ゆれる
僕は子どもの時から母に近所の同級生とやたらと比べられてきた。やれ、「○○君は学級委員になった」だとか、「テストで100点を取った」だとか。ひどいときには「△△君はバレンタインデーにチョコレートを10個もらった」なんてこともあった。最後は決まって「それに比べてお前は・・・もっとがんばろうね」で終わる。こんな励ましでがんばろうと思う子どもがいるわけもなく、おかげで僕は学級委員になったこともバレンタインデーにチョコレートをもらったこともない(もっともがんばる以前に容姿と性格に問題があったのが大きな理由だが)。たまたま、兄弟が妹と10歳下の弟なので、兄弟間で比較されることはあまりなかったが、歳の近い兄か弟がいたらと思うとぞっとすることがある。
遅ればせながら西川美和監督の「ゆれる」のDVDを借りてきて観た。昨年いろんなところですでに絶賛されているので、今さらだが、すさまじくよい映画だ。観終わった後に鳥肌がたった。今後生き抜いてゆく上で必要な「人生の秘密」と、誰もが考えていても言葉には出せない身を削られるような「痛い言葉」が満載な映画。
兄弟の生き方は、身近な存在だけに、自分が取りえなかった生き方を見せ付けられるので複雑な感情を持ってしまうのだと思う。自分が取り得たかもしれない可能性を取らなかった後悔とやっぱり取れなかっただろうというあきらめ。そして、ちょっぴり相手の生き方に対する優越感と嫉妬。このようなさまざまな複雑な感情を練りに練られた脚本とキャスティングで丁寧に描かれている。これまた、さまざまなところで絶賛されているとおり、香川照之さんの鬼気迫る演技がしみる。エンディングに一瞬見せる笑顔は、1万語のセリフよりも、いろんな感情を表現していると思う。観てから1週間以上経っているが今でもこの映画の余韻に浸っている。
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人を損なうということ
幸運なことに僕はこれまでの会社人生活で上司に恵まれていて、いわゆるパワハラを受けたことはほとんどない。強いて言えば、朝の10時から夜中の3時まで資料の問題点を指摘し続ける上司(これは逆に指摘している方の上司の体力に感嘆したが)や、毎朝5時に携帯メールに朝の出社時間を指示する上司(残業代カットで遅くまで仕事できない部署だったので、前日の仕事の残りを早朝出勤して片付けていた)に仕えたくらい。
ただ、周囲にはパワハラ型の上司がたくさんいた。会議中に資料の出来が悪いと破り捨てたり、中間管理職をその部下の目の前で恫喝したりするような場面には何度か遭遇した。灰皿や履いている靴を投げつけられている人も観たことがある。地方から案件を説明に来た人のアポをすっぽかし3日間も待たせたという、Mの人にはたまらない放置プレイもあった。あっ、そうそう、今思い出したが「お前のせいで俺は怒られたじゃないか!」って、およそ考えられる最低のお叱りを、隣の部署の課長さんから受けたことがある。
もちろん、怒られる側に問題があることも多いし、奮起を促すための文字通り叱咤激励の意味で怒鳴ることもあるだろう。子どもを育てている方ならわかると思うが、「怒る」ことは「ほめる」ことの何倍もエネルギーを使うし、怒っている方も全然楽しくない。ところが、そのようなパワハラ上司を見ていると、楽に怒れるようになっていることがすごく気になる。人は否定され損なわれ続けるとやはりどこか劣化してくる。すごく前向きで明るかった人が、常に俯いておどおどした態度になるケースを多々見てきた。抗うつ剤の副作用か顔の表情自体が変わった人もいる。人間は感情の生き物だから怒ることは仕方がないが、せめて人を損なうことの重大さを受け止めた上で怒って欲しい。人に対して楽に怒れるようになった人も同様に人間として何か損なわれているように思う。
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立っているものは電柱にでも頭を下げろ
長く生きた人の言葉には、それなりの重みがある。僕の母方の祖父母は二人とも90歳以上長生きしてくれたが、振り返ってみるとなかなか味のある言葉を残してくれている。「佐賀のがばいばあちゃん」ブームにあやかって少し紹介したい。ちなみに、「佐賀のがばいばあちゃん」はまだ読んでいないし、TVドラマも観ていない。
「立っているものは電柱にでも頭を下げろ」、これは祖母の言葉。ボケたためではなく、いつ外で知り合いに会うかわからないので、人とすれ違ったら謙虚に常に頭を下げておけ、電柱に頭を下げるくらいやりすぎなくらい謙虚でいろ、と言う意味。この言葉どおり、祖母は過剰なくらい謙虚な人だった。なぜか近所に「赤玉パンチ」をよく配っていた。
「あんたの撫でるは殴るだ」、これは、僕が田舎に遊びに行ったときにあまりに妹とけんかするので祖母が言った言葉。妹と比べて力が強いので、少しは手加減してやれという意味。もっとも、祖母は物事を公平に見ることのできる人で、そのけんかの原因がたいてい妹の方にあることもよくわかっていた。泣いている妹に対し、「あんたの方が悪い」とよく叱ってくれた。
「だんごと子どもは3つまで」これは、祖父の言葉。だんごを飽きずに食べることができるのは3個までと同様に、子どもが生意気にならないでかわいいのは3歳までと言う意味。うちの長男は5歳、次男は2歳なのだが、今この言葉を実感している。長男はどんどん生意気になってきて、しょっちゅう怒られている。
一番感動したのが、祖父が死ぬときに祖母に言った「ありがとう」という言葉。祖父は90歳を過ぎても元気で、それが災いして木から落ちて足を骨折した。入院してからはボケ始め、祖母のこともわからなくなっていたのだが、死の間際に祖母に本当に言ったらしい。
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