若旦那はめちゃくちゃだか
とても尊敬している。



大きい料理屋の社長になると
営業自体には全く参加しない料理人が多い


よく出張(講習会やテレビ撮影)で
店空ける事も多いが

そんな中
若旦那は段取りから調理、
片付けまで自分でやる。

自分の背中で引っ張っていくタイプだと思う。  



だが、
めちゃくちゃ過ぎるのが
やはり難である(笑)



昼や夜など、
各営業が終わる度に
厨房の盛り台(ステンレスのテーブル)を水で流す。 


だが
勢いよく水を流すと
自分に思いっ切り水がかかってしまう…

そのため
誰もが
ゆっくり流している。


別に綺麗にならない訳ではないが
とても時間がかかってしまう。


遅いからといって
普段ブン殴ってくる先輩が
怒るわけでもなく、
しょうがない事として
黙認している。



そして

ある昼営業後の水を流している時に
若旦那が近くを通りかかった。


若旦那「オイッ!何でそんなタラタラ流しているんだよ?!」

皆「…スミマセン!!」

ひとまず注意されたら謝罪…



同時に若旦那がバケツに水を貯め始めた。


若旦那「こんなん濡れるに決まってるだろ!」
「…だったらなぁ…最初っから勢いよく流せ!!」

厨房の若い衆全員、嫌な予感がした…

多分、今から若旦那
バケツの水を盛り台にぶっかけるな…

そして逃げることもできずに
水の被害が自分達に来るね…

そう
覚悟した。



そして、
若旦那がバケツを持って……

「バッシャーーーーン!!」





…………………………………………


え?!


全く水がかからない……


それどころか
若旦那の頭の上にバケツがある



若旦那のハゲかけた頭に
滴る水滴……




若旦那は
自分の頭にバケツの水をかけていた。


慌てて
タオルで若旦那の服を拭く若い衆。


若旦那「どうだ?これぐらいの気持ちでやれ!!」


…………

若い衆「……ハイッ!!」


ひとまず返事。


だが
みんな心の中では
「あれは完全に若女将に怒られるな…」
そう思っていた。


それに
「バケツの水を被るぐらいの気持ち」

普通実際にヤってみせるか??
方向性と実行することは別でしょ!!



どこまででも
ぶっ飛んでいる。





夜営業前、
僕らの前に表れた若旦那の右手には
雨ガッパが握らされていた!(笑)

多分びしょ濡れで帰宅し、怒った若女将に持たされたのだろう…


それ以降
ビニールの前掛けと
長靴着用が義務化された。


まぁ
雨ガッパ着用義務でなくて
良かった。
年に一度、
某大学で
食事マナーの勉強の為に学生が二週間に渡って、
全員来店する。


最近の若い方は
医療の発展?なども影響してか
アレルギーなどが事前に分かっているため
それ相応の料理を代替品で
準備している。

だが、
たまに当日来店されて
食事が始まってから
告白する学生さんも度々ある。


告白しなくても、
優秀な仲居さんが
ピーーーンと
気づくようだ。


この日も
ある学生さんが
前菜を全て隣の学生さんに譲ってるのを仲居さんが気付いた。



すぐさま、
仲居さんが声を掛ける。




……………………………………………………………………………


そして
数分後…  

厨房に驚くべき連絡が入った。


「学生さんの一人が……ジャガ芋と人参、玉ねぎ以外ダメだそうです……」



何百人を相手にしている
騒がしい厨房が一瞬で静まり返った……。




「え?!」



誰もが
耳を疑った。


そして
同じ事を考えた。


一同心の声「何出せばいいんだよ!」

「和食料理のマナー学びに、和食料理食べに来ていて、ジャガ芋、人参、玉ねぎって!!!」


過去に無い
限定しすぎのメニュー…。


逆にこの学生さんは
今まで何を食べて生きてきたんだろう?


自然と
厨房に笑いが起きた…


普段
殺伐としている厨房では絶対に有り得ない光景である。



そんな中、
また新たな情報が入った!!


「例の学生さんなんですが…カレーなら食べられるそうです!」




皆心の声で…

「それだ!!!」

確かに材料が
ジャガ芋、人参、玉ねぎ…



直ぐに
総菜のカレーに
若旦那が手を加えて、

一万円のカレーが出来上がった!!



うちの総菜カレーは
かなり美味しくて
評判がいい!!


それに加えて
テレビに引っ張りだこの若旦那が
調味したなら 

一万円はいくな!!


多分…(笑)



その後も
バタバタしながら営業をしたものの、
なぜか楽しい営業となった。


後日、
若旦那と例の学生さんの話をした。


若旦那「別に俺らは料理人。お客様の要望に答えるのみ!ただ…あの学生は可哀相だな…」

俺「どうしてですか?」


若旦那「今後、社会に出て…会社の接待とかで料理屋行って「僕だけカレーで!」なんて言えないぞ?」

俺「確かに…」


若旦那「生まれて20年…アレルギーなのか、好き嫌いなのかは分からないが、食べたいモノだけを食べさせてた親も親だ。これから、克服するのは大変だぞ。」






この若旦那の言葉が
凄く心に重くのしかかった。



料理人として…

そして
大人として…


今後の食生活に関して
もっと深く考えて行動しないといけないと
考えさせられた一件となった。
お客様の要望で
和食料理屋が一番悩まされるのは多分
「大豆」
のダメな方だと思う。

大豆は
豆腐や豆乳、味噌…

色々な物に変化しているが
最大の難所は

「醤油が使えない事」
である。


和食の塩味の大半は
薄口醤油か濃口醤油。


和風の風味の代名詞とも言える。


醤油無しでも
別にお料理を提供出来るが

かなり和食の雰囲気が失われる。


ただ単に
醤油を抜くと
めちゃくちゃな味になってしまう。

醤油の代わりに
ソースを入れる訳にもいかない、、、、


料理自体が全く別の料理として
お出ししなくてはならなくなってしまうのだ。



和風をイメージさせる  
醤油無しのお料理…


職人の腕の見せ所とも言える。