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最後の物たちの国で

今日は防災の日ということだが、1995年1月17日に神戸に住んでいたものとしては、地震の恐ろしさは身をもって感じている。それまで当たり前に思っていた光景が、一日にして変わってしまう衝撃はとても大きい。そして、そのダメージはじわじわと日常生活に浸透してくる。震災直後に見た、ポートライナーの線路が崩れ、柏井ビルが傾いている姿にもかなり衝撃を受けたが、それにも増して印象に残っているのは、数ヶ月後に仕事で訪れた長田地区の風景。崩れた住居がある程度片付けられた後だけに、本来あるべきものがない空虚感と日常生活の不便さが実感としてひしひしと感じられてショックだった。

世界は2001.9.11を境に変わったとよく言われるが、日本人にとっては1995.1.17とその直後の地下鉄サリン事件による影響の方が大きいと思う。個人的にも、なんとなくモノを所有することに以前ほど執着しなくなった。もっとも、震災直後は激務によるストレスで復興し始めた元町高架下の中古レコード店でCDを買いあさっていたが。

ポール・オースターという作家の特徴(特に初期から中期にかけて)は、身の回りの所有物(それには人間関係や過去の思い出のようなものも含まれるように思える)をぎりぎりまでそぎ落とした場合に何が残るか、ということの追求にあると思う。伯父から譲り受けた本を片っ端から売っていき部屋に次第にモノがなくなっていく「ムーン・パレス」もそうだが、一番この特徴が現れているのが、「最後の物たちの国で」という小説。北朝鮮をさらに100倍くらいひどくしたような、モノが極端に乏しく治安の悪化した国へ行方不明の兄を探しに行く若い女性の話だ。再読したくないほど、悲惨な状況が連続する小説だが、そこには不思議な生命力と希望が溢れている。失って初めて得ることのできるもののかすかなヒントを与えてくれる。とはいえ失いたくないと思うのが人情ではあるのだが。


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原田宗典さん

今となってはとても後悔しているのだが、大学生時代は本当に本を読まなかった。月に1冊読めばよいくらいのペースだ。音楽を聴いたり、映画を観たり、ゲームをしたり、酒を飲んだりする方に主に時間を割いた。特に映画は年間100本以上観ていたので、かなりの時間を費やしていた。あまりに本を読まないので、まじめな後輩からは「受身でも情報が入ってくる映画ばかり観ていて、能動的行為が必要な、本を読まない人を僕は信用しません」と言われたこともある。「アウトプットしない点では、俺もお前も一緒じゃん」と反論したかったが、不毛な議論になりそうだったので、へらへらと笑ってやり過ごした。

そんな時代でもなぜか、原田宗典さんの本だけは欠かさずに読んでいた。主人公とちょうど同じくらいの年頃だったこともあり、「十九、二十」は特に印象に残っている。主人公の父親が借金まみれの相当なダメオヤジな点も共感が持てた。「何者でもない」この年代の焦燥感がよく描かれている。「時々、風と話す」や「黄色いドゥカと彼女の手」といったおしゃれな感じの短編も好きだったし、「スメル男」のようなエンターテイメント作も純粋に楽しめた。かと思えば「優しくって少しばか」のような純文学風の作品の完成度も高い。もちろん、評価の高いエッセイは言うに及ばないくらいおもしろい。ただ、エッセイがあまりに乱発されすぎて、何を読んだのか混乱してきたので、近年はご無沙汰していた。

新潮文庫で発売されたこともあって、久しぶりに原田さんの小説「劇場の神様」を読んだ。一言で言えば相変わらずのウエルメイドな作品。かといってさらっと流れてしまうわけでもなく読後にひっかかりも残る。ただ、やはり技術がありすぎるためか、感情面の揺さぶりよりも「うまいなあ」という論理的な感嘆が先に来る。小説を読むたびに常に魂を揺さぶられても困るが、技術がありすぎるが故の物足りなさを少し感じた。


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優しくって少しばか (集英社文庫)/原田 宗典
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劇場の神様 (新潮文庫 は 22-9)/原田 宗典
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おもろないもの観たさ

 昨日、上司と昼食にうどんを食べに行った。その店は、クリームソースとからめたうどんなどメニューが個性的で、かつおしゃれな店構えなので、いつも女性客で混み合っている。ただ、個人的な好みを言わせてもらうと、以前に食べたえびクリームうどんよりも、普通の和風だしのうどんの方が格段においしい(この店はうどん自体も讃岐風でこしがあって結構おいしい)。そんな話をしながら、僕は普通のぶっかけ冷うどんの定食を頼んだのだが、上司は、チャレンジしてみるということで、冷やしカレーうどんを頼んだ。この組み合わせ自体かなりやばそうだが、案の定出てきたうどんはお世辞にもおいしそうじゃなかった。上司曰く、味が極端に薄いらしく、かなり辛そうに食べ、あとで後悔していた。

前置きが長くなったが、人には怖いもの見たさというか、まずいもの食べたさというか、臭いもの匂いたさというか、後悔することがある程度予想できることをあえてすることがたまにある(ちなみに、この時期に脱いだ自分の靴下の匂いをあえて嗅ぎたくなるのは僕だけだろうか)。レンタルビデオ店でビデオを借りるときなども、3本に1本くらいはみんながぼろくそにけなしている作品を借りたりする。おもろないもの観たさとでも言おうか。

 学生時代にこれまでに観た一番面白くない映画について、仲のよい友人と語りあったことがある。ある友人は「死霊の盆踊り」をあげた。僕は観たことがないが、死霊が延々と踊るだけの映画らしい。聴くだけで、腰が砕けるくらいつまらなそうだ。僕にとっての、つまらない映画は「てなもんやコネクション」。ストーリー自体はご都合主義かつ荒唐無稽で一周廻ってそれなりに面白くなるときがある。しかし、メインキャラのおばさん役の俳優が途中で入れ替わり、おっさんが演じたりするなど、あそこまで悪ふざけが過ぎるとわけがわからなくなる。口では説明しにくい面があるので是非一度観て後悔して欲しい。


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