ミニ四駆の空力に関する誤解を解きたい | 気ままな黒猫の気ままにアップデート

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メダロットシリーズの解析、改造パッチ制作を主にやってます。不定期で更新中。
以前はMUGENのキャラクター、AIの製作をしてました。

どうも、気ままな黒猫です。

 

前回に引き続き、今回もミニ四駆について書いていこうと思います。

それでは、空力やエアロダイナミクスは知ってますか?実車レースで盛んに研究されながら未だに到達点の見えない、空気や風がもたらす種々の物理現象ですね。私は15年ほど前、F1やSuperGTに興味を持ち始めた頃から共に興味を持ち、実車からRC、流体工学など本や雑誌や資料を探しながら勉強、研究をしています。
では、ミニ四駆に空力があると思いますか?

巷では今でもミニ四駆に空力、ダウンフォースは存在しない、100km/h出ないと、いや自動車の何倍もスピードが出ないと起こらない、なんて何処から聞いたのか分からない根拠のない前提による否定の考えや声を見聞きします。
ミニ四駆漫画・爆走兄弟レッツ&ゴー!!でも土屋博士が空力に関してたびたび解説してますが、それに対してダウンフォースがダウンフォースしてると、ゲシュタルト崩壊な発言や揶揄があちらこちらから聞こえます。まあ、あちらは正直現実ではありえない物理現象や理論が展開されてますし、作者は漫画家であり流体工学の専門家ではありませんのであまり考えないほうがいいです。(特にマンガ版。アニメ版でもまだトンデモ理論がありますが、まだありえそうな説明になってますが)
ともかく、まず言いたい事はミニ四駆など小さいものに空力が存在しない事を本気で信じるならば(果てはRCカーの大きさでも空力がないと思う人は多いらしい)、小さな鳥は空を飛ぶことができず、虫は羽があっても鈴虫のような地面を歩くものしか存在し得ない、紙飛行機や竹とんぼも風や空気は素通りして落下、野球のボールもどんなに凝った投げ方をしてもストレートにしかならない、どころかかなり山なりに投げないとボールがキャッチャーまで届かない、果ては手のひらサイズ以下のプロペラのドローンなんて物理的に有り得ない原理でしか飛べないという事を証明しないといけないことになります。
最も、最近まで体のサイズや重さの割に羽が小さいクマバチがなぜ飛べるのか解明できず「飛べるから飛べる」が研究者の間で通じてしまうことがありましたが。

・・・と、ここまではどこか聞きかじった言葉だけで頭ごなしに否定する人への予防線として以上のことを言っておきました。
という訳で、ミニ四駆における空力・ダウンフォースについての誤解を今回から何回かに分けて解いていきたいと思います。

・ダウンフォースは必要?
とは言え、
ミニ四駆作ってみた〜その219 「ミニ四駆に空力、あるのか?」 - ミニ四駆作ってみた
なんかを見る限り、駆動性能では実車ではタイヤのグリップ、摩擦力を増やして高速域でスリップを防ぐためにダウンフォースが必要なのに対して、ミニ四駆はスケールに対する重量がかなり大きく、それによるグリップ寄与が大きすぎるため(タイヤのグリップ力自体がマシンのパワーに対して大きいともされる)、スーパーハードやローフリクションなどグリップの低いタイヤで汚れや坂の多いサーキットを走る、それ以外のタイヤでも加速中にスリップする、など余程の事がない限りダウンフォースの駆動性能に与える影響、増やす必要性はほぼ無いと考えられます。

また、
Engineer Life in F1: ミニ四駆
やミニ四駆超速ガイド2019-2020の51ページに見るように(上のサイトを作った人が載っています)、
コーナリングでは実車ではダウンフォースによってタイヤのグリップ、コーナリングフォースを増やしてコーナーを滑らず高速で走るために必要なのに対して、ミニ四駆ではまっすぐ走り続けようとするのを壁を使って横滑りしながら無理矢理に曲がるため、グリップが増えてしまうと横滑りしにくくなりブレーキになってしまいます(前へ走ろうとする力が曲がろうとする力より強すぎるとコースアウトの可能性も)。
またフロントローラーのスラスト角によって壁に触れている側を中心にコースから飛び出しそうになるのを押さえる力が働くため(この場合メカニカルダウンフォースと呼ぶべきか)、ここでも角度に気をつけていればダウンフォースを増やす必要性があまりなく、それどころか逆に余計な減速の原因になると考えられます。レッツ&ゴーのようなローラーセッティングが初期状態から変えられない縛りがあるとかフロントに低スラスト角で低摩擦ローラーを使う場合は話は別なのでしょうが。

ならダウンフォース(空力)が必要な状況とは何かと言うと、前後の荷重、駆動(トラクション)バランスを変えるため、ジャンプ時の姿勢を制御するためにある、と私は考えます。むしろフロントに至ってはグリップ過剰によるコーナリング抵抗やジャンプの姿勢・着地衝撃を考えるとリフトがかかるくらいが良い位だと思ってます。FM系シャーシなど重心やコーナリングの軸が前に寄る場合はリヤを滑らせる方が抵抗が少ないので、リヤを浮かすようなセッティングが必要となりそうです。あとは左右の安定。垂直翼やウイングの翼端板で風見安定を作ればジャンプ前・ジャンプ中にヨー方向の向きが変わって壁につっかえて戻れなくなるのを防げるのではないかと思っています。

・ミニ四駆にはダウンフォースがないと考える誤った証明例
先に結論から言うと、実車とレイノルズ数、環境を同じと考える、同じにしないといけないと考えてしまったことから起きた勘違いで起きた間違った証明だと考えられます。

 

