小指
発作的に、「うわぁ・・・」とあたまを抱える。
バツの悪い記憶が押し寄せると、うつむきたくなる。
この町はこの道は、何度となく通ったけれど
あっちこっちに見えない染みを残しているのだ。
だって、恋している気がしていた。少なくともそのときは。
楽しいこともあったし、甘い言葉も吐いたし
気に入られたい一心で都合のいいことをして、
人を調子に乗せ調子に乗った。
まるでゲームのように、空っぽの心のままでいた。
恋したい気持ちでいたところで、運悪くやってきた人に
浮かれている自分に恋していただけだった。
何のためにあんなに一生懸命になっていたんだろうかと
今となっては呆れるほど滑稽で、その意味すら分からない。
言い訳じみているけど本当に
つくづくあの頃は冷静じゃなかったと思うしかない。
ふいに足の小指を角にひっかけてうずくまる。
間抜けな自分や、そこにあった机や椅子に悪態をつく。
だけど、骨まで折れていないのはラッキーだった。
「これから小指を打つよ」と、宣言されれば恐い痛みも
不慮のまま無防備でいたらなら、何の恐れもなく受け入れられる。
同じだけ痛みをこらえて、しばらくすればスキップできるようになる。
不思議なくらい痛みを忘れてしまうんだから。
一人になるのは嫌だったし、
一人でいるのは悲しいような気がしていたけど
落ち着いてみたら本当は清々していた。
メールも電話も鳴らない時間がさわやかだった。
「本当に面倒なこと」になる前に終れて良かったのだと思えた。
人は沢山いるんだから、がんじがらめになっていない方が
この次にやってくる出逢いを純粋に喜べる。恋を楽しめる。
小指をぶつけたのは、ラッキーだったんだ。