また、春
窓を開けて、ほんの少し。
自転車にまたがり、またほんの少し。
公園を抜けるころ、はっきりと思い出した。
これは春の匂い。
野球チームのノックの音
打ち上がったボールの後ろで
長い飛行機雲の尾が消えていく。
しとしと雨があがって、ふっくらとした土を踏み
どこかの庭先で咲いた梅の香りをまとって
ひたすら歩いたのはどの春だったか。
私の見る世界のピントはいつも
真ん中できれいに合っていて
そこにあなたがいるだけでご機嫌な気持ちだった。
急いじゃいないのに駆け出してしまうほど
好きな気持ちに息を切らした、春。
季節が巡れば静かに芽吹く森のように
新しい世界には何が待っているか分からなくても
理屈ではない希望が胸にあった。
出番が少なくなったカメラをぶらさげて
いつかの背景に映り込んだ脇役たちとも再会しよう。
また、春が来たんだから。
トップバッター
着々と自分のやりたいことに向かって邁進している友人。
私が「ケーキの箱から一番最初に選ぶ役になれない」という話をしたら
試練を与えてきました。
箱の中に勢ぞろいした豪華すぎるラインナップを前に
「さあ、最初に選んで~」と笑顔。
ありがたく、一番食べたかったケーキをいただきました。
二巡目までやってきて、もう一ついただきました。
誰とどんな風に知り合ったんだっけ?というルーツを紐解くと
きっかけはとてもシンプルだったり、偶然だったり、
くっついたり離れたり、またくっついたり、
長いこと知り合いだったのに、なかなか接近できなかったり、
近づいたと思ったら物事が一気に滑り出したり
人と人がつながって、広がっていくご縁はすごい。
出来ないことなんて、ないのかもしれないよ。
苦手だったケーキのトップバッターも、楽しかった。
ありがとう、そういうの嬉しいです。
随想 120229
都心でも雪が降っているという、2月の終わり。
うるう年の29日ということで、4年に一度の肉の日を祝うべく
巷では飲食店やファーストフードがセールを敢行するようですが
地味に歯医者通いを続けている身分では、あまり盛り上がりません。
次はようやく銀歯が一つ入りますが、まだまだ続きそうです。
すべてが終るころには、おそらく夏になっているような。
歯科治療を怠ってはいけないという見本のようになってしまいました。
口の中が、ギンギラギンにさりげない・・・そいつが俺のやり方です。
閑話休題。
あるとき、豪雪地帯の景色を眺めながら、頭の中でめぐったのは
日本海に波が打ち付けるような光景でも、ど演歌でもなく
「Sugar Baby Love」、懐かしポピュラーソングでした。
※Winkのデビュー曲(古!)ではなく、 The Rubettesの方(もっと古!)
出だしのハイトーンなコーラスからして陽気でバラ色、
ロマンチックでハッピーすぎるアレンジがなされていますが
要するに機嫌をそこねた彼女に
「愛しい君を傷つけるつもりはなかったんだ」と
彼が甘く語りかけている風な歌詞で、ちょっと言い訳がましい状況を
ハッピーにごまかしちゃえ!的にも思われる?名曲です。
People, take my advice
If you love someone
Don't think twice
と言う台詞の部分が気になります。
「僕のアドバイスを聞いた方がいいよ」と、この彼に言われても
あんまり説得力ない気がするような、それとも
失敗から学んだ僕が言うんだから間違いないという意味?
