林檎の摘果。

また高梯子の人になる。

林檎の木の下に行けばなにか分かるかもしれない

林檎の木の下にはなにか埋まっているとか

林檎の花びらは未だに清楚で

だから林檎の実が余計に生ってしまふと

林檎の木の下に行って空を見上げ

梯子を立てる人になるのだ

 

今さらながら、りんご可愛いや

それを鋏を入れて摘果をすれば

ああ、故郷を思い出す

おふくろに甘えたい酸っぱい匂いと

山方から来る風と

川の方から来る風と

葉叢を清(さや)かに騒めかせ

ははそはの母の腕(かいな)が木の枝に伸びれば

胸乳(むなち)の甘い香りが

実生の蒼い林檎の物語となって

卒業子は家を出て行く

あゝ、幾たびが罪障の

あゝ、それだから林檎可愛いや

 

倉石智證

山菜採りながら帰郷す。

頭蓋をぬける翠風。

/縞蛇の昼寝の傍を通りけり

/独活採りに谷の底ゐへ降りゆけり

/独活掘りに鶯の声谷峡に

/根曲がりの蒼き色など味噌で喰ふ

/メルローはどうかねと春の調べ

/馬手(めて)に見る千曲川辺は雪解かな

/雪解川魚野に翠滴りす

/豊田では雪室林檎も最期かな

/姨捨に覆面パトカー春憂う

/雪国の村に花咲くチューリップ

色とりどりに春悦(よろこ)めり

/ああ皐月頭蓋をぬける翠風

/蕗っ葉をこんもり採りて爪黑に

/帰り来てまず水遣りぬ畝巡り

 

倉石智證

 

 

さみしくてたうたう暗証番号を入れたりするのです

すると注文の多い料理店

見しらぬ動物が親し気に現れて

鏡の中でいろいろな仕草をして見せます

ずいぶん長いこと用もないのに畑をうろうろしてましたよ

どうもお節介な気があるやうですな

花ならば花

ひとつひとつに立ち止まり

お元気、とか、久しぶりだね、

とか声を掛けています

 

見ず知らずのあなたはそうかうしているうちに

だんだんやきもきと、我慢しきれなくなるのです

 

見知らぬ動物は濡れた眼をねむさうに

閉じたり開いたりして

「お召し上がり物はなんですか」、と聞きました

暗証番号を入れさえすれば注文の多い料理店

でも昔でも、今でも

ソルト、とオイルと来たら

親し気がアブナイ

気を付けませんとね

 

倉石智證