【夕顔174-2】古文常識「右近」について
『源氏物語』が入試に出題されたら、
人物関係図は注釈に図式化されるでしょうが、
古文常識として、重要人物の関係性は押さえておきましょう。
源氏物語イラスト解釈
【これまでのあらすじ】
天皇(桐壺帝)の御子として産まれ、容姿・才能ともすぐれていた光源氏は、幼くして母(桐壺更衣)を亡くし、臣籍に降下した。帝の後妻である藤壺宮(ふじつぼのみや)が亡き母に似ていると聞き、思い焦がれるようになる。
ただ今、「4.夕顔(ゆうがお)」の巻。中流階級の空蝉(うつせみ)との仮初めの恋を経て、現恋人の六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)にも、正妻の葵上(あおいのうえ)のもとにも心が向かないでいる光源氏は、惟光(これみつ)の実家の隣家にひっそり住まう、夕顔の君に心惹かれ、こっそり通うようになりました。いざよう月の中、光源氏は夕顔を連れ出し、なにがしの廃院に向かいます。
【今回の源氏物語】
右近、艶なる心地して、来し方のことなども、人知れず思ひ出でけり。預りいみじく経営しありく気色に、この御ありさま知りはてぬ。
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☆ 今回の古文オリジナル問題~心情~ ☆
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右近、艶なる心地して、来し方のことなども、人知れず思ひ出でけり。預りいみじく経営しありく気色に、この御ありさま知りはてぬ。
問)傍線部「右近」の心情として、最も適当なものを1つ選べ。
1.夕顔の君と自分が現在住まう五条の方角を人知れず振りかえり振りかえり、不安を隠せないでいる。
2.主人の夕顔の君と以前ともに過ごした邸のことを人知れず思い出し、感傷的な気分にひたっている。
3.お仕えする夕顔の君の過ぎ去った過去の情愛などを人知れず思い出して、なまめかしく気持ちが高揚している。
4.お仕えする光源氏の過ぎ去った恋人たちのことを人知れず思い出し、なまめかしく妖艶な気分になっている。
5.主人の光源氏と夕顔の君の情愛から、源氏の過去の恋の遍歴を人知れず思い出し、優雅な気持ちになっている。
「心情」を問われたら、
基本的には、ダイレクトに心情の表れている
「艶なる心地」に着目します。
【艶なり(えんなり)】
【形容動詞:ナリ活用】
①しっとりと美しい。優美で風情がある
②しゃれている。粋(いき)だ
③人の気をそそる。なまめかしい
*Weblio古語辞典より
重要古語としては、
①の意味を覚えておくべきですが、
今回は、③の意味、
つまり現代に通じる「妖艶」な意味の方が、
しっくりきそうです。
ところで、
「右近」についてですが、
この機会に、彼女のことをちゃんと押さえておきましょう。
右近(うこん)という呼び名の女房は、
他にも宇治十帖で2人出て来るので、ややこしいですが、
源氏物語の本編では、
この、夕顔の君のお付きの女房の名前です。
夕顔の乳母子(めのとご)だそうで、
これは、光源氏と惟光の関係と同様ですね。
ちなみに、光源氏が夕顔の君とお近づきになる時は、
この右近をまず惟光が誘って、情報を得たようです。
乳母子ということは、
夕顔の君に幼少時からお仕えしているわけですから、
いちばん信頼のおける女房なのでしょう。
そして、以前、夕顔の君が自分の家を離れることとなった
頭中将との情愛や、悔しい思いも…
牛車にもしこの右近が一緒に乗りあわせていたとしたら、
光源氏が前方の右側、夕顔が前方の左側、
右近が後方に着座していたと思います。
(※参照:「風俗博物館」男女同車の場合)
…光源氏と夕顔の、愛情深い様子を目の当たりにして、
右近は、人知れず、夕顔の過去の情愛を思い出し、
「艶」なる気分になったのでしょうね。
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1.夕顔の君と自分が現在住まう五条の方角(×来し方とズレ)を人知れず振りかえり振りかえり、不安を隠せないで(×艶とズレ)いる。
2.主人の夕顔の君と以前ともに過ごした邸(×来し方とズレ)のことを人知れず思い出し、感傷的な気分(△艶とズレ)にひたっている。
3.お仕えする夕顔の君の過ぎ去った過去の情愛(○)などを人知れず思い出して、なまめかしく気持ちが高揚(○)している。
4.お仕えする光源氏(×右近とズレ)の過ぎ去った恋人たちのことを人知れず思い出し、なまめかしく妖艶な気分(○)になっている。
5.主人の光源氏(×右近とズレ)と夕顔の君の情愛から、源氏の過去の恋の遍歴を人知れず思い出し、優雅な気持ち(○)になっている。
正解……3