◆事故目撃後、記憶が歪められる事がある

 

袴田事件の再審無罪判決から一夜明け(9/27)

 

10月の「心理学講座」です。

 

記憶の誤りやすさは、現実社会でも深刻な問題となっています。たとえば記憶にもとづく【目撃証言】は、一般に思われているほど正確ではありません。

 

【疑惑の証拠】原形のまま残っていることは不自然(9/20)

2023年に亡くなった高橋さんの母・みどりさんは、1967年の一審の裁判で「袴田さんの顔写真に見覚えがあった」と証言しました。

 

ところが・・「私は、本当は見ていないんです」

 

高橋さんは母親が証言台から帰ってきた時の言葉が忘れられません。(引用終了)

 

アメリカでは、のちのDNA鑑定によって冤罪(無実なのに有罪とされる)だったと判明した300名の裁判のうち、少なくとも約75%において、事実とは異なる目撃証言が有罪の根拠だったという報告があります。

 

★記憶を誤らせる「事後の情報」

 

もし、目撃証言を得ようとするときに聞き方を誤ってしまえば、正しい記憶にもとづいた証言は得られにくくなってしまいます。そのことを示した実験を紹介します。

 

偽りの記憶の研究の第一人者であるアメリカの心理学者・エリザベス・ロフタス博士(上図)らによって、記憶に事後情報がどのように影響するかが1978年に報告されました。

 

実験の参加者は、米ワシントン大学の学生195名。

 

 

参加者は、交通事故を描写した一連の30枚のスライドを、1枚あたり約3秒見ます。

 

参加者の約半数は【停止標識(止まれ)が写ったスライドを見ますが、残りの半数は【徐行標識】が写ったスライドをみます。(上図左)

 

次に参加者は、スライドの内容について、20個の質問を受けます。

 

そのうち1問では、約半数の参加者が誤った内容(スライドに写っていた標識と一致しない標識)を含む質問をされます。残りの約半数は正しい内容(スライドに写っていた標識と一致した標識)を含む質問をされます。(上図右)

 

 

●上段が「スライドに合わない内容の質問をされた人」右矢印ロングヘアの女性トイレ

 

●下段が「スライドに合った内容の質問をされた人」右矢印ショートヘアの女性トイレ

 

そして20分後、「最初に見たスライドは停止標識が写ったものだったか、それとも徐行標識が写ったものだったか」を選びます。(上図)

 

この実験で「見たスライド内の標識」と「質問で言及された標識」が一致していた場合の正答率は75%だったのに対して、一致していなかった場合の正答率は41%でした。

 

実際に見たものとは矛盾した情報を事後に聞いたことで、正答率が半分近くになったのです。(転載終了)

 

(参考書籍)ゼロからわかる心理学(別冊ニュートン)

 

 

ロフタス博士~「私たちの記憶ははかない」