いずれにしても、Don't think twice. というのは使える表現です。
もう1/6を消化してしまった2012年ですが
なかなか余力がなく、更新が滞りがちな2月でした。
それなのに今年はまた英語を勉強したいと思います。
ロゼッタストーンは良いのかな?とも、気になっています。
そんな予感
夢に、高校時代の友人が出てきました。
自分のやりたかったことをして、成功していました。
無口で猫背で、いつも輪の端っこにいて、
穏やかで、心根の優しい女の子でした。
進路を選ぶとき、彼女のやりたかったことは
親が望んだ道と違っていたものでしたが
「それがやりたいんだぁ。」と照れくさそうに教えてくれました。
普段静かなだけに、決意の固さに驚かされたものです。
たぶん、私を含めて周囲のほとんどが
意外なほど彼女の本音を知りませんでした。
私が描いた「いまの彼女」は、昔と少しちがっていて
まるでこちらに向かって何か言いたげだった。
卒業してから会っていませんし
連絡先も住んでいるところも
今の苗字がどうなっているかも知りませんが
この人には、またいつか会える・・・そんな予感がしています。
今よりずっと若い頃に、
尊敬と憧れを抱いていた年上の人物の
「その当時年齢」が射程距離に入ってきました。
自分が歳をとれば、まわりの誰しも歳をとりますから
生きている限り、インターバルは縮まらないのですが
仮に同い年に追いつけたとしたら
私も同じように魅力的な人物でいられるだろうか?というのが
一つの疑問であり、課題であり、目標でもありました。
歳を取った私は、タイムマシンに乗って昔に戻り
そして、とびきり優雅にいたずらっぽく挨拶をしてみたいものです。
「はじめまして」と、手を差し出して。
同じ土俵に立ったとき、何年分も古くなってもなお、
人を惹きつけられる要素を何かしら持っていられるだろうか。
ジャッジをしてもらえる日が、来るかもしれない。
不思議なことに、そんな予感はここにもあります。
誰のためでもなく
ヤカンに火にかけながら、気づいてしまった。
どうしたって一人分より多い水。
こうして、私はいつも二人分沸かしてしまうんだ。
観念してコーヒー豆もたくさん挽き、
余ったらカフェオレにしたら良いと納得する。
誰のためでもなく、自分のために湯を沸かす。
床の上でこんがらがり気味だったコードが
タコ足を差す位置を変えたら、スッキリになった。
プラグが届くようになったマッサージクッションで脚を揉みつつ
レーズンサンドをかじり、一息つきながら本を読む。
そろそろこの部屋も日向に入るころ。
誰のためでもなく、何はなくともしあわせな時間。
いつもより少しだけいい米を買った。
電車に一日乗るぐらいの値段の違いで、
一ヵ月続くおいしい主食って、どうよ?と自分に問うたら
自転車乗る乗る!と威勢よく返事がかえってきたから
誰のためでもなく、小さな贅沢をする。
いっぺんに幾つものことには手がつけられない代わりに
脱いだ上着をハンガーにかけたり
丸めたティッシュをゴミ箱に入れたり
洗い籠を常に空にしておくだけで、心は荒れない。
めんどうくさいことをわざわざやって、
誰のためでもなく、丁寧に生きよう。
随想 120209
何にもできずにここ数日、夜になると眠り朝になると目覚めています。
起きる気はあるのにグッスミン。とても健全なのでしょうが
でも、まるで仕事手についていませんし
連絡を取りたい人とも繋がれず、心情的には焦りだしており
今日はギッシリやります、とここに宣言しておきます。
でもでも。
知人に渡す約束をしたまま、なあなあになっていた物を
無事にデリバリーすることができました。
バレンタインのチョコレートケーキと、珍しいポン酢醤油をいただきました。
物々交換の、わらしべ長者。
半年以上前からお待たせして有言実行出来ずにいたことを
ようやく一つ終わらせることができたのでよかった。
親不知もそうだけど、気がかりを少しずつなくしていって
シンプルになっていく。ホッとしました。
スーパーマーケットが好きです。
日用品の買い物を、のんびりのんびり相談しながら
面白いものを見つけたら、これ見て!なんて報告しあいながら
下手するとメンドウクサイ、この上なく平凡な時間を
まるでデートのときめきで共有できるような人が、好きです。
見たことのない新しい店に乗り込むときは
ルパン一味が仕事に取り掛かるような愉快な心持ち。
そういうのが、楽しいのです。
こけしちゃん
腕を組んで壁にもたれて
ふてくされた顔して立っていた
オレンジと白とグリーンのボーダーの
ワニがついたポロシャツと
実は度のない鼈甲メガネ
そこにふわふわした髪の
フランス人形みたいな子がやってきて
何やら楽しそうにおしゃべりを始める
あのお人形さんの瞳は完全に恋してて
それに気付いているのに知らんぷり
わたしも彼が好きだった
けっこう真面目に好きだった
だから分かるよ見てればわかる
勝てそうにないこけしちゃん
そんな仇名で呼ぶなんて
意地悪なひとに恋をしていた