車の風洞実験でよく行われるのがスケールダウンした模型を使うというもので、フルスケールの実車を使った実験は大掛かりすぎて無理があるため代わりに使われるのです。その際に「模型で実車の環境を再現するにはレイノルズ数がスケール分減っているため、同じ条件を作るためにより速い風を当てたり空気の粘性を考慮した計算をしないといけない」という解説が出てくると思います。本当はレイノルズ数だけでなく他の定数も変化するため調整や計算が必要なのですが、ここでは省略。

このレイノルズ数というのは流体中にある物体の代表長さと流速を掛けたものを流体の動粘性係数で割った数からなる無次元の値、つまり物体に対する流体(空気)の粘性の影響力を示すもので、この値が低ければ物体の周りの流れは流体の粘性に依存します。航空力学では10^5以下では低レイノルズ数領域と言われ、空気の粘性が揚力や抵抗に大きく影響すると言われています。

参考:
Wikipedia レイノルズ数
Wikipedia 翼型
加藤寛一郎著・東京大学出版会発行 飛ぶ力学 ISBN978-4-13-063812-8


模型での風洞実験で実車の再現・検証をする場合、この値を実車の環境の値と同じにする必要があります。そこで減った長さの分風速(≒車体の速度)を増やしたり、環境を空気中から動粘性係数の低い水中に変更したりします。

詳しい計算式は省略しますが、空気の動粘性係数を0.15cm^2/s、車の全長を430cm、走行速度を60km/hとした時のレイノルズ数は4.77*10^6、ミニ四駆の全長を15cm、走行速度を30km/hとした時のレイノルズ数は8.33*10^4。差は57.36倍、ミニ四駆は車より空気の粘性に影響されると言えます。

そこで勘違いされちゃうのが、「車と条件を揃えるにはスケール分だけ速度を増やさなければならない」、そして「”実車のように”ダウンフォースを得るには、ミニ四駆では実車の何倍もの速度を出さねばならず到底無理」と考えてしまう事。
例えば”ダウンフォースが出始める”車の速度を60km/hと仮定して両者のレイノルズ数を同じにするため上に書いた車とミニ四駆の長さを用いて計算すると、速度差は約28.7倍、この状態をミニ四駆で再現するために必要な速度は1720km/h。

これじゃあ音速を超えてるよ!ありえないじゃん!だからミニ四駆にダウンフォースはありえない!と証明されてしまいます。

ところで、自動車の重量は1000kg以上、軽自動車だと800kg程度、必要なダウンフォースを考えると高速道路でハンドルがふらつかないゼロリフトからスポーツ走行で駆動力・制動力を増やすために数10キロ(実際はもっとかも)。重量の割合にして1%未満から多くて10%程度となります。F1マシンでは約600kgとより軽く、強すぎるエンジン出力のため重量が与えるグリップだけではスリップしてしまうため、またコーナーを横滑り少なく曲がるために車体の重量以上の力(約1~3倍)をかけることが求められます。

しかし、上述の「実車のように~」の考えは”ミニ四駆に実車にとって有効な力を掛けようとする事”、つまり100~160gのミニ四駆に車体重量の100倍もの荷重をかけようと考えていることであり、そこに気付かず必要な速度が現実的じゃないからダウンフォースはありえないという滅茶苦茶な結論をしてしまっているということになります。
例え上下方向どちらでも車体に力がかかる寸前の状態を考えても、この時車には上下どちらの力も全く掛かっていないという事ではなく(ここは実車の方でも結構勘違いされる)、車体にかかる両方向の力の和が”車にとって有効な力”として出ていないだけの事であり(リフトになる要素が減れば見かけ上ダウンフォースが発生したことになる、その逆も然り)、これも重量1000kgの車にかかるkg単位の力を見ているため、ミニ四駆を実車に当てはめて考えること自体が誤っていると言えます。0か100かの見方や力の大きさだけを見るのではなく、対象の状況や重量と力の比を考えなくてはなりません。


ミニ四駆の車体の重さはおよそ100~160g。前述の実車と違った走り方や走行抵抗のことからダウンフォースの必要性に疑問符が付いており、十分と呼べるようなダウンフォースはどの程度なのかわかりませんが、テーブルトップでジャンプしない程度の力を想定すると、
飛び出す勢いを円運動の遠心力と考えればスロープのR(半径)、通過時の速度、重量から求められ、押さえ込む力を重量による重力+ダウンフォースとして、この二つの力が釣り合う方程式を組めば求められるはずです。
問題はスロープの寸法がわからないですし通過時の速度によって必要な力が変わるので一概には言えません。試しにスロープの径を1m、速度を30km/h、重量を150gとした場合、計算すると必要なダウンフォースは913.5g。重量の6.09倍が必要になります。
流石にこれほどのダウンフォースは作れませんし、この力をかけられながらこの速度を出すにはちょっと無理がありますね。ミニ四駆GBだと下り坂で飛ばないほどのダウンフォースがかけられてるようですが。ただくれぐれも、望んだ力や現象が発生しないというだけでダウンフォースが無いと乱暴な結論はしないように。

ここまでダウンフォースに関する誤解を解くためにできるだけ難しい計算をせず概念として長々と論じてきましたが結論として、
とにかく実際の走行環境を再現して重量の変化を見ずに有る無しを語ることなかれ、という事です。

 

今回はここまで。この記事を書くためにかけた期間は約4ヶ月、ようやく形にできました。ただ、語りたいこと、誤解を解きたいことはまだ十分ではなく、今後もミニ四駆の空力について記事を書いていくつもりです。

次回は私が作った実験装置や読んで欲しい参考書について書いていこうと思います。

 

21/5/24 追記

記事が二重に表示されてたので修正しました。