ば様を病院へ。

秋の空は信用ならん。翩々と渺渺と。モアで畑二枚片付けてさて朝食。昨晩からのば様のお熱が下がらない。病院へ行くことになった。車に乗っけてやっとこさ。陽はうらなりに力なく、車椅子は発熱外来へと回された。10:30である。個別の病室でずっと静かに待ってゐる。尿採取はオマルで。採血は痛がるば様を4人で宥め励まし抑えてやっとぎりぎりの量を。1時間後、検査結果を説明してくれる若い女性のDrは、全部を診てみたいと云ふ。CRP定量の数値が異常であるとのことだ。ば様には再度痛い思いをさせて造影剤と生理食塩水を点滴する。CTスキャンの結果が待たれる。「わかりました」。肺炎と云ふことだった。心配していたコロナは陰性であった。抗生剤100㏄と生理食塩水500㏄の点滴が続けられる。4時半になった。

秋の雲は気まぐれである。

夕暮れて畑の頭上に広がる雲におーいとばかりにただ手を合わす。

 

倉石智證

甲斐駒黒戸尾根───

「山物語り」

わたしはねむたい。わたしは死ぬほどねむたい。あなたはねむくはならないですか。わたしは立ったまま眠れるほどにねむたいのです。わたしは山に入り、山を登って来ましたが、もう何度もねむってしまおうかと強い誘惑にかられました。いまの時季に草叢や岩の間で眠ったこともありますよ。心地よいねむり、夢にまるで溶け出てゆくようです。彼はほんたうにねむさうな細い目を開けて、この黒戸尾根のあの石碑や石の祠が倒れてゐるあの辺りがいいと云ふのだ。獣のやうなしなやかな発想だ。なにも一体になって仕舞へばいいわけだ。

 

私が頂上に着いて弁当を済ませて山から下りかけたころ、件の彼はやっと頂上を目指して斜面をゆるゆると上って来た。「どうするんですか」と聞くと、「予約なんか少しもしていない」と云ふのだった。このペースだと頂上からすぐに引き返しても、山小屋に辿り着くころには、おそらく日がとっぷりと暮れてしまうころだらう。ほんたうに山に寝て仕舞ふのだらうか。すれちがって山に登ってゆく彼の後ろ姿を見送っているとたちまちワッと陽が射して、彼の後背を照らし出した。

 

なるほどあれは山の子どもかもな、山神さまに遣わされた不思議大尽かもしれんな。私も不図、立ったまま歩きながら棒切れのやうに眠れるかもしれないと思った。さほど大きくもない岩を跨ぐ瞬間、どうしやうもない心地よい強烈な睡魔に襲われたのだった。

 

倉石智證

「芋の露連山影を正しうす」(蛇笏)

/秋風や雲に告げたきことやある

/平和です秋です雲は云ひ募る

/むらさきの風にこたえてしをんかな

/曼珠沙華寿ぎのごと見えるかも

/ギンヤンマ自分の仕事ちゃんとして

/ギンヤンマ空に留まりてまた明日

/ついについに君が代蘭の穂に出でし

/秋の日や梯子に暑し蔓落とし

/梯子上って凌霄花(のうぜんかずら)蔓落とす

/葉と土にメシメシとなむ除草剤驚天動地秋の小春に

日が上がって来る。

小春日和である。

放棄地に除草剤を噴霧する。

枯葉剤は根と葉をしめ殺してゆく。

/クマ鈴や娘分け入る秋の山太郎小屋から薬師沢へと

娘は雲ノ平を目指して。

いま薬師沢からの急登を上り切った(9:43)とメールが届いた。

/蟷螂のやや構へたき目玉かな

/穂紫蘇摘む妻のつま先立ちたるを

/紫蘇摘むや水に浸けたる夜長かな

/シソの実のいずれご飯のお供かな

/昼は蝶夜は虫鳴く庭半丁

 

倉石智證