまり本書は、ハーパー博士の「マーケティング批判」を紹介していますが、ハーパー博士がワクチン自体に反対しているかの様な印象を受けるのでしたら、それは文脈の省略です。
 

⑦「定期検診が重要」…完全に正しい

現在でも、
  • WHO
  • CDC
  • 厚生労働省
全て同じ事を仰っていらっしゃいます。

⑧「少年への販売」…事実

その後、男子への適応拡大が行われました。
 
理由は、
  • 中咽頭がん
  • 肛門がん
  • 陰茎がん
  • 尖圭コンジローマ
など、男性にもHPV関連疾患が有るためです。
ここで、ハーパー博士の主張を、少し掘り下げてみましょう。
 

① 2010年

"Prophylactic HPV vaccines: current knowledge of impact on gynecologic premalignancies" (Discovery Medicine)

 
主な内容は、
  • HPVワクチンは前がん病変の予防に有効
  • 子宮頸がん検診は依然として最も有効な予防法
  • ワクチンを接種しても、検診は継続しなければならない
  • 保護されるHPV型には限界があるため、ワクチンだけでは十分ではない
というものです。
 
これは2008~2009年の発言とほぼ一貫しています
 

② 2011年

"Next Generation Cancer Protection: The Bivalent HPV Vaccine for Females" (ISRN Obstetrics and Gynecology)

 
この論文では、サーバリックスにつきまして詳細にレビューしていらっしゃいます。
 
結論はかなり前向きで、
  • HPVワクチンは子宮頸がん予防に重要な役割を果たす
  • 特に検診体制が十分でない国では、公衆衛生上の利益が大きい
  • 将来的には接種回数の簡略化(当時は1回接種の可能性も議論)が公衆衛生上有利になる可能性がある
という内容です。
 
つまり、「ワクチンを使うべきではない」とは全く書いていません
 

③ 2011年…NEJMへのレター

NEJMに掲載された男性へのHPVワクチン論文に対するコメントでも、ハーパー博士は、
  • 男性接種の科学的評価
  • 費用対効果
  • 接種対象
について議論されていらっしゃいます。
 
ここでも、「ワクチンそのものを否定する」という論調ではございません
 

④ 2017年

"Hypothesis generating data – HPV vaccines – A decade in review"

これは10年間のデータを振り返ったレビューです。
 
内容は、
  • ワクチン導入後のデータを整理
  • 有効性を評価
  • まだ解決されていない課題を提示
という構成です。
 
「仮説を生み出すレビュー(Hypothesis generating)」というタイトル通り、断定ではなく、「今後、更に検証すべき点」を整理していらっしゃいます。
 

⑤ 一貫している主張

2010年以降の査読論文を読みますと、ハーパー博士が一貫して主張していらっしゃる事は、
  1. HPVワクチンには有効性がある
  2. しかし万能ではない
  3. 検診は不可欠である
  4. 広告や説明は科学的根拠に基づくべきである
  5. 長期データは継続して評価すべきである
というものです。
 

⑥ 見当たらない主張

私が2010年以降の本人名義の査読論文を確認した範囲では、
  • HPVワクチンは無効
  • HPVワクチンは危険だから接種すべきではない
  • HPVワクチン計画は中止すべきだ
という主張は確認が出来ませんでした。
 

⑦ 総合評価

この一連の経過を見てみますと、ハーパー博士は立場を大きく変えたというよりは、一貫して「科学的エビデンスに即した慎重論」を唱えてきたと理解するのが最も自然です。
 
つまり、
  • 2006~2007年…前がん病変予防の有効性を示す研究に参加
  • 2008~2009年…Merckのマーケティングや、当時の長期データ不足について警鐘を鳴らす
  • 2010年以降…査読論文では、ワクチンの有効性を認めつつ、「ワクチンだけではなく検診との組み合わせが重要」という包括的な子宮頸がん予防戦略を繰り返し提唱する
この点は、SNSなどで「ハーパー博士はHPVワクチンに全面的に反対している」と紹介されるイメージとは一致せず、一次資料から受ける印象はそれよりもはるかにバランスの取れたものだというのが、私の評価です。
 
 
 
 
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来たる9月27日(日曜日)は刃駈選手のデビュー25周年記念興行が名古屋中区スポルティーバで行われますので、こちらも是非、足を運んで下さい。
 

沖縄県名護市で発生しました『辺野古沖抗議船転覆16名死傷事故』におけます同志社国際高校に対する文部科学省の「見解」を以て、所謂“平和学習”が萎縮するのかを考察してみました。

 

よろしければ、ご視聴下さい。