随想 120201
そういえば、最後に口にしたのは夕方に食べたパンの切れ端。
その前はたしか、16時に職場でつまんだピーナツチョコポッキー。
クリスピーなナッツとは少し違う異物感にひやっとしつつ
出てきたのは欠けた奥歯で、急きょ予約を取る羽目になりました。
成り行き上、避けて通れず
クリーニングと虫歯治療と親不知抜歯(というより分解除去)と
やや大がかりなことになって、18時からの治療が終わったのは20時。
すっかり最後の患者となりました。
感触だけ思い出しても恐怖。麻酔って偉大な発明。
鎮痛剤と抗生物質とうがい薬を抱え、逃げ帰ってきました。
食欲も失せて、長引く正月太りからも脱することができそうです。
あとは創が腫れないといいけど・・・。
何のためにこれまで避けて通ってきたのか。
追い込まれないと思い切れないこともあるけれど、
もうどうにでもなれー!という背水の陣の覚悟でやってみると
ふらふらになのに、一種の爽快感があるのは何故なんだろう?と
ほのかな頭痛と血の味とともに、思い返してみます。
いつものように口が開けない分、無口にやりすごしています。
それでも何か伝えたいときは、身振り手振りやってみて
受け手の「察知する力」にも助けられようと思います。
言葉の交わせる私たちだって、
ペットショップのカゴの隅っこに無言でかたまって
寄り添いあっている小さな動物たちのように
他者の温もりを感じながら、共存しているような気がします。
不自由になると、余計にあったかい。
残念なことに
秋まではぐんぐん育っていたアンスリウムが根詰まりを起こし、
さらに最近の低温にやられ、一気に落葉しました。
無残な姿になってしまいましたがこのまま根元だけ残しておき、
春になったら鉢を大きくして、また一から育て直すことにします。
新芽が出たら撫でながら、慈しみながら、
愛情不足にならないように・・・と思います。
喋らない植物だって生きているから、人の心を感じるものです。
がんばれ、がんばれ。
私もがんばります。
ホロリ
朝に地震があって、頬にうつ伏せた寝癖のついたまま
大きいな・・・と立ち上がり雨戸をあけました。
去年の震災後からたびたび地震がくる夢を見ますが
風呂上りだったり、料理中だったり、室内着だったり
着の身着のままで(ひょっとしたら裸であっても)
飛び出さないといけない状況になる心境はリアルで
目覚めたときに「ああ夢だった」と安堵の息をつきます。
眠る前には、次の朝がやってくると信じて疑いません。
それでいて、どんなことがあっても不思議じゃないと、
薄氷のようにあいまいな覚悟もあります。
わずか振動で壊れたり、また、厚い氷になったりもする
ギリギリの一帯で保たれたバランスに緊張するのです。
しあわせだった一日の終わりには、おしゃべりしながら眠りにつきます。
眠気と言いたいことの波が押し寄せてくると
鈍っていく感覚のなかで、最後の一言に何か伝えたくて
ただ「おやすみなさい」と抱きしめることしかできません。
今日も良い日だったね、あったかいね、
さっきはごめんね、いてくれてありがとう、愛しているよ
短い言葉に、いろんな意味と想い、願いを込めて
明日も“あいかわらず”でいられるように眼を閉じます。
すると、祈りにも似た神妙な気持ちになって
しあわせなのにホロリと泣きたくなるのです。
小指
発作的に、「うわぁ・・・」とあたまを抱える。
バツの悪い記憶が押し寄せると、うつむきたくなる。
この町はこの道は、何度となく通ったけれど
あっちこっちに見えない染みを残しているのだ。
だって、恋している気がしていた。少なくともそのときは。
楽しいこともあったし、甘い言葉も吐いたし
気に入られたい一心で都合のいいことをして、
人を調子に乗せ調子に乗った。
まるでゲームのように、空っぽの心のままでいた。
恋したい気持ちでいたところで、運悪くやってきた人に
浮かれている自分に恋していただけだった。
何のためにあんなに一生懸命になっていたんだろうかと
今となっては呆れるほど滑稽で、その意味すら分からない。
言い訳じみているけど本当に
つくづくあの頃は冷静じゃなかったと思うしかない。
ふいに足の小指を角にひっかけてうずくまる。
間抜けな自分や、そこにあった机や椅子に悪態をつく。
だけど、骨まで折れていないのはラッキーだった。
「これから小指を打つよ」と、宣言されれば恐い痛みも
不慮のまま無防備でいたらなら、何の恐れもなく受け入れられる。
同じだけ痛みをこらえて、しばらくすればスキップできるようになる。
不思議なくらい痛みを忘れてしまうんだから。
一人になるのは嫌だったし、
一人でいるのは悲しいような気がしていたけど
落ち着いてみたら本当は清々していた。
メールも電話も鳴らない時間がさわやかだった。
「本当に面倒なこと」になる前に終れて良かったのだと思えた。
人は沢山いるんだから、がんじがらめになっていない方が
この次にやってくる出逢いを純粋に喜べる。恋を楽しめる。
小指をぶつけたのは、ラッキーだったんだ。

