我々が毎日使っているケータイやスマートフォンの「2段階定額制」や「完全定額制」と呼ばれるパケット料金体系。月額の上限が決まっており、いくらでも安心して使える。しかし、この常識が変わろうとしている。携帯電話事業者各社が、定額制の見直しを進めているのだ。
NTTドコモは2011年9月8日、LTEサービス「Xi(クロッシィ)」のパケット料金体系を見直すと発表した。新たな料金体系では、各月1日~末日のデータ通信量が7GB(ギガバイト)を超えるか否かによって、2つの異なる性格を示す(図1)。
■「7GBの壁」が立ちはだかる?
月間7GB以下に収まるユーザーにとっては、既存の3G(第3世代携帯電話)サービス「FOMA」のパケット料金体系と大差なく、実質的にはこれまで通りだ。一方、月間7GBを超えると、2GBごとに2625円を支払うか、本来は下り最大37.5Mbps/上り最大12.5MbpsのXiが、下り/上りとも128kbpsと大幅に速度制限される。
ただし、大半のユーザーは「7GBの壁」の心配はなさそう。NTTドコモ社長の山田隆持氏は、「当社のスマートフォンユーザーの98%は月間7GB以下」と説明する。
さらにドコモは、2010年12月のXiサービス開始当初、追加負担が発生するデータ量を月間5GBとする方向で検討していたが、「ユーザーにより安心感を与えるため」として7GBに緩和。その上、2012年9月末までは7GB超でも追加負担を求めないとし、一般ユーザーへの影響を最小限に抑え、従量制に“軟着陸”できるよう、幾重にも配慮している。なお、FOMAでは現状の定額制を今後も維持する方針だ。
また自分が使ったパケット通信量は、携帯電話事業者ごとに、毎月の請求書や「My docomo」「auお客さまサポート」「My Softbank」などで、パケット数を基に確認できる。1パケット=128バイトであり、7GBは約5800万パケットに相当する。400kbpの動画であれば、約40時間で7GBとなる。
■2%の人が帯域を4割専有
定額制見直しの動きは、ドコモ以外の携帯電話事業者にも広がっている。
ソフトバンクモバイル代表取締役社長の孫正義氏は、「2%のユーザーが全ネットワーク帯域の4割を、5%のユーザーが帯域の過半を占めている。一部の人が動画などを大量に使い、残りの90数%の人が迷惑する状況に陥っている」と語り、一部ユーザーによる大量のパケット通信で、3G回線全体が混雑していると表明。「設備投資を増やして解消を図るが、料金体系を含めて全体のトラフィック管理をしなければならない」と将来の定額制見直しに含みを持たせる。
KDDI代表取締役社長の田中孝司氏は、料金体系の見直しこそ言明していないが、「今のままだと2012年末か2013年には、(3Gなどの)無線系ネットワークがオーバーフローする」と危機感を示す。
現時点で携帯電話事業者各社が採用している混雑対策は、各社が設けた基準以上にデータ通信を大量に使うユーザーを対象として、通信速度を一時的に制限する仕組みだ。
NTTドコモは、2日前・前日・当日の3日間に通信したデータ量の累計が、FOMAでは300万パケット(約366MB)、Xiでは380MBを超えると、混雑したエリアでは通信速度を規制する場合がある。従来型携帯電話、スマートフォン、データ通信端末といった端末の種類を問わず共通の運用基準だ。
ソフトバンクモバイルは、1カ月当たりのデータ通信量の累計を集計し、基準値を超えると、翌々月に通信速度を制限することがある。例えば10月に大量のデータ通信をした場合、規制の対象になるのは12月というわけだ。基準値は端末の種類により異なり、従来型携帯電話は300万パケット(約366MB)、iPhoneやiPadを含むスマートフォンは1000万パケット(約1.19GB)、データ通信端末は3000万パケット(約3.58GB)だ。
KDDI(au)はやや複雑だ。従来型携帯電話に対しては、ソフトバンクモバイルと同様に1カ月単位で集計し、データ量が累計300万パケット(約366MB)を超えた場合に、翌々月に通信速度を規制することがある。ただし、規制対象の時間帯は午後9時~午前1時と決まっている。
スマートフォンに関しては「これまでは利用者が少なく影響が小さかった」(KDDI広報部)として規制の対象外だったが、iPhone 4S発売を控えた2011年10月から、スマートフォンのヘビーユーザーに対し、速度制限対策をスタート。
3日前~1日前の3日間の通信量が300万パケット(約366MB)を超えたユーザーの下り方向の通信速度を規制することがある。従来型携帯電話と違い、24時間いつでも規制の対象となり得る。
データ通信端末では、「一律の基準はなく、利用している場所のネットワークの混雑具合や、ユーザーがどの程度大量の通信をしているかなどに応じて、動的に規制をかけている。ただし、法人向けに提供している従量制の料金プランでは規制をかけていない」(KDDI広報部)という。
なお、いずれの事業者も、基準値を超えたら一律に通信速度を絞っているわけではなく、混雑しているエリア、時間帯でのみ規制を掛けており、ネットワークが空いていれば基準値を超えていても通常通り通信できることもある。
■米大手は「1GBごとに10ドル」の従量制に
一般ユーザーへの影響をできるだけ抑え、従量制に軟着陸しようという動きは、米国でも見られる。主要な携帯電話事業者が順次、スマートフォンや携帯電話向けのパケット通信料を、定額制から従量制に移行させているのだ。
米大手のベライゾンワイヤレスは2011年7月、定額制をなくして従量制を導入した。月間2GBまでは30ドルで済むが、2GBを超すと1GBごとに10ドルかかる。この他、月間5GBまで50ドル、同10GBまで80ドルという料金プランも用意したが、両プランとも上限を超すと1GBごとに10ドル上乗せされる。
米大手のAT&Tワイヤレスは、月額45ドルで4GBまで使える料金プランと、同25ドルで2GBまで使える料金プランを提供中。上限を超すと、やはり1GBごとに10ドルかかる。
図1 NTTドコモのLTEサービス「Xi(クロッシィ)」において、2012年10月以降に適用予定のパケット料金体系。1カ月当たり7GB以下の利用であれば、これまでのFOMAのパケット料金体系と同様の定額制や2段階定額制となっており、上限額以上の負担はかからない。しかし7GBを超えると、(1)2GBを超えるごとに2625円を支払い、速度はそのままで通信する、(2)追加料金を支払わず、下り/上りとも128kbpsに速度を落とす――のいずれかになる。利用が極端に多い一部のヘビーユーザーに応分の負担を求める料金体系だ。なお、波線の左右ではデータ量の単位が異なることに注意してほしい